最弱スキル《回避》で異世界最強になる死にゲーマスターの話

まこる

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新たな隊長

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あの戦いで負けてからというもの、ゴゼルは数々の悪行がばれ、更に王国を乗っ取る策略を立てていたことが発覚し、挙句の果てに一緒に賄賂をしていた討伐隊の部下たちと共に投獄された。聖剣《エラメル》は、王国の宝物庫で厳重に保管されることとなった。

そしてゼニアは晴れて、憧れだった魔族討伐隊に入隊することができた。本来ならば厳しい筆記試験と実技試験を通り抜けなければならないのだが、特別な措置としてゼニアは三級隊士のところ、一気にニ級隊士になった。

しかし、統率をとるものがいなくなった討伐隊は非常に不安定だった。そこで、隊長補佐をしていた女性が一時的に代理をすることになった。

今日はその女性に挨拶をしに行くのだ。会ったこともないその女性がどんな人かは分からない。故にゼニアはとても緊張していた。

「......ふう」

隊長室にたどり着いたゼニア。コンコンコンとノックをすると中から、入れという声が聞こえてきた。女性の声であることは明らかだが、それを感じさせない重みのある声だった。

扉を開けるとそこには、机に向かって羽ペンを持ち、書類に記入している女性がいた。とても美しく、鋭い目つきをした人だった。

「あの......」

「なんだ」

ドア越しではない声。生の声はさらに重みがあり、ゼニアの前世の世界で言うところの、イケボだった。

机に置かれたシーリングスタンプのセットに、シェアルと刻印があった。この人の名前だろう。

「こ、この前入隊しました。ゼニアです。今日はご挨拶をと思ったんですが......」

「......うむ」

ゼニアと話しているにもかかわらず、シェアルは書類から目を離そうとしない。

(......嫌われてるのか? 俺)

心配していると、シェアルが口を開いた。

「いつまでそこにいるのだ? 」

「へ? 」

「公務の邪魔だ。突っ立っている暇があるなら訓練をしろ。兵士の常識だ」

やはり嫌われている。

「は、はい......」

失礼しました、と言って部屋を出る。扉を閉めるとそこで、たまたまカシュタとあった。

「あ、カシュタさん」

「おお、ゼニア......シェアルに挨拶か」

「はい。でもなんか、嫌われてるみたいで......」

するとカシュタは、ハハハと笑った。相変わらず清潔感溢れるイケメンだ。

「シェアルは誰に対してもあんな感じだ。しかしな、あいつが嫌ってるやつなんて片手で数えられるぐらいしかいないんだ。あいつにとっては、兵士は全員家族。だからどんな時でも部下が優先だし、何よりも大切にしてる」

それに、とカシュタは付け加えた。

「気に入ったやつには照れ隠しで、特にキツく当たる。邪魔だとか、出ていけとか言われたんじゃないのか? 」

「......え? 」

そんな話をしていると、隊長室のドアが勢いよく開いた。するとそこからシェアルが顔を出した。静かだがとても怒っているようで、恐ろしい顔だった。

「カシュタ貴様。余計なことを言うとハルバードが握れない体にしてやるぞ」

「ハハ、悪かったよ」

シェアルはまだ不満そうだったが、これ以上突っかかっても進展はないと悟ったのか、部屋に戻って扉を閉めた。

「まあ、そのうち慣れるさ」

「そうですかねぇ......」

慣れる気はしないが、慣れなければいけない。そんなことを考えながらカシュタと別れ、ゼニアは訓練をしに闘技場へ向かった。

闘技場はすでに多くの兵士でいっぱいになっていた。筋力トレーニングをに勤しむものや組手をするものなど、様々だった。

すると、一人の兵士がゼニアの姿を見つけて言った。

「あ! みんな見ろ! ゼニアだ! 」

その声を皮切りに、多くの兵士がワラワラと集まってきた。

「アレだろ? 回避ローリングだけであの野郎の技を避けたっていう......」

「いや! 俺は跳ね返したって聞いたぜ! 」

兵士たちから尊敬の眼差しを向けられるゼニア。さっきまでトレーニングをしていた男達の熱気は凄まじく、勢いに少し気圧されていた。

「ほ、褒めてくれて嬉しいけどさ、ちょっと離れてくれ」

「おお、悪いな」

そうすると兵士たちは少し離れた。しかし、相変わらずの眼差しだった。

「なあなあ、ほんとに回避ローリングしか使えねぇのか? 」

「ま、まあな......」

「それすげぇよな! 最弱スキルなのによ! 」

ワイワイガヤガヤやっていると、少し遠くの方から声が聞こえてきた。

「くだらねぇッ!! 」

兵士たちとゼニアがその声の主の方を一斉に向く。そこには、ゼニアと同い年ほどの若い男がいた。青髪のツンツンヘアー。そして怒ったような表情をしていた。いや、もともとそういう顔だったのかもしれない。

