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決戦
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***
「それで、どういうことだ?」
王の口調は詰問するようであったが、王女はその声がかすかに揺れていることを感じ取っていた。「申し上げられません」
「どうして?」
「申し上げる必要を認めておりません」
王女としてはこれが精一杯である。だが、これで納得できるとは思ってはいないし、できればこれ以上踏み込んでほしくないという気持ちは変わらなかった。だが王は、娘の気持ちを理解した上で無視することにしたようだった。
「どうして?」再び繰り返される。王女の顔に困惑の色が現れる。どうしてこうも簡単に見破られてしまうのだろう。やはり自分の考えていることはお見通しということか。いや待て。そこで一つ思いついたことがある。今、自分が恐れているのは王がこのことを公表することではないのではないだろうかと。もし王がこのことを誰かに告げ口したとして、それによって他の貴族が自分に対して敵意を抱いたとしてもかまわないと思うほどの決意で父を止めたはずだ。そして、父もまた同じように決意していたとしたら。そう考えることによって王女は一つの結論に達する。王は知っているのではなかろうか。王女の真の目的が別にあったということを。そう思うと一気に気が楽になったような感じだった。同時に先ほどまではなかった恐怖を感じるようになったのだったが、王女は気にしないように努力した。「では、逆にお尋ねいたしますわ」
「うむ」
「何故お止めになったのですか?」
すると、王は目を閉じた。どう言えばいいか言葉を選んでいるかのように見えた。「まずは、感謝すべきなのだろうな」
そして、王はゆっくりと語り始めた。……王は以前から日本のことを非常に気にしていた。理由は色々あるが、中でも最も大きかったと思われるものは日本について書かれた書物が非常に少なかったからだと言われている。特に歴史に関してはまったく皆無に近い状態であったと言えるかもしれない。だが王はそれをさほど不自然には感じていなかったようだ。確かにそういう民族がいるというのは昔から伝えられていた。それに、王自身もそのような伝承については聞いたことがあったからである。ただ問題はそれらの話が必ずしも事実に基づいたものではないということだった。たとえば中国の歴史に登場する王、もしくは皇帝と呼ばれるような者たちが実在していたという証拠は何一つ残されていない。また日本についても同じことである。それらに関しての記述はすべて伝聞であり信憑性が低かったのだ。だがその程度であっても王は真実を知りたいという願望を持っていたのは間違いない。そのことに関する記憶もかなりはっきりしていたようで、王にとってそれらは空想ではなく現実の出来事のように思われるものだったらしい。
しかし残念なことに、この世界には日本に纏わる資料がほとんど存在していなかったのである。そのため彼はその真相を知ることができず、もどかしい思いを抱え続けていたのだ。だがそんな状況にあるときに、彼の元にとある情報がもたらされたのであった。それは、日本の国が異世界に存在し、そこには勇者なる人物たちが存在しているというものである。これを聞いたときの王の衝撃がどれ程のものであったかは想像もつかない。何しろそれまでに一度も考えたことがなかったのだから当然だ。だがその時の王の行動は実に早かった。そして直ちにその情報を確かめようとしたのである。そして、その方法は意外にも簡単かつ迅速に行うことが可能なものとなっていた。
つまり召喚術を行えばいいだけの話であったのだから。
***
王は城の地下に広がる空間にいた。周囲には無数の柱が立ち並び、その上には様々な色の魔法陣が浮かんで輝いている。ここは、地下深くに作られた王専用の秘密工房だった。といっても特別な装置が並んでいるわけではなく、ただ部屋の中央に石造りの儀式場があるだけなのだが。王は、部屋の中心に立つと、静かに詠唱を始めた。「…………」
詠み手となる者の言葉に応じて魔素が集まり、やがて光の奔流となって王の体に降り注いだ。光はさらに輝きを増すと徐々に形を成していく。それは巨大な竜の姿を模り、まるで脈打つように全身を震わせた。……それはこの世に存在する生物のうちで最大級の力を有するとされる魔物の一種に他ならなかった。それ故にその力は強大で、その巨体を召喚することは、王といえども容易なことではなかったが、それでも成功させることができたのである。それはまさに奇跡と呼ぶに相応しい出来事だった。
