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幕間
第33話 聖剣の勇者
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河に浮かぶ船の上。
「うおお!」
雄叫びを上げながら、聖なる鎚矛を振り下ろすジークハルト。
ぬらぬらとした光沢を放つ緑の鱗の蜥蜴人は、右手の小円盾で受け止めはしたものの勢いを殺すことはできず、脳天に直撃を食らう。
「グゲラッ!」
頭を割られ、奇妙な声を上げ血を吐いて倒れる蜥蜴人。
しかし蜥蜴人は次から次へと甲板に這い上がってきて、仲間がやられても恐れる様子など無く向かってくる。
「蜥蜴ども多すぎる!」
ジークハルトは忌々しげに愚痴をこぼした。
ポルカ半島のほぼ中央のキタンから見て北西、グレイズ王国と半島の境界線であるトスカ河河口の三角州に建つ都市ケセラ。南方海に面した港湾都市。
お披露目を終えたキャサリンとジークハルトはそこにいた。
理由はと言うと、目の前にうじゃうじゃと群がる蜥蜴人である。
このケセラは、グレイズ側の河口にある大湿原に棲む魔族の蜥蜴人に昔から悩まされてきた。
近年は特に被害が大きく、やって来る船の一割近くが襲われて、商船が寄りつかなくなっていた。
来る船が少なくなり寂れる町。
冒険者や聖堂騎士団が追い払ったり大湿原に攻めてはいるものの、鬱蒼とした湿原の中に潜む蜥蜴人を根絶することはできなかった。
困り果てたケセラの領主は、百五十年ぶりに誕生したと発表のあった勇者に賭けることにしたのだ。
ケセラの領主からの陳情を受けた法王庁は、勇者を宣伝するいい機会だと二つ返事で承諾し、キャサリン一行を向かわせた。
そして、ケセラに到着した勇者ご一行は歓待を受けた後、船に乗って対岸の大湿原へと向かうこととなる。
で、この状況である。
船の外壁を這い上り、甲板に上がってくる蜥蜴人。
「せいやあ!」
キャサリンも天の栄光を振るって蜥蜴人どもを屠り、甲板から蹴落としている。
天の栄光の刃は眩い光に包まれており、それなりの硬さを誇る蜥蜴人の鱗に包まれた体をいとも容易く切り裂いていく。
いや、その切断面はまるで火で焼かれたかのようになっているのを見ると、圧倒的な光の熱量で焼き切っているのか。
「神よ、悪しき魔族に神罰を! 神聖衝撃!」
司祭の服を着た栗毛の若い女性の神官が、攻撃的な神聖術を唱え、蜥蜴人を、河に叩き落としている。
サマンサ。キャサリンの身の回りの世話をするためにつけられた女性の同年齢の神官だ。
とは言え、それなりであったキャサリンとは違い、故郷で神童と呼ばれて才能を見込まれて法王庁勤めになった有望株である。
「どっせい!」
そして、声を上げながら星球鎚矛を振るっているのは、勇者ご一行最後の一人のリカルドだ。
無精髭を生やしたオッサンであり、装備は星球鎚矛に方形盾、板金鎧と、これぞ聖堂騎士団と言った感じである。
このリカルドは、グレイズ支部団長だったクリントの同期の聖堂騎士であり、キャサリンがクリントの薫陶を受けていたことを知るや、お供に名乗り出たのだ。
勇者であるキャサリンを筆頭に、ジークハルト、サマンサ、リカルドの四人が勇者パーティと言うことになる。
勇者の一行としては人数が足りないのでは、と言う言葉もあったが、勇者のキャサリンの『無駄に人数多いのは嫌だ』の一声により、少数精鋭でいくことになったのだ。
「全くきりが無いな」
リカルドが盾の一撃で蜥蜴人を河に落としながら呟く。
そんなことを言っているが、その顔には一切疲労の色は見えておらず、四人中で最も精力的に動いている。
さすが、あのクリントの友だっただけのことはある豪傑ぶりだ。
『こ、このオッサン。体力、底無しか?』
ジークハルトは息切れを起こしながらも、何とかリカルドの後を追うように蜥蜴人を叩き落としている。
「さすがクリント支部団長のお友達……」
リカルドの暴れっぷりを横目で見つつ、こちらも息切れをしながら蜥蜴人と切り結ぶキャサリン。
蜥蜴人は右手に小円盾、利き腕の左手には新月刀を構えていた(蜥蜴人は左利き)。
「グゲッ!」
奇声を上げながら、新月刀を振るってくる蜥蜴人。
その攻撃を方形盾で受け止めながら、聖なる鎚矛を繰り出すジークハルト。
この聖なる鎚矛は、神が使っていたとされる神聖文字が刻まれた鎚矛であり、その一撃は聖なる波動を宿す。
キャサリンのお供として与えられた法具である。
サマンサも、強力な力の篭められた護符を与えられており、『使い慣れたもんしか使いたくない』と言って断ったリカルド以外は、勇者ご一行として恥ずかしくない装備を持っていた。
『ふむ、奴ら退いていくな。これ以上やっても無駄だと分かったらしい』
天の栄光の声がキャサリンの脳裏に響く。
その言葉通り、蜥蜴人たちは船から離れて湿原の方へと逃げて行っていた。
「取りあえず終わりか?」
滝のような汗をかきながら、退いていく蜥蜴人を見送るジークハルト。
「ふいぃ……疲れました」
甲板にへたり込むサマンサ。
「なんだなんだ、だらしねぇな。これぐらいで」
一人だけ元気なリカルドが、若者三人を見て苦笑する。
『ま、彼奴の言うとおりだな。皆、貧弱すぎる。お前も含めて』
心に直接響いた聖剣の言葉に、キャサリンは歯噛みした。
確かに聖剣の勇者ご一行としては、自分たちは弱すぎるのだろう。それは分かっている。
しかし、それを言葉に出して言われるとめげる。
『弱いと言われて悔しいか? ならば強くなれ……〈奴〉なら、そう言うだろうな』
後半の天の栄光の言葉に頭を傾げるキャサリン。
「〈奴〉? 一体、誰?」
その疑問は、即座に一蹴された。
『戯れ言よ、気にするな。〈奴〉とお前が会うことなどは無いだろうからな。とにかく、お前らは聖剣の勇者とその供として相応しい強さを身につけろ。私に恥を書かせるな』
反論を許さない高圧的な聖剣の言葉に首を竦めるキャサリン。
「聖剣様は何て言ってるんだ?」
天の栄光と会話していると気付いたのだろう、リカルドが聞いてきた。
「え、と……」
言い淀むキャサリンに、
「そのまま言ってくれ。俺らは聖剣の勇者ご一行なんだから、それに従うしかねえからな」
とリカルドは苦笑気味に笑いながら言った。
「はい……お前ら弱すぎ強くなれ。だそうです」
少し脚色し、聖剣の言葉を伝える。
「弱すぎ、か……手厳しいが、確かにその通りだな。これぐらいでへばってるようじゃ。キャサリンにジークハルト、蜥蜴退治が終わったら揉んでやっから覚悟しとけ」
うへぇ、という表情になるキャサリンとジークハルト。
「あ、あのう、リカルド様。勇者様を呼び捨てにするのは……」
聖剣の勇者であるキャサリンを呼び捨てにしたことを咎めるサマンサ。
「ああいいよ、サマンサ。そっちの方が気が楽だから。サマンサも、私たちだけの時は敬語は止めてね」
キャサリンは、硬さの取れないお供の女性に、目尻を下げた困り顔で言った。
「で、ですが」
「お願い」
「分かりまし……分かったわ、キャサリン。これでいいのね?」
敬語を使い掛け、普通の言い回しに直したサマンサに礼を言う。
「ありがとう。私は勇者なんて言っても、ただ聖剣を抜けただけ。全然、それに相応しい実力なんて無いの。だから、公的なところではともかく、普段は普通に接してください」
旧知のジークハルト以外の二人、サマンサとリカルドにそう言って頭を下げるキャサリンだった。
「ああ、それでお前の気が抜けるならな」
「ええ。この四人だけの時は、そうしましょう」
リカルドとサマンサの返事を聞き、笑みを浮かべるキャサリンだった。
* * *
大湿原の奥地で、蜥蜴人との決戦が始まった。
三桁を超える数の蜥蜴人の群れ、そしてその最奥に立つ一回り大きな体格の蜥蜴人。
「あの、デカいのが一族の長ってとこか。で、どうします?」
ジークハルトが最年長で戦闘経験豊富なリカルドに意見を求める。
「全部相手にしてたらきりが無いから、中央強行突破で頭を叩く。おそらく、あの長を倒せば散り散りになるはずだ。烏合の衆と化せば、後は地元の冒険者で対処可能だろう」
リカルドの言葉で戦法は決まった。
そして……
周りを蜥蜴人に囲まれながら、
「ライジング・サン!」
叫んで、最上段から振り下ろした聖剣を地面に叩きつけるキャサリン。
そこを起点に広がる圧倒的な光の波動。
波動を浴びた蜥蜴人が、火に焼かれたように消し炭になっていく。
「凄えな、これは」
「これが聖剣の力……」
「凄いです! 凄いです!」
光で目をやられないように薄目になりながら、その光景を見ての三人の声。
半分、呆れた口調のリカルド。呆然とするジークハルト。只ひたすら賞賛のサマンサ。
群れに突っ込もうとしたときに、天の栄光から提案があったのだ。
群れの真ん中で自分が力を発揮すれば蹴散らせると。
それを信じて、強行突破で群れの中央まで移動し、技を発動 (因みにこの技名は先代勇者の命名だそうな)。
朝焼けの光のように広がり続ける波動に次々と焼かれていく蜥蜴人。
浮き足立ち、光から逃げようと一目散に散り散りになっていく。
長が声を張り上げるが、もはや恐怖に駆られた下っ端の逃亡は止められない。
『ふん、私の力の前には蜥蜴人など物の数ではないわ。よし、キャサリン。後は、あのデカブツを倒せば終わりだ』
「はい!」
偉そうな聖剣の言葉に返事をし、喚き続ける長に向かって走るキャサリン。
その後に続くジークハルトたち三人。
「ギャギャ?!」
駆け寄ってくる四人に気付いた長が、新月刀と小円盾を構える長。
長を守ろうとする気骨のある蜥蜴人も何匹かいたが、それの相手はジークハルトとリカルドが受け持った。
キャサリンと長の一騎打ち状態。
『迷うことはない! 真っ向からやれ、キャサリン!』
「やああ!」
天の栄光の声を受け、雄叫びを上げて剣を振り下ろす。
剣技もクソもないソレは、当然の如く長の新月刀で受け止められるが、剣の格が違いすぎた。
容易く新月刀を叩き折り、長の左肩口から入った刃は右脇腹へと抜ける。
一撃、それで勝負は決まった。
体を斜めに両断され地に倒れる長。
「グゲゲ?」
「グゲ?」
長がやられたことに気付き、奇声を上げて逃げようとする側近。
しかし、ジークハルトとリカルドによって逃走は阻止され、鎚矛と星球鎚矛の錆と化した。
こうして、蜥蜴人討伐はかなり呆気なく成功をおさめ、勇者の業績として法王庁に宣伝されることになる。
キャサリン本人の意思とは裏腹に。
聖剣の勇者 終了
「うおお!」
雄叫びを上げながら、聖なる鎚矛を振り下ろすジークハルト。
ぬらぬらとした光沢を放つ緑の鱗の蜥蜴人は、右手の小円盾で受け止めはしたものの勢いを殺すことはできず、脳天に直撃を食らう。
「グゲラッ!」
頭を割られ、奇妙な声を上げ血を吐いて倒れる蜥蜴人。
しかし蜥蜴人は次から次へと甲板に這い上がってきて、仲間がやられても恐れる様子など無く向かってくる。
「蜥蜴ども多すぎる!」
ジークハルトは忌々しげに愚痴をこぼした。
ポルカ半島のほぼ中央のキタンから見て北西、グレイズ王国と半島の境界線であるトスカ河河口の三角州に建つ都市ケセラ。南方海に面した港湾都市。
お披露目を終えたキャサリンとジークハルトはそこにいた。
理由はと言うと、目の前にうじゃうじゃと群がる蜥蜴人である。
このケセラは、グレイズ側の河口にある大湿原に棲む魔族の蜥蜴人に昔から悩まされてきた。
近年は特に被害が大きく、やって来る船の一割近くが襲われて、商船が寄りつかなくなっていた。
来る船が少なくなり寂れる町。
冒険者や聖堂騎士団が追い払ったり大湿原に攻めてはいるものの、鬱蒼とした湿原の中に潜む蜥蜴人を根絶することはできなかった。
困り果てたケセラの領主は、百五十年ぶりに誕生したと発表のあった勇者に賭けることにしたのだ。
ケセラの領主からの陳情を受けた法王庁は、勇者を宣伝するいい機会だと二つ返事で承諾し、キャサリン一行を向かわせた。
そして、ケセラに到着した勇者ご一行は歓待を受けた後、船に乗って対岸の大湿原へと向かうこととなる。
で、この状況である。
船の外壁を這い上り、甲板に上がってくる蜥蜴人。
「せいやあ!」
キャサリンも天の栄光を振るって蜥蜴人どもを屠り、甲板から蹴落としている。
天の栄光の刃は眩い光に包まれており、それなりの硬さを誇る蜥蜴人の鱗に包まれた体をいとも容易く切り裂いていく。
いや、その切断面はまるで火で焼かれたかのようになっているのを見ると、圧倒的な光の熱量で焼き切っているのか。
