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 平民上がりの女が聖女に選ばれた。それも破格の力の持ち主として。

 教会はまだお披露目できる状態ではないとして面会を拒んだが、王家としても強力な力を持つ聖女であれば王家に取り込みたい。

 そこで王子との婚約を申し入れたがやんわりと断られた。そういった役目が出来る者ではないと。

 平民であるならばそうだろう。だが聖女の力があれば身分などどうにでもなる。

 教会が頑なであるなら本人を落とすしかないと、王子は聖女に面会を求めた。

「私と婚約ですか? そりゃあ無理ですよ。見ればお分かりになるかと思いますが、大分歳上だしこう見えて結婚しております」

「聖女は未婚の女子と聞いていたが」

「教会のお偉いさんはそうしたいみたいですね。私の婚姻を無効に出来ないか話し合っているみたいですよ」

 女はけらけらと笑った。

「お前はそれでいいのか」

「いい訳ありません。子ども達のことも心配ですしね。でも誘拐されて軟禁されてるんで、帰りたくても帰れないんですよ」

「なんて事を!」

「怒ってくださるんですか?」

「当たり前だ。こんな暴虐が許されていいはずがない」

「でしたら、お力をお貸し願えませんか。私の力はもうすぐなくなります。教会が大人しく家に返してくれればよろしいですが、このような真似をする方々です。都合が悪い存在として殺されるかもしれません。もしそうなったら助けていただけませんか」

「それは。気の毒とは思うが」

「勿論、タダでとはいいません。病気の母君をお助けいたします」

「そんな事が出来るのか」

「はい。これをお持ちください。これを通して母君の病気を癒すことが出来ます。それで私の力はなくなるので、力をなくした私を、ここの方々が始末しようとなさるでしょう」

「いいのか」

「過ぎた力、むしろ邪魔な力ですから」

「分かった。もし母の病が治るなら、君に協力しよう」

「ありがとうございます」


 王子の母は病が癒えたが、王子が彼女を助ける事はなかった。

 お披露目前に死んだ聖女は最初からいなかったことになった。







「お帰り、母ちゃん!」

「ただいま、クルル。元気にしてたかい」

 聖女として拉致監禁されていたミアは愛しい我が子を抱きしめて、頬をすりすりした。

「ミア! よく無事で」

「ただいま、あなた」

 クルルを抱えながら、夫と抱きしめ会う。

 神殿に攫われた時はもう二度と会えないかもしれないと思ったが、王子のおかげで無事に帰れた。

「どうやって神殿を抜け出してきたんだ」

「神殿の誓約を使ったの。神殿については色々教えて貰ったからね」

「誓約って、結婚する時のか?」

「大事な契約の時も使うのよ。王子のお母さんの病を癒す代わりに私を助けてくれるって誓約を結んでね」

「王子が助けてくれたのか!」

「違うわよ。お偉いさんが、私ら貧乏人を助けてくれる訳ないじゃない」

 ミアはからからと笑った。

「どういう事だ?」

「王子は助けてくれなかった。神殿の誓約を破ったの。王子のお母さんを助けて私の聖女としての力はなくなったからね。神殿の人らは私を殺そうとしたんだけど、誓約があるから出来なかったのよ。私が死んだら、神殿の誓約を破った罰で王子が死んじゃうの。そしたら神殿が聖女を殺した事がバレちゃうでしょ」

 誓約を破ると雷が落ちて、頬に罪の証が刻まれるため、誤魔化すことが出来ない。

「聖女の力もない、殺せないって穀潰しを神殿に置いておけないっていうんで解放されたの」

「お前、頭いいなあ」

「帰ってくるために頑張ったんだから」

 よくやった、と泣きながら抱きしめる父を見て、息子のクルルも泣きながら母親に抱きついた。

 その後、三人は田舎の村で平穏に暮らした。







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