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介入の痕跡
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■ 介入の痕跡
「攻撃が行われている痕跡をいくつか発見しました」
アンジェラがモニタに驚くべき画像を映した。
奇妙な服装をした女性たちが雑踏にたたずんでいる。
「二十世紀末の女性達です」
くるぶしまでの長いズボンを履いているのに、超ミニスカートを腰に巻いている。
そんなちぐはぐな服装を男性たちは日常として看過している。
「スカートという制度自体が男性社会の要請に基づくものですが、人類史に大きな影響を与えています。特権者の宗教支配戦略は、実に巧妙な陽動作戦に過ぎなかったのかもしれません。リアノンは女性待遇の構造矛盾の解決策として、二重構造を偽りのものではなく公然のものとして社会に押し付けた節がうかがわれます」
アンジェラにクラインが「抽象的な概念でなく具体例を挙げて欲しい」と頼む。
「彼女は自分の奇矯な世界観を社会に押し付けようと目論んでいます。彼女が求めているのは盛装と娼婦な服を重ね着し、街中で自由に切り替えても咎められない社会です。この映像をご覧ください。歴史アーカイブに二十世紀ニッポン、トーキョーの粗描です」
モニターには異様な光景が展開されている。
思春期の少女が平然と浜辺で服を脱ぎ、水着姿になっている。
開脚して座り込むスカート姿の娘。
コインロッカーで平然と着替える女子。
制服を脱ぎ、下着とおぼしき濃紺のフルバックショーツとクルーネックシャツ姿になり、私服を重ねる。
さきほどの下着すがたのままでスポーツをしている者も居る。
古着屋で脱ぎたてのスカートを売る少女。
非常識のオンパレード。咎めるものは居ない。
「こ、こんな大規模な介入が許されるのか? 確率変動攻撃……いや、大空爆じゃないのっ?!」
指令官という立場上、めったなことで動じたくてもできないクラインですら震え上がった。
「特権者戦争後の混乱で開戦以前の史実は不明瞭です。私もこんな史実があったとは驚きです。二十世紀をリアルタイムで過ごした復活者たちの体験談が主な情報源です。日本のサブカルチャーは二十一世紀初頭、クールジャパン政策の一環としてコンテンツの積極的な輸出が行われました。その中にJK、女子高校生を主題にした偶像崇拝があります」
「メイドサーバントが翼の上に服を重ね着して、飛ぶときに破り捨てるのは仕様のはずだが? 下着姿で出歩くわけにもいかない。だから、ビキニを着ている。ごく、当たり前の事だ。いや待て? おかしくはないか? わたしはなぜこんな事を言っているんだ? 水槽の脳仮説を前提とすると、我々の既成観念は水槽の持ち主が外挿した物なのか?」
メイドサーバントたちは水着の内ポケットに高密度圧縮収納した着替えカプセルを携帯している。さっと、一振りするだけで着替え一式になる。
「ごく一部ではありますが、服ビリとか重ね着とか言われているジャンルです。ここにリアノンが私たちの歴史に介入したと思われる、決定的な物的証拠があります」
アンジェラが古代のソフトウェアエミュレータを起動する。
直立不動の少女が微笑んでいるイラスト。カーソルで着ているものがドラッグ&ドロップできる。
セーラー服、体操服、スクール水着、三種の神器と書かれている。
「神器……決戦兵器か」
うなるクライン
「これはJAVA着せ替えアプレットと呼ばれる図上演習支援ソフトウェアのようですね。これほどの大規模な攻撃ですもの。敵は入念にシミュレーションしたのでしょう」
アンジェラがカーソルを動かすと、少女の下着がうごき、水着があらわれる。カーソルに「みじゅぎ」と表示される。
「下着の下に水着を着る習慣はなかった事を確認しています。これは将来の作戦計画でしょう」
「むう。資料によれば、セーラー服は当時の軍服を模していたそうだな」
「ですから、兵器への転用を前提に開発された、服装兵器といえるでしょう。各兵器にはグレードが存在するらしく、パンツ、ぱんちゅ、ぱんつなどの亜種を確認しました。さらに古老からすくーるみじゅぎに白ソックスの組み合わせは破壊力が大きい、との証言も得ています。共通点は……」
