婚約者のいる人を好きになってしまいました。取り返しのつかない誤ちを犯しました。

あお

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前編

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 私は罪深い女です。

 婚約者のいる人を好きになってしまいました。

 ラウール・デュポン様。

 伯爵家の三男です。

 端正で落ち着いた声をもつ、とても素敵な方です。

 婚約者はマリア。平民の女でした。

 王国の法で貴族と平民は結婚出来ません。

 ですが、ラウール様は、伯爵家のご子息とはいえ三男。

 将来、騎士になるか王宮の文官になって一代爵位をえなければ、身分は平民となります。

 ラウール様は、騎士として類まれなる才能をお持ちでしたが、騎士の道は選びませんでした。

 彼は平民として、マリアと穏やかで平凡な日々を過ごすことを選んだのです。

 ですがラウール様を慕う貴族の令嬢は多く、マリアはいじめられていました。

 彼女たちがいう言葉は決まっていて、

「私なら、ラウール様に貴族の栄誉を与えられる。平民の貴女になにができるの」

 でした。

 高位貴族の令嬢として産まれた彼女たちは、確かにラウール様に貴族の栄誉を与えられたでしょう。

 でもラウール様はそんなものは欲していなかった。







 そう、私は思っていました。








「マリア、俺はクララと婚約する」

「クララ? 錬金術師の子ね」

「錬金術師は『金の卵を産むがちょう』だってお前が教えてくれただろう」

「わかった! クララと結婚して、クララに稼がせて楽に生きるのね」

「そうだ。お前も一緒だ」

「最高よ! ラウール!!」










 ラウール様は、下種な男でした。






 それから間もなく、ラウール様は、クララ様と婚約しました。


 クララ様は貴族ではありませんが、フォーサイスという特別な一族の大切な姫君でした。

 学院に来たばかりのクララ様には知り合いがいなくて、気が付いたらクララ様はラウール様とマリアを親友にしていました。

 それからは球を転がすように早かった。

 端正で華のあるラウール様が、親友という立場を最大限に利用してクララ様にいいよると、クララ様はあっけなくラウール様の婚約者になってしまいました。



 ラウール様はマリアと婚約していたばずなのに、いつの間にかそれは白紙になっていました。



 ラウール様とマリアに囲まれたクララ様は、他の世界を知らず、評判がいいとは言えないマリアをかばうことで、どんどん他の生徒から距離を置かれていきました。




 私はラウール様をお慕いしていたはずなのに、危なっかしいクララ様のことが気になってしかたなく、ついにはクララ様に話しかけてしまいました。




「あなたみたいな平民、ラウールには似合わないわ。ラウールには私のように華のある女が似合うのよ! いい? 婚約破棄しなさい!!」




 なんということでしょう。


 いくら初めてお話する方が相手で緊張してしまったとはいえ、私はなんていう事を言ってしまったのでしょう。


 私は、こう見えても公爵家の娘です。母は元王女なので、低いながらも継承権もあります。

 父は私が望めば、所有している爵位の中から相応しいものを与えてくれるでしょう。

 でもそれは全部親の力です。

 そんなものでラウール様を繋ぎとめようとしたところで、本当の愛は得られない。

 そう思い、私はラウール様を影から見つめるだけでとどめていました。

 でも言った言葉はもう戻らない。

 私は最低のことをクララ様に言ってしまったのです。

 クララ様は、知らない上級生に初めて話しかけれれてびっくりしたのでしょう。

 目をパチパチさせてから、口をきゅっと噤んでしっかりと私を見返しました。

「ラウールが先輩を選ぶなら、私は身を引きます」





 なんて高潔な方。





 クララ様のような方が、ラウール様やマリアのように下種な人間に踏みしだかれるなんて。

 私の小さな正義感が許せませんでした。




「ラウールが私を選んだら、マリアとも離れなさい。貴女のような平民がこの学院で大きな顔をするなんて、許せないわ」




「マリアは、先輩と関係ないと思います」



「私はマリアの事も好きなのよ。いいから、離れなさい!」



「せ、先輩はそっちの人だったんですか」



「うるさいわね! いいから離れなさい!!」



 支離滅裂な事を叫んでしまいました。

 クララ様は、しばらく目を左右に揺らしていましたが、こくんと頷きました。

「わかりました。マリアが先輩を選ぶなら、私は身を引きます」



 こうなっては後には引けません。



「その言葉、覚えてらっしゃい」



 ふん、と鼻を鳴らして立ち去った後、私は影からこっそりクララ様を監視しました。




 クララ様はクラスに戻った後、いつものようにラウール様とマリアに話しかけられていましたが、家の用事があるからと言って先に帰りました。

 ラウール様とマリアは首を傾げていましたが、それなら今日は二人でゆっくりしようといって、街に消えていきました。

 私は家に帰り、お父様にお願いしました。





「お父様。お願いします。私の大切な方のために、デュポン家のラウール様と婚約させてください」







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