妹がいるからお前は用済みだ、と婚約破棄されたので、婚約の見直しをさせていただきます。

あお

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 時間がないというのは本当だ。
 婚約破棄をした私の元には、沢山の釣書が舞い込んでいた。
 私は婿を取る立場なので、相手は格下の三男四男が多い。
 同格以上がいないのは、私に婚約破棄という瑕疵があるからだろう。
 相手の有責とはいえ、貴族社会はその手の事にうるさい。

 だから余計に。

 俺にしとけば?

 という気持ちにアルファードをさせてしまうのだろう。

 もし格上からの縁談が飛び込んで来た時、私は政略結婚だからとその話を受け入れるんだろうか。







「リリア様。仮面舞踏会をご存知ですか?」

「仮面をつけて参加するパーティね」

「そうですが、それだけじゃないんです」

 セシルと婚約破棄した後に、付き合うようになった同級生は、基本スパイだと思っている。

 ベイリー侯爵家を相手に優位に立ち回ったオーガス伯爵家を探りに来ているのだろう。

「仮面をつけているから、普段の自分から解放されるんです。相手の事も分からないから、変なしがらみもないし。気楽に楽しめるんですよ」

「貴女たちはよく行くの?」

「時々です。時々、息苦しくなったり、気分を変えてみたくなった時に、行ったりします」

「気分転換になりますよ」

 一度行ってみませんか、としつこく誘う少女たちに、その気はないと伝えると、不機嫌な感情が伝わってきた。

 私を連れ出すように、誰かに頼まれているのかな。

 嫌な気分。
 その誰かがいたとして、どんなつもりか分からないけれど、仮面越しになにを始めようというのか。

 学院で同年代の少女たちと話していると、アルファードが恋しくなって仕方なかった。






「伯爵殿はご機嫌斜めだね。アルファードが嫌なら、僕と結婚する?」

 学院に入学する前からの友達に余計な事を言われた。

「そう怒るなよ。僕は伯爵家の四男で、夫になっても君の役には立たないけど、愚痴をきく事は出来るし、落ち込んでいたら一緒にいる事も出来るよ」

 仕事なら出来る人を揃えればいいのだから、伴侶には安らぎを求めてもいいんじゃないかい、と彼はいった。

 そういう考え方もあるかもしれないけれど、私の趣味じゃないな。

 彼には丁重にお断りした。

 発想の逆転をして。

 例えばアルファードが無能だったら、私はどうしただろう。

 愚痴を聞いて、辛い時に側にはいてくれるけど、仕事の役には立たない。
 本当に大変な時には手助け出来なかったら。
 私はアルファードを選ぶだろうか。



 疲れた時に淹れてくれる紅茶。

 女だと侮られて悔しくてたまらない時に、握って離さない、彼の熱い手。

 思い出す他のどんな場面にもアルファードがいて、私は当惑した。


 これはもう、陥落していたんじゃないかな。


 アルファードは気づいてない?



 気づかないふりで、逃してくれるつもりなんだろうか。







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