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「まて。まだ話は終わっていない」
アマーリエは華麗に立ち去ろうとしたのだが、なぜか第一王子に呼び止められた。
話というのはなにか。アマーリエはまったく興味がなかったが、無視して立ち去ることもできないのが面倒なところだ。
「貴様は、このユリアナに嫌がらせをしていたそうだな。嫉妬にかられ立場の弱いものを虐げる女を王族に迎え入れるなどありえないことだ」
嫉妬もなにも、この第一王子の身を守るために結ばれた、公爵家にはなんの利もない政略にもならない仮初の婚約だ。
殿下が腕にぶら下げている女生徒に嫉妬? ないない、ありえない。
殿下が王立学園で浮気をしていることは噂で聞いていたが、仮初の婚約が白紙となれば関係なくなる人だ。まったく興味がなかったので相手の女を見たこともない。
とはいえそう率直に言うわけにもいかないので、アマーリエは曖昧な笑みを浮かべた。
「怖い。アマーリエ様に睨まれたわ」
アマーリエの相手は王族である第一王子殿下。第一王子殿下の腕にぶら下がっている浮気相手には興味もなかったから一切視線をやらなかったのだが、なぜか睨んだことにされた。
この女生徒、頭は大丈夫かしら。
「まだユリアナを虐げるか! 貴様には王族の婚約者どころか貴族でいる事さえ許しがたい。この国の第一王子イソベルの名のもとに、アマーリエ・メルルーナの貴族籍の剥奪、および国外追放を申し渡す!」
興奮した様子の第一王子殿下に睨まれた。
ほんと、この人大丈夫だろうか。
陛下に仕える貴族およびその庇護下にある令嬢を、一方的にどうこう出来るほどこの国は独裁を強いてはいない。
仮にアマーリエが貴族籍を剥奪されるほどの事をしていたとしても、その罪は議会にかけられ国王陛下の裁可の元で執行されるものだ。
単なる第一王子にそんな権限はない。
ましてや高位貴族に国外追放を言い渡すなど、国王陛下でなければありえないこと。
繰り返すが単なる第一王子にそんな権限はない。
「まずはユリアナにこれまでの仕打ちを謝り、大人しく縛につけ!
衛兵! この女を捕らえろ!!」
なんとまあ。第一王子殿下は命が要らないらしい。
横暴な王族から幼い子供を守れるほどの力をもつ公爵家に、真正面から喧嘩を売るというのだから。
会場の警備をしている衛兵は困惑した様子で動かなかったが、第一王子殿下の護衛である近衛兵がアマーリエを取り囲もうとした。
最悪。武力行使に及ばれてしまえば、穏便にすます事は出来ない。公爵家と王家の対立待ったなし。最悪内乱にもなりかねない。
第一王子殿下の近衛兵がアマーリエに手をかけようとしたところを、卒業生の三人が滑らかな動作で制圧した。
彼らはメルルーナ公爵家の分家の人間で、アマーリエの護衛のために生徒として入学した者たちだ。
名目上、学園内は安全なので、高位貴族でも学園内では護衛は側で守ることは出来ない。
だが実質はまあ色々あるので、高位貴族は護衛や侍女として分家の人間を入学させることが多い。彼らはそのために幼いころから訓練していた者たちだ。第一王子殿下の横暴に従うような、ゆるーい価値観しか持たない近衛兵など赤子の手をひねるようなものだろう。
「申し訳ございません、殿下。初対面の方をいじめることも、謝ることもできませんわ。嘘はつけませんもの。ですが婚約破棄はしかと承りました。ではわたくしはこれで失礼いたしますわ」
近衛兵の存在はまるっと無視して、アマーリエは優雅に一礼して会場を後にした。
なおも第一王子殿下が喚いていたが、知ったことか。急がないと本格的に内乱になってしまうかもしれない。
もしかしたら第一王子殿下はアマーリエの身柄を捕えてメルルーナ公爵家を牽制しようとしたのかもしれないが、そんなことになればあの父が容赦するとは思えない。まさに内乱待ったなしだ。
アマーリエは護衛に周りをかためられながら公爵家へと帰宅した。
