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揺れるレガシー
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「失礼、ご存知ないのですね、あなたの親権者である田貫大吉さんは五日前に脳梗塞で亡くなりました」
突然のことに驚きを隠せないが続けて問う智恵理。
「 えぇー、ほんとう?……でもそう言われても実感がないなぁ」
男は気の毒そうに伝えた。
「まあ、前にお会いになったのは貴方がまだ小学一年生の頃ですからね。ところでお父さんが残してくれたものなどは何かありませんか? 相続放棄されていれば受け取る権利はなくなり、そのまま消えてしまいますが……」
男が急かすように言う。そんなことより父が死んだという事実の方が衝撃的だ。母の病死でさえ未だ受け止められていないというのに、まさか父親も亡くなるだなんて。
「うぅ……、そういわれれば机の中に預金通帳と判子、印鑑が入ってたような気がしないでもないような……」
(なんだそれ?)
男の声が漏れたが、よく聞こえなかったので、もう一度言ってほしいと思った。相続手続きに必要な書類を揃えるため情報が必要だという。
「確か父のメインバンクは八角銀行」
「わかりました、ありがとうございます、早速銀行に行ってみましょう。」
住所は下田市内の某所だ。
男の運転する車に乗り込むと、先ほどの住所へと走っていく。車内は沈黙が続き居心地が悪いのになぜかシートの座り心地は良いのでますます気分が悪くなる。そこで八角銀行前のコンビニで智恵理を降ろした。お手洗いを借りている間に男は用事を済ませた。
しばらく走ったのち着いたところはかなりの豪邸で、男がインターホンを押して来訪を伝えるとしばらくして玄関が開き、男が「こちらへどうぞ」と言い智恵理の手を引いて中に入る。
「ただいま戻りました。連れてきましたよ。」
男が言う。そこには、四十半ばほどに見える女がいた。
「ああ! やっと来てくれたんですね!」
そう言って女は智恵理に抱きついてきた。
「え?え?え?」
智恵理は状況が掴めずに困惑するばかりだった。
女が離れ智恵理は改めて自己紹介することになった。
「大吉の母の明恵といいます。」
そういう彼女の目元には涙が溢れていた。
「はじめまして。」
智恵理はぎこちなく挨拶をするしかなかった。
その後に大吉の部下と名乗る男から、
父の死について聞かされた。どうやら父は女癖の悪い男だったらしく、その女が産んだ子供が智恵理ということらしい。
智恵理は呆気に取られたが、父が母以外に愛人を作り、子供を産んだことがショックで怒りすら覚えるのであった。
その後、智恵理は父の遺体を見たかったが、母曰く、遺体を見て取り乱すのではないかと、見せてもらえなかった。
祖母は今の状況でこれから生活していくのが大変なのに智恵理を引き取ることはできないと言ったが、このまま置いて行かれた方が心配だと思った智恵理はそれを断るも祖母の優しさに感謝する。
「ではとりあえず、当面必要なお金をお貸しするので働いて返してくださいね」
祖母は笑顔を見せるのだった。
こうして始まった、祖父母と孫の奇妙な同居だったがすぐに終わりを迎えることになった。それは、ある日突然起こった地震が原因である……。
