星影ちゃんはまだ子供

まこる

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時は流れる

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「今まで、楽しかったぜ」

先ほどまで大泣きしていた遥。落ち着いてきてはいるが、まだ鼻をすすって、肩を上下させている。

「......グスッ」

夏彦18歳。独り立ちの時である。対して遥は9才。小学4年生。5年間を共に過ごしてきた仲、簡単には離れられない。

「なにも、一生会えないって訳じゃねぇぞ」

しゃがんで遥と同じ目線になる。すると遥は、項垂れていた顔をもっと下げた。

「うそ、ずっと会えないじゃん......」

そんな様子を見ていた遥の母、美月は心が痛かった。自分の子供が離ればなれになるようで、寂しくもあった。しかしそこは母親。娘にはしっかり言った。

「ハルカ、ナツヒコ兄ちゃんだって辛いんだよ? 誕生日ケーキも買ってもらったでしょ? ちゃんとありがとうって言って、笑顔で見送らなきゃ」

本日7月6日。遥の誕生日は7月7日であるが、誕生日を祝う前に別れることとなってしまった。しかし、遥の手には誕生日を祝う大きめのケーキが入った箱が提げられていた。

「グスッ......うん......」

「いい子だ。またいつか、絶対に帰ってくるからな」

まっすぐに、遥のキラキラした目を見据える夏彦。2人の中での約束の儀式である。そのうち遥はお返しとして、夏彦と目を合わせた。

「......約束ね。絶対! 」

夏彦は遥の頭を撫でた後、タクシーに持っていく荷物を詰め込んだ。そして、後部座席に乗り込む。

発進するタクシー。それを追いかける遥。小学生の脚力では限界があり、すぐに疲れ、どんどん距離が空いていく。遠くに見える遥は、こちらに向かって大きく手を振っていた。

翌日の誕生日兼七夕の日。遥は願い事を書いた短冊を、笹の一番高い所にかけた。

『ナツヒコ兄ちゃんとまた会えますように』

-約7年後-

「オリノせんぱーい。あとどれぐらいですかぁ? 」

引っ越し業後輩の御羽 沙保里はお小言が多い。仕事中にも駄々をこね、帰りたいを連呼する。その度に上司に叱られるのだが、面倒見がいい夏彦にひかれ、フレンドリーに接してくる。中々憎めないやつである。

「もっとあるぜ。夏で暑いけどよ、踏ん張れ」

夏彦25歳。もうすっかり引っ越しおじさんが板についてきている。しかし、本人はおじさんと呼ばれたくはないらしい。

「ふええ......もうムリですぅ」

そんなやり取りをしていると、引っ越しを依頼した人物が買い物から帰ってきた。両手にビニール袋をぶら下げており、かなり重そうだ。

「あのー皆さん? 休憩でもしますか? スポーツドリンク買ってきたので、よかったらどうぞ」

普通は遠慮するものだが、この猛暑の中、断る理由はなかった。全員『お言葉に甘えて』と言って、各々休憩を始めた。

夏彦と御羽の所にもスポーツドリンクが2本回ってきた。依頼主が直接持ってきたのだ。もらった瞬間、御羽はキャップを開けて、コキュコキュと可愛らしい音を鳴らしながら飲んでいった。幸せそうだ。依頼主は夏彦と御羽の隣に座り、一緒にスポーツドリンクを飲み始めた。

やがて、となりにいた夏彦に愚痴を漏らした。

「......俺実は、今にでも地元帰りたいんすよね。でも親が独り立ちしろってうるさくて、彼女置いてきちゃったんすよ......」

「はぁ、それはまた」

「あなたもあります? 地元に帰りたいって気持ち」

かなり少なくなったスポーツドリンクを横に置き、考え始めた夏彦。しばらくして、もう数年間会っていないあの人物のことを思い出した。

「......ありますよ。俺も」

「ふうん......休みとってでも帰った方がいいっすよ。いつ帰れなくなるか分かんないんすから」

じゃあ頑張ってください、と依頼主は立ち上がった。それと同時に夏彦も立ち上がり、即座に仕事を再開した。目にも留まらぬ速さを見て、仕事仲間たちは呆然と立ち尽くしていた。

-数時間後-

「いやー助かりました。ありがとうございました」

依頼主は引っ越し業者たちに向かって礼をしている。

「いえいえ、またありましたら、うちをお願いします」

そういってトラックで帰っていく。助手席に乗っていた夏彦は、携帯を取り出した。

「もしもし、オリノです。はい......それが、しばらく休暇をいただきたいんです......20日ほど......そうですよね......え! いいんですか!! ありがとうございます! はい、はい! 失礼します」

有給休暇を使ってギリギリ20日を確保できた。あとは、帰るだけ。

待ってろ、遥! 
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