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「我慢するべきなのよね。ただ抱き合っていただけだもの」
「誰が?」
「婚約者と男爵令嬢の…。え?」
婚約者と男爵令嬢の彼女が抱き合っていたの見た日の放課後。
私は人の来ない裏庭で一人膝を抱えていた。
誰も来ないことをいいことに、悩み事を声にだす。
そうすると、少しだけ気持ちが楽になる。
そう。これはそれだけの儀式。
だから、誰かに聞かれてしまうのは大失敗なの。
声が聞こえた隣を恐る恐るみる。
「ん?」
学院で最も位の高い、王位継承権第四位の彼がいた。
「フィリップ様、いまの、聞こえました?」
「うん。なんとなく?」
「聞かなかった事にしてください!」
「君がそういうならそうするけど。腹がたってるんじゃない?」
「いいえ。まだ浮気って決まったわけじゃないし。一瞬だったし、例えば転びそうになった彼女を支えただけかもしれないし」
「それから?」
「それから、えっと。だから」
「不用意な真似をした彼に怒ってる」
「それは、はい、ええ」
怒ってる。それは否定できなかった。
「君はソフィアの友達だったよね」
「はい。私のこと、ご存じだったんですか?」
「妹といつも一緒にいる子だから覚えちゃったよ」
フィリップ様は気負わない感じで笑った。
親戚のお兄さんと話しているみたい。肩の力が抜けた。
クレイン様も彼女と一緒の時、こんな風に感じているのかしら。
「フィリップ様ってなんだか不思議な方ですね」
「俺が? どんな感じ?」
「王位継承者なのに偉ぶってないし、なんか親戚のお兄さんみたい」
「そっか」
ただの相槌でも、フィリップ様がいうと素っ気ない感じがしない。ちゃんと気持ちの入った「そっか」に聞こえた。
「フィリップ様、男子って簡単に女子を抱きしめたりするんですか?」
「んー」
答えない。目をそらしている。あからさまに。
「やっぱり、普通は抱きしめたりしないんですね」
「まぁ、普通はね」
そこは胡麻化さないんだ。
「目の前に倒れそうになっている女子がいたらどうしますか?」
「んー」
また。目をそらした。
「フィリップ様なら、抱きしめます?」
「支えるけど、抱きしめたりはしないかな。誤解されると困るし」
「ですよね。フィリップ様に抱きしめられたら、誰だって誤解しますもんね」
「そんな事はないけど」
「誤解しますよ。フィリップ様、素敵な方だもの」
「ありがとう」
あ、心のこもっていない「ありがとう」だ。
この人、女子に褒められるの嬉しくないんだ。
そんな発見がおかしくて、笑ってしまった。
「なに?」
「フィリップ様、褒められるの苦手なんですね」
「それは、まぁ、そうかな」
「クレイン様も、苦手な人だと思ってたんです」
「うん」
「違ったみたい」
「そっか」
こんどの「そっか」はなんだか優しく響いた。
「フィリップ様、優しいんですね。話を聞いてもらったら、ちょっとすっきりしました」
「よかった」
「愚痴に付き合ってくださって、ありがとうございました」
「まぁ、行きがかり上だから気にしないで」
「はい」
話が途切れたので立ち上がり、フィリップ様に手を振った。
フィリップ様も手を振ってくれたので、私はなんだか元気になった。
クレイン様との間に足りないのは、これなんだよね。コミニケーション。
どうしよう。クレイン様のこと。
目をつぶろうかな。1回だけだし。だけどこんなモヤモヤした気持ちでクレイン様と会えるかな。
あの、私に興味のなさそうな人に、問い詰めずにいられるだろうか。
歩きながら考えた。
何度も何度も。
でも答えは同じところに行きついて。
無理。
このままなかった事にしてクレイン様とあの気の重いお茶会をするなんて絶対無理。
聞いても、きっと答えてくれないよね。
私は、男爵令嬢の事を調べることにした。
幸いなことに、学院には商会で一緒に働いた平民の子もいる。
彼女は彼らとも一緒のところを見たことがあるから。きっと詳しいことが聞けるはず。
そして、二人が友達以上の仲だったら私はどうするだろう。
分からない。
