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襲撃
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「ゼニア、君の初任務だ」
いつものように訓練していると、突然カシュタがゼニアの元を訪ねてきた。
「初任務、ですか......」
「ああ......本来ならば俺達がやる仕事じゃない。王国防衛隊と魔族討伐隊とは違う、もう一つの隊がやるべき仕事なのだが、事情があってな。今は防衛隊がその役割を担うことになっている」
そう、この王国に隊は三つある。三つあることにより、安定して崩れにくい支えができるのだ。
「はあ......それでその任務って」
カシュタは腰に手を当てて言った。
「治安維持だ」
-王国 城下町-
相も変わらず、ここの噴水は人々の心を癒やしてくれる。この周辺では穏やかな時が流れるが、少し市街地に入れば一変。賑やかな市場で人々が行き交っている。
「ここで違法なものを売っていないか、許可なく営業をしていないかなどを確かめるんだ。今日のところは大丈夫そうだが、見るに越したことはない」
一応見て回るが、やましいことをしている者など誰一人としていなかった。
見回りの最中、カシュタは珍しく愚痴をこぼした。
「本当はあいつらがやる仕事なのにな。ランセルめ、一体何をしているんだか」
「ランセルって......? 」
「もう一つの隊の隊長だ。ランセルとシェアル、ゴゼルは俺の同期で、シェアル以外は隊長に任命されたのも同時期だった。そしてつい最近、ランセルは隊全体で休息期間に入った」
その時のことを目の前で思い出すような表情をするカシュタ。
「まったく、騎士道が聞いて呆れる」
腕を組み困ったような表情をする。
すると、市場の奥の方から騒ぎの音が聞こえてきた。
「仕事、だな。行くぞ」
「はい」
現場に駆けつけるとそこでは、店の店主にいちゃもんをつけるジジイがいた。
「おいおいこの店の商品はなんだ!! 臭くて食えやしねぇ!! 」
見ると、ジジイは店のリンゴを勝手に手にとってかじりつき、叫びながらその店をけなしているようだ。店主は必死にジジイをなだめようとしていた。
「な、なあお客さん。店のもの勝手に食うのはちょっと......」
「あぁ!? 客に逆らうのか!? 」
見るからにヤバいジジイだった。
「よし、ゼニア。あれを収めてこい」
「えぇ? 俺が? 」
「大丈夫だ。上手くやれるさ」
「......」
緊張しながらジジイに近づく。すると先に、店主がゼニアの存在に気がついた。
「あッ! お前は......ッ!! 」
店主はゼニアを見た途端、怒った顔をして門前払いした。
「このクソ野郎が!! 英雄を投獄した男は近寄るんじゃねぇッ! 」
そう、ゼニアのあの戦いを見ていたのはカシュタとゴゼルの部下たちだけ。兵士はゴゼルがどれだけ悪いことをしてきたかしっているが、民は知らない。民から見ればゼニアは、なんの罪もない英雄を投獄した、どこの馬の骨とも分からない男なのだ。
「なにぃ? ゼニアだぁ? あの英雄を貶めた野郎がここに? 」
ジジイが振り返ると、そこにはゴゼルを投獄に追い込んだ張本人であるゼニアがいた。
ジジイはゼニアに向かって怒鳴った。
「て、テメェ! よくノコノコと街を歩けるな!! 」
店主もジジイと一緒に言った。
「ゴゼルさんはみんなの友であり父であり希望の光だった。それをお前は! 兵士や政界の人間に良くねぇことを吹き込んで、投獄に導いたんだ!! この悪魔が!! 」
「どっか行きやがれ!! 」
「......」
ゼニアは何も言い返せなかった。ゴゼルの悪行から民を守って、この都をより良くしたはずなのに。
民はそれに気が付かない。
ゼニアはうなだれながらカシュタのところに戻った。
カシュタも今の会話を聞いていたようで、気まずそうにゼニアに聞いた。
「......大丈夫、か? 」
するとゼニアは一生懸命に笑顔を浮かべて、カシュタに言った。
「大丈夫です! 俺がしたことは間違ってませんから! 」
「......」
カシュタは申し訳が立たなかった。民がゴゼルを崇拝していたことはわかっていたのに、ゼニアに英雄を投獄した濡れ衣を着せてしまった。
すると突然、王都の門の方向から大きな音がした。同時にそこから人々が逃げてきて、悲鳴をあげていた。
「まさかこれは......ゼニア行くぞ! 」
「はい! 」
人々が逃げてきた方向に向かって走る二人。現場に着くとそこには、王都内に侵入してきた魔族が数体いた。
一ツ目悪魔の魔族は言う。
「ケケケ! ゴゼルとかいう化け物みたいな人間はいなくなったらしいな。これでこの国は俺たち魔族のものだぜ!! 」
次に体長の大きいゴーレムが言う。
「こノ国、乗っ取ル。スべて奪イ取る」
ゼニアたちに向かって走ってくる魔族たち。
「ゼニア!! お前はそっちを!! 俺はこっちをやる!! 」
「はいッ!! 」
カシュタはハルバードで豪快かつスマートに。ゼニアは回避を駆使して敵を翻弄しながら戦っていた。しかし
「クソッ! いくら倒しても次々と入ってくる!! 」
魔族はとめどなく侵入してきており、王都陥落の危機に瀕していた。
その時、カシュタは敵にハルバードを弾かれて少し怯んだ。それにゼニアが気を取られてしまった。
「カシュタさ......ッ!! 」
ゼニアの体は、経験したことのないような衝撃を受けて後方に吹っ飛んだ。
「ゼニアッ!! 」
見ると、ゼニアを吹っ飛ばした張本人がそこにはいた。緑色の炎を周囲に浮かばせながら浮遊する、フードを被ったガイコツ。リーパーだった。しかも他の魔族とは力のレベルが違う雰囲気を感じさせる。手に持った大きな鎌は、その恐怖感を増大させていた。
「目障りだ。消えてもらおうか」
人を見下すかのような声で言うリーパー。何か魔法を放ったようにゼニアに向けていた手には、綠色の炎がかすかに見えた。
一方のゼニアは、想像を絶する全身の痛みに悶えていた。
(ぐあぁッ!! 痛い! 熱い! 涙が出てくる......ッ!! 」
幸い骨は折れていない。火傷もないようだが、前世の人間ならば経験することのない痛みだ。ゼニアにとっては十分耐え難い苦痛だった。
「ゼニアッ!! 」
カシュタは吹き飛ばされたゼニアの前に立ち、ハルバードをリーパーに向けた。
「ここから先へは行かせないぞ!! 」
するとリーパーは、自身の周囲の緑色の炎球を燃え盛らせて言った。
「目障りだと言ったはずだ。今すぐ消えてもらおう」
リーパーはそう言うと、炎球をカシュタに向けて一発放った。
「はぁああッ!! 」
その炎球をカシュタは、自身のハルバードで弾いて無力化してみせた。
リーパーは少し驚いたような様子を見せた。
「ほう......私の炎を防ぐものがいるとはな。しかし、これはッ! 」
するとリーパーは先程よりも大きめな炎球を数発、連続でカシュタに向けで撃った。カシュタはそのすべてを弾いていく。
「はあ、はあ......」
しかし、さすがのカシュタもこれだけのパワーを弾くとなると、かなりの体力を使う。
すると、リーパーは不敵に笑った。
「フフ、フフフフ......」
「何がおかしい」
リーパーはカシュタの手にあるものを指さした。
「貴様、自分の得物を見てみろ」
言われて見ると、カシュタのハルバードは炎を何度も弾いていたせいでドロドロに溶けてしまっていた。
「く......クソッ!! 」
「貴様は今から私に殺される。賭けてもいい」
カシュタはハルバードを投げ捨てて、リーパーに向かって両腕を広げた。
「何の真似だ? 」
カシュタは歯を食いしばって答えた。
「俺の後ろには今、守るべきものがいる!! 俺が大好きな、守るべき国と、人々がいる!! それを護るのが俺、防衛隊隊長カシュタ•ガルゼルークの役目だ!! 」
カシュタは精一杯守っているつもりがリーパーにとっては、アリが立ちはだかっている程度のものだった。
「笑わせるなよ人間風情が。貴様など私の炎で、体の髄までドロドロに溶かしてやる。賭けてもいい」
両手に緑の炎を浮かべ、目の前のアリを焼き去る準備を進めるリーパー。
ゼニアはその景色を、かろうじて残った意識の中で見ていた。
(カシュタ、さん......)
