星影ちゃんはまだ子供

まこる

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後輩襲来

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この日、夏彦の仕事の後輩である御羽は、ある強い目的をもち、自家用車を運転していた。その目的というのが。

「オリノしぇんぱいぃ......どこ行っちゃったのぉ......」

二十歳とは思えない号泣っぷり。前が見えているのだろうか。

「オリノしぇんぱいがいないと、あたし寂しくて死んじゃうぅ」

上司から聞いていたのは、夏彦が実家に帰るということのみ。夏彦の実家を知るのは相当の労力がかかったが、夏彦を探すためなら自分の疲労などどうでもよかった。

付近の駐車場に車を停め、徒歩で『オリノ』の表札を探す御羽。メモ用紙を見ながらキョロキョロする姿は一見、迷子の子供のようだった。

やがて、その子供のような行動が実を結んだ。

「こ、ここだ......やっと見つけたぁ......」

再び大粒の涙を流す。インターホンを押して応答したのは、夏彦の母であった。

「はーい? 」

「オリノしぇんぱいはどこでしゅかぁ......」

「お、オリノ先輩? ナツヒコのことかしら? ナツヒコなら今、お友達とご飯食べに行ってますけど......」

泣き声で感謝を述べる御羽は涙を流しながら、車を停めた駐車場へと向かっていった。

-ファミリーレストラン-

ステーキと大盛り白米を頼んだ夏彦に対して、クリームパスタにアボカドサラダと、遥の頼んだメニューは随分と女の子らいし品目であった。無論、2人ともドリンクバー付きである。

「んーおいしー! やっぱりアボカドって好き! でもー、ナツヒコにいちゃんの方がもーっと好き!! 」

向かい側の椅子に座ればいいものを、遥はわざわざ夏彦のとなりに座ってきたのだ。そして、事あるごとに猫のように頬擦りをしてくるのだ。

「くっ、食いにくいだろ......」

その言葉には2つの意味が含まれていた。シンプルに、寄られると食べづらいという点と、周りの目が気になるという点だ。前にショッピングセンターでもそうなった。店内の男性たちは、夏彦のことをうらやましそうに見つめている。

我慢しながら黙々と食べ進めていくと、店の入り口付近で何やら騒ぎが起こっていた。店員の声が聞こえる。

「お、お客様困ります! お席にご案内するので待って頂かないと、ああ! 」

ふらふらな足取りで無理やり入店してきたのは、夏彦にとって見覚えのある女性だった。

「オンバ!? 」

「オリノしぇんぱいぃ! 」

不確かな歩行ははっきりしたものへと変わり、小走りのようになった。それが災いし、御羽は盛大にずっこけた。

夏彦たちのテーブルに手を掛け、そこから顔だけをニュッと出した御羽。おでこから鼻にかけての部位が、転んだ時の衝撃で赤くなっており、御羽は更に泣いていた。

「ふえええん、オリノしぇんぱいぃ......」

やがて長旅で疲れていたのか、御羽は腹を鳴らした。その音を聞き、遥はアボカドサラダのアボカドにフォークを刺して、御羽の口元に持っていった。遠慮なくそれにがっついた御羽は、たいそう幸せそうな顔をしていた。

「......で、ナツヒコにいちゃん。この人誰? 」

夏彦は、目を反らし気味で答えた。

「し......知らない人......」

「ええ!! センパイちょっとぉ! 」

御羽は夏彦のあまりのそっけなさに、テーブルを叩いて勢いよく立った。

「オンバ......! 店内では静かにな......」

夏彦が言うとそれに連動するように、遥が人差し指を自身の柔らかい唇に当て、しぃーと言った。

しかし、御羽は夏彦に会ったことでパワーが満タン、いや、過剰摂取してしまっていた。

「はい!!! センパイの言うことなら何でも聞きます!!! 」

「だからうるせえって!! 」

「ナツヒコにいちゃんも声おっきい!! 」

その日から夏彦を含めた3人は、そのファミリーレストランのブラックリストに載ることになってしまった。

御羽は夏彦の家に居候することとなった。
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