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旅立ち
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ゼニアも誕生日を迎えて、遂に18歳になった。18歳になると、自分のことをすべて自分で決めることができるようになる。
ゼニアはそこで、村を出て王国に行き、魔族討伐隊に入隊するのを目指すのだ。
旅立ちの日の前日には、ささやかな宴が開かれた。皆がゼニアとの別れを惜しみ、夢を応援した。
そして当日。
「......じゃあ皆。行ってくる」
門の前に集合した村民全員。家族とジガルが前に来ている。
まずジガルが前に出て、握りこぶしほどの袋を渡してきた。
「皆からの気持ちだ。旅費に充てろ」
受け取るとジャリッという音がした。その重みから察するに、中身は貨幣だろう。
「みんな......ありがとう」
「それと」
ジガルは自身の腰に差していた刀を鞘ごと抜き取り、ゼニアに差し出した。
「え......? 」
「老いぼれには要らん長物だ。前々から研いで、磨いておった。使ってもよいが、売ればそれなりの値がつくだろう」
「そんな、受け取れませんよ......」
するとジガルはゼニアの肩に手を置き、珍しく微笑んだ。
「教え子の息子にぐらい、いい顔をさせてくれ。お前はもう儂の孫同然だ」
「ジガルさん......」
ゼニアはジガルにひし、と抱きついた。それに答えるように、ジガルはゼニアの頭を撫でた。
「王国にいっても元気でな」
「はい、ありがとうございますッ」
ジガルがさがり、次は家族だ。
まずはガルタ。
「お前なら絶対なれるぜ。なってもらわねぇと俺が困る! 」
「へへ、おう! 」
続いてパネ。
「お兄ちゃん......」
バネはいきなりゼニアに抱きついてきた。
「元気でね。絶対に帰ってきてね」
前世のままだったら、パネに抱きつかれれば気を失っていただろう。しかし今は、確固たる意志をもっている。
「ああ、お前ももうちょっと背が伸びるといいな」
「もう......」
パネは少し泣いていた。しかし、これは兄の門出である。悲しい涙ではなく、嬉しい涙とするために、パネは一生懸命笑った。
「じゃあね、お兄ちゃん」
「ああ」
最後に母親カザラ。
「ゼニア......」
「母さん......」
「......ジガルさんから話は聞いたわ。言っても無駄なのよね? 」
「ごめん......」
するとカザラは、目を瞑りゆっくりと首を横に振った。
「いいの。私が過保護だったのかもしれないわね。これからは、あなたの生きたいように生きるのよ」
カザラはそのままゼニアに抱きついた。ゼニアもそれに応えるように、目一杯抱きしめた。
「元気でね......」
カザラのその声はとても震えていて、湿っていた。
「うん。今までありがとう......」
十分皆との別れを惜しんだあと、門を開ける係の男に話しかけた。
「門を開けてくれ! 」
木の門はゴゴゴと開き、外からの風を取り込んだ。
「じゃあ皆、行ってくるよ! 」
後ろを振り向きながら歩いて手を振る。皆の姿がどんどんと小さくなり、霞んで見えた。祝福する声も、いつの間にか聞こえなくなっていた。
しばらくするとゼニアは懐から、村にあった古ぼけた地図を開き、旅路を目で追った。
「さてと......王国に向かうにはここをこう行って、と。なるほど」
1日ですぐに行ける距離ではない。途中にある村やキャンプの出来そうな場所で休み休み行って2、3日はかかる。
「うーん......まあ行けるか」
旅の知識などないが、ゼニアは自信に満ち溢れていた。ゼニアには死にゲーでつちかった精神力がある。多少の疲労など、ボスの体力をミリ残ししてゲームオーバーになった時の絶望感と比べれば屁でもない。
「よーし! 」
ゼニアは走った。前世の体であれば音を上げてしまうが、今は若い体がある。少し寝れば体力が回復する。走っては休憩し、走っては休憩を繰り返していくうちに、王国が目前に迫ってきていた。