カシュタは首を後ろに回して振り返り、ゼニアに語りかけた。
「お前に濡れ衣が着せられるのを黙ってみていた謝罪がしたい。これぐらいさせてくれ」
そう言うとすぐに元の方向を向き、リーパーを睨みつけた。
「俺がこれで生き残らなければ、お前はこのまま都を乗っ取ればいい。しかし俺が生き残った時、お前はそのまま、なんの成果も得られずに帰れ! 俺は絶対に守って、生き残るッ! 賭けてもいいぞッ!! 」
自身の口癖を真似されたリーパーは、少し不快感に顔を歪めながらも、威厳を保つために不敵に笑った。
「......フフフ、いいだろう。では、跡形もなく焼き去ってやる!! 」
リーパーは無情にも、いままでの炎球よりも一回り大きいものを数発、カシュタに向かって放った。
ゼニアはその光景を絶望に満ちた心情で見ていた。
(ッ!! )
土煙が上がり、カシュタが見えなくなる。その中にカシュタだったものがあるのだと思うと、ゼニアは自分を責めずにはいられなかった。
(俺が......もし俺が、動けていれば!! )
自分に力があれば、助けられたかもしれない。そう思ってしまう。
リーパーはその様子を見て、嬉しそうに笑い声をあげていた。
「フハハハハハッ! なんと愉快な光景だ!! 」
やがて土煙が晴れる。そしてリーパーはそこに
「ハハハハハ、ハハ......」
ありえないものを見た。
「な......なんだと? 」
全身に傷や火傷を負いながらも、先ほどと変わらない姿勢を保ち続けているカシュタだ。
「き、貴様ッ!! 本当に人間か!? 」
そう疑問に思うリーパーに対し、カシュタは改めて叫んだ。
「ただの人間を焼き殺せないほどの弱い魔族は、帰れ!! 」
その迫力に少々気圧されたリーパー。賭け通りならばリーパーはそのまま都から出ていくはずだが、そこは魔族。当然のように約束を破った。
「ただの人間風情が! 私の炎を受けて立っていられるはずはないのだ!! 」
確かにカシュタは見た目は大丈夫そうだが、実際はかなりダメージを受けているようで、時折よろめいていた。
それを見たゼニアは、今一度アイアンソードを握りしめた。
(俺がやらないと......俺がやらないといけないんだッ! )
ゼニアはアイアンソードを地面に突き刺し、立ち上がるためのとっかかり代わりにした。
するとリーパーはそのアイアンソードを見て、ここに来てから一番驚いたような表情と声をあげた。
「あ、あれは......ッ!! 」
緑の宝石が埋められている以外は、かつて見たあの男が携えていた剣とまったく同じだった。
「ということはまさか、ヤツの......」
リーパーがそう驚いていると、その隙にゼニアは完全に立ち上がった。そしてアイアンソードを構えて言った。
「今度は俺が、護らないといけないんだッ!! 」
「ゼニア......」
そのゼニアの姿を見たカシュタは、そのままその場に力なく膝をついた。
一方リーパーは、怯みながらも綠色の炎を準備していた。
「ええい! いっそのこと、その忌々しい剣ごと焼き溶かしてやる!! 」
リーパーは両手に溜めていた炎球をゼニアに数発投げつけた。するとゼニアはその怒涛の攻撃を、回避を使ってすべて避けきってしまった。
普通なら避ける暇もなくダメージを負うのだろう。しかし前世の経験でゼニアは、超人的な反射神経と動体視力を手に入れた。それのおかげもあって、ゼニアは焼き溶けずに済んだのだ。
すると次の瞬間、炎球の向こう側にいたリーパーが自身の大きな鎌を取り出して、それをゼニアに向かって振り下ろした。
その時、ゼニアのアイアンソードは持ち主に声を発した。
スキルだ、もう一つのスキルをッ!!