王は、儀式の成功を確信すると、静かに目を開いた。そしてそこに現れた姿に驚きの声を上げる。「な、なんだこれは?」
それは、今まで見たこともない異様な姿をした生き物であった。いや、正確にはその姿を見たことがないわけではない。なぜならば、その生物の顔に見覚えがあったから。……だがその生き物が、このような場所で王の前に現れるなどということはあり得ないことであった。いや、そもそもその存在すら信じられないものである。そのはずなのに……。「なぜここにいるのだ?いや、そもそもなぜこんなものが召喚できたのだ?」
王は混乱した様子だった。それも仕方がないかもしれない。彼でさえ、これほどのことが起こるなどと考えたことはなかったのだ。だが、今起こっていることが紛れもない事実であることだけは確かだった。「まあ、よい。とにかく今は……」
王が視線を向けた先には、一人の男が立っていた。
「誰だ!?」
「私は……」
男は答えようとしたが、王は途中で遮った。「いや、待て!貴様はまさか!?」
「ええ、そうです」
「そんな馬鹿な……」「信じたくないのはわかりますが、事実なのです」
「だが……」「あなたが王としての責務を果たす気なら、この事実を受け入れるべきでしょう」「……わかった」
王はようやく落ち着きを取り戻したようだった。「して、何用かな?」
「はい、実は……」
「なるほど、よくぞ知らせてくれた。礼を言う」
「いえ」
「では、すぐにでも行動に移るとしよう」
「そうですね」「うむ」
その時、エミリアが部屋に入ってきた。「陛下!」
「どうした?」
「大変です!エルフたちが森の奥で大規模な戦闘を行っている模様です」
「なんだと?」
「しかも、かなりの数の兵士が参戦しているようです」「……よし、それでは出陣だ」
「はい」
王は、娘に声をかけた。「お前も来るがよい」
「は、はいっ」
***
王女は、父の後をついていった。もちろんその顔は緊張している。自分の計画が失敗した以上、これからどういうことになるのかわからないのだから。だが、その心配は無駄に終わることになった。王は突然立ち止まると、振り返って言ったのだった。「お前はもうよい」
「え?」
「後は私がやろう」
「ええっ?」
「安心するがよい。責任は私が持つ」
「ええっ?」
「それと、これを持っていけ」王は、懐から小さな箱を取り出すと、それを王女に手渡した。「これは?」
「お守りのようなものだ。持っていればきっと役に立つだろう。持って行け」
「ええっ?」
「では、行くとするか」「は、はいっ」
王は、再び歩き出す。王女は慌ててその後を追った。
「あの、お父さま?」
「ん?」
「本当によろしいのですか?」
「ああ、問題はない。それに、あれを何とかできるのは私しかいないだろうからな」「えっ?」
「では、始めるとしようか。私の計画を実行する時が来たのだ……」
「はい……」
そして、二人は森の中へと消えていった。
―――そして、それから一時間程が過ぎた頃、戦場に新たな変化が起こった。突如として、エルフたちの動きが鈍くなったのである。「な、何が起きているんだ?」
「さっぱりわかんねえよ」
「何が起きてるっていうんだよ?」
「誰か説明してくれよ」
兵士の間に戸惑いが広がり始めた。だが、そんな中にあっても戦い続ける者はいる。そしてその中には当然のように勇者の姿もあったのである。
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
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***
***
***
***
*********
***
その頃、王都の王宮の中では、王女の帰還によってもたらされた情報の分析が行われていた。その結果、判明した事実は次のようなものである。
まず第一に、王の娘が勇者召喚を行ったという事実が確認された。
第二に、召喚された勇者が一人ではないということが確認できた。
第三に、召喚されたのは、二人ではなく三人だということがわかっていた。第四に、召喚されたのは勇者だけでなく、王女も一緒だったということだ。……そして最後に、王女は魔王を召喚しようとしていたということがわかったのであった。
「なるほど、そういうことだったか……」
王は、顎髭を撫でながら呟いた。
「はい、おそらく間違いないかと……」宰相は、王の言葉を肯定した。「だが、そうなると困ったことになりましたね」
「うむ」
王は、難しい顔をした。
「どうなさいますか?」
「そうだな、とりあえずは様子を見るしかないか」
「は?」「下手に動くわけにはいかないからな。今は静観しておくべきだ」
「しかし、もし勇者が敵になったらどうなさるおつもりですか?」
