6 / 11
6
しおりを挟む
その頃。ベイリー侯爵家では。
「この馬鹿息子が! あれほどリリア・オーガスを大事にしろと言っただろう」
家に戻らずフラフラと泊まり歩いていたセシルは、家に連れ戻され父親に雷を落とされていた。
「父上は頭が固い。俺が伯爵になった時、リリアよりエリーゼの方が操り易いんです。うちの力があれば、姉妹の継承権を入れ替えるぐらい簡単でしょう」
ベイリー侯爵は頭を抱えた。
「馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、救いようのない馬鹿だな」
父親の言葉にセシルがムッとする。
「父上のお言葉でも、いまのは見逃せませんよ」
ハッと侯爵は鼻で笑った。
「馬鹿のくせに安いプライドだけは一人前か。お前をリリア・オーガスの婚約者に推薦した私の失敗だな」
「父上!」
執務室にあるソファに座っていたセシルは、いきりたって立ち上がった。
そんな息子に侯爵は軽蔑した目を向ける。
「馬鹿なお前に分かるように言ってやろう。エリーゼ嬢は、オーガス家の人間ではない。
リリア・オーガスの父親が、再婚した相手の連れ子だ」
だからなんだというのだ。貴族社会ではよくある事じゃないか。セシルの憤りは収まらなかった。
「連れ子なら、養子にして籍に入れればいいだけの話ではありませんか」
ベイリー侯爵は深くため息をついた。
「リリア・オーガスの父、マックスは入婿だ。再婚した時点で、オーガス家から外されている。連れ子のエリーゼを籍にいれたとしても、オーガス家とは無関係。
お前は、オーガス家となんの関係もない女と不貞を犯し、オーガス女伯爵の婿の座を棒に振ったんだよ」
皮肉たっぷりに言い放たれた侯爵の言葉は、さすがに愚かなセシルの頭にも刺さった。
「女伯爵?」
「そうだ。リリア・オーガスが、オーガス伯爵家当主であり、伯爵本人だ」
「そんな、ばかな。女に爵位なんか」
「この国では、女系の爵位は認められている。前伯爵もリリア嬢の母親だった。マックスがオーガス伯爵だった事はないし、あいつもそう名乗りはしなかったはずだ」
心当たりがあるのか、セシルの勢いが止まった。
苦し紛れの言い訳をする。
「ですが、リリアの妹と聞けば勘違いしてもおかしくはありません」
そんなものを侯爵が取り合う訳がない。
「お前には、リリア・オーガスを大切にするように言ったな」
「はい」
執務机の上で肘をつき、両手を組み合わせた父に威圧され、セシルの背筋が伸びる。
「当主を馬鹿にされたと、オーガス家はお冠だ。我が家はオーガス家との共同事業を進めるため、オーガス家とは友好な関係を築かなければならない」
そんな事は分かっている。だからオーガス家の後継者を手中におさめて手懐けようとしたのだ。
家のために!
「俺は、」
言い訳を続けようとした息子を、侯爵は見限った。
ここまで説明して納得出来ないなら、無駄でしかない。
「セシル。お前をベイリー家から追放する。貴族籍も剥奪するので、貴族に残りたかったら、死ぬ気で騎士になる事だな」
「そんな、俺は、」
父に見限られようとしている。セシルは焦って言い訳を繰り返そうとしたが、父の次の言葉で時間が止まった。
「セシル。私に子殺しの苦しさを味合わせないでくれ」
侯爵は優しい顔をした。
それがとてつもなく恐ろしい。
セシルはパクパクと口を開閉し、青ざめて後ずさった。
その後ろにはいつの間にか侯爵家の私兵が二人おり、セシルの両腕を拘束する。
「これ以上共同事業を邪魔されては困る。お前は、隣国に行け」
「そんな。待ってください! 父上!! リリアとの婚約破棄を撤回します! 役に立ちます!!」
「もう遅い。お前の代わりは別の者が行う。その顔を我が領で見せたらただではおかない。今度こそ、よく覚えておけ」
もはや侯爵は息子を一顧だにしない。
絶望を張り付けて、セシルは私兵に引きずられて行った。
オーガス家を手に入れ、ゆくゆくはベイリー家も支配する。
上手く行くはずだった。
それが、どうしてこんな事に。
「くそ、くそ、くそ!」
セシルは壁に手を何度も叩きつける。
「リリアの奴。俺をハメやがって」
オーガス家を手に入れ損ねたのも、ベイリー家から追放されたのも、すべてあの女のせいだ。
許さない。
絶対に許さない!