すんちゃちゃ、ずんちゃちゃ、すんちゃっちゃ♪
天変地異の癖にゴキゲンなウェーブである。
智恵理は突然のことに驚きつつ「これはかなり大きいわよ!」と言い、玄関から逃げようとするもすでに遅い、天井が崩れ智恵理は挟まれてしまった。
祖母は「智恵理さんが死んでしまいました、どうしたらよいでしょうか?!」と連絡が入り慌てている。
しかし、消防団員の祖父から見れば「お前の孫だろ、なんとかしろよ!こっちは今から出なきゃいけないんだよ!!」といった感じである。
「ずんちゃちゃ、パパパターヤ」
祖母は完全にパニック状態だ。ほどなく消防隊の面々が到着して智恵理は無事救助されたが、祖父母家は一階部分がぺちゃんこだ。
仕方なく祖父は、智恵理の部屋にいき預金通帳を探し出し自分の名前を記入、預金の引き落とし処理を行い、孫娘名義の物件を借りた。
「あとで不動産屋にも話つけてこいよ」
智恵理の財産はこれで全て消え去った。
「ずんちゃちゃ。パパパヤーヤ」
地震の後遺症で祖母はボケてしまった。
「おい! まだ唸ってるのか!俺はもう出るから、鍵しめとけよ」
避難所へ行こうとする。
そういう祖父に智恵理は泣きつくも無視されてしまう。「お爺ちゃんひどいじゃない!」
昔からこういう人だとは聞いていたが、あまりに昭和の家長すぎる。
女の人権などないに等しい時代の生まれだから即断即決で何でも進めていく。
智恵理の怒声もむなしく父はそのまま車で走り去っていくのであった。
智恵理は呆然としながらもとりあえず外に向かうため靴を履く。
外に出て辺りを見ると家が建ち並ぶ住宅街で見たことある家も多いが見慣れない風景でもある、しかし、空を見上げると青空で鳥も飛んでいるので安心した、とりあえず駅前の商店街に行き「八角銀行」のATMを探すことにしよう。そう思って歩いているが道行く人々は皆、防災スタイルに身を包んでいる。そのせいか少し場違いなところに来てしまった気がする。しばらく歩くも見つからず諦めかけたその時に、ようやく傾いた銀行の看板を見つけた。
さいわい、倒壊は免れたらしくATMは稼働中である。
「ここね!」
智恵理は中に入り受付のお姉さんに声をかけると怪しまれてしまう。
智恵理は「お母さんから、八角銀行の人に渡してほしいって」と言って「ずんちゃっちゃ」と書かれた紙袋を渡した
受付のお姉さんはその中身を確認して「ちょ…これ、ずんちゃっちゃ?」
驚愕する、
「あなたお名前は?」
「私? えーっと……、えー、……、……えー……。……あー!そうそう!『佐藤智恵里』です」
そう言って名乗るも当然だが信用されない、すると窓口の人がこんな反応をした。
突然のことに驚きを隠せないが続けて問う智恵理。
「 えぇー、ほんとう?……でもそう言われても実感がないなぁ」
男は気の毒そうに伝えた。
「まあ、前にお会いになったのは貴方がまだ小学一年生の頃ですからね。ところでお父さんが残してくれたものなどは何かありませんか? 相続放棄されていれば受け取る権利はなくなり、そのまま消えてしまいますが……」
男が急かすように言う。そんなことより父が死んだという事実の方が衝撃的だ。母の病死でさえ未だ受け止められていないというのに、まさか父親も亡くなるだなんて。
「うぅ……、そういわれれば机の中に預金通帳と判子、印鑑が入ってたような気がしないでもないような……」
(なんだそれ?)
