妹がいるからお前は用済みだ、と婚約破棄されたので、婚約の見直しをさせていただきます。

あお

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 オーガス家と、セシルのベイリー家は、長い調査と交渉を経て、半年前、領地の境にある銀鉱山を共同で開発に乗り出す事になった。
 かなりの埋蔵量が見込まれる大事業になると予想され、国にも期待された共同事業のため、契約だけでなく婚姻でも両家の絆を深めようという事になった。

 オーガス家には私しか子どもがいなかったため、ベイリー家は次男で歳の近いセシルを選び、婚約が成立した。

 ベイリー家から、婚約の相手はセシルでどうか、と打診があった時、オーガス家家中では反対の声もあった。

 優秀だと評判のほかの兄弟に比べ、セシルの評判があまりよくなかった為だ。

 反対の筆頭は従兄のアルファード。セシルと同年代の後輩から話を聞き、私の婚約者として相応しくないと強弁した。
 しかし長男には婚約者がおり、三男は3つ年下だったため、婚約期間中に必要な勉強をしてもらうという事で、話がついた。

 アルファードはかなり強く反対したけれど、ベイリー家がセシルを強く押したため、これからの事も考えてベイリー家の顔を立てることになった。

 アルファードには申し訳ない事をしたと思う。彼の言う通り、セシルはオーガス家に相応しい相手ではない事が、今回の婚約破棄ではっきりしたし。

 彼は、お母様が体調を崩して寝込むようになった頃からずっと我が家に居座っている。
 いまではオーガス家内でも、叔父様やお祖父様に次ぐ発言権をもっているし、仕事の補佐もしてくれる大切な存在。
 だけど、少し口煩いのよね。

 きっと婚約破棄の事を言ったら、荒ぶるわ。

 セシルも、お気楽に婚約破棄とか、よく言ってくれる。
 替えはいるけど、交渉がすごくめんどくさいの。
 今回はセシルの不貞を原因として、押し切らせてもらおう。

 それにしても。

 エリーゼを片腕に抱いてソファにふんぞり返っていたセシルを思い出す。

 あれはないわ。

 セシルとの婚約がなくなって、本当に良かった。






「お帰りなさいませ。リリア様」

「ただいま。バウアー」

 玄関ホールで家令のバウアーが待っていた。
 いつも執務室で待てばいいと言っているのだけれど、リリア様の出迎えは他のものに任せられない、って押し切られてしまうので諦めている。
 バウアーは代々我が家に仕えてくれる家の人間で、母の片腕だった。いまは、私に仕えてくれている。

「家中の皆んなを集めてくれる」

 滅多にない命令にバウアーは目を瞬かせ、かしこまりました、と頷いた。
 バウアーの指示で従僕が叔父様を呼びに出て行く。
 彼はそのまま執務室に向かう私についてきた。






「お帰り、リリア」

 二階にある執務室では従兄弟のアルファードが待っていた。

 彼は私が学院に通う間、代わりに執務をしてくれているので、戻るとすぐに顔を出す事にしている。

 アルファードはすらりとした長身で、プラチナブロンドの髪を優雅に流している。少女が夢見る理想的な貴公子のように端正な顔立ちで、サファイアのように青みが強く透き通った瞳をしているが、目つきがキツく皮肉屋なため、遠巻きにされる事が多い。

 本人はそれを利用して女性を遠ざけているみたいだけど、私を見る目はいつも楽しそうで、皮肉屋だけど、優秀で頼りになる従兄。

「ただいまアルファード。ベイリー家との婚約内容を見直す事になったわ」

 執務室に入り、書類を捌いていたアルファードをソファに呼ぶ。
 立ったままする話でもないし。対面に座ると、すぐにメイドが紅茶を淹れた。

「あの馬鹿がなにかしでかしたか」

「私と婚約破棄をしてエリーゼと婚約したいみたい」

「おいおい、正気かよ」

「エリーゼを私の『妹』だと思っているみたいよ。オーガス家の『娘』を隠していた、みたいに怒られたわ」

 紅茶を飲みながら淡々と語ると、アルファードが大笑いした。

「めんどくさいが、こちらとしては願ってもないな。あいつをお前の婚約者にしたのは失敗だった。ごめんな」

 ごめん、と優しい声で言うアルファード。
 貴方は反対したのに、条件がいいからと押し進めたのは私なのに。
 困ってしまうわ。

「言い出したのは私よ。アルファードは反対したじゃない」
 
「もっと証拠を積み上げて反対すべきだったと思うよ。あいつの性根を知ってたら、婚約しようなんて思わなかっただろう」

 アルファードは、本当に後悔しているのね。悔しさが声に滲み出ている。

 今回の場合、私がベイリー家の誰かと婚約するのが分かりやすかった。ベイリー家から推薦されたのが、セシル。

 彼も、アルファードに負けず劣らず端正で見応えのある外見をしていた。私が普通の箱入り令嬢だったら、一目惚れしてもおかしくないぐらい。
 私が婚姻相手に望むのは、能力。能力があれば、多少性格が悪くても目をつぶるつもりだったけれど、彼は見事に外側だけだったわね。

 ベイリー家は、私にはあの程度の男でいいと思っていたのかしら。もしそうなら、舐められたものだけど。

「私が甘かったの。頼りなくてごめんなさい」

 馬鹿をいうな、とアルファードは労ってくれた。彼はいつも、私を支えてくれる。

「叔父様も交えて相談するわ。急ぎの案件はある?」

「いいや。ベイリー家以上の案件はないね」

 ちょっと皮肉屋だけど。

 纏められた書類をみたけど、他の案件は順調みたい。
 今日中に、ベイリー家への対応をまとめて、共同事業に影響が出ないようにしないと。

「着替えてくるわ」

 ソファから立ち上がるとアルファードもついてきて、後ろから腕を回そうとした。その手をぺしりと叩く。

「水色のドレスにしろよ」

 叩かれた手にキスをしながら流し目をよこすアルファードを尻目に、私は執務室を後にした。

「気が向いたらね」

 アルファードは、時々ああして私を揶揄うから、素直になれないのよね。

 でも今日はめんどうな案件を片付けるため、優秀な従兄の知恵を借りないといけないから、彼の希望に応えようかな。

 つい軽くなってしまう足取りを、淑女らしく抑えて、お気に入りの水色のドレスに合うアクセサリーを考えながら、自室に戻った。



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