「この馬鹿息子が! あれほどリリア・オーガスを大事にしろと言っただろう」
家に戻らずフラフラと泊まり歩いていたセシルは、家に連れ戻され父親に雷を落とされていた。
「父上は頭が固い。俺が伯爵になった時、リリアよりエリーゼの方が操り易いんです。うちの力があれば、姉妹の継承権を入れ替えるぐらい簡単でしょう」
ベイリー侯爵は頭を抱えた。
「馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、救いようのない馬鹿だな」
父親の言葉にセシルがムッとする。
「父上のお言葉でも、いまのは見逃せませんよ」
ハッと侯爵は鼻で笑った。
「馬鹿のくせに安いプライドだけは一人前か。お前をリリア・オーガスの婚約者に推薦した私の失敗だな」
「父上!」
執務室にあるソファに座っていたセシルは、いきりたって立ち上がった。
そんな息子に侯爵は軽蔑した目を向ける。
「馬鹿なお前に分かるように言ってやろう。エリーゼ嬢は、オーガス家の人間ではない。
リリア・オーガスの父親が、再婚した相手の連れ子だ」
だからなんだというのだ。貴族社会ではよくある事じゃないか。セシルの憤りは収まらなかった。
「連れ子なら、養子にして籍に入れればいいだけの話ではありませんか」
ベイリー侯爵は深くため息をついた。
「リリア・オーガスの父、マックスは入婿だ。再婚した時点で、オーガス家から外されている。連れ子のエリーゼを籍にいれたとしても、オーガス家とは無関係。
お前は、オーガス家となんの関係もない女と不貞を犯し、オーガス女伯爵の婿の座を棒に振ったんだよ」
皮肉たっぷりに言い放たれた侯爵の言葉は、さすがに愚かなセシルの頭にも刺さった。
「女伯爵?」
「そうだ。リリア・オーガスが、オーガス伯爵家当主であり、伯爵本人だ」
「そんな、ばかな。女に爵位なんか」
「この国では、女系の爵位は認められている。前伯爵もリリア嬢の母親だった。マックスがオーガス伯爵だった事はないし、あいつもそう名乗りはしなかったはずだ」
心当たりがあるのか、セシルの勢いが止まった。
苦し紛れの言い訳をする。
「ですが、リリアの妹と聞けば勘違いしてもおかしくはありません」
そんなものを侯爵が取り合う訳がない。
「お前には、リリア・オーガスを大切にするように言ったな」
「はい」
執務机の上で肘をつき、両手を組み合わせた父に威圧され、セシルの背筋が伸びる。
「当主を馬鹿にされたと、オーガス家はお冠だ。我が家はオーガス家との共同事業を進めるため、オーガス家とは友好な関係を築かなければならない」
そんな事は分かっている。だからオーガス家の後継者を手中におさめて手懐けようとしたのだ。
家のために!
「俺は、」
言い訳を続けようとした息子を、侯爵は見限った。
ここまで説明して納得出来ないなら、無駄でしかない。
「セシル。お前をベイリー家から追放する。貴族籍も剥奪するので、貴族に残りたかったら、死ぬ気で騎士になる事だな」
「そんな、俺は、」
父に見限られようとしている。セシルは焦って言い訳を繰り返そうとしたが、父の次の言葉で時間が止まった。
「セシル。私に子殺しの苦しさを味合わせないでくれ」
侯爵は優しい顔をした。
それがとてつもなく恐ろしい。
セシルはパクパクと口を開閉し、青ざめて後ずさった。
その後ろにはいつの間にか侯爵家の私兵が二人おり、セシルの両腕を拘束する。
「これ以上共同事業を邪魔されては困る。お前は、隣国に行け」
「そんな。待ってください! 父上!! リリアとの婚約破棄を撤回します! 役に立ちます!!」
「もう遅い。お前の代わりは別の者が行う。その顔を我が領で見せたらただではおかない。今度こそ、よく覚えておけ」
もはや侯爵は息子を一顧だにしない。
絶望を張り付けて、セシルは私兵に引きずられて行った。
オーガス家を手に入れ、ゆくゆくはベイリー家も支配する。
上手く行くはずだった。
それが、どうしてこんな事に。
「くそ、くそ、くそ!」
セシルは壁に手を何度も叩きつける。
「リリアの奴。俺をハメやがって」
オーガス家を手に入れ損ねたのも、ベイリー家から追放されたのも、すべてあの女のせいだ。
許さない。
絶対に許さない!
470
あなたにおすすめの小説
〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····
藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」
……これは一体、どういう事でしょう?
いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。
ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全6話で完結になります。
私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?
狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」
「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」
「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」
「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」
「だから、お前の夫が俺だって──」
少しずつ日差しが強くなっている頃。
昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。
……誰コイツ。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?
よどら文鳥
恋愛
デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。
予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。
「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」
「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」
シェリルは何も事情を聞かされていなかった。
「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」
どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。
「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」
「はーい」
同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。
シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。
だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。
〖完結〗残念ですが、お義姉様はこの侯爵家を継ぐことは出来ません。
藍川みいな
恋愛
五年間婚約していたジョゼフ様に、学園の中庭に呼び出され婚約破棄を告げられた。その隣でなぜか私に怯える義姉のバーバラの姿があった。
バーバラは私にいじめられたと嘘をつき、婚約者を奪った。
五年も婚約していたのに、私ではなく、バーバラの嘘を信じた婚約者。学園の生徒達も彼女の嘘を信じ、親友だと思っていた人にまで裏切られた。
バーバラの目的は、ワイヤット侯爵家を継ぐことのようだ。
だが、彼女には絶対に継ぐことは出来ない。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
感想の返信が出来ず、申し訳ありません。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる