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第4章 迷宮探索(ダンジョン・アタック)

第20話 迷宮への挑戦

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 地下への階段をコツコツと降りていく〈自由なる翼〉の面々。
 階段はかなり幅が広く天井もそこそこあり、探索を切り上げたのであろう他のパーティと余裕ですれ違う事ができる程だった。
 
「お、オブライエン! 今日の探索は終わりか?」

 階段を登ってきた他パーティの先頭の黒髪の青年の戦士ファイターに声を掛けるヴァル。
 その青く塗られた胸甲ブレストを着込んだ戦士ファイターは、手を上げた。

「おう、ヴァル! 戻ってきたのか。アーサーたちには会えたのか?」

 どうやら、この男もアーサーたちの知り合いのようだ。

「死んだよ。魔族ダークワンにやられてな。ヤンソンのクソ野郎だけはトンズラこいて逃げたらしいが」
「マジか。あのまま、ヴォーラスさんに師事してりゃ良かったのによ……お前らはこれからか。俺たちは、良さげな戦利品見つけたんで急いで鑑定して貰いに行くとこだ」
「そうか、ハズレじゃないといいな。じゃ、夜アイツらの話しながら酒酌み交わそう」
「ああ、そうだな。ところで、そのご大層なアーマーのは新入りか?」

 一通り話したところで、ロウドに気付いたらしく聞いてくる。

「は、初めまして! この度、〈自由なる翼〉に入らせていただいたロウド・ファグナーといいます! よろしく、お願いします!」

 青年戦士ファイターに挨拶をするロウド。

「ほう。こりゃまた礼儀正しい坊ちゃんだこと。俺はオブライエン。この〈青き狼〉っていうパーティの頭目リーダーだ。よろしくな」

 青年・オブライエンは挨拶を返す。

「なるほど。その坊やの経験稼ぎか」
「ああ。装備だけは整えたけど、経験積まさんとな」
「そうだな……おっと、後ろから他のが来てるからもう行くわ。じゃ、夜に酒場でな」

 後ろから他のパーティが登ってきたので、オブライエン率いる〈青き狼〉の面々は、こちらに会釈しながら地上へと登っていった。
 〈青き狼〉のメンツは、両手用の大剣ツーハンデッド・ソードを背負った戦士ファイターのオブライエンを筆頭に、戦斧バトル・アックスを持った鎖帷子チェイン・メイルの巨漢の戦士ファイター、大振りの山刀ククリを持った森人の蔓草鎧エルフ・アーマー軽戦士フェンサーの耳の尖った美男子、鎚矛メイスと体がすっぽり隠れるような大型の盾タワー・シールドを持った板金鎧プレート・メイルの中年男の四人である。

戦士ファイターばかりのパーティなんですか?」

 〈青き狼〉を見送り、再び階段を降り始めたヴァルに、ロウドは聞く。
 イスカリオスのような術者や、ミスティファーのような神官クレリックが見当たらなかったのだ。

「あ? いや、耳の尖った美形いたろ? アイツは森人エルフ妖精の友人フェアリー・フレンドだよ。で最後の中年男は、山と守護の神の武神官モンクだ」

 ヴァルの説明を聞いて、思わず上を見上げるロウド。

「あの人、森人エルフなんだ」

 森人エルフを見たのは初めてなのだ。
 まあ、ミスティファーも半分は森人エルフなのだが、そこにはロウドは気付いていない。

 妖精の友人フェアリー・フレンドとは、自然界のエネルギーが具現化した妖精フェアリーと心を通わせ、その力を借りることができる者たちだ。
 自然を荒らさなければ生きていけない平人ノーマン山人ドワーフには殆どおらず、基本的には自然と調和した生き方をしている森人エルフ固有の技能スキルと言える。
 武神官モンクとは、神に仕え教義を広めることを目的とした普通の神官クレリックと違い、信徒を守るために武術を学んだ神官クレリックのことである。
 先程の武神官モンクは山と守護の神の神官クレリックであるので、特に防御に特化しているようだ。