男の声が漏れたが、よく聞こえなかったので、もう一度言ってほしいと思った。相続手続きに必要な書類を揃えるため情報が必要だという。
「確か父のメインバンクは八角銀行」
「わかりました、ありがとうございます、早速銀行に行ってみましょう。」
住所は下田市内の某所だ。
男の運転する車に乗り込むと、先ほどの住所へと走っていく。車内は沈黙が続き居心地が悪いのになぜかシートの座り心地は良いのでますます気分が悪くなる。そこで八角銀行前のコンビニで智恵理を降ろした。お手洗いを借りている間に男は用事を済ませた。
しばらく走ったのち着いたところはかなりの豪邸で、男がインターホンを押して来訪を伝えるとしばらくして玄関が開き、男が「こちらへどうぞ」と言い智恵理の手を引いて中に入る。
「ただいま戻りました。連れてきましたよ。」
男が言う。そこには、四十半ばほどに見える女がいた。
「ああ! やっと来てくれたんですね!」
そう言って女は智恵理に抱きついてきた。
「え?え?え?」
智恵理は状況が掴めずに困惑するばかりだった。
女が離れ智恵理は改めて自己紹介することになった。
「大吉の母の明恵といいます。」
そういう彼女の目元には涙が溢れていた。
「はじめまして。」
智恵理はぎこちなく挨拶をするしかなかった。
その後に大吉の部下と名乗る男から、
父の死について聞かされた。どうやら父は女癖の悪い男だったらしく、その女が産んだ子供が智恵理ということらしい。
智恵理は呆気に取られたが、父が母以外に愛人を作り、子供を産んだことがショックで怒りすら覚えるのであった。
その後、智恵理は父の遺体を見たかったが、母曰く、遺体を見て取り乱すのではないかと、見せてもらえなかった。
祖母は今の状況でこれから生活していくのが大変なのに智恵理を引き取ることはできないと言ったが、このまま置いて行かれた方が心配だと思った智恵理はそれを断るも祖母の優しさに感謝する。
「ではとりあえず、当面必要なお金をお貸しするので働いて返してくださいね」
祖母は笑顔を見せるのだった。
こうして始まった、祖父母と孫の奇妙な同居だったがすぐに終わりを迎えることになった。それは、ある日突然起こった地震が原因である……。
すんちゃちゃ、ずんちゃちゃ、すんちゃっちゃ♪
天変地異の癖にゴキゲンなウェーブである。
智恵理は突然のことに驚きつつ「これはかなり大きいわよ!」と言い、玄関から逃げようとするもすでに遅い、天井が崩れ智恵理は挟まれてしまった。
祖母は「智恵理さんが死んでしまいました、どうしたらよいでしょうか?!」と連絡が入り慌てている。
しかし、消防団員の祖父から見れば「お前の孫だろ、なんとかしろよ!こっちは今から出なきゃいけないんだよ!!」といった感じである。
「ずんちゃちゃ、パパパターヤ」
祖母は完全にパニック状態だ。ほどなく消防隊の面々が到着して智恵理は無事救助されたが、祖父母家は一階部分がぺちゃんこだ。
仕方なく祖父は、智恵理の部屋にいき預金通帳を探し出し自分の名前を記入、預金の引き落とし処理を行い、孫娘名義の物件を借りた。
「あとで不動産屋にも話つけてこいよ」
智恵理の財産はこれで全て消え去った。
「ずんちゃちゃ。パパパヤーヤ」
地震の後遺症で祖母はボケてしまった。
「おい! まだ唸ってるのか!俺はもう出るから、鍵しめとけよ」
避難所へ行こうとする。
そういう祖父に智恵理は泣きつくも無視されてしまう。「お爺ちゃんひどいじゃない!」
昔からこういう人だとは聞いていたが、あまりに昭和の家長すぎる。
女の人権などないに等しい時代の生まれだから即断即決で何でも進めていく。
智恵理の怒声もむなしく父はそのまま車で走り去っていくのであった。
智恵理は呆然としながらもとりあえず外に向かうため靴を履く。
外に出て辺りを見ると家が建ち並ぶ住宅街で見たことある家も多いが見慣れない風景でもある、しかし、空を見上げると青空で鳥も飛んでいるので安心した、とりあえず駅前の商店街に行き「八角銀行」のATMを探すことにしよう。そう思って歩いているが道行く人々は皆、防災スタイルに身を包んでいる。そのせいか少し場違いなところに来てしまった気がする。しばらく歩くも見つからず諦めかけたその時に、ようやく傾いた銀行の看板を見つけた。
さいわい、倒壊は免れたらしくATMは稼働中である。
「ここね!」
智恵理は中に入り受付のお姉さんに声をかけると怪しまれてしまう。
智恵理は「お母さんから、八角銀行の人に渡してほしいって」と言って「ずんちゃっちゃ」と書かれた紙袋を渡した
受付のお姉さんはその中身を確認して「ちょ…これ、ずんちゃっちゃ?」
驚愕する、
「あなたお名前は?」
「私? えーっと……、えー、……、……えー……。……あー!そうそう!『佐藤智恵里』です」
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