「ここが......王国」
20mはある石造りの塀。その周りには深い堀があり、そこには川が流れていた。王国の門までは橋を使って行く。門は鉄製で網目状になっている。その大きな門の前にいる門兵に話しかける。
「すみません。ここを通してもらえませんか? 」
二人いた門兵の片方は、ゼニアに話した。
「名前と、入国の目的を述べてくれ」
「はい。名前はゼニア。この王国には、魔族討伐隊に入るために来ました」
そのゼニアの発言を聞くと門兵の二人は、顔を見合わせてすぐに大爆笑した。
「ダッハッハッハ!! あんたアホか? 無理に決まってんだろ! 」
「素人がなれるもんじゃねぇよ! バカだなぁ! 」
ゼニアは二人の笑いに少しイラついたが、その後二人はすぐにこう言った。
「あんたが討伐隊に入れない方に賭けてもいいぜ。俺は30万ケパルだ! 」
「じゃあ俺は40万賭けてやるぜ! 」
ケパルとはこの世界での通貨の名称であり、すべてが貨幣で価値は日本円に近い。
門兵はまだ軽く笑いながら、門を開けるように開閉の係に言った。そして門が開くと、ゼニアの背中を押して嘲笑った。
「せいぜい頑張れよ、田舎野郎! ハハハ!! 」
ゼニアは振り返って文句でも言おうとしたが、その前に門は閉まってしまった。
「はあ......」
門兵の態度は最悪だったが、町並みは良かった。噴水のある広場には様々な店が並んでおり、人で賑わっていた。遠くには王や討伐隊のいる城が見え、その大きさに感動した。
「すごいな。都会って感じがする......」
道行く人々は皆、ゼニアのような質素な服ではなく、丁寧に縫われ、鮮やかなシルクやリネンの服を着ていた。
その景色に圧倒されていると、少し遠い所で人だかりが出来ているのを見つけた。そこからは、黄色い歓声が溢れてきていた。
近くに寄ってみると、民衆の声がハッキリと聞こえた。
「キャー! 防衛隊の方たちよ!! 」
「カッコいいー!! 」
その人だかりの中心には、銀と青い布で出来た厚い鎧を身にまとう防衛隊と呼ばれた兵士達がいた。
「討伐隊、じゃない......? 」
その防衛隊とやらの先頭には、一番背の高い、短く切った髪が印象的な清潔感溢れる男性がいた。
その男性は正義感に満ち溢れた表情をしており、民衆の一人ひとりに良い対応を丁寧にしていった。
その男性はやがて、視線をゼニアのアイアンソードまでずらした。すると驚いた顔をしてゼニアの方に寄ってきた。そしてゼニアに耳打ちする。
「すまない。今夜、ここで待ち合わせをしてくれないか」
それだけすぐに言うと、男性はまた民衆の中に消えていった。
(な、なんだったんだ......? )
男性が遠のくと人々は段々と分散し、元の生活に戻っていった。
この日は疲れていたこともあり、観光する暇もなくゼニアは宿をとって夜まで休むことにした。
そして、すべてが寝静まる夜。
ゼニアは宿を出てすぐの所にある噴水に向かった。そこには、深くフードを被った背の高い、おそらく昼間の防衛隊であろう男性が先に待っていた。
男性はゼニアが来たことに気がついた。
「来たか。悪いな、こんな時間に呼び出してしまって」
「まあ、いいですけど......俺に何かご用で? 」
そう聞くと男性は、ゼニアの腰に差さったアイアンソードを見ながら言った。
「それは君のものか? 」
「え? まあ......」
「ではもしや、君の父は討伐隊にいたのではないか? 」
男性はゼニアの父が討伐隊に入っていたことを知っている。それにゼニアはかなり驚いていた。
「な、なんでそれを! 」
「そのアイアンソードだ。君の父は真面目で、手入れを欠かしたことがなかったからな。鞘の上から見ても分かる。それに君が持っていた刀。あれは俺が師事を受けていた君の父の、師匠のものだ。それで確信したんだ」
その発言にも驚いた。ジガルは父の師匠であり、父はこの男性の師匠だったのだ。
「申し遅れたな。俺は王国防衛隊の隊長を務めている、カシュタだ」
胸に手をおいて自己紹介をする。
「あ、俺はゼニアです」