「その時はその時だ」
「そんな……」
「それよりも今は他に考えるべきことがあるだろう?」王は、別の話題を持ち出した。「例の件はどうなっている?」
「はい、準備は順調に進んでおります。ただ……」「何かあったのか?」
「それが、どうやら何者かが妨害工作を行っているようなのです」
「なんと、一体誰がそんなことを?」「今のところはまだ不明ですが、恐らくは勇者ではないかと……」
「なるほど。だが、その程度で諦める我々ではないぞ。必ず阻止してみせる」
「はい、その通りでございます」
こうして、事態は思わぬ方向へと進んでいくのであった。……それから更に数時間が経過し、ついにその瞬間が訪れた。
「ああっ!!」
「おい、嘘だろ!?」
「そんな……」
兵士たちは、皆一様に驚愕の表情を浮かべていた。それも無理のないことである。なぜなら、彼らの目の前には信じられない光景が広がっていたのだから。
そこには、一人の男が立っていた。その男には見覚えがあった。彼は、この国の王であるはずの人物であったのだ。だが、その事実を知ってもなお、誰もがそのことを信じることはできなかった。何故ならば、王は死んだはずなのだから。だが、それは間違いではなかった。確かに王は死んでいたのである。ただし、それは仮初めの死であったのだ。……それは、ある特殊な魔法を使うことにより実現可能となるものであった。
それは、死者蘇生の呪文と呼ばれるものだ。それは、その言葉が示す通りに死者を蘇らせることができるとされている強力な魔法であった。だが、その効果は極めて限定的なものであり、その行使は非常に困難であるとされていたのである。実際に、今までその魔法を使える者が現れたという話は聞いたことがなかったのである。だからこそ、王が死んだと思った時、兵士たちは少なからず動揺していたのであった。だが、その男が王だとわかった今、彼らはさらに混乱することとなった。
「どうして王が生きてるんだ!?」
「まさか偽物なのか?」
「いや、本物だよ」
「じゃあ、なんで?」
「わからないけど、とにかく戦うしか……」
「そうみたいだな」
「よし、いくぞ!」
「おうっ」
「おおー」
こうして、激しい戦いが始まったのだった。
一方、その頃、勇者たちは……
「なあ、あいつらはいったい何やってんだ?」
「さあな。それより早く片付けるぞ」「ああ」
「わかった」
そして、戦いは終わった。
「よし、これで終わりだな」
「それで、どういうことだ?」
王の口調は詰問するようであったが、王女はその声がかすかに揺れていることを感じ取っていた。「申し上げられません」
「どうして?」
「申し上げる必要を認めておりません」
王女としてはこれが精一杯である。だが、これで納得できるとは思ってはいないし、できればこれ以上踏み込んでほしくないという気持ちは変わらなかった。だが王は、娘の気持ちを理解した上で無視することにしたようだった。
「どうして?」再び繰り返される。王女の顔に困惑の色が現れる。どうしてこうも簡単に見破られてしまうのだろう。やはり自分の考えていることはお見通しということか。いや待て。そこで一つ思いついたことがある。今、自分が恐れているのは王がこのことを公表することではないのではないだろうかと。もし王がこのことを誰かに告げ口したとして、それによって他の貴族が自分に対して敵意を抱いたとしてもかまわないと思うほどの決意で父を止めたはずだ。そして、父もまた同じように決意していたとしたら。そう考えることによって王女は一つの結論に達する。王は知っているのではなかろうか。王女の真の目的が別にあったということを。そう思うと一気に気が楽になったような感じだった。同時に先ほどまではなかった恐怖を感じるようになったのだったが、王女は気にしないように努力した。「では、逆にお尋ねいたしますわ」
「うむ」
「何故お止めになったのですか?」
すると、王は目を閉じた。どう言えばいいか言葉を選んでいるかのように見えた。「まずは、感謝すべきなのだろうな」
そして、王はゆっくりと語り始めた。……王は以前から日本のことを非常に気にしていた。理由は色々あるが、中でも最も大きかったと思われるものは日本について書かれた書物が非常に少なかったからだと言われている。特に歴史に関してはまったく皆無に近い状態であったと言えるかもしれない。だが王はそれをさほど不自然には感じていなかったようだ。確かにそういう民族がいるというのは昔から伝えられていた。それに、王自身もそのような伝承については聞いたことがあったからである。ただ問題はそれらの話が必ずしも事実に基づいたものではないということだった。たとえば中国の歴史に登場する王、もしくは皇帝と呼ばれるような者たちが実在していたという証拠は何一つ残されていない。また日本についても同じことである。それらに関しての記述はすべて伝聞であり信憑性が低かったのだ。だがその程度であっても王は真実を知りたいという願望を持っていたのは間違いない。そのことに関する記憶もかなりはっきりしていたようで、王にとってそれらは空想ではなく現実の出来事のように思われるものだったらしい。
