12 / 56
1-11
しおりを挟むアルバイトの後、久しぶりにプレハブ小屋へ寄った。
今日は俊太が来ていて、お茶を飲みながら漫画を読んでいた。俊太は私に気がつくと、よぉ、と言って、また漫画の続きを読み始めた。
私は窓の方へ椅子を持っていくと、立ち仕事でむくんだ足を揉みながら座る。そして、田植えを終えたばかりの、田んぼだけが広がる、これといって何もない風景を眺めた。耳を澄ますと、遠くで遮断機が鳴っている音が耳を掠める。
窓からは初夏の匂いと、爽やかな風が前髪を揺らした。
「日が延びたねぇ……。もう少しすると、夏が来るねぇ……」
ぼんやりとそんなことを言ってみたら、俊太がそれに対して適当に返してきた。彼は今、漫画に夢中なのだ。
私は無意識に溜め息をついていた。
佳くんが帰ってしまってから、私はまた無気力に戻ってしまった。何の刺激もない、同じような日々の繰り返し。この毎日はいつまで続くのだろう。いつか誰かが変えてくれるのだろうか。
私は自分の腕時計を見た。そろそろ帰らなければならない時間だ。
佳くんは今頃、何してるだろうな。
佳くんとは、初めて会ったあの日から、何度か演技の練習に付き合った。演技を詳しく教えてほしいとは言い出せなかったけれど、彼が演技をしている姿を、一瞬だって見逃したくないと思いながら過ごした。
佳くんは、役者は体力勝負だから、長距離を自分のペースで走ったり、柔軟体操などをして身体を解しておかなければならない事などを教えてくれた。
基礎トレで体を十分にあたためてから一番最後に発声練習をするという事を、この時に初めて知った。
私は合唱部だったので、体が冷えていると声がよく出ないのだという事は知っていたけれど。
それらのメニューを全てやり終えて、やっと演技の練習に入れるのだそうだ。
私……。
気が付くと、私の頭の中は演劇の事でいっぱいになっていた。
どうしよう――。
「なぁ、これ食うか?」
その時、俊太がグミキャンディーの小さな袋をこちらへ向けてきた。私はお礼を言うと、彼の傍まで歩み寄り、袋からグミを一つ取り出した。
「お前、なに考えてるんだ?」
「え?」
突然の言葉に、私は俊太を見返した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
【女性向けR18】性なる教師と溺れる
タチバナ
恋愛
教師が性に溺れる物語。
恋愛要素やエロに至るまでの話多めの女性向け官能小説です。
教師がやらしいことをしても罪に問われづらい世界線の話です。
オムニバス形式になると思います。
全て未発表作品です。
エロのお供になりますと幸いです。
しばらく学校に出入りしていないので学校の設定はでたらめです。
完全架空の学校と先生をどうぞ温かく見守りくださいませ。
完全に趣味&自己満小説です。←重要です。
*擬人化イケメン掌編集*
平野 絵梨佳
恋愛
疲れた君を癒したい。
僕たちの声が、君に届けばいいのに……。
某Androidアプリで、
#人じゃない何かに恋人っぽいセリフを言わせる
というタグが流行っていました。
暇つぶしに遊んでいたら楽しくなってしまったので、掌編連載しました。
◆何を擬人化しているのかを先に知りたい方は、『擬人化イケメン40』をお読み下さい。目次です。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる