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第2章 グレタへ走れ
第6話 村の戦い
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ロウドは走る。
暗い洞窟の中、角燈の明かりを頼りに必死に出口を目指して走る。
「アーサーさん、カリンさん、ジャンさん……すみません」
暗い地の底で最期を遂げた先輩たち。
麓の村で「その小鬼退治、一緒に連れていってください」といきなり言った自分を同行させてくれた、気のいい人たち(一名除く)。
彼らに報いる方法はただ一つ。
早くグレタの町と聖堂騎士団に魔族の軍団の襲撃を伝えること。
その思いだけを胸に、出口を目指す。
「あ、あれは!」
小鬼の巣穴の洞窟から出たロウドの目に入ったもの。
それは夜明け前の薄暗い中、真っ赤な火の手の上がる麓の村だった。
「村もやはり襲われたのか……くそ!」
間に合ってくれ。必死に山の斜面を急いで駆け下りるロウド。
木の根や泥に足を取られながらもひた走る。
村に近付くにつれ、様子が見えてきた。
家々に火が放たれて燃えており、その間に数多の魔族の姿が見え隠れする。
村の中を走り回っているのは小鬼の群れだ。そして、家の屋根を越えた位置に頭が見える。
成人男性の2倍ほどの体躯を誇る大鬼である。
おそらく、この大鬼を指揮官とした部隊が村を潰すために残されたのだろう。
「くそ、村人を逃がさないと!」
早く奴らの前に立ち、村人が逃げるための盾にならなければ、と気がはやるロウド。
小鬼にも手こずった自分が、大鬼に叶うとはおもわない。だが、村の人が襲われているのを黙って見過ごしなどできはしない。
「ん、なんだ?」
村の外れの畑を荒らし回っている小鬼数匹が、いきなり一点を中心に放射状に吹き飛んだ。
訝しんだロウドの目に、家の陰から現れた人物が見える。
その人物は、黒色のフード付きの外套に身を包み、右手には宝石が先に付いた短めの杖を持っていた。
「まさか、魔術師?!」
驚くロウド。
前にも説明したように、主流である太陽神の教団が魔術を異端認定したために、このアレルヤ地方では魔術師は大っぴらに活動はできない。
ロウドも当然会ったことはないが、宝石の付いた短い杖でピンときたのだ。
魔術師?は短杖を、畑を荒らしている他の小鬼に向ける。
先程と同じように吹き飛ぶ小鬼。
やはり彼は魔術師で、魔術によって小鬼を攻撃しているのだ。
倒れた小鬼に近寄って見下ろし、空いている左手で外套のフードを後頭部側に下ろす魔術師。
灰色の髪が見える。顔は遠くてまだ良く分からないが男であることは多分間違いない。
その魔術師に背後から、最初の魔術で吹き飛んだ小鬼の一匹が起き上がって襲いかかった。。
運良く生き延びた小鬼は、手斧を振りかざして、虚を突かれた魔術師に走り寄る。
接近戦の苦手な術者など詠唱させなければこっちのもの。自分に痛い目を合わせた報いを受けさせてやるのだ。
そう息巻いた小鬼の側頭部に、横合いから飛んできた矢が突き刺さる。
目の前で倒れた小鬼に胸をなで下ろし、家の陰にいる射手に礼を言う魔術師。
家の陰から現れたのは、蜂蜜色の長い髪を肩の下辺りまで伸ばした、矢筒を背負い短弓が得物の皮鎧の青年だ。
おそらくは野伏であろう青年は、魔術師の仲間なのか。
二人は、倒れた他の小鬼の息の根をしっかりと止めて、村の中央部の方へと戻っていく。
村の中央では、大鬼が暴れ回っていた。
だが、様子がおかしい。
特大サイズの大鎌を振るっているようなのだが、それがどうやら弾き返されているようなのだ。