「ッ!! 」
もうすぐゼニアの脳天に鎌の先端が刺さる。その時、ゼニアは声に応えてスキルを発動した。
あろうことか、剣術の心得があまりないゼニアが、アイアンソードでリーパーの鎌を弾いたのだ。そのスキルの名は
弾き
「ぐぬッ!? 」
リーパーはあまりの衝撃に後ろによろめいた。それが大きな隙を生んだのだ。
「うおおおおおッ!! 」
ゼニアは大きく飛び上がり、リーパーの頭蓋骨を真っ二つにする勢いでアイアンソードを振り下ろした。するとアイアンソードはリーパーの眉間あたりで止まり挟まって、引っ張ると、同時に首の骨を外した。
ゼニアはきれいに着地し、肩を上下させていた。
アイアンソードからリーパーの頭蓋骨がポロッと外れると、まだわずかに目が光っていた。
リーパーは言う。
「これで、終わりと思うな......この国の戦力は、大きく減った......それを知った魔族たちが......攻めてくる、ぞ......」
言い終わると、リーパーの目は光を失った。
「......ッ」
ゼニアは目の前の頭蓋骨にどうしようもなく怒りがわいた。
こいつはカシュタさんをあんな目にあわせ、この国の人々を恐怖に陥れたんだ、と。
アイアンソードの切っ先をその頭蓋骨に合わせた。そのまま頭蓋骨をアイアンソードで貫くと、先端に突き刺さった。
すると、少し遅れて魔族討伐隊と王都防衛隊の兵士が現場に駆けつけた。
「......ッ! 」
兵士たちは、自身のアイアンソードに魔物の頭蓋骨を突き刺したゼニアを見ていた。その姿は兵士から見ればまさに、都を守った英雄そのものだった。
今回の件が民の耳にも届けば、少しは現状が変わるだろうか。ゼニアは正しいことをしたのだと、認めてもらえるのだろうか。
いつものように訓練していると、突然カシュタがゼニアの元を訪ねてきた。
「初任務、ですか......」
「ああ......本来ならば俺達がやる仕事じゃない。王国防衛隊と魔族討伐隊とは違う、もう一つの隊がやるべき仕事なのだが、事情があってな。今は防衛隊がその役割を担うことになっている」
そう、この王国に隊は三つある。三つあることにより、安定して崩れにくい支えができるのだ。
「はあ......それでその任務って」
カシュタは腰に手を当てて言った。
「治安維持だ」
-王国 城下町-
相も変わらず、ここの噴水は人々の心を癒やしてくれる。この周辺では穏やかな時が流れるが、少し市街地に入れば一変。賑やかな市場で人々が行き交っている。
「ここで違法なものを売っていないか、許可なく営業をしていないかなどを確かめるんだ。今日のところは大丈夫そうだが、見るに越したことはない」
一応見て回るが、やましいことをしている者など誰一人としていなかった。
見回りの最中、カシュタは珍しく愚痴をこぼした。
「本当はあいつらがやる仕事なのにな。ランセルめ、一体何をしているんだか」
「ランセルって......? 」
「もう一つの隊の隊長だ。ランセルとシェアル、ゴゼルは俺の同期で、シェアル以外は隊長に任命されたのも同時期だった。そしてつい最近、ランセルは隊全体で休息期間に入った」
その時のことを目の前で思い出すような表情をするカシュタ。
「まったく、騎士道が聞いて呆れる」
腕を組み困ったような表情をする。
すると、市場の奥の方から騒ぎの音が聞こえてきた。
「仕事、だな。行くぞ」
「はい」
現場に駆けつけるとそこでは、店の店主にいちゃもんをつけるジジイがいた。
「おいおいこの店の商品はなんだ!! 臭くて食えやしねぇ!! 」
見ると、ジジイは店のリンゴを勝手に手にとってかじりつき、叫びながらその店をけなしているようだ。店主は必死にジジイをなだめようとしていた。
「な、なあお客さん。店のもの勝手に食うのはちょっと......」
「あぁ!? 客に逆らうのか!? 」
見るからにヤバいジジイだった。
「よし、ゼニア。あれを収めてこい」
「えぇ? 俺が? 」
「大丈夫だ。上手くやれるさ」
「......」
緊張しながらジジイに近づく。すると先に、店主がゼニアの存在に気がついた。
「あッ! お前は......ッ!! 」
店主はゼニアを見た途端、怒った顔をして門前払いした。
「このクソ野郎が!! 英雄を投獄した男は近寄るんじゃねぇッ! 」
そう、ゼニアのあの戦いを見ていたのはカシュタとゴゼルの部下たちだけ。兵士はゴゼルがどれだけ悪いことをしてきたかしっているが、民は知らない。民から見ればゼニアは、なんの罪もない英雄を投獄した、どこの馬の骨とも分からない男なのだ。
「なにぃ? ゼニアだぁ? あの英雄を貶めた野郎がここに? 」
ジジイが振り返ると、そこにはゴゼルを投獄に追い込んだ張本人であるゼニアがいた。
ジジイはゼニアに向かって怒鳴った。
「て、テメェ! よくノコノコと街を歩けるな!! 」
店主もジジイと一緒に言った。
「ゴゼルさんはみんなの友であり父であり希望の光だった。それをお前は! 兵士や政界の人間に良くねぇことを吹き込んで、投獄に導いたんだ!! この悪魔が!! 」
「どっか行きやがれ!! 」
「......」
ゼニアは何も言い返せなかった。ゴゼルの悪行から民を守って、この都をより良くしたはずなのに。
民はそれに気が付かない。
ゼニアはうなだれながらカシュタのところに戻った。
カシュタも今の会話を聞いていたようで、気まずそうにゼニアに聞いた。
「......大丈夫、か? 」
するとゼニアは一生懸命に笑顔を浮かべて、カシュタに言った。
「大丈夫です! 俺がしたことは間違ってませんから! 」
「......」
カシュタは申し訳が立たなかった。民がゴゼルを崇拝していたことはわかっていたのに、ゼニアに英雄を投獄した濡れ衣を着せてしまった。
すると突然、王都の門の方向から大きな音がした。同時にそこから人々が逃げてきて、悲鳴をあげていた。
「まさかこれは......ゼニア行くぞ! 」
「はい! 」
人々が逃げてきた方向に向かって走る二人。現場に着くとそこには、王都内に侵入してきた魔族が数体いた。
一ツ目悪魔の魔族は言う。
「ケケケ! ゴゼルとかいう化け物みたいな人間はいなくなったらしいな。これでこの国は俺たち魔族のものだぜ!! 」
次に体長の大きいゴーレムが言う。
「こノ国、乗っ取ル。スべて奪イ取る」
ゼニアたちに向かって走ってくる魔族たち。
「ゼニア!! お前はそっちを!! 俺はこっちをやる!! 」
「はいッ!! 」
カシュタはハルバードで豪快かつスマートに。ゼニアは回避を駆使して敵を翻弄しながら戦っていた。しかし
「クソッ! いくら倒しても次々と入ってくる!! 」
魔族はとめどなく侵入してきており、王都陥落の危機に瀕していた。
その時、カシュタは敵にハルバードを弾かれて少し怯んだ。それにゼニアが気を取られてしまった。
「カシュタさ......ッ!! 」
ゼニアの体は、経験したことのないような衝撃を受けて後方に吹っ飛んだ。
「ゼニアッ!! 」
見ると、ゼニアを吹っ飛ばした張本人がそこにはいた。緑色の炎を周囲に浮かばせながら浮遊する、フードを被ったガイコツ。リーパーだった。しかも他の魔族とは力のレベルが違う雰囲気を感じさせる。手に持った大きな鎌は、その恐怖感を増大させていた。
「目障りだ。消えてもらおうか」
人を見下すかのような声で言うリーパー。何か魔法を放ったようにゼニアに向けていた手には、綠色の炎がかすかに見えた。
一方のゼニアは、想像を絶する全身の痛みに悶えていた。
(ぐあぁッ!! 痛い! 熱い! 涙が出てくる......ッ!! 」
