上 下
2 / 8

2

しおりを挟む
「ごめんなさい。二人とも」

 食堂から校庭の隅のベンチに場所を移し、私はミリアとエマに謝った。

 あんな騒ぎのあった後では、人の多いところにはとてもいけない。

「貴女のせいじゃないわ」

「そうよ。ダンの馬鹿野郎が全面的に悪いんだから」

 エマは右手に拳を作ってベンチを叩いた。

「ダンの相手って、例の女でしょ。男子生徒を片端から誘惑して、婚約を壊しまくっているって噂の転校生。放っておくと大変なことになるわよ」

「そうね、エミリー。今日はもう返った方がいいわ。早めに手を切らないと、ダイアナ様のように名誉を汚されてしまうわ」




 ダイアナ様というのは、侯爵令嬢のダイアナ・スペンサーの事。

 彼女は婚約者をユリア・ロバーツ男爵令嬢に誘惑され、彼女を嗜めようとして罠にかけられ学園から追放されてしまった。

 怒ったスペンサー公爵が、ダイアナ様の元婚約者の家を潰したので、元婚約者も学園を退学したが。それでダイアナ様の名誉が回復する訳ではない。

 よく考えれば、ダンはさっき公衆の面前で私を貶める事で、私を学園から追放しようとしていたのかもしれない。

 背筋が寒くなり、私は身体を抱きしめた。

「そうね。そうするわ」

 そのまま私は教室には返らず、馬車を呼んで帰宅する事にした。鞄はエマが取って来てくれた。








「お父様。申し訳ありません」

 帰宅した私は、執事に言ってすぐに父と面会した。

 仕事中なのに父の執務室にお邪魔するのは申し訳なかったが、事が事だ。手遅れになってはいけない。

「どうしたんだ、エミリー」

 お昼に帰宅した私に、父は訝し気な視線を向けた。

「婚約者のダンに、学園の食堂で婚約破棄を宣言されました。ユリア・ロバーツが関わっていると思われます」

 父は一瞬呆気にとられ。

「あの女か!」

 顔を怒りに染めた。

 ユリア・ロバーツが婚約破棄させた婚約を数えるには、両手の指では事足りない。

 学園に子どもを通わせている貴族の間ではもう噂になっていて、とくにダイアナ・スペンサー侯爵令嬢の件は決定的だった。

 それぞれの家で考え方は違っても、女児は家を繁栄させるための大事な駒だ。それをいたずらに壊されてはたまらない。

 たかが男爵令嬢だが、彼女を使って高貴な方の婚約を壊したい有力者がいるらしく、婚約を壊された家は泣き寝入りしている。

 我が家も、泣き寝入りしたくなければ、こちらから婚約を破棄しなければ、面目が保てない。

「すぐにピュール家とは婚約破棄しよう。婚約破棄が成立するまで、お前は学園を休みなさい」

「はい」

 顔を合わせればどんな難癖をつけられるか分からない。

 弱腰に見えるかもしれないが、ユリアを家の力で潰せない以上、付け入る隙を与えないことが大事だった。




 それにしても。これほどの貴族家を敵に回してユリアは一体何をしたいのか。

 もし彼女が望み通り、公爵令嬢を蹴落として王子の妻となっても、これほど貴族家に嫌われていれば、社交界で生きていけないだろうに。

 父と分かれて自室で寛いでいたが、考えても仕方のない事は考えない。

 ダンとユリアの事は、もう忘れることにした。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

穏便に婚約解消する予定がざまぁすることになりました

よーこ
恋愛
ずっと好きだった婚約者が、他の人に恋していることに気付いたから、悲しくて辛いけれども婚約解消をすることを決意し、その提案を婚約者に伝えた。 そうしたら、婚約解消するつもりはないって言うんです。 わたくしとは政略結婚をして、恋する人は愛人にして囲うとか、悪びれることなく言うんです。 ちょっと酷くありません? 当然、ざまぁすることになりますわね!

【完結】理不尽な婚約破棄に母親が激怒しました

紫崎 藍華
恋愛
突如告げられた婚約破棄。 クリスタはバートラムに完全に愛想を尽かした。 だが彼女の母親が怒り、慰謝料請求をしろと言い出したのだ。 クリスタは仕方なく慰謝料請求をした。 それが泥沼の始まりだった。

「庶子」と私を馬鹿にする姉の婚約者はザマァされました~「え?!」

ミカン♬
恋愛
コレットは庶子である。12歳の時にやっと母娘で父の伯爵家に迎え入れられた。 姉のロザリンは戸惑いながらもコレットを受け入れて幸せになれると思えたのだが、姉の婚約者セオドアはコレットを「庶子」とバカにしてうざい。 ロザリンとセオドア18歳、コレット16歳の時に大事件が起こる。ロザリンが婚約破棄をセオドアに突き付けたのだ。対して姉を溺愛するセオドアは簡単に受け入れなかった。 姉妹の運命は?庶子のコレットはどうなる? 姉の婚約者はオレ様のキモくて嫌なヤツです。不快に思われたらブラウザーバックをお願いします。 世界観はフワッとしたありふれたお話ですが、ヒマつぶしに読んでいただけると嬉しいです。 他サイトにも掲載。 完結後に手直しした部分があります。内容に変化はありません。

【完結】あなた方は信用できません

玲羅
恋愛
第一王子から婚約破棄されてしまったラスナンド侯爵家の長女、ファシスディーテ。第一王子に寄り添うはジプソフィル子爵家のトレニア。 第一王子はひどい言いがかりをつけ、ファシスディーテをなじり、断罪する。そこに救いの手がさしのべられて……?

きっと彼女は側妃にならない。

豆狸
恋愛
答えは出ない。出てもどうしようもない。 ただひとつわかっているのは、きっと彼女は側妃にならない。 そしてパブロ以外のだれかと幸せになるのだ。

聖夜は愛人と過ごしたい?それなら、こちらにも考えがあります

法華
恋愛
貴族の令嬢であるメイシアは、親同士の政略によってランディと婚約していた。年明けには結婚が迫っているというのに、ランディは準備もせず愛人と過ごしてばかり。そんな中迎えたクリスマス、ランディはメイシアが懸命に用意した互いの親族を招いてのパーティーをすっぽかし、愛人と過ごすと言い出して......。 そんなに協力する気がないなら、こちらにも考えがあります。最高のプレゼントをご用意しましょう。 ※四話完結

婚約破棄のお返しはお礼の手紙で

ルー
恋愛
十五歳の時から婚約していた婚約者の隣国の王子パトリクスに謂れのない罪で突然婚約破棄されてしまったレイナ(侯爵令嬢)は後日国に戻った後パトリクスにあててえ手紙を書く。 その手紙を読んだ王子は酷く後悔することになる。

愛していたのは昨日まで

豆狸
恋愛
婚約破棄された侯爵令嬢は聖術師に頼んで魅了の可能性を確認したのだが── 「彼らは魅了されていませんでした」 「嘘でしょう?」 「本当です。魅了されていたのは……」 「嘘でしょう?」 なろう様でも公開中です。

処理中です...