大鬼の攻撃をいなせるような熟練の戦士が来て、村を守って戦ってくれている。
ロウドは安堵した。
最悪、自分の命を賭けてでも、村人を守らなければと悲壮な覚悟をしていたのに、これで大丈夫だ、と思ったのだ。
これで、この村を村人を守った後、アーサーたちの町であるグレタに行くことができる。
境界線である柵を越え村に入ったロウドの目に映ったもの。
それは、村の中央の広場にて、大鬼と一騎打ちをする戦士だった。
まともに手入れをしていないような黒いざんばら髪を肩の辺りまで伸ばし、黒い皮鎧?を着込んで、篭手と脛当ての代わりなのか、前腕と脛に毛皮を巻き付けている。
その出で立ちと筋骨隆々の体躯は、完全に蛮族の戦士である。
だが、彼の特異性は防具ではなく、その得物であった。
あえて言うなら、長刀だろうか。片刃の反り身の刃のような穂先に長柄が付いている。
しかし、その穂先の刃が異常に長く幅広で分厚いのだ。まるで特大サイズの曲刀の刃に無理矢理、長柄を付けたかのようにバランスが悪い。
「大鬼殺し?」
ロウドはその武器に覚えがあった。
幼少期に吟遊詩人が歌ってくれた冒険者二人組『大鬼殺しと月の戦乙女』の男の方が使っていた、その二つ名の由来となった武器。
倒した大鬼の使っていた蛮刀の刃に、人が使いやすいように長柄を付けたトンデモ武器だ。
彼ヴォーラスはこれを使って数多の魔族を屠ってきたと歌われている。
だが年齢が合わない。吟遊詩人の歌を聴いたのは七年前、ロウドが八歳の時だ。
その時既に大鬼殺しヴォーラスは、三十半ばだったはず。
目の前の戦士は、どう見ても二十歳そこそこである。もしかしたら装備を譲り受けた息子か?
戦士と大鬼が激戦を繰り広げている広場を挟んで反対側に、村人が見えた。
光り輝く半透明の壁によって小鬼たちから守られている。
それを張っているのは、怯えて一塊りになっている村人の先頭に立っている神官だろう。
豊穣の女神の紋章である麦の穂が描かれた綿入り布鎧を着て、手には象徴武器たる連接棍を持った、青白く輝く銀髪を腰まで真っ直ぐ伸ばした女性である。
神に一心に祈りを捧げ光の防御壁を張って村人を守っている、その姿は正しく聖女のようであった。
思わず見とれてしまったロウド。その緩みきった所を見逃す小鬼ではない。
物陰から現れた小鬼が襲いかかってきた。
「わわっ!」
小鬼の武器の手斧を辛うじて盾で受ける。
あの巣穴にいた小鬼たちとは違い、魔族の軍勢の兵士なのかまともな装備をしている。
皮を煮込んで硬くした硬革鎧に手斧。
唾を吐き散らしながら、手斧を押し込もうとする小鬼。
それを必死に押し返しながら、腰の長剣を抜くロウド。
「おおお!」
雄叫びを上げながら、小鬼の胸に剣を突き立てる。
硬革鎧を貫く長剣。
口から血を吐いて脱力する小鬼。
ホッとしたのも束の間、次の小鬼が右側から襲ってきた。
慌てて長剣を振るおうとするが、力任せに突き立てたために深く刺さりすぎて抜けない。
盾も串刺しになった小鬼が邪魔で、ガードができない。万事休す。
「見てらんねえな」
声と共に飛来する矢。小鬼の頭に突き刺さり、これの命を奪う。
命の恩人たる声の主の方を向くロウド。
そこには、先程見た野伏と魔術師がいた。
|《野伏《レンジャー》は甘いマスクの美少年、年の頃は十五のロウドより少し上の十七、八と言ったところか。
魔術師は、くたびれた風貌の三十男。気が弱そうな雰囲気を醸し出している。
礼を言おうとしたロウドだが、それより先に野伏の罵声が飛んできた。
「そんなご大層な鎧着てるから、どんなもんかと見てみれば、小鬼一匹に手こずるなんて。立派なのは装備だけか」
甘いマスクの見た目からは想像できない、ぞんざいな言葉遣い。そして容赦ない罵詈雑言。
「ま、まあ、コーンズ。そこまで言わなくても、な」
魔術師がくたびれた風貌通りの気弱な声で、取りなしに入る。
「すまないね。このコーンズは、根はいい奴なんだが、口が悪くてね。私はイスカリオス。君の名は? 騎士殿」
野伏の名はコーンズ、魔術師はイスカリオスと言うらしい。
「僕の名は、ロウド。ロウド・ファグナー。騎士などと名乗れたものではありません」
ロウドの名乗りを聞いて、考え込むイスカリオス。
「ファグナーというと、このマルコス伯爵領の隣の……」
「はい。ファグナー男爵家の三男坊です。兄が家を継ぎ、居場所が無いので、名を上げるために遍歴の旅に出ました」
貴族というのは基本的に長子相続である。
相当、問題が無い限り長男が家を継ぐのが当たり前で、弟たちに出番は無い。
で、次男以降はどうするかというと、親交のある娘しかいない貴族の婿になるか、聖職者になるか、遍歴の旅に出て名を上げ騎士として取り立てて貰うか、の三つしか無い。
次男のリチャードが選んだのは二番目、十五になり成人したのを機に宗教都市キタンの神学校へと入り、聖職者を目指した。
ロウドも今年で十五になり、長兄エドワードが家を継いだのを機に遍歴の旅へと出奔したのだ。
父から餞別にと、この鎧をあつらえて貰って。
「はっ。貴族のお坊ちゃまが、親の金でいい鎧買って貰って、遍歴の旅に出て名を上げたいと思いますってか。笑わせんなよ、小鬼に手こずりまくってたような奴が!」
コーンズから再び罵声が飛ぶ。
ロウドは言葉に詰まる。確かにその通りだからだ。
この鎧に相応しい実力を持っていたなら、アーサーたちを救えたかも知れない。そう思うと、自分の情けなさに涙が出そうになる。
気まずい沈黙が場を支配する。
それを破ったのは、広場から聞こえて来る歓声だった。
広間の方に向く三人。
蛮族戦士の振るった大鬼殺しの刃が、大鬼の大鎌の柄を切り飛ばしたのだ。
歓声を上げたのは村人たちだ。
「トドメだ!」
大鬼殺しが横薙ぎに振るわれ、大鬼の胴体を分断する。
切断面から血と臓物をぶちまけながら、泣き別れになった体の上半分と下半分が地面に倒れる大鬼。
「す、凄い……大鬼を一人で」
呆然とするロウドに、コーンズが言った。
「当然。ヴァルは大鬼殺しヴォーラスと月の戦乙女リリアナの息子だからな」
村の戦い 終了
暗い洞窟の中、角燈の明かりを頼りに必死に出口を目指して走る。
「アーサーさん、カリンさん、ジャンさん……すみません」
暗い地の底で最期を遂げた先輩たち。
麓の村で「その小鬼退治、一緒に連れていってください」といきなり言った自分を同行させてくれた、気のいい人たち(一名除く)。
彼らに報いる方法はただ一つ。
早くグレタの町と聖堂騎士団に魔族の軍団の襲撃を伝えること。
その思いだけを胸に、出口を目指す。
「あ、あれは!」
小鬼の巣穴の洞窟から出たロウドの目に入ったもの。
それは夜明け前の薄暗い中、真っ赤な火の手の上がる麓の村だった。
「村もやはり襲われたのか……くそ!」
間に合ってくれ。必死に山の斜面を急いで駆け下りるロウド。
木の根や泥に足を取られながらもひた走る。
村に近付くにつれ、様子が見えてきた。
家々に火が放たれて燃えており、その間に数多の魔族の姿が見え隠れする。
村の中を走り回っているのは小鬼の群れだ。そして、家の屋根を越えた位置に頭が見える。
成人男性の2倍ほどの体躯を誇る大鬼である。
おそらく、この大鬼を指揮官とした部隊が村を潰すために残されたのだろう。
「くそ、村人を逃がさないと!」
早く奴らの前に立ち、村人が逃げるための盾にならなければ、と気がはやるロウド。