クラインが仰天する。
「は、破壊力とな?!」
「はい。破壊能力を持ちます。戦闘文学兵器の一種と言えます。全裸の上にエプロンのみを着用する、はだエプ、はだかでエプロンなる兵器の存在も確認されています」
クラインが机を叩く。
「おのれ! 特権者!! 二十世紀末。特権者戦争は奇襲などではなく、同時並行的で周到な準備の上だったのだ。まさか、服飾文化をまるごと乗っ取るとはな。盲点だったよ。他にも形を変えた侵攻があるのだろう。ぞっとするわ!」
「こちらの動画をご覧ください。どこかの礼拝堂でしょうか。ピラミッドを逆さにした神殿ですね。肌も露わな巫女たちに信者がひざまずいていますよ」」
数十万人規模の厳寒や炎天下の中で長蛇の列を作っている。苦行だろうか。巨大な神殿の内部に長机が並び、札束を握り締めて行列する若者。街には下着をのぞかせた少女の肖像が掲げられている。
何かの宗教らしい。食い入る様に教典をむさぼる若者。
「当時の日本のコンテンツ産業の市場規模は十一兆円と言われています」
「文化侵略が一国の経済を動かしていたのか。命までは取らぬ心理戦術とは言え、立派な大量破壊兵器ではないか」
げんなりするクライン。
「いえ、健康被害は出ていますよ。『ぐはぁっ、死ぬ』『萌え死ぬ』などの心気症、『ハァハァ』など呼吸困難などの症例が報告されています」
これはもう、生物兵器や化学兵器と同等の被害を及ぼす立派な精神的大量破壊兵器だ。
クライン作戦部長は真っ赤になって怒る。
「女性が衣服に執着するのは自然のこと。しかし本来の使用目的を捻じ曲げ、倒錯文化に貶めるとはっ!!」
アンジェラを睨む。
「君はチキ君を……彼女が最新兵器をめかしこんで愛嬌をふるまう分には異論がないだろう。あれを倒錯とは言わない。かわいい娘には……」
「あの子、またおねだりしたんですか? 部長、口元が緩んでますよっ♪」
「ぶわはは、よきに計らいたまい。看板娘の大活躍で志願者がうなぎ上りだ。かわいい娘には衣装ってな♪」
「娘ですか……部長、まだお子さんはいないのに……」
「家裁はわたしをバレンシアの後見人に選んだよ。法律上はかわいい娘だ」
クラインはウインクして見せる。
「攻撃が行われている痕跡をいくつか発見しました」
アンジェラがモニタに驚くべき画像を映した。
奇妙な服装をした女性たちが雑踏にたたずんでいる。
「二十世紀末の女性達です」
くるぶしまでの長いズボンを履いているのに、超ミニスカートを腰に巻いている。
そんなちぐはぐな服装を男性たちは日常として看過している。
「スカートという制度自体が男性社会の要請に基づくものですが、人類史に大きな影響を与えています。特権者の宗教支配戦略は、実に巧妙な陽動作戦に過ぎなかったのかもしれません。リアノンは女性待遇の構造矛盾の解決策として、二重構造を偽りのものではなく公然のものとして社会に押し付けた節がうかがわれます」
アンジェラにクラインが「抽象的な概念でなく具体例を挙げて欲しい」と頼む。
「彼女は自分の奇矯な世界観を社会に押し付けようと目論んでいます。彼女が求めているのは盛装と娼婦な服を重ね着し、街中で自由に切り替えても咎められない社会です。この映像をご覧ください。歴史アーカイブに二十世紀ニッポン、トーキョーの粗描です」
モニターには異様な光景が展開されている。
思春期の少女が平然と浜辺で服を脱ぎ、水着姿になっている。
開脚して座り込むスカート姿の娘。
コインロッカーで平然と着替える女子。
制服を脱ぎ、下着とおぼしき濃紺のフルバックショーツとクルーネックシャツ姿になり、私服を重ねる。
さきほどの下着すがたのままでスポーツをしている者も居る。
古着屋で脱ぎたてのスカートを売る少女。
非常識のオンパレード。咎めるものは居ない。
「こ、こんな大規模な介入が許されるのか? 確率変動攻撃……いや、大空爆じゃないのっ?!」
指令官という立場上、めったなことで動じたくてもできないクラインですら震え上がった。
「特権者戦争後の混乱で開戦以前の史実は不明瞭です。私もこんな史実があったとは驚きです。二十世紀をリアルタイムで過ごした復活者たちの体験談が主な情報源です。日本のサブカルチャーは二十一世紀初頭、クールジャパン政策の一環としてコンテンツの積極的な輸出が行われました。その中にJK、女子高校生を主題にした偶像崇拝があります」
「メイドサーバントが翼の上に服を重ね着して、飛ぶときに破り捨てるのは仕様のはずだが? 下着姿で出歩くわけにもいかない。だから、ビキニを着ている。ごく、当たり前の事だ。いや待て? おかしくはないか? わたしはなぜこんな事を言っているんだ? 水槽の脳仮説を前提とすると、我々の既成観念は水槽の持ち主が外挿した物なのか?」
メイドサーバントたちは水着の内ポケットに高密度圧縮収納した着替えカプセルを携帯している。さっと、一振りするだけで着替え一式になる。
「ごく一部ではありますが、服ビリとか重ね着とか言われているジャンルです。ここにリアノンが私たちの歴史に介入したと思われる、決定的な物的証拠があります」
アンジェラが古代のソフトウェアエミュレータを起動する。
直立不動の少女が微笑んでいるイラスト。カーソルで着ているものがドラッグ&ドロップできる。
セーラー服、体操服、スクール水着、三種の神器と書かれている。
「神器……決戦兵器か」
うなるクライン
「これはJAVA着せ替えアプレットと呼ばれる図上演習支援ソフトウェアのようですね。これほどの大規模な攻撃ですもの。敵は入念にシミュレーションしたのでしょう」
アンジェラがカーソルを動かすと、少女の下着がうごき、水着があらわれる。カーソルに「みじゅぎ」と表示される。
「下着の下に水着を着る習慣はなかった事を確認しています。これは将来の作戦計画でしょう」
「むう。資料によれば、セーラー服は当時の軍服を模していたそうだな」
「ですから、兵器への転用を前提に開発された、服装兵器といえるでしょう。各兵器にはグレードが存在するらしく、パンツ、ぱんちゅ、ぱんつなどの亜種を確認しました。さらに古老からすくーるみじゅぎに白ソックスの組み合わせは破壊力が大きい、との証言も得ています。共通点は……」
クラインが仰天する。
「は、破壊力とな?!」
「はい。破壊能力を持ちます。戦闘文学兵器の一種と言えます。全裸の上にエプロンのみを着用する、はだエプ、はだかでエプロンなる兵器の存在も確認されています」
クラインが机を叩く。
「おのれ! 特権者!! 二十世紀末。特権者戦争は奇襲などではなく、同時並行的で周到な準備の上だったのだ。まさか、服飾文化をまるごと乗っ取るとはな。盲点だったよ。他にも形を変えた侵攻があるのだろう。ぞっとするわ!」
「こちらの動画をご覧ください。どこかの礼拝堂でしょうか。ピラミッドを逆さにした神殿ですね。肌も露わな巫女たちに信者がひざまずいていますよ」」
数十万人規模の厳寒や炎天下の中で長蛇の列を作っている。苦行だろうか。巨大な神殿の内部に長机が並び、札束を握り締めて行列する若者。街には下着をのぞかせた少女の肖像が掲げられている。
何かの宗教らしい。食い入る様に教典をむさぼる若者。
「当時の日本のコンテンツ産業の市場規模は十一兆円と言われています」
「文化侵略が一国の経済を動かしていたのか。命までは取らぬ心理戦術とは言え、立派な大量破壊兵器ではないか」
げんなりするクライン。
「いえ、健康被害は出ていますよ。『ぐはぁっ、死ぬ』『萌え死ぬ』などの心気症、『ハァハァ』など呼吸困難などの症例が報告されています」
これはもう、生物兵器や化学兵器と同等の被害を及ぼす立派な精神的大量破壊兵器だ。
クライン作戦部長は真っ赤になって怒る。
「女性が衣服に執着するのは自然のこと。しかし本来の使用目的を捻じ曲げ、倒錯文化に貶めるとはっ!!」
アンジェラを睨む。
「君はチキ君を……彼女が最新兵器をめかしこんで愛嬌をふるまう分には異論がないだろう。あれを倒錯とは言わない。かわいい娘には……」
「あの子、またおねだりしたんですか? 部長、口元が緩んでますよっ♪」
「ぶわはは、よきに計らいたまい。看板娘の大活躍で志願者がうなぎ上りだ。かわいい娘には衣装ってな♪」
「娘ですか……部長、まだお子さんはいないのに……」
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