しかし残念なことに、この世界には日本に纏わる資料がほとんど存在していなかったのである。そのため彼はその真相を知ることができず、もどかしい思いを抱え続けていたのだ。だがそんな状況にあるときに、彼の元にとある情報がもたらされたのであった。それは、日本の国が異世界に存在し、そこには勇者なる人物たちが存在しているというものである。これを聞いたときの王の衝撃がどれ程のものであったかは想像もつかない。何しろそれまでに一度も考えたことがなかったのだから当然だ。だがその時の王の行動は実に早かった。そして直ちにその情報を確かめようとしたのである。そして、その方法は意外にも簡単かつ迅速に行うことが可能なものとなっていた。
つまり召喚術を行えばいいだけの話であったのだから。
***
王は城の地下に広がる空間にいた。周囲には無数の柱が立ち並び、その上には様々な色の魔法陣が浮かんで輝いている。ここは、地下深くに作られた王専用の秘密工房だった。といっても特別な装置が並んでいるわけではなく、ただ部屋の中央に石造りの儀式場があるだけなのだが。王は、部屋の中心に立つと、静かに詠唱を始めた。「…………」
詠み手となる者の言葉に応じて魔素が集まり、やがて光の奔流となって王の体に降り注いだ。光はさらに輝きを増すと徐々に形を成していく。それは巨大な竜の姿を模り、まるで脈打つように全身を震わせた。……それはこの世に存在する生物のうちで最大級の力を有するとされる魔物の一種に他ならなかった。それ故にその力は強大で、その巨体を召喚することは、王といえども容易なことではなかったが、それでも成功させることができたのである。それはまさに奇跡と呼ぶに相応しい出来事だった。
王は、儀式の成功を確信すると、静かに目を開いた。そしてそこに現れた姿に驚きの声を上げる。「な、なんだこれは?」
それは、今まで見たこともない異様な姿をした生き物であった。いや、正確にはその姿を見たことがないわけではない。なぜならば、その生物の顔に見覚えがあったから。……だがその生き物が、このような場所で王の前に現れるなどということはあり得ないことであった。いや、そもそもその存在すら信じられないものである。そのはずなのに……。「なぜここにいるのだ?いや、そもそもなぜこんなものが召喚できたのだ?」
王は混乱した様子だった。それも仕方がないかもしれない。彼でさえ、これほどのことが起こるなどと考えたことはなかったのだ。だが、今起こっていることが紛れもない事実であることだけは確かだった。「まあ、よい。とにかく今は……」
王が視線を向けた先には、一人の男が立っていた。
「誰だ!?」
「私は……」
男は答えようとしたが、王は途中で遮った。「いや、待て!貴様はまさか!?」
「ええ、そうです」
「そんな馬鹿な……」「信じたくないのはわかりますが、事実なのです」
「だが……」「あなたが王としての責務を果たす気なら、この事実を受け入れるべきでしょう」「……わかった」
王はようやく落ち着きを取り戻したようだった。「して、何用かな?」
「はい、実は……」
「なるほど、よくぞ知らせてくれた。礼を言う」
「いえ」
「では、すぐにでも行動に移るとしよう」
「そうですね」「うむ」
その時、エミリアが部屋に入ってきた。「陛下!」
「どうした?」
「大変です!エルフたちが森の奥で大規模な戦闘を行っている模様です」
「なんだと?」
「しかも、かなりの数の兵士が参戦しているようです」「……よし、それでは出陣だ」
「はい」
王は、娘に声をかけた。「お前も来るがよい」
「は、はいっ」
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王女は、父の後をついていった。もちろんその顔は緊張している。自分の計画が失敗した以上、これからどういうことになるのかわからないのだから。だが、その心配は無駄に終わることになった。王は突然立ち止まると、振り返って言ったのだった。「お前はもうよい」
「え?」
「後は私がやろう」
「ええっ?」
「安心するがよい。責任は私が持つ」
「ええっ?」
「それと、これを持っていけ」王は、懐から小さな箱を取り出すと、それを王女に手渡した。「これは?」