「神よ、悪しき魔族に神罰を! 神聖衝撃!」
司祭の服を着た栗毛の若い女性の神官が、攻撃的な神聖術を唱え、蜥蜴人を、河に叩き落としている。
サマンサ。キャサリンの身の回りの世話をするためにつけられた女性の同年齢の神官だ。
とは言え、それなりであったキャサリンとは違い、故郷で神童と呼ばれて才能を見込まれて法王庁勤めになった有望株である。
「どっせい!」
そして、声を上げながら星球鎚矛を振るっているのは、勇者ご一行最後の一人のリカルドだ。
無精髭を生やしたオッサンであり、装備は星球鎚矛に方形盾、板金鎧と、これぞ聖堂騎士団と言った感じである。
このリカルドは、グレイズ支部団長だったクリントの同期の聖堂騎士であり、キャサリンがクリントの薫陶を受けていたことを知るや、お供に名乗り出たのだ。
勇者であるキャサリンを筆頭に、ジークハルト、サマンサ、リカルドの四人が勇者パーティと言うことになる。
勇者の一行としては人数が足りないのでは、と言う言葉もあったが、勇者のキャサリンの『無駄に人数多いのは嫌だ』の一声により、少数精鋭でいくことになったのだ。
「全くきりが無いな」
リカルドが盾の一撃で蜥蜴人を河に落としながら呟く。
そんなことを言っているが、その顔には一切疲労の色は見えておらず、四人中で最も精力的に動いている。
さすが、あのクリントの友だっただけのことはある豪傑ぶりだ。
『こ、このオッサン。体力、底無しか?』
ジークハルトは息切れを起こしながらも、何とかリカルドの後を追うように蜥蜴人を叩き落としている。
「さすがクリント支部団長のお友達……」
リカルドの暴れっぷりを横目で見つつ、こちらも息切れをしながら蜥蜴人と切り結ぶキャサリン。
蜥蜴人は右手に小円盾、利き腕の左手には新月刀を構えていた(蜥蜴人は左利き)。
「グゲッ!」
奇声を上げながら、新月刀を振るってくる蜥蜴人。
その攻撃を方形盾で受け止めながら、聖なる鎚矛を繰り出すジークハルト。
この聖なる鎚矛は、神が使っていたとされる神聖文字が刻まれた鎚矛であり、その一撃は聖なる波動を宿す。
キャサリンのお供として与えられた法具である。
サマンサも、強力な力の篭められた護符を与えられており、『使い慣れたもんしか使いたくない』と言って断ったリカルド以外は、勇者ご一行として恥ずかしくない装備を持っていた。
『ふむ、奴ら退いていくな。これ以上やっても無駄だと分かったらしい』
天の栄光の声がキャサリンの脳裏に響く。
その言葉通り、蜥蜴人たちは船から離れて湿原の方へと逃げて行っていた。
「取りあえず終わりか?」
滝のような汗をかきながら、退いていく蜥蜴人を見送るジークハルト。
「ふいぃ……疲れました」
甲板にへたり込むサマンサ。
「なんだなんだ、だらしねぇな。これぐらいで」
一人だけ元気なリカルドが、若者三人を見て苦笑する。
『ま、彼奴の言うとおりだな。皆、貧弱すぎる。お前も含めて』
心に直接響いた聖剣の言葉に、キャサリンは歯噛みした。
確かに聖剣の勇者ご一行としては、自分たちは弱すぎるのだろう。それは分かっている。
しかし、それを言葉に出して言われるとめげる。
『弱いと言われて悔しいか? ならば強くなれ……〈奴〉なら、そう言うだろうな』
後半の天の栄光の言葉に頭を傾げるキャサリン。
「〈奴〉? 一体、誰?」
その疑問は、即座に一蹴された。
『戯れ言よ、気にするな。〈奴〉とお前が会うことなどは無いだろうからな。とにかく、お前らは聖剣の勇者とその供として相応しい強さを身につけろ。私に恥を書かせるな』
反論を許さない高圧的な聖剣の言葉に首を竦めるキャサリン。
「聖剣様は何て言ってるんだ?」
天の栄光と会話していると気付いたのだろう、リカルドが聞いてきた。
「え、と……」
言い淀むキャサリンに、
「そのまま言ってくれ。俺らは聖剣の勇者ご一行なんだから、それに従うしかねえからな」
とリカルドは苦笑気味に笑いながら言った。
「はい……お前ら弱すぎ強くなれ。だそうです」
少し脚色し、聖剣の言葉を伝える。