その男は兵士たちを押しのけてゼニアの前まできた。

「どうせきたねぇトリックやらイカサマやらを仕組んだんだろ? 俺には分かってるぜ! 」

男はゼニアに指を突き立てて言い放った。兵士たちは怪訝な顔を向けるも、ゼニアをかばうことはできなかった。それは、その男の強さを表す指標となった。

一方トリックを疑われたゼニア。チートや違反行為などをゲームで一度もしたことがないゼニアにとって、その言葉は自分のプライドにいちゃもんをつけられたようなものだった。

そこでゼニアは、ある提案をした。

「じゃあ、俺とPvPサシでやってみるか? 」

「へ、おもしれぇ。イカサマを暴いてやるぜ」

おお、と周りの兵士たちは少し興奮した。最弱スキルでの戦いをこの目で見られるのだ。

すぐに兵士たちが囲む直径15mほどの輪ができ、その中でお互いに見合った。

ゼニアはアイアンソードを鞘から抜いた。緑の宝石がキラリと光る。

対して男は中くらいの剣を二刀流した。そして小指の方が刃になるように持ち、構えた。

「俺に小細工は効かねぇぞ? 」

「使わないから、安心しろ」

ゼニアも剣を構えた。

始まりの合図はもちろんなく、すでに試合は始まっている。男はいきなりゼニアに向かって走り始めた。ゼニアの間合いに入った瞬間サッと身をかがめて、起き上がる力で左の剣を振るった。その結果ゼニアの頬は裂け、血が出るはずだった。

しかし実際のところ、ゼニアは回避ローリングを使用した。するとゼニアは、男の視界から消えてしまった。

「なッ!! どこだ!! 」

驚いた男があたりをキョロキョロと見回していると、周りの兵士たちがクスクスと笑い始めた。

「な、なんだよ。何がおかしいッ! 」

するといきなり肩を後ろからポンポンと叩かれた。そちらの方から後ろを振り向くと、ニヤリと笑っているゼニアがいた。

「クソッ!! 」

剣を振るが、ゼニアには当たらない。ゼニアの神がかりな動体視力と前世の経験によって、完璧なタイミングで回避ローリングを発動しているのだ。

「なんでだ......イカサマ野郎のくせに!! 」

「イカサマじゃない。スキルだ! 」

二人が睨み合っていると、それを仲裁する声が聞こえた。

「やめろ、見苦しい」

その人物は、さっきゼニアが会った討伐隊隊長代理のシェアルだった。ごくごく普通の声量だったが、声質が声質なので騒がしい闘技場の中でもピシッと響いた。

その場にいた兵士たちは瞬時にシャキッと敬礼をした。ゼニアはまだ勝手がわからないので、ぼんやりとしていた。

シェアルはゼニアの前まで来て言った。

「私は訓練をしろと言ったのだ。つまらん小競り合いをしろと言ったのではない」

「す、すみません......」

ゼニアは素直に謝るが、男はシェアルに噛みついた。

「お言葉ですが、こいつをニ級隊士にするのには反対派もいます。認めることができずにこうやって戦いを挑むのも当然です」

するとシェアルは、男に向けて冷たい視線を向けた。ゼニアを見るような鋭い目ではなく、冷え切った目だ。

「ではお前を含めそいつらは、ゼニアに勝てるのか? 」

それを言われると、男は少しだけ後退りをした。そして色々言いたいことがあるにも関わらず、相手の地位を考えてそれらを押し殺した。

「す......すみません」

言うだけ言うとシェアルは闘技場の入場口に向かっていった。しかし、出る直前に振り返った。

「ゼニア」

いきなり呼ばれたゼニアは驚き気味に顔を上げた。

「は、はい! 」

するとシェアルは、ゼニアに一言置いていった。

「......怪我はするな」

そう言うとすぐに正面に向き直り、足早に闘技場を出ていった。

ゼニアは慣れた気がした。認められた気がした。
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