「お守りのようなものだ。持っていればきっと役に立つだろう。持って行け」
「ええっ?」
「では、行くとするか」「は、はいっ」
王は、再び歩き出す。王女は慌ててその後を追った。
「あの、お父さま?」
「ん?」
「本当によろしいのですか?」
「ああ、問題はない。それに、あれを何とかできるのは私しかいないだろうからな」「えっ?」
「では、始めるとしようか。私の計画を実行する時が来たのだ……」
「はい……」
そして、二人は森の中へと消えていった。
―――そして、それから一時間程が過ぎた頃、戦場に新たな変化が起こった。突如として、エルフたちの動きが鈍くなったのである。「な、何が起きているんだ?」
「さっぱりわかんねえよ」
「何が起きてるっていうんだよ?」
「誰か説明してくれよ」
兵士の間に戸惑いが広がり始めた。だが、そんな中にあっても戦い続ける者はいる。そしてその中には当然のように勇者の姿もあったのである。
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その頃、王都の王宮の中では、王女の帰還によってもたらされた情報の分析が行われていた。その結果、判明した事実は次のようなものである。
まず第一に、王の娘が勇者召喚を行ったという事実が確認された。
第二に、召喚された勇者が一人ではないということが確認できた。
第三に、召喚されたのは、二人ではなく三人だということがわかっていた。第四に、召喚されたのは勇者だけでなく、王女も一緒だったということだ。……そして最後に、王女は魔王を召喚しようとしていたということがわかったのであった。
「なるほど、そういうことだったか……」
王は、顎髭を撫でながら呟いた。
「はい、おそらく間違いないかと……」宰相は、王の言葉を肯定した。「だが、そうなると困ったことになりましたね」
「うむ」
王は、難しい顔をした。
「どうなさいますか?」
「そうだな、とりあえずは様子を見るしかないか」
「は?」「下手に動くわけにはいかないからな。今は静観しておくべきだ」
「しかし、もし勇者が敵になったらどうなさるおつもりですか?」
「その時はその時だ」
「そんな……」
「それよりも今は他に考えるべきことがあるだろう?」王は、別の話題を持ち出した。「例の件はどうなっている?」
「はい、準備は順調に進んでおります。ただ……」「何かあったのか?」
「それが、どうやら何者かが妨害工作を行っているようなのです」
「なんと、一体誰がそんなことを?」「今のところはまだ不明ですが、恐らくは勇者ではないかと……」
「なるほど。だが、その程度で諦める我々ではないぞ。必ず阻止してみせる」
「はい、その通りでございます」
こうして、事態は思わぬ方向へと進んでいくのであった。……それから更に数時間が経過し、ついにその瞬間が訪れた。
「ああっ!!」
「おい、嘘だろ!?」
「そんな……」
兵士たちは、皆一様に驚愕の表情を浮かべていた。それも無理のないことである。なぜなら、彼らの目の前には信じられない光景が広がっていたのだから。
そこには、一人の男が立っていた。その男には見覚えがあった。彼は、この国の王であるはずの人物であったのだ。だが、その事実を知ってもなお、誰もがそのことを信じることはできなかった。何故ならば、王は死んだはずなのだから。だが、それは間違いではなかった。確かに王は死んでいたのである。ただし、それは仮初めの死であったのだ。……それは、ある特殊な魔法を使うことにより実現可能となるものであった。
それは、死者蘇生の呪文と呼ばれるものだ。それは、その言葉が示す通りに死者を蘇らせることができるとされている強力な魔法であった。だが、その効果は極めて限定的なものであり、その行使は非常に困難であるとされていたのである。実際に、今までその魔法を使える者が現れたという話は聞いたことがなかったのである。だからこそ、王が死んだと思った時、兵士たちは少なからず動揺していたのであった。だが、その男が王だとわかった今、彼らはさらに混乱することとなった。
「どうして王が生きてるんだ!?」
「まさか偽物なのか?」
「いや、本物だよ」
「じゃあ、なんで?」
「わからないけど、とにかく戦うしか……」
「そうみたいだな」
「よし、いくぞ!」
「おうっ」
「おおー」
こうして、激しい戦いが始まったのだった。
一方、その頃、勇者たちは……
「なあ、あいつらはいったい何やってんだ?」
「さあな。それより早く片付けるぞ」「ああ」
「わかった」
そして、戦いは終わった。
「よし、これで終わりだな」
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