5 / 9
近接戦闘
しおりを挟む
そのまま店を出ることになり、仕方なく護堂は同行することに決める。
……とはいえ、どこに行けばよいものか。
どうしようもない気分を味わっているとフランコが笑いかけてきた。
……何を企んでいるのだこいつは! どう考えても嫌な予感しかしないが逃げようにもどうにもならなかった……。
そして、連れて行かれたのはやはり彼の自宅マンションだ!しかもこのマンションの部屋の一つは以前護堂が訪れたこともある部屋だった。
その時は誰もいなかったはずだが、今日は一人、女性が待ち構えていた!――こいつとどういう関係なんだ、この人は。
……というかそもそも本当に人間なのだろうか? 顔はどう見ても人間のものだったが全身が黒い。
髪が黒くて目鼻立ちは普通なのだが、なぜか肌は青白く見えるのでそう見えてしまうのかもしれない。
その女性の服装はやはり、黒を基調とした服装で、首からはロザリオを下げ、両手に包帯を巻きつけているように見えるが、この包帯のような布切れは本物なのであろうか? その正体は、護堂がイタリアで遭遇した魔女であった。
どうやら彼女がここで暮らしているというのは本当らしい。
あの時の彼女は確かに邪悪な気配を感じさせたのだが……。
……それに、なんとなく見覚えがあるような気がするのだが。
――ああ……! そうだ、この人も例の噂の女性ではないか? ナポリで知り合った自称悪魔祓い、リース・カレーはこんな雰囲気だった。
だがまさか同一人物とは思えない、彼女はあんな服装ではなくごく普通の服を着ていて髪の色も違うのだから。
それに、目の前の彼女の様子はどことなく元気がなかった。
まるでこの世の終わりに直面したようにうなだれてしまっているではないか。
護堂たちがマンションの中に消えてしばらくしてようやく彼女は顔を上げてくれた。
だがそのとき、フランコの部屋に三人の姿はなかった! だが、代わりに妙なものを見つけたのだ。
……それは巨大なトランクケースだ。
中身は分からないが、大きさから見て相当な量の荷物が入るものなのだろう。
――あの人たちが帰ってくるまでこれを預かっていてくれませんか? そう頼まれて、護堂はそのトランクを受け取った。
それからしばらく、護堂はリビングのソファーに座って時間を潰すことにした。
だが、すぐに手持ちぶさたになってしまう。
そこで護堂は先程受け取ったトランクの蓋を開いてみた。
すると中には、
「これって……!」
大量の魔道書が入っていた。
……その中には護堂の知るものもある。
……だが大半は見たこともないものだ。
……一体誰が? 「草薙護堂、か。
……お前も大変だな」
不意に声が聞こえた。
慌てて振り返るとそこには黒い影があった。
「あんたが俺を呼んだのか?」
「……正確にはお前が私を呼び出したんだ」
「えっ?」「私はお前の呼びかけに応えてやって来た。
お前の願いを聞き届けるために」
「……そうなのか」
「ああ。
それで、お前の望みはなんだ? お前はどんなことを願ったんだ?」
「俺はアンジェを救いたい。
ただ、それだけだ。
添い遂げるためには万難を排する。
どんな卑怯な手も使う。
たとえ人を傷つけてもだ。
アンジェを守りたい。
その為に世界を焼き払えと言われれば焼く。
俺はどうなっても構わん。
何だってするからアンジェを助けてくれ」護堂は力を込めて叫んだ。
……護堂は目を覚ました。
……ここは何処だろう?……ああ、自分のベッドか。
昨夜はいろいろありすぎてなかなか寝付けなかったんだよな……と。
……護堂はまだ夢うつつの状態でぼんやりと考えるのだった……。
第三章 草薙護堂はカンピオーネである。
草薙護堂は、イタリアで戦った後に『まつろわぬ神』を招来し、そして倒した。
それから一ヶ月が過ぎようとしていた。
護堂は平凡な高校生としての生活を取り戻しつつあった。
――だが、それは表面上のことにすぎない。
護堂には秘密があった。
誰にも言えない重大な隠し事があった。