「弱すぎ、か……手厳しいが、確かにその通りだな。これぐらいでへばってるようじゃ。キャサリンにジークハルト、蜥蜴退治が終わったら揉んでやっから覚悟しとけ」
うへぇ、という表情になるキャサリンとジークハルト。
「あ、あのう、リカルド様。勇者様を呼び捨てにするのは……」
聖剣の勇者であるキャサリンを呼び捨てにしたことを咎めるサマンサ。
「ああいいよ、サマンサ。そっちの方が気が楽だから。サマンサも、私たちだけの時は敬語は止めてね」
キャサリンは、硬さの取れないお供の女性に、目尻を下げた困り顔で言った。
「で、ですが」
「お願い」
「分かりまし……分かったわ、キャサリン。これでいいのね?」
敬語を使い掛け、普通の言い回しに直したサマンサに礼を言う。
「ありがとう。私は勇者なんて言っても、ただ聖剣を抜けただけ。全然、それに相応しい実力なんて無いの。だから、公的なところではともかく、普段は普通に接してください」
旧知のジークハルト以外の二人、サマンサとリカルドにそう言って頭を下げるキャサリンだった。
「ああ、それでお前の気が抜けるならな」
「ええ。この四人だけの時は、そうしましょう」
リカルドとサマンサの返事を聞き、笑みを浮かべるキャサリンだった。
* * *
大湿原の奥地で、蜥蜴人との決戦が始まった。
三桁を超える数の蜥蜴人の群れ、そしてその最奥に立つ一回り大きな体格の蜥蜴人。
「あの、デカいのが一族の長ってとこか。で、どうします?」
ジークハルトが最年長で戦闘経験豊富なリカルドに意見を求める。
「全部相手にしてたらきりが無いから、中央強行突破で頭を叩く。おそらく、あの長を倒せば散り散りになるはずだ。烏合の衆と化せば、後は地元の冒険者で対処可能だろう」
リカルドの言葉で戦法は決まった。
そして……
周りを蜥蜴人に囲まれながら、
「ライジング・サン!」
叫んで、最上段から振り下ろした聖剣を地面に叩きつけるキャサリン。
そこを起点に広がる圧倒的な光の波動。
波動を浴びた蜥蜴人が、火に焼かれたように消し炭になっていく。
「凄えな、これは」
「これが聖剣の力……」
「凄いです! 凄いです!」
光で目をやられないように薄目になりながら、その光景を見ての三人の声。
半分、呆れた口調のリカルド。呆然とするジークハルト。只ひたすら賞賛のサマンサ。
群れに突っ込もうとしたときに、天の栄光から提案があったのだ。
群れの真ん中で自分が力を発揮すれば蹴散らせると。
それを信じて、強行突破で群れの中央まで移動し、技を発動 (因みにこの技名は先代勇者の命名だそうな)。
朝焼けの光のように広がり続ける波動に次々と焼かれていく蜥蜴人。
浮き足立ち、光から逃げようと一目散に散り散りになっていく。
長が声を張り上げるが、もはや恐怖に駆られた下っ端の逃亡は止められない。
『ふん、私の力の前には蜥蜴人など物の数ではないわ。よし、キャサリン。後は、あのデカブツを倒せば終わりだ』
「はい!」
偉そうな聖剣の言葉に返事をし、喚き続ける長に向かって走るキャサリン。
その後に続くジークハルトたち三人。
「ギャギャ?!」
駆け寄ってくる四人に気付いた長が、新月刀と小円盾を構える長。
長を守ろうとする気骨のある蜥蜴人も何匹かいたが、それの相手はジークハルトとリカルドが受け持った。
キャサリンと長の一騎打ち状態。
『迷うことはない! 真っ向からやれ、キャサリン!』
「やああ!」
天の栄光の声を受け、雄叫びを上げて剣を振り下ろす。
剣技もクソもないソレは、当然の如く長の新月刀で受け止められるが、剣の格が違いすぎた。
容易く新月刀を叩き折り、長の左肩口から入った刃は右脇腹へと抜ける。
一撃、それで勝負は決まった。
体を斜めに両断され地に倒れる長。
「グゲゲ?」
「グゲ?」
長がやられたことに気付き、奇声を上げて逃げようとする側近。
しかし、ジークハルトとリカルドによって逃走は阻止され、鎚矛と星球鎚矛の錆と化した。
こうして、蜥蜴人討伐はかなり呆気なく成功をおさめ、勇者の業績として法王庁に宣伝されることになる。
キャサリン本人の意思とは裏腹に。
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