小鬼にも手こずった自分が、大鬼に叶うとはおもわない。だが、村の人が襲われているのを黙って見過ごしなどできはしない。
「ん、なんだ?」
村の外れの畑を荒らし回っている小鬼数匹が、いきなり一点を中心に放射状に吹き飛んだ。
訝しんだロウドの目に、家の陰から現れた人物が見える。
その人物は、黒色のフード付きの外套に身を包み、右手には宝石が先に付いた短めの杖を持っていた。
「まさか、魔術師?!」
驚くロウド。
前にも説明したように、主流である太陽神の教団が魔術を異端認定したために、このアレルヤ地方では魔術師は大っぴらに活動はできない。
ロウドも当然会ったことはないが、宝石の付いた短い杖でピンときたのだ。
魔術師?は短杖を、畑を荒らしている他の小鬼に向ける。
先程と同じように吹き飛ぶ小鬼。
やはり彼は魔術師で、魔術によって小鬼を攻撃しているのだ。
倒れた小鬼に近寄って見下ろし、空いている左手で外套のフードを後頭部側に下ろす魔術師。
灰色の髪が見える。顔は遠くてまだ良く分からないが男であることは多分間違いない。
その魔術師に背後から、最初の魔術で吹き飛んだ小鬼の一匹が起き上がって襲いかかった。。
運良く生き延びた小鬼は、手斧を振りかざして、虚を突かれた魔術師に走り寄る。
接近戦の苦手な術者など詠唱させなければこっちのもの。自分に痛い目を合わせた報いを受けさせてやるのだ。
そう息巻いた小鬼の側頭部に、横合いから飛んできた矢が突き刺さる。
目の前で倒れた小鬼に胸をなで下ろし、家の陰にいる射手に礼を言う魔術師。
家の陰から現れたのは、蜂蜜色の長い髪を肩の下辺りまで伸ばした、矢筒を背負い短弓が得物の皮鎧の青年だ。
おそらくは野伏であろう青年は、魔術師の仲間なのか。
二人は、倒れた他の小鬼の息の根をしっかりと止めて、村の中央部の方へと戻っていく。
村の中央では、大鬼が暴れ回っていた。
だが、様子がおかしい。
特大サイズの大鎌を振るっているようなのだが、それがどうやら弾き返されているようなのだ。
大鬼の攻撃をいなせるような熟練の戦士が来て、村を守って戦ってくれている。
ロウドは安堵した。
最悪、自分の命を賭けてでも、村人を守らなければと悲壮な覚悟をしていたのに、これで大丈夫だ、と思ったのだ。
これで、この村を村人を守った後、アーサーたちの町であるグレタに行くことができる。
境界線である柵を越え村に入ったロウドの目に映ったもの。
それは、村の中央の広場にて、大鬼と一騎打ちをする戦士だった。
まともに手入れをしていないような黒いざんばら髪を肩の辺りまで伸ばし、黒い皮鎧?を着込んで、篭手と脛当ての代わりなのか、前腕と脛に毛皮を巻き付けている。
その出で立ちと筋骨隆々の体躯は、完全に蛮族の戦士である。
だが、彼の特異性は防具ではなく、その得物であった。
あえて言うなら、長刀だろうか。片刃の反り身の刃のような穂先に長柄が付いている。
しかし、その穂先の刃が異常に長く幅広で分厚いのだ。まるで特大サイズの曲刀の刃に無理矢理、長柄を付けたかのようにバランスが悪い。
「大鬼殺し?」
ロウドはその武器に覚えがあった。
幼少期に吟遊詩人が歌ってくれた冒険者二人組『大鬼殺しと月の戦乙女』の男の方が使っていた、その二つ名の由来となった武器。
倒した大鬼の使っていた蛮刀の刃に、人が使いやすいように長柄を付けたトンデモ武器だ。
彼ヴォーラスはこれを使って数多の魔族を屠ってきたと歌われている。
だが年齢が合わない。吟遊詩人の歌を聴いたのは七年前、ロウドが八歳の時だ。
その時既に大鬼殺しヴォーラスは、三十半ばだったはず。
目の前の戦士は、どう見ても二十歳そこそこである。もしかしたら装備を譲り受けた息子か?
