お前は名前だけの婚約者だ、と言われたけれど、おかげで幸せになりました。

あお

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 離宮とはいえ部屋は整い、侯爵家の人間を控えさせている。

 翌日から始まった王妃教育の後のお茶の時間では、王妃に王子のお気に入りの侍女の話を聞く事にした。

 ただの戯れ、時間が経てば落ち着くはずだから様子を見てほしいと言われ、様子を見る事にしたけれど。

 会う度に二人で戯れる様子を見せつけられる事になった。

 お気に入りの侍女は王子の専属らしく、どこに行っても二人は一緒だ。

 そんなに好きなら、私と婚約しないで、その娘を妃にすればいい、と言ったのだが。

「身分が低いからと、婚約者には出来なかった。仕方ないからお前を婚約者にしてやったんだ。名前だけの婚約者なんだから、俺たちの邪魔をするなよ」

 お気に入りの侍女は生意気な目で私を見下して、見せつけるように王子とねっとりとした口づけを交わした。

 なんの嫌がらせよ。どうでもいい男女の絡み合いを見せられても萎えるだけだわ。

 先に退室すると怒られるので、仕方なくお茶を飲んでいた。

 部屋に控える近衛に労わるような視線を向けられる。

 お兄様の部下だから、知り合いなのよね。

 知り合いにこんなところを見られるのって、辛いわ。




 王妃教育は順調に進み、なぜか王子の執務の手伝いが入るようになった。

 侍女と睦み合うのに忙しいので、代わりにやっておけとの事。

 重要度順に仕分けて書類に目を通していく。なかなか面白い事が分かった。

 殿下はまだ、軽い執務しか任されていないようだ。

 なのに南の交易都市と王都を結ぶ大橋建造の書類が紛れ込んでいる。

 王家の威信をかけた大橋の建造に、成人しても王太子に選ばれない第一王子がどう関わっているのかしら。

 面白いわね。

 執務の補佐をする文官達とも話し合いながら書類を片付けていく。

 文官達の愚痴を聞いていると、王子の執務能力のなさがよく分かった。

 王子の後見についても国のためにはならない、という報告を侯爵家に上げ、王子が執務をさぼって女と戯れている事は王妃に報告した。

 王子を教育するから、様子を見てほしいと言われた。

 これ以上、見る必要があるかしら。

 私が執務を代行しているのを見て、重要度が高い書類が舞い込み始めたので、文官に釘を刺した。王子妃ならともかく婚約者に過ぎない女に、これ以上の書類を任せないように、と。

 当たり前の事なのに、助けてくださいと縋られて、却下した。
 王宮の文官なら、仕事に誇りを持ちなさい、と一喝すると、肩を落として謝られた。





 王子とのお茶会で、お気に入りの侍女が側妃候補になったと知らされた。

「俺の子を産むのはイリアだ。お前にかける情けはないからな」

「アシュリー様ったら」

 嬉しそうに侍女は殿下に抱きついた。腰をいやらしい手つきで撫でながら、殿下が侍女の首筋に口づけを落としていく。

 愛の劇場が始まってしまったので、白けて紅茶を飲んだ。

 王妃のいう教育ってなんだったのかしら。まさかお気に入りの侍女を側妃にすれば、王子が落ち着くとでも思ったのかしらね。

 もう様子を見る段階は過ぎた。

 侯爵家からも、婚約解消を申し出ているが、両陛下が頷かないらしい。

 表がダメなら、裏から手を回すしかないわね。

 どこから潰そうかしら。








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