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共同事業の事も婚約の事も片付いたが、まだ解決でしない事があった。
アルファードの事だ。
あれからアルファードは負担にならない範囲で口説いてくる。
遊びのようで真剣な口説き文句には心を揺らされたし、アルファードは人生のパートナーとしても信頼できる相手だ。
このままアルファードを選んだら、親しい人や親戚もお祝いしてくれるだろう。
けれど。当主として、伯爵として、楽だからという理由で政略の駒を一つ潰していいのか。
それは例えばリリアの代わりに婚約する事になったローレンスに対して不誠実なのではないか。
いま大きな共同事業を抱えているオーガス家が、これ以上の政略結婚を必要とするかというと、微妙なところで。せっかく家内が落ち着いているのに、余計な火種を抱え込む事になったら本末転倒。
またあからさまではないけれど、セシルとの婚約で辛い思いをした当主に、今度こそ幸せになってほしいと思っている家臣たちの心遣いも伝わってくる。
でもそれでいいのかな。
最近は、その事ばかり考えていた。
私一人が停滞していても、世の中は待ってくれない。
共同事業にも無関係でない貴族のパーティに招待され、婚約者不在ということで、叔父様にエスコートをお願いした。
「私でよかったのかな?」
「叔父様より素敵なパートナーはいませんわ」
本音半分リップサービス半分。
叔父様は破顔してご機嫌でエスコートをしてくれた。
「叔父様から見て、私とアルファードって、どんな感じですか?」
「そうだね。お互いの足りないところを補い合って、うまくやっていると思うよ」
叔父様は穏やかな顔で、客観的に評価してくれた。
その事は、私も強く感じている。私は当主としてまだまだ未熟だし、優秀なアルファードの補佐がなければ、大分苦労するだろう。
「アルファードは、私にすごく気を遣ってくれて、彼といると私はすごく楽なんです」
私達の関係を言うなら、それに尽きる。
公私に渡って私をフォローしてくれるアルファードの存在は心強く、私は彼に甘えている。
子どもの頃からそうだから、今更かもしれないけれど、アルファードの将来の事を考えると、それでいいのかと考えてしまう。
なるほど、と相槌をうち、叔父様は少し考える様子を見せた。
「アルファードに負い目があるのかい?」
「そういう訳では。ただ彼の努力で成り立っている関係は違うような気がして」
「それは、君はアルファードのために努力する気がないからかな。それともアルファードにその価値がないからかな」
そういう事ではない。
一言でいうなら、自信がないのだ。
アルファードは本当に私に良くしてくれる。
どうしてここまで、と思う事は一度ではない。
仮に私がアルファードと同じだけのものを返そうとした時、私は私でいられるのか。
不器用な私が、当主とアルファードへの思いを両立させる事が出来るのか。
「私は自分のことで精一杯で、アルファードにしてもらうのが気持ちよくて、それがあたりえになるのが怖いんです」
多分、これが不安の理由。
一生懸命考えたのに、叔父様はくつくつと笑っていた。
「アルファードの目論み通りにハマってるね」
「なんですか、それ」
「あの子の事だから、自分がいないと生きて行けないぐらい溺れさせて、離れられないようにしようとしてると思うよ」
絶句した。
さすがにそこまで酷くはないと思う。
「あまり時間はないけれど。二人のことだ。二人で考えなさい」
私は、当主で、女だ。
後継者を作る、出産をする時、どうしても領政を手放さなければならない場面がある。
アルファードなら安心して託せる。
どうしたらいいんだろう。
叔父様と一緒に挨拶回りをしながら、今日は一緒にいないアルファードの事ばかり考えてしまった。
アルファードの事だ。
あれからアルファードは負担にならない範囲で口説いてくる。
遊びのようで真剣な口説き文句には心を揺らされたし、アルファードは人生のパートナーとしても信頼できる相手だ。
このままアルファードを選んだら、親しい人や親戚もお祝いしてくれるだろう。
けれど。当主として、伯爵として、楽だからという理由で政略の駒を一つ潰していいのか。
それは例えばリリアの代わりに婚約する事になったローレンスに対して不誠実なのではないか。
いま大きな共同事業を抱えているオーガス家が、これ以上の政略結婚を必要とするかというと、微妙なところで。せっかく家内が落ち着いているのに、余計な火種を抱え込む事になったら本末転倒。
またあからさまではないけれど、セシルとの婚約で辛い思いをした当主に、今度こそ幸せになってほしいと思っている家臣たちの心遣いも伝わってくる。
でもそれでいいのかな。
最近は、その事ばかり考えていた。
私一人が停滞していても、世の中は待ってくれない。
共同事業にも無関係でない貴族のパーティに招待され、婚約者不在ということで、叔父様にエスコートをお願いした。
「私でよかったのかな?」
「叔父様より素敵なパートナーはいませんわ」
本音半分リップサービス半分。
叔父様は破顔してご機嫌でエスコートをしてくれた。
「叔父様から見て、私とアルファードって、どんな感じですか?」
「そうだね。お互いの足りないところを補い合って、うまくやっていると思うよ」
叔父様は穏やかな顔で、客観的に評価してくれた。
その事は、私も強く感じている。私は当主としてまだまだ未熟だし、優秀なアルファードの補佐がなければ、大分苦労するだろう。
「アルファードは、私にすごく気を遣ってくれて、彼といると私はすごく楽なんです」
私達の関係を言うなら、それに尽きる。
公私に渡って私をフォローしてくれるアルファードの存在は心強く、私は彼に甘えている。
子どもの頃からそうだから、今更かもしれないけれど、アルファードの将来の事を考えると、それでいいのかと考えてしまう。
なるほど、と相槌をうち、叔父様は少し考える様子を見せた。
「アルファードに負い目があるのかい?」
「そういう訳では。ただ彼の努力で成り立っている関係は違うような気がして」
「それは、君はアルファードのために努力する気がないからかな。それともアルファードにその価値がないからかな」
そういう事ではない。
一言でいうなら、自信がないのだ。
アルファードは本当に私に良くしてくれる。
どうしてここまで、と思う事は一度ではない。
仮に私がアルファードと同じだけのものを返そうとした時、私は私でいられるのか。
不器用な私が、当主とアルファードへの思いを両立させる事が出来るのか。
「私は自分のことで精一杯で、アルファードにしてもらうのが気持ちよくて、それがあたりえになるのが怖いんです」
多分、これが不安の理由。
一生懸命考えたのに、叔父様はくつくつと笑っていた。
「アルファードの目論み通りにハマってるね」
「なんですか、それ」
「あの子の事だから、自分がいないと生きて行けないぐらい溺れさせて、離れられないようにしようとしてると思うよ」
絶句した。
さすがにそこまで酷くはないと思う。
「あまり時間はないけれど。二人のことだ。二人で考えなさい」
私は、当主で、女だ。
後継者を作る、出産をする時、どうしても領政を手放さなければならない場面がある。
アルファードなら安心して託せる。
どうしたらいいんだろう。
叔父様と一緒に挨拶回りをしながら、今日は一緒にいないアルファードの事ばかり考えてしまった。
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