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第4章 迷宮探索(ダンジョン・アタック)
第28話 ホルベイル撃破
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「うがああ! よくも、よくも儂の腕を!」
両腕を切り落とされた貴霊ホルベイルが、魔力の波動を無制御で放射しながら我を忘れて喚き散らしている。
ヴァルはミスティファーとコーンズを脇に抱え、ロウドは石化しかかっているイスカリオスを背負って、その魔力の嵐の圏外へと退散。
「上手く行きましたね!」
離れたところで待っていたアナスタシアが駆け寄ってきた。
腰のポーチを探り、二つの飴玉を取り出す。
飴玉の表面に短刀の切っ先で穴を開けて、憔悴しきったミスティファーとコーンズに手渡して言った。
「中の薬液を飲んでください」
わざわざ穴を開けたのは、生命力そのものを吸われて消耗した二人では、飴玉を噛み砕くことができないかもしれないからだ。
アナスタシアの指示通り、飴玉の穴に口を付け中の薬液を啜るミスティファーとコーンズ。
薬液が喉を通り胃へと到達すると、体に熱が戻ってくる。
まるで火酒でも飲んだかのように、体が熱くなり、だるさを吹き飛ばす。
強壮薬。傷を癒やす訳ではないが、消耗した体の活力を回復させる薬である。
「ありがとうね。さて、イスカリオスを治さないと」
アナスタシアに短く礼を言い、イスカリオスの治療に取り掛かるミスティファー。
「神よ 石になりし この者の体を癒やしたまえ 石化解除!」
詠唱と共にイスカリオスの体に神の力が浸透し、四肢の石化を解いていく。
「ふう。助かった」
石化の解けた手の指を開いたり閉じたりして、こわばりを解きほぐすイスカリオス。
「いけるか?」
「ああ、大丈夫だ」
指先に血が戻ってきたのを確認し、ヴァルの言葉に頷く。
「さてと……まだ、喚いてんのか」
全員揃って反撃開始。とホルベイルの方を見るが、不死者はまだ屈辱に打ち震えていた。
「この儂が! 魔老公ムドウ様の弟子として名を馳せた、この死霊術師ホルベイルが、あんな奴ら如きにいいようにやられるとは、なんたる屈辱!」
おそらくは長いこと一方的な蹂躙を続けていて、傷を負ったことなどないのであろう。
「この屈辱、彼奴らめの命を奪わねば癒やされぬ!」
一人で盛り上がっているホルベイルを見て、
「後ろからド突いても気付かねえんじゃねえの、アイツ?」
と揶揄するコーンズ。
コーンズの言うことも頷けるぐらいに、ホルベイルは荒ぶっていた。
「と言っても、奴に有効打を与えられるのはオルフェリアだけだ。ミスティファーもイスカリオスも奴の抵抗力を上回れなかったからな」
そう、先程の術の応酬で、ミスティファーもイスカリオスもホルベイルに有効なダメージを与えられなかった。
まともにダメージを与えたのは、ロウドの振るうオルフェリアのみ。
「と言うことは、私たち全員であの光る骸骨の気を引いて、ロウドくんに隙を突いて貰うしかないわね」
ミスティファーの案に頷く面々。
一人、当のロウドだけが、
「え? 僕がやるんですか?」
と面食らっていた。
「あのなぁ、話聞いてたか? お前の持つオルフェリアしか、奴には効かないんだよ。俺たち全員で奴の気を引くから、さっきみたいに頑張って当てろ」
コーンズが発破を掛けるも自信無げなロウド。
「何を尻込みしとる。男なら期待に応えんか。もはや、この手しかないのじゃ、やるしかなかろう。できなければ全滅じゃ」
オルフェリアから檄が飛ぶが、それでもロウドは消極的であった。
「ヴァルさんにオルフェリア使って貰って、奴を切ってもらうとか……」
そんな言葉を漏らすロウドだが、ヴァルの次の言葉により却下となる。
「俺、剣使うの苦手。おそらくはお前より使うの下手だぞ」
「そ、そんな~」
頭を抱えるロウド。
今までは、自分がやられてもヴァルたちがいる、とある意味気楽であった。
しかし今回は、全員の命がロウドにかかっている。
重圧に押しつぶされそうになるロウド。
しかし、そんな陰鬱な思いを吹き飛ばす一言が。
「私は信じてる。貴方がやれるって。だって、さっきも私を助けてくれたもの」
アナスタシアの言葉である。
聞きようによっては無責任な言葉と思える。
だが、いつでも男を奮起させるのは女性の激励の言葉である。
「僕にできるかな」
「うん、やれるよ。自信を持って」
俯いていた顔を上げるロウド。その顔は、やる気に満ちていた。
「やらせてください」
「よし! じゃあ、やる……おわぁ!」
時間を掛けすぎたのか、いつの間にかホルベイルが冷静になっていた。
飛んできた魔法の矢を大鬼殺しで打ち落とすヴァル。