双方自己紹介が終わったところで、カシュタは聞いた。
「......さて、君は一体何の用事でここまで来たのだ? 散歩なんていう荷物じゃなかったが。俺にできることならなんでも言ってくれ。彼の子ならば、力になりたい」
大きなガタイで優しい顔を向けるカシュタ。ゼニアは門兵に笑われたこともあって自信を少し無くしていたが、思い切って言った。
「実は、父のように討伐隊に入りたいんです」
するとカシュタは顔色を変えた。そして、自分よりも身長の低いゼニアに向かってほんの少しかがんでいたのを、背筋を伸ばして直した。
「やめておけ。君が後悔するだけだ」
「大丈夫です! 多少の辛いことは我慢できますし、訓練も文句を言わずやります! 」
「違うんだ。そういうことじゃない」
ゼニアはてっきり、討伐隊はレベルが高すぎるから諦めろとでも言われると思った。しかし返ってきたのは、予想外の言葉だった。
「失望するぞ。今の討伐隊を見たら」
「え......? 」
カシュタは険しい顔をしながら、噴水に腰掛けて手を組んだ。
「今の討伐隊の隊長は俺の同期なのだが、優秀であるがゆえに傲慢で、自身の地位を高めるために毎日のように賄賂を受け取っている。君の父がいた頃の討伐隊ではないんだ」
「......」
ゼニアは、暗くなってきたカシュタの顔と話をものともせず、語り始めた。
「じゃあ、俺が討伐隊を叩き直します!! 討伐隊に入って、いつか隊長になって、当時の討伐隊を取り戻します!! 」
その時カシュタは、ゼニアに当時の、自分の師匠であった彼の父の面影を見た。するとカシュタの顔はどんどん明るくなり、ゼニアに言った。
「ハハ......討伐隊に入りたいと願う若者はよくいるものだが、今の話をしたら大抵がそれをやめていくだろう。しかし君は違う。やはり君は、あの人の子だ」
そうするとカシュタは、ゼニアにある提案をした。
「俺が討伐隊に、君のことを推薦しよう。明日、城へ来てくれ。やつがどういう反応をするかはまだ分からないが、チャンスは俺が作ってやる」
ゼニアはそれを聞いて嬉しくなり、カシュタの手を握った。
「ありがとうございます!! 」
「ハハ、よろしくな」
そして翌日。ゼニアはある方法で実力を試されることとなる。
ゼニアはそこで、村を出て王国に行き、魔族討伐隊に入隊するのを目指すのだ。
旅立ちの日の前日には、ささやかな宴が開かれた。皆がゼニアとの別れを惜しみ、夢を応援した。
そして当日。
「......じゃあ皆。行ってくる」
門の前に集合した村民全員。家族とジガルが前に来ている。
まずジガルが前に出て、握りこぶしほどの袋を渡してきた。
「皆からの気持ちだ。旅費に充てろ」
受け取るとジャリッという音がした。その重みから察するに、中身は貨幣だろう。
「みんな......ありがとう」
「それと」
ジガルは自身の腰に差していた刀を鞘ごと抜き取り、ゼニアに差し出した。
「え......? 」
「老いぼれには要らん長物だ。前々から研いで、磨いておった。使ってもよいが、売ればそれなりの値がつくだろう」
「そんな、受け取れませんよ......」
するとジガルはゼニアの肩に手を置き、珍しく微笑んだ。
「教え子の息子にぐらい、いい顔をさせてくれ。お前はもう儂の孫同然だ」
「ジガルさん......」
ゼニアはジガルにひし、と抱きついた。それに答えるように、ジガルはゼニアの頭を撫でた。
「王国にいっても元気でな」
「はい、ありがとうございますッ」
ジガルがさがり、次は家族だ。
まずはガルタ。
「お前なら絶対なれるぜ。なってもらわねぇと俺が困る! 」
「へへ、おう! 」
続いてパネ。
「お兄ちゃん......」
バネはいきなりゼニアに抱きついてきた。
「元気でね。絶対に帰ってきてね」
前世のままだったら、パネに抱きつかれれば気を失っていただろう。しかし今は、確固たる意志をもっている。
「ああ、お前ももうちょっと背が伸びるといいな」
「もう......」
パネは少し泣いていた。しかし、これは兄の門出である。悲しい涙ではなく、嬉しい涙とするために、パネは一生懸命笑った。