……護堂の秘密とは、実は魔術師であるということだ。
それも魔術結社の一員で、しかもそのトップに立つ総帥でもある。
だが、護堂が魔術師であることを知っている人間は数少ない。
知っているのは、アンジェ・スタインバーガーと、マリス・ディ・ルッジェーロ・デル・フリウーリの二人だけである。
なぜ、このようなことになったのかといえば理由はいくつかある。
まず第一に、護堂自身が魔術師であることを隠そうとしたからだ。
第二に、魔術師であることがバレることは命に関わるからである。
そして最後に、護堂が、魔術師としての実力がそれほど高くないからだ。
……つまり護堂は、いわゆる落ちこぼれ魔術師なのだ。
護堂は、魔術の修業に明け暮れる毎日を送っていた。
朝早くから学校へ行き授業を受け帰宅してからは、夜の九時を過ぎる頃までずっとだ。
護堂は、自室の勉強机に向かって座っていた。
勉強をしているわけではない。
ただひたすらに、精神を集中させているだけだった。
護堂の頭の中には、呪文が刻まれている。
それは、護堂の師匠であり、師父たる人物から教えられたものたちだ。
――すなわち、『言霊の術式』と呼ばれるものである。
これは、古代ゲルマン人が使っていた呪術で、音と声に呪力を込め、相手に呪いをかける技術だ。
この呪術の基本となるのが、呪句と呪符である。
呪句とは、呪文そのもののことであり、呪符は、特定の形に作られた紙のことを指す。
これらの言葉は、護堂にとっての剣であり鎧でもあった。
――だが、今のままでは駄目だ!護堂は自分の弱さを自覚していた。
この一ヶ月間、護堂は己を鍛え続けた。
だがその成果はあまり芳しくないものばかりであった。
護堂はこの一ヶ月でいくつかの成果を上げた。
まず一つ目に挙げたのは、肉体の強化だった。
護堂はもともと運動神経が悪くはなく、どちらかと言えばいい方だった。
だが、それが仇となり、護堂は魔術戦において致命的な弱点を抱えていた。
それは、近接戦闘だ。
……とはいえ、どこに行けばよいものか。
どうしようもない気分を味わっているとフランコが笑いかけてきた。
……何を企んでいるのだこいつは! どう考えても嫌な予感しかしないが逃げようにもどうにもならなかった……。
そして、連れて行かれたのはやはり彼の自宅マンションだ!しかもこのマンションの部屋の一つは以前護堂が訪れたこともある部屋だった。
その時は誰もいなかったはずだが、今日は一人、女性が待ち構えていた!――こいつとどういう関係なんだ、この人は。
……というかそもそも本当に人間なのだろうか? 顔はどう見ても人間のものだったが全身が黒い。
髪が黒くて目鼻立ちは普通なのだが、なぜか肌は青白く見えるのでそう見えてしまうのかもしれない。
その女性の服装はやはり、黒を基調とした服装で、首からはロザリオを下げ、両手に包帯を巻きつけているように見えるが、この包帯のような布切れは本物なのであろうか? その正体は、護堂がイタリアで遭遇した魔女であった。
どうやら彼女がここで暮らしているというのは本当らしい。
あの時の彼女は確かに邪悪な気配を感じさせたのだが……。
……それに、なんとなく見覚えがあるような気がするのだが。
――ああ……! そうだ、この人も例の噂の女性ではないか? ナポリで知り合った自称悪魔祓い、リース・カレーはこんな雰囲気だった。
だがまさか同一人物とは思えない、彼女はあんな服装ではなくごく普通の服を着ていて髪の色も違うのだから。
それに、目の前の彼女の様子はどことなく元気がなかった。
まるでこの世の終わりに直面したようにうなだれてしまっているではないか。
護堂たちがマンションの中に消えてしばらくしてようやく彼女は顔を上げてくれた。
だがそのとき、フランコの部屋に三人の姿はなかった! だが、代わりに妙なものを見つけたのだ。
……それは巨大なトランクケースだ。
中身は分からないが、大きさから見て相当な量の荷物が入るものなのだろう。
――あの人たちが帰ってくるまでこれを預かっていてくれませんか? そう頼まれて、護堂はそのトランクを受け取った。
