VMW部

もちぃ

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VMW部をどうぞよろしく

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仮想世界。

バーチャルリアリティとも言われており、意識を仮想空間に飛ばし、そこで構成された世界を現実と同じような感覚で体験することができる。

最初はゲームやVRを使ったアトラクションなどでその名が知られるようになり、最近では仮想世界で仕事をすることができる、通称バーチャル勤務や自動車教習で仮想世界を使い、現実の路上さながらの技能教習が受けられるなど、様々な分野で大きな功績をもたらしている。さらにバーチャルワールドの分野はまだまだ発展を続けており、ついに高校の部活動にも利用されるようになった。

それが、バーチャルマジックウォー、通称VMW。仮想世界で魔法を放ち戦う。1チーム30人の対人戦で、それぞれのプレイヤーが魔法を使い相手チームのプレイヤーを攻撃。相手を戦闘不能にし戦況を有利に運び、相手チームの総大将を倒した方の勝利となる。

激しくエキサイティングな戦闘が繰り広げられるが、仮想世界で怪我をしても現実世界には全く影響はなく、世界で最も安全なスポーツとして期待されている。

「…軽いルールの説明はそんなところかな。どうだい?話を聞くだけで入部したいと思うだろう?VMW部はいつでも部員を募集中さ!さぁ君もレッツ魔法!」

…しかしここ柊星高校においては未だにVMWの認知度は低く、今日も今日とて僕は部員を募集しているわけである。

「おーい、大志くん。中山大志くーん?」

「なんだね我が親友の不知火智久くん。」

「えぇなにそのテンション…。コホン、僭越ながら言わせてもらいますが、ほぼ全ての新入生がそれぞれの部活に入った今、勧誘なんかしても部員の増加は期待できないと思われます。」

「…まだ勝負は終わってない。」

「終わってるよ。5回コールド負けだよ。」

「…くそぅ!」

智久の言葉に肩を落とす。彼の言う通り、6月も中盤に差し掛かった今、部活に入っていない生徒などほとんどいないだろう。柊星高校はここ最近、市立高校ながら運動部にかなり力を入れており、各部活それぞれが全国レベルだ。

当然、部活動目的でここに入部している生徒も多く、去年できたばかりのVMW部に興味を持ってくれる生徒などいない。

「…はぁ。今年もまた部員は僕だけか。」

いや、正確には2人か。もう1人の部員はほとんど活動していないから忘れていた。柊星高校は必ず部活に所属しないといけないという、公立高校特有の謎ルールがある。

部活動目的で柊星高校に入る生徒は多いが、当然そうでない生徒もいる。僕みたいに家から近いからここを選んだって人も少なくないだろう。そういった人々は部活に対して大きな思い入れはない。

しかし部活動に所属することを強制され、その殆どが強豪ゆえに厳しい練習が待ち受けている。となると写真部や茶道部といった文化部や、もはや部活として形骸化しているVMW部に幽霊部員として入部届を出すのだ。もう1人のVMW部員もそんな感じだろう。

「いっそのこと退部して他の部活にでも入れば?俺のいる野球部はマネージャー募集してるし。大志もどう?」

「なんで僕がマネージャーなんだよ。そういうの女の子がやるべきだろ。想像してみてよ、僕が頬を赤らめながらタオルを渡す姿を。」

『せっせんぱい!あ、あの…これ使ってください!』とモジモジしながら智久にタオルを渡す僕。

うん、死ぬほど気持ち悪い。

マネージャー、それも野球部のとなれば女の子から人気はありそうだが、柊星高校は女子の部活も強豪なのでそっちに人が流れていっているのだろう。

「いや、意外と需要あるよ。俺の友達も、大志は意外とガッチリした身体つきに可愛らしい顔、真面目にしているけどちょっと抜けているところが最高に食べちゃいたいって言ってたよ。」

「あはは、面白い友達だね。なかなかユーモアのセンスがあるよ。」

「……」

「…え?冗談だよね?まさかそんな子いるわけないよね?ねぇ!なんで目をそらすのさ!」

「ちなみにその友達、彼女は1度も出来たことないらしい。」

「へぇー、そうなんだ。まぁ、まだ高校生だし別に珍しくはないんじゃないかな?」

「うん。彼氏はできたことあるらしいけど。」

「…確認だけどその友達って、」

「男。それもすっごい筋肉質。」

男:人間の性別の一つで、女ではない方。僕と同性

おかしいな。震えが止まらないぞ。風邪かな?まさか僕がソッチ系の人々から人気があるとは…全く嬉しくはないが。

「ま、まぁ、そんなことより、何人かVMWに興味持ち始めた後輩いるからさ。また部室にお邪魔させてもらうよ。」

申し訳なさそうに智久が言う。仮想世界に行くにはそこそこ面倒な手順がある。原理はよくわからないが、その作業が仮想世界に行くことを可能にしている。

智久はなんどかVMWを体験しており、今もなお部員を連れて遊びに来てくれる。毎日部室に1人でいるだけの僕にはかなりありがたい。

「いつもありがとう智久。」

「いいんだよ。俺も楽しくてやってるんだし。野球がなければ確実にVMW部に入部してただろうね。」

「じゃあ智久の野球の才能が消えるよう祈っとくね。」

「あははぶっ殺すよ?」

「世界一爽やかに世界一恐ろしい暴言を吐かないでくれない!?」

智久は甲子園常連の柊星高校野球部で、1年でベンチ入り、2年生の今はエースとして名を馳せている。容姿の良さも相まってファンもたくさんいるらしい。べっ別に羨ましくなんかないんだからねっ。ただちょっと、死ぬほど妬ましいだけなんだからねっ。

『おい智久ぁ!いつまでサボってんだ?』

「っす!今行きますキャプテン!…ごめん大志。そろそろいかなきゃ。」

申し訳なさそうに智久が言う。どうやら野球部の練習をこっそりと抜けてきたようだ。そこまでして僕と話したかったのか…そんなに僕のことが好きなのか?

っは!?も、もしや智久は本気で僕の事を…?

前々からおかしいと思っていたんだ。なぜここまで完璧超人の智久が女の噂一つないのかということを。

智久の恋愛対象が男であると仮定するならばその疑問は払拭される。そして部の練習をサボってまで僕に会いに来るということは、智久の想い人は僕…!?

「…ごめん智久。僕は智久を親友以上には見れないんだ。」

「…なんか今の一瞬で凄い誤解を受けた気がする。ほんと、思い込みが激しいなぁ大志は。」

智久との関係をもう一度考えてみる必要があるかもしれない。
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