幸い骨は折れていない。火傷もないようだが、前世の人間ならば経験することのない痛みだ。ゼニアにとっては十分耐え難い苦痛だった。
「ゼニアッ!! 」
カシュタは吹き飛ばされたゼニアの前に立ち、ハルバードをリーパーに向けた。
「ここから先へは行かせないぞ!! 」
するとリーパーは、自身の周囲の緑色の炎球を燃え盛らせて言った。
「目障りだと言ったはずだ。今すぐ消えてもらおう」
リーパーはそう言うと、炎球をカシュタに向けて一発放った。
「はぁああッ!! 」
その炎球をカシュタは、自身のハルバードで弾いて無力化してみせた。
リーパーは少し驚いたような様子を見せた。
「ほう......私の炎を防ぐものがいるとはな。しかし、これはッ! 」
するとリーパーは先程よりも大きめな炎球を数発、連続でカシュタに向けで撃った。カシュタはそのすべてを弾いていく。
「はあ、はあ......」
しかし、さすがのカシュタもこれだけのパワーを弾くとなると、かなりの体力を使う。
すると、リーパーは不敵に笑った。
「フフ、フフフフ......」
「何がおかしい」
リーパーはカシュタの手にあるものを指さした。
「貴様、自分の得物を見てみろ」
言われて見ると、カシュタのハルバードは炎を何度も弾いていたせいでドロドロに溶けてしまっていた。
「く......クソッ!! 」
「貴様は今から私に殺される。賭けてもいい」
カシュタはハルバードを投げ捨てて、リーパーに向かって両腕を広げた。
「何の真似だ? 」
カシュタは歯を食いしばって答えた。
「俺の後ろには今、守るべきものがいる!! 俺が大好きな、守るべき国と、人々がいる!! それを護るのが俺、防衛隊隊長カシュタ•ガルゼルークの役目だ!! 」
カシュタは精一杯守っているつもりがリーパーにとっては、アリが立ちはだかっている程度のものだった。
「笑わせるなよ人間風情が。貴様など私の炎で、体の髄までドロドロに溶かしてやる。賭けてもいい」
両手に緑の炎を浮かべ、目の前のアリを焼き去る準備を進めるリーパー。
ゼニアはその景色を、かろうじて残った意識の中で見ていた。
(カシュタ、さん......)
カシュタは首を後ろに回して振り返り、ゼニアに語りかけた。
「お前に濡れ衣が着せられるのを黙ってみていた謝罪がしたい。これぐらいさせてくれ」
そう言うとすぐに元の方向を向き、リーパーを睨みつけた。
「俺がこれで生き残らなければ、お前はこのまま都を乗っ取ればいい。しかし俺が生き残った時、お前はそのまま、なんの成果も得られずに帰れ! 俺は絶対に守って、生き残るッ! 賭けてもいいぞッ!! 」
自身の口癖を真似されたリーパーは、少し不快感に顔を歪めながらも、威厳を保つために不敵に笑った。
「......フフフ、いいだろう。では、跡形もなく焼き去ってやる!! 」
リーパーは無情にも、いままでの炎球よりも一回り大きいものを数発、カシュタに向かって放った。
ゼニアはその光景を絶望に満ちた心情で見ていた。
(ッ!! )
土煙が上がり、カシュタが見えなくなる。その中にカシュタだったものがあるのだと思うと、ゼニアは自分を責めずにはいられなかった。
(俺が......もし俺が、動けていれば!! )
自分に力があれば、助けられたかもしれない。そう思ってしまう。
リーパーはその様子を見て、嬉しそうに笑い声をあげていた。
「フハハハハハッ! なんと愉快な光景だ!! 」
やがて土煙が晴れる。そしてリーパーはそこに
「ハハハハハ、ハハ......」
ありえないものを見た。
「な......なんだと? 」
全身に傷や火傷を負いながらも、先ほどと変わらない姿勢を保ち続けているカシュタだ。
「き、貴様ッ!! 本当に人間か!? 」
そう疑問に思うリーパーに対し、カシュタは改めて叫んだ。
「ただの人間を焼き殺せないほどの弱い魔族は、帰れ!! 」
