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竜人編
初めてのわがまま
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「......」
「......辛気臭い話、してしまいました。すみません」
「また、言ってるぞ」
「あ、はい......これもそのことがあってからの癖なんです。すべての責任は私にあるので、あれからどうしても引け腰になってしまって......」
出会ってから一番の暗い顔を見せた。しかし、そうなってしまうのも分かるほど、リナの語った話は辛い出来事であった。
「......悪いのはお前じゃない、と言えば嘘になる。だが、責任を感じすぎてしまうのも、よくないぞ......」
ユラシアは自分の前世のことを思い出していた。しかし、感傷に浸っている暇もないようだった。
「人間がいるというのはここか! 」
突如、部屋に複数の若い男の竜人が入ってきた。全員帯刀しており、体つきから腕っぷしの良さがうかがえる。
「村長......! 」
「リナ、お前また人間を助けたのか。娘から聞いたぞ。その人間はドラゴンキラーを所持し、それを自分たちに向けてくると」
先程ユラシアがドラゴンキラーを向けた女は、この村の村長の娘であった。あの女の性格からして、ユラシアという人間の情報について、あることないことを喋るような気がしてならない。
「この人は違うんです! メリーに剣を突きつけたのは訳があって」
その理由を村長に話そうとしたが、そのリナの台詞は一人の若い男によって遮られた。竜人である。
「嘘だ! そんなのはでたらめに決まっている! 村長、忘れたんですか!? こいつはあのおぞましい人間を連れてきた裏切り者なんですよ!? 」
「そんな......」
リナは、その男のあまりの罵倒に泣き崩れてしまった。地面に膝をつき、両手で顔を覆っている。
見かね怒ったユラシアは、その二人の間に割って入った。
「おい貴様、女相手にやりすぎだぞ! お前はこの娘の感じている罪悪感がどれ程の重さか、考えたことはあるのか! 」
その言葉は、今まさに泣いているリナの心に深く刺さった。しかし痛くはない。誰も自分を信じない暗い世界に、一筋の光を見出だしたような感じがしていた。
「なんだと、醜い人間め! もういい! ここで斬り捨てる!! 」
その男は鞘から剣を抜き、すぐさまユラシアに向かって振り下ろした。ためらいは少しも感じ取れなかった。
しかし、ユラシアに剣ごときの武器でダメージを与えられるはずはなかった。
「無敵だ」
振り下ろされた男の剣は弾かれ、行き場所を失った。
「ぐぅ......何者だ貴様」
「お前たちが毛嫌いしている人間だ......もう行く。リナ、世話になったな」
ユラシアは、もう泣き止んだリナに目線を合わせ、感謝を述べた。
しかし、リナの返答はユラシアの台詞を否定するものだった。
「......嫌です」
「......」
「私も、連れて......」
ユラシアは、リナの残った涙を親指で拭き取り、両手を頬に当てて額を合わせた。
「わがまま、言えるようになったな」
「......! 」
少し前まで自己肯定感の低かった人間が、人に反論して自分の意見を通そうとする。それは、本人やその周りの人にとっては大きな成長であった。
せっかく泣き止んだリナは、再び大粒の涙を流した。しかし、それは先程流していた涙とは全く違うものだった。
「リナは俺が引き取る! 文句はないな!! 」
裏切り者と、嫌いな人間が一緒に出ていく。竜人たちにとってこれほどいいことはなかった。しかし、特に喜ぶこともせず、黙って二人を見ていた。
石窟から出る瞬間、外から声がした。
「人間が! あの人間が帰ってきたぞー!! 」
「......辛気臭い話、してしまいました。すみません」
「また、言ってるぞ」
「あ、はい......これもそのことがあってからの癖なんです。すべての責任は私にあるので、あれからどうしても引け腰になってしまって......」
出会ってから一番の暗い顔を見せた。しかし、そうなってしまうのも分かるほど、リナの語った話は辛い出来事であった。
「......悪いのはお前じゃない、と言えば嘘になる。だが、責任を感じすぎてしまうのも、よくないぞ......」
ユラシアは自分の前世のことを思い出していた。しかし、感傷に浸っている暇もないようだった。
「人間がいるというのはここか! 」
突如、部屋に複数の若い男の竜人が入ってきた。全員帯刀しており、体つきから腕っぷしの良さがうかがえる。
「村長......! 」
「リナ、お前また人間を助けたのか。娘から聞いたぞ。その人間はドラゴンキラーを所持し、それを自分たちに向けてくると」
先程ユラシアがドラゴンキラーを向けた女は、この村の村長の娘であった。あの女の性格からして、ユラシアという人間の情報について、あることないことを喋るような気がしてならない。
「この人は違うんです! メリーに剣を突きつけたのは訳があって」
その理由を村長に話そうとしたが、そのリナの台詞は一人の若い男によって遮られた。竜人である。
「嘘だ! そんなのはでたらめに決まっている! 村長、忘れたんですか!? こいつはあのおぞましい人間を連れてきた裏切り者なんですよ!? 」
「そんな......」
リナは、その男のあまりの罵倒に泣き崩れてしまった。地面に膝をつき、両手で顔を覆っている。
見かね怒ったユラシアは、その二人の間に割って入った。
「おい貴様、女相手にやりすぎだぞ! お前はこの娘の感じている罪悪感がどれ程の重さか、考えたことはあるのか! 」
その言葉は、今まさに泣いているリナの心に深く刺さった。しかし痛くはない。誰も自分を信じない暗い世界に、一筋の光を見出だしたような感じがしていた。
「なんだと、醜い人間め! もういい! ここで斬り捨てる!! 」
その男は鞘から剣を抜き、すぐさまユラシアに向かって振り下ろした。ためらいは少しも感じ取れなかった。
しかし、ユラシアに剣ごときの武器でダメージを与えられるはずはなかった。
「無敵だ」
振り下ろされた男の剣は弾かれ、行き場所を失った。
「ぐぅ......何者だ貴様」
「お前たちが毛嫌いしている人間だ......もう行く。リナ、世話になったな」
ユラシアは、もう泣き止んだリナに目線を合わせ、感謝を述べた。
しかし、リナの返答はユラシアの台詞を否定するものだった。
「......嫌です」
「......」
「私も、連れて......」
ユラシアは、リナの残った涙を親指で拭き取り、両手を頬に当てて額を合わせた。
「わがまま、言えるようになったな」
「......! 」
少し前まで自己肯定感の低かった人間が、人に反論して自分の意見を通そうとする。それは、本人やその周りの人にとっては大きな成長であった。
せっかく泣き止んだリナは、再び大粒の涙を流した。しかし、それは先程流していた涙とは全く違うものだった。
「リナは俺が引き取る! 文句はないな!! 」
裏切り者と、嫌いな人間が一緒に出ていく。竜人たちにとってこれほどいいことはなかった。しかし、特に喜ぶこともせず、黙って二人を見ていた。
石窟から出る瞬間、外から声がした。
「人間が! あの人間が帰ってきたぞー!! 」
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