「じゃあね、お兄ちゃん」
「ああ」
最後に母親カザラ。
「ゼニア......」
「母さん......」
「......ジガルさんから話は聞いたわ。言っても無駄なのよね? 」
「ごめん......」
するとカザラは、目を瞑りゆっくりと首を横に振った。
「いいの。私が過保護だったのかもしれないわね。これからは、あなたの生きたいように生きるのよ」
カザラはそのままゼニアに抱きついた。ゼニアもそれに応えるように、目一杯抱きしめた。
「元気でね......」
カザラのその声はとても震えていて、湿っていた。
「うん。今までありがとう......」
十分皆との別れを惜しんだあと、門を開ける係の男に話しかけた。
「門を開けてくれ! 」
木の門はゴゴゴと開き、外からの風を取り込んだ。
「じゃあ皆、行ってくるよ! 」
後ろを振り向きながら歩いて手を振る。皆の姿がどんどんと小さくなり、霞んで見えた。祝福する声も、いつの間にか聞こえなくなっていた。
しばらくするとゼニアは懐から、村にあった古ぼけた地図を開き、旅路を目で追った。
「さてと......王国に向かうにはここをこう行って、と。なるほど」
1日ですぐに行ける距離ではない。途中にある村やキャンプの出来そうな場所で休み休み行って2、3日はかかる。
「うーん......まあ行けるか」
旅の知識などないが、ゼニアは自信に満ち溢れていた。ゼニアには死にゲーでつちかった精神力がある。多少の疲労など、ボスの体力をミリ残ししてゲームオーバーになった時の絶望感と比べれば屁でもない。
「よーし! 」
ゼニアは走った。前世の体であれば音を上げてしまうが、今は若い体がある。少し寝れば体力が回復する。走っては休憩し、走っては休憩を繰り返していくうちに、王国が目前に迫ってきていた。
「ここが......王国」
20mはある石造りの塀。その周りには深い堀があり、そこには川が流れていた。王国の門までは橋を使って行く。門は鉄製で網目状になっている。その大きな門の前にいる門兵に話しかける。
「すみません。ここを通してもらえませんか? 」
二人いた門兵の片方は、ゼニアに話した。
「名前と、入国の目的を述べてくれ」
「はい。名前はゼニア。この王国には、魔族討伐隊に入るために来ました」
そのゼニアの発言を聞くと門兵の二人は、顔を見合わせてすぐに大爆笑した。
「ダッハッハッハ!! あんたアホか? 無理に決まってんだろ! 」
「素人がなれるもんじゃねぇよ! バカだなぁ! 」
ゼニアは二人の笑いに少しイラついたが、その後二人はすぐにこう言った。
「あんたが討伐隊に入れない方に賭けてもいいぜ。俺は30万ケパルだ! 」
「じゃあ俺は40万賭けてやるぜ! 」
ケパルとはこの世界での通貨の名称であり、すべてが貨幣で価値は日本円に近い。
門兵はまだ軽く笑いながら、門を開けるように開閉の係に言った。そして門が開くと、ゼニアの背中を押して嘲笑った。
「せいぜい頑張れよ、田舎野郎! ハハハ!! 」
ゼニアは振り返って文句でも言おうとしたが、その前に門は閉まってしまった。
「はあ......」
門兵の態度は最悪だったが、町並みは良かった。噴水のある広場には様々な店が並んでおり、人で賑わっていた。遠くには王や討伐隊のいる城が見え、その大きさに感動した。
「すごいな。都会って感じがする......」
道行く人々は皆、ゼニアのような質素な服ではなく、丁寧に縫われ、鮮やかなシルクやリネンの服を着ていた。
その景色に圧倒されていると、少し遠い所で人だかりが出来ているのを見つけた。そこからは、黄色い歓声が溢れてきていた。
近くに寄ってみると、民衆の声がハッキリと聞こえた。
「キャー! 防衛隊の方たちよ!! 」
「カッコいいー!! 」
その人だかりの中心には、銀と青い布で出来た厚い鎧を身にまとう防衛隊と呼ばれた兵士達がいた。
「討伐隊、じゃない......? 」
その防衛隊とやらの先頭には、一番背の高い、短く切った髪が印象的な清潔感溢れる男性がいた。
その男性は正義感に満ち溢れた表情をしており、民衆の一人ひとりに良い対応を丁寧にしていった。
その男性はやがて、視線をゼニアのアイアンソードまでずらした。すると驚いた顔をしてゼニアの方に寄ってきた。そしてゼニアに耳打ちする。
「すまない。今夜、ここで待ち合わせをしてくれないか」
それだけすぐに言うと、男性はまた民衆の中に消えていった。
(な、なんだったんだ......? )
男性が遠のくと人々は段々と分散し、元の生活に戻っていった。
この日は疲れていたこともあり、観光する暇もなくゼニアは宿をとって夜まで休むことにした。
そして、すべてが寝静まる夜。
ゼニアは宿を出てすぐの所にある噴水に向かった。そこには、深くフードを被った背の高い、おそらく昼間の防衛隊であろう男性が先に待っていた。
男性はゼニアが来たことに気がついた。
「来たか。悪いな、こんな時間に呼び出してしまって」
「まあ、いいですけど......俺に何かご用で? 」
そう聞くと男性は、ゼニアの腰に差さったアイアンソードを見ながら言った。
「それは君のものか? 」
「え? まあ......」
「ではもしや、君の父は討伐隊にいたのではないか? 」
男性はゼニアの父が討伐隊に入っていたことを知っている。それにゼニアはかなり驚いていた。
「な、なんでそれを! 」
「そのアイアンソードだ。君の父は真面目で、手入れを欠かしたことがなかったからな。鞘の上から見ても分かる。それに君が持っていた刀。あれは俺が師事を受けていた君の父の、師匠のものだ。それで確信したんだ」
その発言にも驚いた。ジガルは父の師匠であり、父はこの男性の師匠だったのだ。
「申し遅れたな。俺は王国防衛隊の隊長を務めている、カシュタだ」
胸に手をおいて自己紹介をする。
「あ、俺はゼニアです」
双方自己紹介が終わったところで、カシュタは聞いた。
「......さて、君は一体何の用事でここまで来たのだ? 散歩なんていう荷物じゃなかったが。俺にできることならなんでも言ってくれ。彼の子ならば、力になりたい」
大きなガタイで優しい顔を向けるカシュタ。ゼニアは門兵に笑われたこともあって自信を少し無くしていたが、思い切って言った。
「実は、父のように討伐隊に入りたいんです」
するとカシュタは顔色を変えた。そして、自分よりも身長の低いゼニアに向かってほんの少しかがんでいたのを、背筋を伸ばして直した。
「やめておけ。君が後悔するだけだ」
「大丈夫です! 多少の辛いことは我慢できますし、訓練も文句を言わずやります! 」
「違うんだ。そういうことじゃない」
ゼニアはてっきり、討伐隊はレベルが高すぎるから諦めろとでも言われると思った。しかし返ってきたのは、予想外の言葉だった。
「失望するぞ。今の討伐隊を見たら」
「え......? 」
カシュタは険しい顔をしながら、噴水に腰掛けて手を組んだ。
「今の討伐隊の隊長は俺の同期なのだが、優秀であるがゆえに傲慢で、自身の地位を高めるために毎日のように賄賂を受け取っている。君の父がいた頃の討伐隊ではないんだ」
「......」
ゼニアは、暗くなってきたカシュタの顔と話をものともせず、語り始めた。
「じゃあ、俺が討伐隊を叩き直します!! 討伐隊に入って、いつか隊長になって、当時の討伐隊を取り戻します!! 」
その時カシュタは、ゼニアに当時の、自分の師匠であった彼の父の面影を見た。するとカシュタの顔はどんどん明るくなり、ゼニアに言った。
「ハハ......討伐隊に入りたいと願う若者はよくいるものだが、今の話をしたら大抵がそれをやめていくだろう。しかし君は違う。やはり君は、あの人の子だ」
そうするとカシュタは、ゼニアにある提案をした。
「俺が討伐隊に、君のことを推薦しよう。明日、城へ来てくれ。やつがどういう反応をするかはまだ分からないが、チャンスは俺が作ってやる」
ゼニアはそれを聞いて嬉しくなり、カシュタの手を握った。
「ありがとうございます!! 」
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