「色んな人がいるんだなぁ」

 しみじみと呟くロウド。
 自分の生まれ育ったファグナー男爵領は、農村が二つあるだけの貧乏領地である。
 村にあった神殿は、主神である太陽 (と支配の)神と、農村には欠かせない豊穣 (と慈愛の)女神のものだけであり、それ以外の神など家庭教師の授業でもちょろっとしか触れなかった。
 ましてや、森人エルフ山人ドワーフ丘人パックスなどの他人種など見たこともない。
 故に、ミスティファーが森人エルフとの混血ハーフであることにも気付かないのだが。
 正直、ロウドはワクワクしていた。
 そう、冒険とはこういうものだ、と。
 失敗に終わった小鬼ゴブリン退治。それから続く魔族ダークワンの大軍との攻防戦。
 ロウドが夢に見た冒険とはかけ離れた状況が続いて気が沈んでいたのだが、故郷では見ることの無い絢爛たる武具、森人エルフなどの他人種。
 そして待ちに待った迷宮ダンジョン探索という冒険。
 これで期待しないわけがなく、少年の心はワクワクしていたのだ。

「ところで、ヴァル。今日は何階層まで行くの?」

 先頭のヴァルにミスティファーが尋ねる。

「え? 十階層行こうと思ってるけど」

 事も無げに言ったヴァルに雷を落とすミスティファー。
 
「貴方、馬鹿?! 十階層なんて何考えてんの?! 先手取られたら、私たちは何とかなっても、ロウドくん死ぬわよ!」  
「え、え、あ~、その……」

 ミスティファーの雷にしどろもどろになるヴァル。
 展開について行けず、目を白黒させるロウドに、コーンズが説明する。

「この〈底無しの迷宮ダンジョン〉が未踏破だってのは教えたよな。で今現在、十階層まで到達してるんだけど、その最下層に新人ルーキーのお前を連れてこうとしたわけ。ウチの脳筋な頭目リーダーは」

 バルビュータの下の頬を引き攣らせるロウド。
 いくら何でも、いきなり最下層に連れてかれたら、命が幾つあっても足りはしない。
 
「で、でもよ。一階層の雑魚相手にさせても、あんまり経験にはならねえだろ?」

 何とか反論の糸口を探るヴァルだが、

「だからって、いきなり十階層連れてく馬鹿いないわよ! この前、混合魔獣キマイラの炎の吐息ブレス、先制でまともに食らって死にかけたの忘れたの?!」

 と、少し前に黒焦げで死にかけたことを持ち出されて、あえなく白旗を揚げる。
 
「はい、すみませんでした」

 と、決着が付いたのを見計らって、イスカリオスが意見を出す。

「だけど、ヴァルの言うことにも一理ある。雑魚相手では、そうそう経験にはならない。だから五階層辺りはどうだい? あそこら辺なら、私たちがフォローできる」

 パーティの参謀役たるイスカリオスの建設的な意見に他の皆も納得する。
 
「ん、まあ。五階層ならいいかな」

 ミスティファーが頷き、

「物足りねえけど、仕方ねえか」
「妥当な線だろうが。この戦闘狂バトル・ジャンキー

 ヴァルが不承不承、コーンズが全面的に意見を支持したことによって、五階層行きが決定した。
 
 階段が終わり、一階層に着いた。
 角燈カンテラに照らされた通路は階段と同じように幅も広く天井も高かった。

「何でこんなに通路が広いんだ?」

 思わず出たロウドの呟きにコーンズが答えた。
 
「大型の魔族ダークワン魔獣モンスターが暴れられるようになってる。基本的には玄室チェンバーにいるんだけど、たまに通路を徘徊ワンダリングしてんだよ」
「へぇ、そうなんですね。教えてくれて、ありがとうございます。コーンズさん」
「ル、新人ルーキーに教えんのは、先輩の義務だからな。それと、他のはともかく、俺に『さん』付けはやめろ。コーンズでいい。そんなに年違わねえんだから丁寧語もやめろ」

 ロウドの素直な礼の言葉に照れるコーンズ。
 それを見た他の三人。

「先輩風、吹かしちゃって」
「クソ笑える」
「今まで一番年下だったからねえ。まあ、いい傾向だとは思うよ」

 ミスティファー、ヴァル、イスカリオスが二人を生暖かい目で見つつ、微笑む。
 
「さて、隊列組むぞ。先頭コーンズ、次に俺とロウド。イスカリオス挟んで、最後ミスティファー」

 ヴァルの言葉に、

「おいよ」
「私は真ん中」
「いつも通りね」

 と隊列を組むコーンズ、イスカリオス、ミスティファー。
 新入りのロウドだけが指示が分からず、マゴマゴしている。
 
斥候スカウトの俺は当然、一番前。前衛の戦士ファイターのヴァルとお前はその次。物理戦闘に弱いイスカリオスを真ん中に挟んで、それなりに戦えるミスティファーを最後尾にして後ろを警戒して貰うんだよ」