戦士と大鬼が激戦を繰り広げている広場を挟んで反対側に、村人が見えた。
光り輝く半透明の壁によって小鬼たちから守られている。
それを張っているのは、怯えて一塊りになっている村人の先頭に立っている神官だろう。
豊穣の女神の紋章である麦の穂が描かれた綿入り布鎧を着て、手には象徴武器たる連接棍を持った、青白く輝く銀髪を腰まで真っ直ぐ伸ばした女性である。
神に一心に祈りを捧げ光の防御壁を張って村人を守っている、その姿は正しく聖女のようであった。
思わず見とれてしまったロウド。その緩みきった所を見逃す小鬼ではない。
物陰から現れた小鬼が襲いかかってきた。
「わわっ!」
小鬼の武器の手斧を辛うじて盾で受ける。
あの巣穴にいた小鬼たちとは違い、魔族の軍勢の兵士なのかまともな装備をしている。
皮を煮込んで硬くした硬革鎧に手斧。
唾を吐き散らしながら、手斧を押し込もうとする小鬼。
それを必死に押し返しながら、腰の長剣を抜くロウド。
「おおお!」
雄叫びを上げながら、小鬼の胸に剣を突き立てる。
硬革鎧を貫く長剣。
口から血を吐いて脱力する小鬼。
ホッとしたのも束の間、次の小鬼が右側から襲ってきた。
慌てて長剣を振るおうとするが、力任せに突き立てたために深く刺さりすぎて抜けない。
盾も串刺しになった小鬼が邪魔で、ガードができない。万事休す。
「見てらんねえな」
声と共に飛来する矢。小鬼の頭に突き刺さり、これの命を奪う。
命の恩人たる声の主の方を向くロウド。
そこには、先程見た野伏と魔術師がいた。
|《野伏《レンジャー》は甘いマスクの美少年、年の頃は十五のロウドより少し上の十七、八と言ったところか。
魔術師は、くたびれた風貌の三十男。気が弱そうな雰囲気を醸し出している。
礼を言おうとしたロウドだが、それより先に野伏の罵声が飛んできた。
「そんなご大層な鎧着てるから、どんなもんかと見てみれば、小鬼一匹に手こずるなんて。立派なのは装備だけか」
甘いマスクの見た目からは想像できない、ぞんざいな言葉遣い。そして容赦ない罵詈雑言。
「ま、まあ、コーンズ。そこまで言わなくても、な」
魔術師がくたびれた風貌通りの気弱な声で、取りなしに入る。
「すまないね。このコーンズは、根はいい奴なんだが、口が悪くてね。私はイスカリオス。君の名は? 騎士殿」
野伏の名はコーンズ、魔術師はイスカリオスと言うらしい。
「僕の名は、ロウド。ロウド・ファグナー。騎士などと名乗れたものではありません」
ロウドの名乗りを聞いて、考え込むイスカリオス。
「ファグナーというと、このマルコス伯爵領の隣の……」
「はい。ファグナー男爵家の三男坊です。兄が家を継ぎ、居場所が無いので、名を上げるために遍歴の旅に出ました」
貴族というのは基本的に長子相続である。
相当、問題が無い限り長男が家を継ぐのが当たり前で、弟たちに出番は無い。
で、次男以降はどうするかというと、親交のある娘しかいない貴族の婿になるか、聖職者になるか、遍歴の旅に出て名を上げ騎士として取り立てて貰うか、の三つしか無い。
次男のリチャードが選んだのは二番目、十五になり成人したのを機に宗教都市キタンの神学校へと入り、聖職者を目指した。
ロウドも今年で十五になり、長兄エドワードが家を継いだのを機に遍歴の旅へと出奔したのだ。
父から餞別にと、この鎧をあつらえて貰って。
「はっ。貴族のお坊ちゃまが、親の金でいい鎧買って貰って、遍歴の旅に出て名を上げたいと思いますってか。笑わせんなよ、小鬼に手こずりまくってたような奴が!」
コーンズから再び罵声が飛ぶ。
ロウドは言葉に詰まる。確かにその通りだからだ。
この鎧に相応しい実力を持っていたなら、アーサーたちを救えたかも知れない。そう思うと、自分の情けなさに涙が出そうになる。
気まずい沈黙が場を支配する。
それを破ったのは、広場から聞こえて来る歓声だった。
広間の方に向く三人。
蛮族戦士の振るった大鬼殺しの刃が、大鬼の大鎌の柄を切り飛ばしたのだ。
歓声を上げたのは村人たちだ。
「トドメだ!」
大鬼殺しが横薙ぎに振るわれ、大鬼の胴体を分断する。
切断面から血と臓物をぶちまけながら、泣き別れになった体の上半分と下半分が地面に倒れる大鬼。
「す、凄い……大鬼を一人で」
呆然とするロウドに、コーンズが言った。
「当然。ヴァルは大鬼殺しヴォーラスと月の戦乙女リリアナの息子だからな」
村の戦い 終了
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