「お前ら全員、息の根を止めてくれるわ!」
再生した両腕を振り上げ、怒号を上げるホルベイルの周囲に浮かぶ複数の雷球。
丁度、人数分の六個あるのを見ると、一人一個のプレゼントらしい。
「なんか、ヤバそうな術だぞ」
そう呟いたコーンズの袖を掴むアナスタシア。
「盗賊さん、これを」
振り向いたコーンズに鶏の卵ぐらいの大きさの白い球を渡す。
「盗賊じゃねえ、斥候だ。で、これは何だ?」
アナスタシアの言葉に訂正を入れ、渡された物の確認をするコーンズ。
「済みません、区別が良く分からないモノで。それをアイツの顔目掛けて投げてください」
小声で謝り、球の用途のみを言うアナスタシア。
投げてみれば分かる、と言うことだろうか。
訝しみつつも矢の尽きた今やることがないので、
「分かったよ。顔だな?」
と貰い受ける。
「そらっ!」
白球を投げるコーンズ。
それは狙い過たずホルベイルの顔面に直撃。
球は割れ、中からは銀色の粒が煌めきながら飛び散った。
「な、何だ! 見えん!」
顔を押さえて声を上げるホルベイル。
「魔力撹乱銀粉。魔力を撹乱する効能を持った銀粉です。不死者は、魔力的な五感で外界の情報を得ています。ですから、魔力が撹乱されたら」
「目も見えないし、音も聞こえない。と言うことか」
「はい!」
イスカリオスの言葉に頷くアナスタシア。
「こりゃ、いいや。でも、囮もいるよな」
そう言って、大鬼殺しを構えてホルベイルに向かうヴァル。
めくら撃ちで発射された雷球を余裕で躱し、ホルベイルに肉薄する。
効かないと分かっているが、牽制でホルベイルの腹に大鬼殺しをぶちかます。
腹に攻撃を食らったホルベイルは、見えないながらもある程度の見当を付けて詠唱無しの魔法の矢を撃つ。
だがそんな当てずっぽうの攻撃が当たるはずもなく、明後日の方向に飛んでいった。
視覚と聴覚を奪われたホルベイルの周りを回りながらウザい攻撃を繰り返すヴァル。
ホルベイルは完全に翻弄されて注意が散漫になっていた。
「ロウド、今じゃ!」
オルフェリアの声と共に走り出すロウド。
「食らえ!」
声と共に最上段から振り下ろされるオルフェリア。
それはホルベイルの頭頂部から股下まで、正中線を綺麗に正確になぞって通り抜けた。
「おおおお!」
綺麗に左右に分断された体を離れぬようにかき抱き、呻き声を上げるホルベイル。
しかし、その体は光の粒子と化してばらけつつあった。
「これで終わりだ(じゃ)!」
ロウドとオルフェリアの勝ち鬨の声がハモった。
ホルベイル、撃破 終了
両腕を切り落とされた貴霊ホルベイルが、魔力の波動を無制御で放射しながら我を忘れて喚き散らしている。
ヴァルはミスティファーとコーンズを脇に抱え、ロウドは石化しかかっているイスカリオスを背負って、その魔力の嵐の圏外へと退散。
「上手く行きましたね!」
離れたところで待っていたアナスタシアが駆け寄ってきた。
腰のポーチを探り、二つの飴玉を取り出す。
飴玉の表面に短刀の切っ先で穴を開けて、憔悴しきったミスティファーとコーンズに手渡して言った。
「中の薬液を飲んでください」
わざわざ穴を開けたのは、生命力そのものを吸われて消耗した二人では、飴玉を噛み砕くことができないかもしれないからだ。
アナスタシアの指示通り、飴玉の穴に口を付け中の薬液を啜るミスティファーとコーンズ。
薬液が喉を通り胃へと到達すると、体に熱が戻ってくる。
まるで火酒でも飲んだかのように、体が熱くなり、だるさを吹き飛ばす。
強壮薬。傷を癒やす訳ではないが、消耗した体の活力を回復させる薬である。
「ありがとうね。さて、イスカリオスを治さないと」
アナスタシアに短く礼を言い、イスカリオスの治療に取り掛かるミスティファー。
「神よ 石になりし この者の体を癒やしたまえ 石化解除!」
詠唱と共にイスカリオスの体に神の力が浸透し、四肢の石化を解いていく。
「ふう。助かった」
石化の解けた手の指を開いたり閉じたりして、こわばりを解きほぐすイスカリオス。
「いけるか?」
「ああ、大丈夫だ」
指先に血が戻ってきたのを確認し、ヴァルの言葉に頷く。
「さてと……まだ、喚いてんのか」
全員揃って反撃開始。とホルベイルの方を見るが、不死者はまだ屈辱に打ち震えていた。
「この儂が! 魔老公ムドウ様の弟子として名を馳せた、この死霊術師ホルベイルが、あんな奴ら如きにいいようにやられるとは、なんたる屈辱!」
おそらくは長いこと一方的な蹂躙を続けていて、傷を負ったことなどないのであろう。
「この屈辱、彼奴らめの命を奪わねば癒やされぬ!」
一人で盛り上がっているホルベイルを見て、
「後ろからド突いても気付かねえんじゃねえの、アイツ?」
と揶揄するコーンズ。