それからしばらく、護堂はリビングのソファーに座って時間を潰すことにした。
だが、すぐに手持ちぶさたになってしまう。
そこで護堂は先程受け取ったトランクの蓋を開いてみた。
すると中には、
「これって……!」
大量の魔道書が入っていた。
……その中には護堂の知るものもある。
……だが大半は見たこともないものだ。
……一体誰が? 「草薙護堂、か。
……お前も大変だな」
不意に声が聞こえた。
慌てて振り返るとそこには黒い影があった。
「あんたが俺を呼んだのか?」
「……正確にはお前が私を呼び出したんだ」
「えっ?」「私はお前の呼びかけに応えてやって来た。
お前の願いを聞き届けるために」
「……そうなのか」
「ああ。
それで、お前の望みはなんだ? お前はどんなことを願ったんだ?」
「俺はアンジェを救いたい。
ただ、それだけだ。
添い遂げるためには万難を排する。
どんな卑怯な手も使う。
たとえ人を傷つけてもだ。
アンジェを守りたい。
その為に世界を焼き払えと言われれば焼く。
俺はどうなっても構わん。
何だってするからアンジェを助けてくれ」護堂は力を込めて叫んだ。
……護堂は目を覚ました。
……ここは何処だろう?……ああ、自分のベッドか。
昨夜はいろいろありすぎてなかなか寝付けなかったんだよな……と。
……護堂はまだ夢うつつの状態でぼんやりと考えるのだった……。
第三章 草薙護堂はカンピオーネである。
草薙護堂は、イタリアで戦った後に『まつろわぬ神』を招来し、そして倒した。
それから一ヶ月が過ぎようとしていた。
護堂は平凡な高校生としての生活を取り戻しつつあった。
――だが、それは表面上のことにすぎない。
護堂には秘密があった。
誰にも言えない重大な隠し事があった。
……護堂の秘密とは、実は魔術師であるということだ。
それも魔術結社の一員で、しかもそのトップに立つ総帥でもある。
だが、護堂が魔術師であることを知っている人間は数少ない。
知っているのは、アンジェ・スタインバーガーと、マリス・ディ・ルッジェーロ・デル・フリウーリの二人だけである。
なぜ、このようなことになったのかといえば理由はいくつかある。
まず第一に、護堂自身が魔術師であることを隠そうとしたからだ。
第二に、魔術師であることがバレることは命に関わるからである。
そして最後に、護堂が、魔術師としての実力がそれほど高くないからだ。
……つまり護堂は、いわゆる落ちこぼれ魔術師なのだ。
護堂は、魔術の修業に明け暮れる毎日を送っていた。
朝早くから学校へ行き授業を受け帰宅してからは、夜の九時を過ぎる頃までずっとだ。
護堂は、自室の勉強机に向かって座っていた。
勉強をしているわけではない。
ただひたすらに、精神を集中させているだけだった。
護堂の頭の中には、呪文が刻まれている。
それは、護堂の師匠であり、師父たる人物から教えられたものたちだ。
――すなわち、『言霊の術式』と呼ばれるものである。
これは、古代ゲルマン人が使っていた呪術で、音と声に呪力を込め、相手に呪いをかける技術だ。
この呪術の基本となるのが、呪句と呪符である。
呪句とは、呪文そのもののことであり、呪符は、特定の形に作られた紙のことを指す。
これらの言葉は、護堂にとっての剣であり鎧でもあった。
――だが、今のままでは駄目だ!護堂は自分の弱さを自覚していた。
この一ヶ月間、護堂は己を鍛え続けた。
だがその成果はあまり芳しくないものばかりであった。
護堂はこの一ヶ月でいくつかの成果を上げた。
まず一つ目に挙げたのは、肉体の強化だった。
護堂はもともと運動神経が悪くはなく、どちらかと言えばいい方だった。
だが、それが仇となり、護堂は魔術戦において致命的な弱点を抱えていた。
それは、近接戦闘だ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
変貌忌譚―変態さんは路地裏喫茶にお越し―
i'm who?
