後姿と煙草

zig

文字の大きさ
上 下
2 / 9

2 喧騒。校舎前にて

しおりを挟む
 いつまでもふさぎ込んだ気持ちではいけない。明日は土曜日だ。夜はゆっくり好きな曲を聴きながらベッドの上で休もうと考えていると、不意に校門が騒がしいことに気が付いて顔を上げる。
 いつの間にか学校と外を分ける線の一歩手前まで歩いていた。

 学校から見て真正面、車道を挟んだところにあるガードレールの手前に、一人の男が若干下を向く形でこちらを向いていた。大きな黒いバイクが腰かけ台となり、彼の長い脚の上にある腰を支えている。
 百八十後半はある彼の手足は長い。赤いVネックシャツを除けば、靴からボトムス、羽織るジャケットまで黒い。細見の身体に無駄なく合わせた服は、彼のすらっとした体格を更に強調していた。
 彼を遠巻きに眺める下校途中の生徒達は、一様に彼についての会話に興じながら歩き去って行った。喧騒の中心は、むしろ彼を相手に話す教師だ。
 短髪の黒髪が似合う彼の顔は、若干罰が悪い表情を浮かべながら右隣にいる教師の話しを聞いていた。
 その様子に驚いた私は、思わず彼に声をかけて近寄った。
「大地!」
 予想以上に響いた声に反応した彼と女性教師は瞬間的に私を見た。
 途端に彼の顔が明るくなる。
「よっ!優花!」
「優花さん!?」
 一度に二人から声を掛けられたが、私はそのまま彼に話しかける。
「ちょっと、何やってんの!」
「いや、お前を待ってたんだよ」
「こんなところで待たなくてもいいじゃん!もうちょっと場所考えてよ!」
「ごめんごめん」
 軽く謝りながら、人懐こい笑顔を見せる。すると、手に持っていたバイクのヘルメットを私めがけて放り投げてきた。慌ててキャッチする。
「というわけで優花来たから、俺もう行くわ!優花!早く乗れ!」
「はぁ!?」
「ちょっと!大地君!?」
 驚く私と先生の声を置いてけぼりにして、大地は発進準備を進める。
 激昂する先生が大地に声を荒げているが、大地は気にせず左手の親指で後部座席を示し、乗車を促してくる。
 早く!という声に押されるように飛び乗り、ヘルメットを締めて大地の身体に手を回す。
 大地は肩越しに私を一瞥して確認した後、先生に向かって別れを告げ発進する。
 瞬間、学校と先生が置き去りになった。
 先生が何か叫んでいたが聞き取れない。言葉も置き去りにして、通学路の並木道を走り抜ける。
 あいつも変わんねーよな、と大声で話しかけてくる大地は、私と共に愛車で街を走り抜けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の隣は、心が見えない男の子

舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。 隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。 二人はこの春から、同じクラスの高校生。 一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。 きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

ザ・グレート・プリン

スーパー・ストロング・マカロン
青春
誕生日の夜、30歳になった佐山美邦(みくに)は寄り道をした埠頭で同じアパートの隣に引っ越して来たばかりのシングルマザーを見かける。 彼女はとある理由から男達と街を去る事になった。 その際、彼女から頼み事をされてしまい断りきれず引き受けてしまう。この日を契機に佐山の生活は一変する。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

ガイアセイバーズ spin-off -T大理学部生の波乱-

独楽 悠
青春
優秀な若い頭脳が集う都内の旧帝大へ、新入生として足を踏み入れた川崎 諒。 国内最高峰の大学に入学したものの、目的も展望もあまり描けておらずモチベーションが冷めていたが、入学式で式場中の注目を集める美青年・髙城 蒼矢と鮮烈な出会いをする。 席が隣のよしみで言葉を交わす機会を得たが、それだけに留まらず、同じく意気投合した沖本 啓介をはじめクラスメイトの理学部生たちも巻き込んで、目立ち過ぎる蒼矢にまつわるひと騒動に巻き込まれていく―― およそ1年半前の大学入学当初、蒼矢と川崎&沖本との出会いを、川崎視点で追った話。 ※大学生の日常ものです。ヒーロー要素、ファンタジー要素はありません。 ◆更新日時・間隔…2023/7/28から、20:40に毎日更新(第2話以降は1ページずつ更新) ◆注意事項 ・ナンバリング作品群『ガイアセイバーズ』のスピンオフ作品になります。 時系列はメインストーリーから1年半ほど過去の話になります。 ・作品群『ガイアセイバーズ』のいち作品となりますが、メインテーマであるヒーロー要素,ファンタジー要素はありません。また、他作品との関連性はほぼありません。 他作からの予備知識が無くても今作単体でお楽しみ頂けますが、他ナンバリング作品へお目通し頂けていますとより詳細な背景をご理頂いた上でお読み頂けます。 ・年齢制限指定はありません。他作品はあらかた年齢制限有ですので、お読みの際はご注意下さい。

ヘブンズトリップ

doiemon
青春
理不尽な理由で病院送りにされた主人公は、そこで面識のない同級生の史彦と出会う。 彼はオカルト雑誌に載っていた亜蘭山の魔女を探しに行こうと提案する。 二人は病院を抜け出し、亜蘭山までドライブすることになるのだが、そこにはとんでもないトラブルが待っていた。

処理中です...