コーンズの言うことも頷けるぐらいに、ホルベイルは荒ぶっていた。
「と言っても、奴に有効打を与えられるのはオルフェリアだけだ。ミスティファーもイスカリオスも奴の抵抗力を上回れなかったからな」
そう、先程の術の応酬で、ミスティファーもイスカリオスもホルベイルに有効なダメージを与えられなかった。
まともにダメージを与えたのは、ロウドの振るうオルフェリアのみ。
「と言うことは、私たち全員であの光る骸骨の気を引いて、ロウドくんに隙を突いて貰うしかないわね」
ミスティファーの案に頷く面々。
一人、当のロウドだけが、
「え? 僕がやるんですか?」
と面食らっていた。
「あのなぁ、話聞いてたか? お前の持つオルフェリアしか、奴には効かないんだよ。俺たち全員で奴の気を引くから、さっきみたいに頑張って当てろ」
コーンズが発破を掛けるも自信無げなロウド。
「何を尻込みしとる。男なら期待に応えんか。もはや、この手しかないのじゃ、やるしかなかろう。できなければ全滅じゃ」
オルフェリアから檄が飛ぶが、それでもロウドは消極的であった。
「ヴァルさんにオルフェリア使って貰って、奴を切ってもらうとか……」
そんな言葉を漏らすロウドだが、ヴァルの次の言葉により却下となる。
「俺、剣使うの苦手。おそらくはお前より使うの下手だぞ」
「そ、そんな~」
頭を抱えるロウド。
今までは、自分がやられてもヴァルたちがいる、とある意味気楽であった。
しかし今回は、全員の命がロウドにかかっている。
重圧に押しつぶされそうになるロウド。
しかし、そんな陰鬱な思いを吹き飛ばす一言が。
「私は信じてる。貴方がやれるって。だって、さっきも私を助けてくれたもの」
アナスタシアの言葉である。
聞きようによっては無責任な言葉と思える。
だが、いつでも男を奮起させるのは女性の激励の言葉である。
「僕にできるかな」
「うん、やれるよ。自信を持って」
俯いていた顔を上げるロウド。その顔は、やる気に満ちていた。
「やらせてください」
「よし! じゃあ、やる……おわぁ!」
時間を掛けすぎたのか、いつの間にかホルベイルが冷静になっていた。
飛んできた魔法の矢を大鬼殺しで打ち落とすヴァル。
「お前ら全員、息の根を止めてくれるわ!」
再生した両腕を振り上げ、怒号を上げるホルベイルの周囲に浮かぶ複数の雷球。
丁度、人数分の六個あるのを見ると、一人一個のプレゼントらしい。
「なんか、ヤバそうな術だぞ」
そう呟いたコーンズの袖を掴むアナスタシア。
「盗賊さん、これを」
振り向いたコーンズに鶏の卵ぐらいの大きさの白い球を渡す。
「盗賊じゃねえ、斥候だ。で、これは何だ?」
アナスタシアの言葉に訂正を入れ、渡された物の確認をするコーンズ。
「済みません、区別が良く分からないモノで。それをアイツの顔目掛けて投げてください」
小声で謝り、球の用途のみを言うアナスタシア。
投げてみれば分かる、と言うことだろうか。
訝しみつつも矢の尽きた今やることがないので、
「分かったよ。顔だな?」
と貰い受ける。
「そらっ!」
白球を投げるコーンズ。
それは狙い過たずホルベイルの顔面に直撃。
球は割れ、中からは銀色の粒が煌めきながら飛び散った。
「な、何だ! 見えん!」
顔を押さえて声を上げるホルベイル。
「魔力撹乱銀粉。魔力を撹乱する効能を持った銀粉です。不死者は、魔力的な五感で外界の情報を得ています。ですから、魔力が撹乱されたら」
「目も見えないし、音も聞こえない。と言うことか」
「はい!」
イスカリオスの言葉に頷くアナスタシア。
「こりゃ、いいや。でも、囮もいるよな」
そう言って、大鬼殺しを構えてホルベイルに向かうヴァル。
めくら撃ちで発射された雷球を余裕で躱し、ホルベイルに肉薄する。
効かないと分かっているが、牽制でホルベイルの腹に大鬼殺しをぶちかます。
腹に攻撃を食らったホルベイルは、見えないながらもある程度の見当を付けて詠唱無しの魔法の矢を撃つ。
だがそんな当てずっぽうの攻撃が当たるはずもなく、明後日の方向に飛んでいった。
視覚と聴覚を奪われたホルベイルの周りを回りながらウザい攻撃を繰り返すヴァル。
ホルベイルは完全に翻弄されて注意が散漫になっていた。
「ロウド、今じゃ!」
オルフェリアの声と共に走り出すロウド。
「食らえ!」
声と共に最上段から振り下ろされるオルフェリア。
それはホルベイルの頭頂部から股下まで、正中線を綺麗に正確になぞって通り抜けた。
「おおおお!」
綺麗に左右に分断された体を離れぬようにかき抱き、呻き声を上げるホルベイル。
しかし、その体は光の粒子と化してばらけつつあった。
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