ホラー
まことしやかに囁かれる噂……。
寂れた田舎町の路地裏迷路の何処かに、人ならざる異形の存在達が営む喫茶店が在るという。
店の入口は心の隙間。人の弱さを喰らう店。
そこへ招かれてしまう難儀な定めを持った彼ら彼女ら。
様々な事情から世の道理を逸しかけた人々。
それまでとは異なるものに成りたい人々。
人間であることを止めようとする人々。
曰く、その喫茶店では【特別メニュー】として御客様のあらゆる全てを対価に、今とは別の生き方を提供してくれると噂される。それはもしも、あるいは、たとえばと。誰しもが持つ理想願望の禊。人が人であるがゆえに必要とされる祓。
自分自身を省みて現下で踏み止まるのか、何かを願いメニューを頼んでしまうのか、全て御客様本人しだい。それ故に、よくよく吟味し、見定めてくださいませ。結果の救済破滅は御客しだい。旨いも不味いも存じ上げませぬ。
それでも『良い』と嘯くならば……。
さぁ今宵、是非ともお越し下さいませ。
※注意点として、メニューの返品や交換はお受けしておりませんので悪しからず。
※この作品は【小説家になろう】さん【カクヨム】さんにも同時投稿しております。 ©️2022 I'm who?
インター・フォン
ゆずさくら
ホラー
家の外を何気なく見ているとインターフォンに誰がいて、何か細工をしているような気がした。
俺は慌てて外に出るが、誰かを見つけられなかった。気になってインターフォンを調べていくのだが、インターフォンに正体のわからない人物の映像が残り始める。
信者奪還
ゆずさくら
ホラー
直人は太位無教の信者だった。しかし、あることをきっかけに聖人に目をつけられる。聖人から、ある者の獲得を迫られるが、直人はそれを拒否してしまう。教団に逆らった為に監禁された直人の運命は、ひょんなことから、あるトラック運転手に託されることになる……
晴れ子さん
神無月大輝
ホラー
ある日、公園で女の子が死んだ。死因は熱中症で死んだという、みんなはそう思っていたが本当の死んだ理由は他にもあった。それから3年後、私は中学3年せいになった、その頃から晴れ子さんの復讐物語が始まる。
ゾバズバダドガ〜歯充烏村の呪い〜
ディメンションキャット
ホラー
主人公、加賀 拓斗とその友人である佐々木 湊が訪れたのは外の社会とは隔絶された集落「歯充烏村」だった。
二人は村長から村で過ごす上で、絶対に守らなければならない奇妙なルールを伝えられる。
「人の名前は絶対に濁点を付けて呼ばなければならない」
支離滅裂な言葉を吐き続ける老婆や鶏を使ってアートをする青年、呪いの神『ゾバズバダドガ』。異常が支配するこの村で、次々に起こる矛盾だらけの事象。狂気に満ちた村が徐々に二人を蝕み始めるが、それに気付かない二人。
二人は無事に「歯充烏村」から抜け出せるのだろうか?
コルチカム
白キツネ
ホラー
都会から遠く、遠く離れた自然が多い田舎町。そんな場所に父親の都合で転校することになった綾香は3人の友人ができる。
少し肌寒く感じるようになった季節、綾香は季節外れの肝試しに誘われた。
4人で旧校舎に足を踏み入れると、綾香たちに不思議な現象が襲い掛かる。
微ホラーです。
他小説投稿サイト様にも掲載しております。
尾子-おね-
よつば 綴
ホラー
失踪した百合香の行方を知る男が現れた。
男は、百合香の弟である健人に全てを語る──
匿名での感想やメッセージなどはコチラへ💌
https://ofuse.me/e/32936
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる