お前は名前だけの婚約者だ、と言われたけれど、おかげで幸せになりました。

あお

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「お前は名前だけの婚約者だ。愛する人はイリアだけ。俺たちの邪魔をするな」

 二人だけのはずのお茶会の席でそう言うと、殿下はそばに控えていた侍女と見せつけるように口づけを交わした。

 ように、ではないわね。見せつけているのね。

 呆れてものも言えない。子どもみたい。



 私が婚約者に選ばれたのは王妃様の意向。
 一月続いた選考会で王妃様を筆頭に陛下や宮廷の重鎮、諸侯に認められた婚約者だ。

 とても名誉な事だけれど、辞退しても結婚には困らない。最後まで残った他の婚約者候補もあの選考会をくぐり抜けた令嬢であればと、大人気だから。

 今回、第一王子の婚約者として顔合わせのお茶会が開かれたけれど、父からは後見するのに値する王子かしっかり見極めてくるように言われている。

 いまのところこの王子は見るべきところがないけれど、政務での能力はあるのかしら。

 王子が恋人と二人の世界に入り部屋に戻ってしまったのでお茶会は終了。

 私は王妃教育を受けるため、王宮に入ったはずだが、なぜか離宮に案内された。

 まあ嫌がらせだろう。

 驚いた事に、侍女さえつけられなかった。

 これは、王妃教育の一環なのか、王子からの嫌がらせなのか。

 仕方ないので、その辺にいたメイドを捕まえてメイド長のところに案内させた。

 メイド長は20年以上王宮に勤めるベテランだが出身は男爵家。同じく男爵家の三男である王宮の官吏と結婚している。

「ねえ、貴女。正直に答えなさい。なぜ私は侍女もつけられず離宮に案内されたのかしら」

「申し訳ありません。侍女長の管轄ですので、私には分かりかねます」

「もう一度聞くわ。お嬢さんが社交界で無事に過ごせるかは、貴女にかかっていてよ? まさか侯爵の令嬢を侮辱して、お嬢さんが社交界で無事にいられるとは思わないでね」

 私がにこりと笑うとメイド長はブルブルと震えた。

 王宮のメイド長と言っても夫の身分は準男爵。王宮に勤める彼ら自身は守られるとしても、社交界は家格がなによりも大事な場所。侯爵令嬢を怒らせた準男爵の令嬢が無事でいられる訳がない。

「なぜ私は侍女もつけられず離宮に案内されたのかしら?」

 メイド長は真っ赤になりながら目をうろうろさせていたが、重い口を開いた。

「侍女長からの申し送りでは、尊き方からのご命令との事です」

「初めから離宮を予定していたの? それとも私が選ばれてから変更されたのかしら」

「シェリアーナ様が選ばれてからの事です」

「そう。その尊きお方は侯爵家を侮辱したかったのね」

 メイド長は足元を見たきり顔を見せない。震えが止まらないようだ。

「では侍女長のところに案内しなさい」

 扇をメイド長の肩に置く。

「娘さんの未来は、貴女にかかっていてよ」




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