その迫力に少々気圧されたリーパー。賭け通りならばリーパーはそのまま都から出ていくはずだが、そこは魔族。当然のように約束を破った。
「ただの人間風情が! 私の炎を受けて立っていられるはずはないのだ!! 」
確かにカシュタは見た目は大丈夫そうだが、実際はかなりダメージを受けているようで、時折よろめいていた。
それを見たゼニアは、今一度アイアンソードを握りしめた。
(俺がやらないと......俺がやらないといけないんだッ! )
ゼニアはアイアンソードを地面に突き刺し、立ち上がるためのとっかかり代わりにした。
するとリーパーはそのアイアンソードを見て、ここに来てから一番驚いたような表情と声をあげた。
「あ、あれは......ッ!! 」
緑の宝石が埋められている以外は、かつて見たあの男が携えていた剣とまったく同じだった。
「ということはまさか、ヤツの......」
リーパーがそう驚いていると、その隙にゼニアは完全に立ち上がった。そしてアイアンソードを構えて言った。
「今度は俺が、護らないといけないんだッ!! 」
「ゼニア......」
そのゼニアの姿を見たカシュタは、そのままその場に力なく膝をついた。
一方リーパーは、怯みながらも綠色の炎を準備していた。
「ええい! いっそのこと、その忌々しい剣ごと焼き溶かしてやる!! 」
リーパーは両手に溜めていた炎球をゼニアに数発投げつけた。するとゼニアはその怒涛の攻撃を、回避を使ってすべて避けきってしまった。
普通なら避ける暇もなくダメージを負うのだろう。しかし前世の経験でゼニアは、超人的な反射神経と動体視力を手に入れた。それのおかげもあって、ゼニアは焼き溶けずに済んだのだ。
すると次の瞬間、炎球の向こう側にいたリーパーが自身の大きな鎌を取り出して、それをゼニアに向かって振り下ろした。
その時、ゼニアのアイアンソードは持ち主に声を発した。
スキルだ、もう一つのスキルをッ!!
「ッ!! 」
もうすぐゼニアの脳天に鎌の先端が刺さる。その時、ゼニアは声に応えてスキルを発動した。
あろうことか、剣術の心得があまりないゼニアが、アイアンソードでリーパーの鎌を弾いたのだ。そのスキルの名は
弾き
「ぐぬッ!? 」
リーパーはあまりの衝撃に後ろによろめいた。それが大きな隙を生んだのだ。
「うおおおおおッ!! 」
ゼニアは大きく飛び上がり、リーパーの頭蓋骨を真っ二つにする勢いでアイアンソードを振り下ろした。するとアイアンソードはリーパーの眉間あたりで止まり挟まって、引っ張ると、同時に首の骨を外した。
ゼニアはきれいに着地し、肩を上下させていた。
アイアンソードからリーパーの頭蓋骨がポロッと外れると、まだわずかに目が光っていた。
リーパーは言う。
「これで、終わりと思うな......この国の戦力は、大きく減った......それを知った魔族たちが......攻めてくる、ぞ......」
言い終わると、リーパーの目は光を失った。
「......ッ」
ゼニアは目の前の頭蓋骨にどうしようもなく怒りがわいた。
こいつはカシュタさんをあんな目にあわせ、この国の人々を恐怖に陥れたんだ、と。
アイアンソードの切っ先をその頭蓋骨に合わせた。そのまま頭蓋骨をアイアンソードで貫くと、先端に突き刺さった。
すると、少し遅れて魔族討伐隊と王都防衛隊の兵士が現場に駆けつけた。
「......ッ! 」
兵士たちは、自身のアイアンソードに魔物の頭蓋骨を突き刺したゼニアを見ていた。その姿は兵士から見ればまさに、都を守った英雄そのものだった。
今回の件が民の耳にも届けば、少しは現状が変わるだろうか。ゼニアは正しいことをしたのだと、認めてもらえるのだろうか。
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