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学園生活編

サキの罠

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-寮-

キシェルステント高等学校には、男女と学年で寮が用意されている。全校生徒2000名。寮も当然大きく、設備が整ったものになっている。

中でも凄いのが、風呂だ。古代ローマのテルマエを彷彿とさせる広い作りと、豪華な装飾。清潔感溢れる洗面器具。前世が裕福でなかったユラシアにとって、この風呂は高等学校に入ってからの、何よりの楽しみとなっていた。

今日も、暗くなってからの風呂の時間。生徒のほとんどが自身の部屋で過ごしている時間帯に、寮に荷物をすべて置いてきた。

「さて......」

男女で分けられた風呂の入り口。しっかりと男子の方に入ったことを確認し、服を脱ぎ始めた。しかし、数分も経たない内に、異変に気が付いた。

「......いつもと匂いが違う」

そう、いつもは、スーっと鼻に抜けるようなミントの香りが、ほのかに漂っているのだが、今はどうだ。クラクラするような甘い匂い。だんだん赤面してくるような感覚だ。

「......芳香剤を変えたのか」

ポジティブな考えをしながら、ユラシアは浴場へと足を踏み入れた。

先ほど説明したように、広い空間となっている。まずは体を洗ってからと、個々に用意された洗面台を使った。しかし、またしても異変に気が付いた。

「美容物が多いな......」

普段は、前世でシャンプーとボディーソープと呼ばれていたものしかないのに、異様に洗顔料が多いのだ。

「男女兼用にしたんだろう」

再びポジティブな考え方。体を洗ってから、白く色がついた湯船に浸かる。体の芯まで温められているような感覚。長い学校生活の疲れを癒してくれる。

「ふぅ......」

しばらく浸かっていると、不可解なことが起こった。脱衣場から何か聞こえるような。

「女子生徒の声か? 男湯なのに......」

様子を見ていると、風呂に誰かが入ってきた。そう、女子生徒だ。5、6人ほどであり、その中にはシオネとラエルもいた。

隠密ステルス......!! 」

咄嗟の判断でスキルを発動させたユラシア。向こう側には、湯気で見えなかったようで、気付かれはしなかった。しかし、すぐに湯船に浸かりに来ており、ユラシアはたちまち女子生徒に囲まれてしまった。

普通の人間ならばすぐに出ようと考えるだろう。または、良からぬことを考えるだろう。しかし、ユラシアは女性経験無し。生徒の合間を通り抜けるなど、そんな器用なことはできず、女子生徒から一番遠いところで、女子生徒が風呂から出るのを待つしかなかった。

「ふう、この時間帯は誰もいないから広くていいわね」

「本当に。授業終わったばかりだとスッゴい混んでるからねー」

女性同士なので、タオルを巻くようなことはせず、皆タオルは手に持つか、頭にのせている。それがユラシアの女性経験無しというウブな精神を刺激した。

「やっぱりこのメンバーでお風呂に来ると、ラエルちゃんのソレ、気になっちゃうよねー」

「ま、またか? もういいだろう」

「いいや! その胸の塊は罪深いものだわ! こんなの付けて実戦授業であんなに動けてるはずないわ! 」

「や、やめ、ろぉ......! くすぐったい」

目を逸らすにも、こんな声量で喋られては嫌でも耳に入ってしまう。だからといって、ここを動いて眼中に女性の裸体を写すわけにはいかない。

(た、助けてくれぇ......! )

「そういえば、シオネちゃんもいいもの持ってるわよねぇー」

「え? 私はその......」

「形が異様に良いのよ! それにこの揉み心地! 至高の胸よ! 」

「ふええ......うひゃう! 」

血反吐を吐く寸前まで来ていたユラシア。女子生徒軍がぞろぞろと身体を洗いにいったので、少しの猶予ができた。

(今の......内に! )

脱衣場にて、すぐさま体の水滴を拭き取り、服を着て廊下へ出た。しかし、長い間熱い湯船に浸かっていてのぼせてしまったという事実と、女子達の花園を見たことによって、その場で気絶してしまった。

-数分後-

微かに頬が赤く染まった状態で風呂から出てきた女子生徒達。そこで、あり得ないものを目にした。

「え! ユラ......ミツルさん!? 」

「大丈夫か!! 」

二人の懸命な救助があり、ユラシアは即座に保健室に運ばれた。

-保健室-

「ん、んん......」

少し頭がクラクラする。起き上がろうにも、気分が悪い。無敵インビンシブルを使っていれば防げたものを。

「あ、あら。目が覚めたのね」

真っ白なベッドの隣に立っていたのは、アリス・グレーシア。先日、闘技場にてイガロスと戦っていた人物だ。

「なぜ、お前がここに? 」

「た、担当なのよ! 別にあんたが運ばれてきて心配だったからとか、そういう理由じゃないからね! 」

「そりゃそうだろう」

こういうところで、ユラシアの女性経験の無さが悪く出る。これはいわゆる、ツンデレというやつなのだ。しかもかなり典型的。

「だ、黙って寝てなさい! 」

カーテンを勢いよく閉められてしまった。仕方がないので、ユラシアはその、のぼせた状態が完全に治るまで、寝転がっていることにした。

「喉渇いたかしら? 水を持ってきてあげたらか有り難く飲み、うわっ! 」

しばらくすると、水が入ったコップを片手に、アリスがカーテンを開けた。しかし、何かにつまづいたのか、水を思い切りぶちまけた上に、バランスを崩してユラシアの胸に飛び込んでしまった。

「うぶっ......」

「お、おいおい......大丈夫か? 」

アリスはとても慌てていた。しかし、想いを寄せている異性の胸元に、顔を埋めているという状況に、アリスは大変興奮していた。

「スゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーハァーーーーーーーーーーーーーー」

「大丈夫......か? 」

ユラシアの背中まで手を回し、肩が上下するぐらいユラシアの匂いを肺に詰め込んだアリス。ユラシアの声で我に帰り、慌ててユラシアを突き飛ばした。

「ウガァ!! 」

「何すんのよ!! 変態!! 」

ベッドから落ち、頭を強打したユラシア。まだ無敵インビンシブルを使っていなかったので、そのまま気絶してしまった。

-寮-

「サキ様! 」

「どう? 上手くいった? 」

あの時と同じ部屋。同じ状況でサキは、報告を待っていた。

「いえ......なぜだか分かりませんが、ターゲットは廊下で気絶していて、そのまま保健室へ運ばれました」

「......失敗したっていうの? 」

「い、いえ!! 次こそは成功させますので!! 」

震えた声でそういった女子生徒。しかし、それがサキのしゃくに触った。

「次っていつ? 次は成功するっていう見込みは? 無いでしょ? 」

「そ、そのようなことは!! 」

「......連れていって」

サキがそういうと、報告に来ていた女子生徒は、サキの取り巻きに両腕を捕まれ、そのまま引きずられた。

「ま、待って!! お待ちください!! サキ様ぁ!! 」

部屋の扉が閉じた今、その女子生徒の声は聞こえなくなった。

「......同じ四天王に頼むのはしゃくだけど、あなたしかいないわ」

サキが喋った相手は、部屋の暗闇から出てきた。妖艶な雰囲気を漂わせた女だ。

「任せなさい。私が骨抜きにしてあげるわ」
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