アマーリエは華麗に立ち去ろうとしたのだが、なぜか第一王子に呼び止められた。
話というのはなにか。アマーリエはまったく興味がなかったが、無視して立ち去ることもできないのが面倒なところだ。
「貴様は、このユリアナに嫌がらせをしていたそうだな。嫉妬にかられ立場の弱いものを虐げる女を王族に迎え入れるなどありえないことだ」
嫉妬もなにも、この第一王子の身を守るために結ばれた、公爵家にはなんの利もない政略にもならない仮初の婚約だ。
殿下が腕にぶら下げている女生徒に嫉妬? ないない、ありえない。
殿下が王立学園で浮気をしていることは噂で聞いていたが、仮初の婚約が白紙となれば関係なくなる人だ。まったく興味がなかったので相手の女を見たこともない。
とはいえそう率直に言うわけにもいかないので、アマーリエは曖昧な笑みを浮かべた。
「怖い。アマーリエ様に睨まれたわ」
アマーリエの相手は王族である第一王子殿下。第一王子殿下の腕にぶら下がっている浮気相手には興味もなかったから一切視線をやらなかったのだが、なぜか睨んだことにされた。
この女生徒、頭は大丈夫かしら。
「まだユリアナを虐げるか! 貴様には王族の婚約者どころか貴族でいる事さえ許しがたい。この国の第一王子イソベルの名のもとに、アマーリエ・メルルーナの貴族籍の剥奪、および国外追放を申し渡す!」
興奮した様子の第一王子殿下に睨まれた。
ほんと、この人大丈夫だろうか。
陛下に仕える貴族およびその庇護下にある令嬢を、一方的にどうこう出来るほどこの国は独裁を強いてはいない。
仮にアマーリエが貴族籍を剥奪されるほどの事をしていたとしても、その罪は議会にかけられ国王陛下の裁可の元で執行されるものだ。
単なる第一王子にそんな権限はない。
ましてや高位貴族に国外追放を言い渡すなど、国王陛下でなければありえないこと。
繰り返すが単なる第一王子にそんな権限はない。
「まずはユリアナにこれまでの仕打ちを謝り、大人しく縛につけ!
衛兵! この女を捕らえろ!!」
なんとまあ。第一王子殿下は命が要らないらしい。
横暴な王族から幼い子供を守れるほどの力をもつ公爵家に、真正面から喧嘩を売るというのだから。
会場の警備をしている衛兵は困惑した様子で動かなかったが、第一王子殿下の護衛である近衛兵がアマーリエを取り囲もうとした。
最悪。武力行使に及ばれてしまえば、穏便にすます事は出来ない。公爵家と王家の対立待ったなし。最悪内乱にもなりかねない。
第一王子殿下の近衛兵がアマーリエに手をかけようとしたところを、卒業生の三人が滑らかな動作で制圧した。
彼らはメルルーナ公爵家の分家の人間で、アマーリエの護衛のために生徒として入学した者たちだ。
名目上、学園内は安全なので、高位貴族でも学園内では護衛は側で守ることは出来ない。
だが実質はまあ色々あるので、高位貴族は護衛や侍女として分家の人間を入学させることが多い。彼らはそのために幼いころから訓練していた者たちだ。第一王子殿下の横暴に従うような、ゆるーい価値観しか持たない近衛兵など赤子の手をひねるようなものだろう。
「申し訳ございません、殿下。初対面の方をいじめることも、謝ることもできませんわ。嘘はつけませんもの。ですが婚約破棄はしかと承りました。ではわたくしはこれで失礼いたしますわ」
近衛兵の存在はまるっと無視して、アマーリエは優雅に一礼して会場を後にした。
なおも第一王子殿下が喚いていたが、知ったことか。急がないと本格的に内乱になってしまうかもしれない。
もしかしたら第一王子殿下はアマーリエの身柄を捕えてメルルーナ公爵家を牽制しようとしたのかもしれないが、そんなことになればあの父が容赦するとは思えない。まさに内乱待ったなしだ。
アマーリエは護衛に周りをかためられながら公爵家へと帰宅した。
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