暗黒神ですが人間界に降りてきました

まこる

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野風の始まり

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野風が今の彼女と出会ったのは、人間界に降りてきたばかりの中学生の時期である。
当時野風を除いた四人には、この世に未練があった。炎田は野球。水原は勉強。光耀はアイドル活動。黒田は友人の未練を叶える手伝い。
そんな中、野風には未練とよべる未練がなかった。それを、この四人以外の友達に話していたのだ。

「なあ風花......俺、夢がねぇんだよ」

相談相手は、同じクラスの柳 風花(ヤナギ フウカ)だった。五人が人間界に降りてきた時から野風と仲が良い人間で、学校の人気者であった。

「夢? 進路ってこと? 」

カフェのミルクティーをストローで吸いながら、話を聞く柳。人気なのがよくわかる可愛さであった。

「いや、進路とも違くてな? なんていやぁいいのか。やりたいこと? 」

「やりたいこと、ねぇ。あっ! 真実くんと仲いいんでしょ? アイドルでもやってみたら? 」

「いやー、それはないな。俺のスペックでアイドル入れるんなら、成人男性の60パーセントぐらいが自分はアイドルだって答えるぜ」

「もう、なにそれ」

ふふっと笑う柳に癒される。この時間が、野風にとって至福であった。
この日、放課後の教室には、炎田と野風しかいなかった。

「あちぃ......やっぱあつはなちぃなぁ」

「お前、暑すぎて脳ミソ回ってないぞ」

「炎田、お前はいいよなぁ。炎神だから暑さ感じねぇだろ」

「バカいえ。湿気だけは本当に嫌いなんだ。日本の夏はなぜこうも湿気が多いんだ......」

扇風機もないため、野風が連れてきたそよ風で我慢はしているが、十分暑い。

「......そういえば、そろそろ夏休みだな。野風、お前夏休みはどう過ごす? 俺は部活漬けだが」

「そうだなぁ、神宮祭に向けて、隠れてバイトすっかな」

神宮祭というと、この辺りでは一番大きい夏祭りである。屋台の数はおよそ30。2日ぶっ通しで開催され、2夜に打ち上げられる花火は、その夏を象徴するものである。

「ほう、誰といくんだ? 」

「え? そりゃあまあ、一人で」

軽蔑するような目をしたあとに、はぁ、と深いため息をついた炎田。

「風花を連れていけよ」

「な、なんでそこで風花が出てくんだよ」

「お前は、なんもわかってねぇな。だからNo.4なんだよ」

炎田らしくない、数字を突きつけてくる。いや、むしろこれは炎田が本気になっているのだろうか。

「んだとこの......」

「怒る気力があるんなら、それを頭に回してみたらどうだ」

炎田は荷物を持ち、そのまま教室を出ていった。残された野風は、バカにはなるまいと、考えた。

「炎田があんなことをいうのは、なにか理由があるはずだ」

下校中、一生懸命考えていると、目の前を何か白いものが横切った。目で追うと、それは二匹のモンシロチョウだった。
揃って飛び交う姿。パートナー同士なのだろうか。

「......風花」

そう呟くと、野風は家に帰り、神宮祭に向けての準備をし始めた。


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