 兄貴風・先輩風を吹かして、自慢気に説明するコーンズ。

「なるほど、そういうことか。ありがとう、コーンズさ……コーンズ」

 さん付けで言いそうになり、慌てて呼び捨てにするロウド。

「でも、五階層までってかなりあるんじゃ?」

 そんなロウドの率直な疑問に、ミスティファーが答える。

「大丈夫、直行便があるから」

 その直行便とは、通路をてくてくと長いこと歩いた先に現れた、巨大な竪穴シャフトであった。
 底が全く見えない漆黒の竪穴シャフトには、端を岩などに括り付けたロープが垂れ下がっていた。
 おそらくは歴代の挑戦者・冒険者が付けたのであろう。

「この竪穴シャフトは、何処まで続いてんのか分からない。物を落としても底に着いた音が聞こえねえ。何人か降りるだけ降りてみようって言って降りてった奴がいるんだが、帰ってきた奴は一人もいない。取りあえず十階層以上まであることは確実なんだけどな」

 穴の縁に立って覗き込みながら、ヴァルの説明を聞くロウド。

「このロープ掴まって降りてくんですか、五階層まで?」

 ロウドの言葉に、

「普通の奴らはな。ウチはイスカリオスがいるから」

 と、イスカリオスを親指で指し示してヴァルは言った。

「イスカリオスさんが?」

 首を傾げるロウド。
 その言葉の意味はすぐに判明する。

「うわわわ! ホントに大丈夫なんですよね、これ?」

 空中で慌てふためくロウド。 
 〈自由なる翼〉の面々は手を繋ぎながら、竪穴シャフトをゆっくりと降下していた。
 魔術ソーサリー降下制御フォーリング・コントロールを掛けて、竪穴シャフトをゆっくりと落ちているのだ。

「そろそろ五階層だな」
 
 ヴァルが竪穴シャフトの壁面を見ながら呟く。
 そして見えてきた大きな横穴。

「おし、あそこから入るぞ」

 その横穴から五階層に侵入、隊列を組み直して進む一行。

玄室チェンバーって部屋があって、そこに敵が待ち構えてるんですか?」
「そう。少なくとも、この迷宮ダンジョンはそうなってる。迷宮ダンジョンごとにルールが違って、徘徊ワンダリングする敵しかいない迷宮ダンジョンもあるらしい」

 ヴァルの説明を頭に刻み込むロウド。
 地図マップを見ながら、しばらく歩いていると、観音開きの扉が見えた。

「よしよし」

 コーンズが一人で扉に近付き、調べ始める。

「あれは何をやってるんですか?」
「ごくたまに扉に罠が掛かってることがあるからな。それを調べてんだよ」

 ヴァルの返事を聞いて、コーンズを見守るロウド。
 少ししたら、コーンズがハンドサインで『大丈夫』と送ってきた。
 安心して近付く一行。

「よし、じゃあ開くぞ」

 ヴァルがそう言って扉の取っ手を掴んで引く。
 広大な部屋がそこにあった。
 すぐ逃げられるように扉に楔を噛まして開けたままにしておき、部屋の中に入る一行。
 奥の方から複数の何かが唸り声を上げながら、走り寄ってきた。
 子牛ほどの大きさの真っ黒な毛並みの犬だ。目は燠火のように赤く光っている。

「アレは……」

 イスカリオスがその魔獣モンスターの知識を頭から引きずり出して言おうとしたとき、今まで黙っていた魔剣マナ・ソードオルフェリアが声を上げる。

黒魔犬ブラックドッグ。大した威力ではないが、炎の吐息ブレスを吐き、故に火炎属性は効かん。体力もそこそこあるから、お前さんには荷が重いのう」

 と、敵・黒魔犬ブラックドッグの情報をそらんじる。
 
「オ、オルフェリア! 弱点は?」
「水・氷属性、といったとこかの」
「そ、そんなもん知っても意味ない!」

 悲鳴に近い声を上げるロウドを余所に黒魔犬ブラックドッグは、もう目の前まで来ている。

「さて、じゃあやるか」

 ヴァルが大鬼殺しオーガ・キラーを構えると、ミスティファーが釘を刺す。

「ちゃんとロウドくんの分、残しときなさいよ。今回は彼に経験積ますのが目的なんだから」
「分かってるよ」

 戦闘開始。


迷宮への挑戦  終了 
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