いまはまだ。
でもきっと私は。
「誰が?」
「婚約者と男爵令嬢の…。え?」
婚約者と男爵令嬢の彼女が抱き合っていたの見た日の放課後。
私は人の来ない裏庭で一人膝を抱えていた。
誰も来ないことをいいことに、悩み事を声にだす。
そうすると、少しだけ気持ちが楽になる。
そう。これはそれだけの儀式。
だから、誰かに聞かれてしまうのは大失敗なの。
声が聞こえた隣を恐る恐るみる。
「ん?」
学院で最も位の高い、王位継承権第四位の彼がいた。
「フィリップ様、いまの、聞こえました?」
「うん。なんとなく?」
「聞かなかった事にしてください!」
「君がそういうならそうするけど。腹がたってるんじゃない?」
「いいえ。まだ浮気って決まったわけじゃないし。一瞬だったし、例えば転びそうになった彼女を支えただけかもしれないし」
「それから?」
「それから、えっと。だから」
「不用意な真似をした彼に怒ってる」
「それは、はい、ええ」
怒ってる。それは否定できなかった。
「君はソフィアの友達だったよね」
「はい。私のこと、ご存じだったんですか?」
「妹といつも一緒にいる子だから覚えちゃったよ」
フィリップ様は気負わない感じで笑った。
親戚のお兄さんと話しているみたい。肩の力が抜けた。
クレイン様も彼女と一緒の時、こんな風に感じているのかしら。
「フィリップ様ってなんだか不思議な方ですね」
「俺が? どんな感じ?」
「王位継承者なのに偉ぶってないし、なんか親戚のお兄さんみたい」
「そっか」
ただの相槌でも、フィリップ様がいうと素っ気ない感じがしない。ちゃんと気持ちの入った「そっか」に聞こえた。
「フィリップ様、男子って簡単に女子を抱きしめたりするんですか?」
「んー」
答えない。目をそらしている。あからさまに。
「やっぱり、普通は抱きしめたりしないんですね」
「まぁ、普通はね」
そこは胡麻化さないんだ。
「目の前に倒れそうになっている女子がいたらどうしますか?」
「んー」
また。目をそらした。
「フィリップ様なら、抱きしめます?」
「支えるけど、抱きしめたりはしないかな。誤解されると困るし」
「ですよね。フィリップ様に抱きしめられたら、誰だって誤解しますもんね」
「そんな事はないけど」
「誤解しますよ。フィリップ様、素敵な方だもの」
「ありがとう」
あ、心のこもっていない「ありがとう」だ。
この人、女子に褒められるの嬉しくないんだ。
そんな発見がおかしくて、笑ってしまった。
「なに?」
「フィリップ様、褒められるの苦手なんですね」
「それは、まぁ、そうかな」
「クレイン様も、苦手な人だと思ってたんです」
「うん」
「違ったみたい」
「そっか」
こんどの「そっか」はなんだか優しく響いた。
「フィリップ様、優しいんですね。話を聞いてもらったら、ちょっとすっきりしました」
「よかった」
「愚痴に付き合ってくださって、ありがとうございました」
「まぁ、行きがかり上だから気にしないで」
「はい」
話が途切れたので立ち上がり、フィリップ様に手を振った。
フィリップ様も手を振ってくれたので、私はなんだか元気になった。
クレイン様との間に足りないのは、これなんだよね。コミニケーション。
どうしよう。クレイン様のこと。
目をつぶろうかな。1回だけだし。だけどこんなモヤモヤした気持ちでクレイン様と会えるかな。
あの、私に興味のなさそうな人に、問い詰めずにいられるだろうか。
歩きながら考えた。
何度も何度も。
でも答えは同じところに行きついて。
無理。
このままなかった事にしてクレイン様とあの気の重いお茶会をするなんて絶対無理。
聞いても、きっと答えてくれないよね。
私は、男爵令嬢の事を調べることにした。
幸いなことに、学院には商会で一緒に働いた平民の子もいる。
彼女は彼らとも一緒のところを見たことがあるから。きっと詳しいことが聞けるはず。
そして、二人が友達以上の仲だったら私はどうするだろう。
分からない。
いまはまだ。
でもきっと私は。
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