侯爵家の七男です。開拓村の村長を押し付けられました。村人はいません。

あお

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8 民意が高くて心配です

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 一面の畑を農民が汗水垂らして手入れし、首に巻いた布で汗を拭っている。

 彼らの顔には笑顔があり、畑には活気があった。


「おかしくないか」

「なんだ?」

 村長の執務室の窓から畑を眺めていると、村民の民意が分かる。

 村長の執務机の両脇に、コの字になるように同じような執務机が並び、その片方で書類を捌いていた兄さんが顔を上げた。

「鑑定すると、民意百なんですよ! なにもしてないのに!!」

「そりゃ、畑も家もあって農奴じゃないんだ。ろくに家もなかった奴らからすれば、満足だろ」

「そんなはずありません。人は自分で獲得したものは大事にするけど、与えられたものには無頓着です。畑も家も街も整備されてて治安もいい環境をぽんと与えられて、勤労意欲があんなに高いわけないし、民意が高いのもおかしな話です」

「落ち着け。そうだな。まずあいつらは元々侯爵家の領民だ。侯爵家の人間に対する敬意がある。それに、ただで貰ったわけじゃないしな」

「お金とったんですか?」

「馬鹿。選抜したんだよ。孤児や浮民がどれだけいると思ってるんだ? 知力体力時の運、全部試して生き残った奴らを連れてきた」

「選抜方法は?」

「走らせた。他人の妨害する小狡い奴にはマイナス点をつけて、他人を助けた奴にはプラス点をつけた。10日も走らせりゃ、やる気のある奴だけ生き残るさ」

「うわ、脳筋」

「残った連中から、体力がなくても見込みのある奴をリグルが選抜してたから、そっちは第二陣でくるだろ」

 長男と次男でちょうどバランスがとれるのか。

「第二陣?」

「一万人ぐらい来るんじゃねぇか?」

「聞いてないよ!」

「がんばれ、村長」



「リュート。午後の面会の予定だが」

「兄さん! 第二陣ってなんですか?!」

「シグルに聞いたのか? 商会の支店とギルドの人員が整ってから呼ぶ予定だ。いまは働ける状態じゃないからな」

「10日間走らせたって聞きました」

「山をな」

「はい?」

「シグルが気に入ってるあの山があるだろう。あそこを走らせた。彼らにしてみれば、この村にたどり着けただけで、天国に来たようなものだろうね」

 うわあ。鬼だ。

「スキル鑑定の方は進んでいるかい」

「一人一人伝えるのが面倒なんで、手紙を送る予定です」

「それはいけないな」

「ダメですか?」

「スキルの価値が下がる。プレゼントと同じだよ。お膳立てして開ける楽しみを味合わせる。領民を気持ちよく働かせるのも、領主としての力量だよ」

「村長ですけど」

 兄さんが口元に手をやって笑うのを抑えた。

 一万人規模でも開拓村の村長だよ。





「なんか変なんだよな」

「どうした」

 長男が書類を捌いている。

「いろいろだよ。脳筋の兄さんが書類仕事をしてるのも変だし、派閥争いに負けたとはいえ、これだけ力のある兄さんたちが、大人しく辺境にいるのも変だ」

「お前がいるからな」

「へ?」

「家族会議で手伝ってくれっつったろ? 派閥争いは家臣団に任せられても、お前の手伝いを他人任せにするわけにいかねーだろ。引き継ぎに手間取って遅くなっちまったけどな。
 俺が書類仕事をしてるのは、単純に文官がいねぇからだ」

「次男に負けたからじゃなかったの?」

 兄さんは、色気を垂れ流してニヤリと笑った。

 うわ。悪いこと考えてる。

 うちの家族、悪巧みしてる時が、一番色気があるんだよね。

 無駄に顔はいいし。体格もいい。覇気もあるし、その気になれば品もある。

 王の器ってやつ。

 目をつけられると困るから、粗暴な振る舞いをするんだろうし。まあ外面無視して行動した結果なんだろうけど。


 次男も長身で細身だけど筋肉質。武の腕前も長男に負けてないし。頭の出来は王都の商会軒並み辺境に引っ張ってくるお手並みをみれば言わずもがな。

 長男と兄弟じゃなければ、領地の一つや二つ簡単に取れるよね。


 やだやだ。
 兄弟の出来が良すぎると、弟は僻むんだぞ。



「文官、いないのかー」

「リグルになにか考えがあるだろ。お前は暇にしてろ」

 ぽんと、丸めた書類で頭を叩かれた。

 暇か。まあ、村作るまで一人でやったし。楽できるならいいかな。

 それにしても。
 長男は俺に甘い気がする。

「なんだ?」

「なんでもない」

 いや。この人、弟妹に甘いのか。

 とすると、次男は特別なのかな。



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