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26・ピクニックに出発

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「忘れ物は無いかしら?さぁ、みんな行くわよ」
「ちょっと、お母様待ってください」

 私は慌ててお母様を引き止める。
 私の支度がぎりぎりだったのだ。
 昨夜侍女長から、一緒についてはいけないのかと泣きつかれたが、戦力を考えると侍女はエルザ一人となった。フェンリルを目にしても慌てない、肝の据わったところを評価されているらしい。
 更に、お母様の荷物が多かったので、なかば強制的に減らしていた。
 ピクニックの準備ってこんなに大変だったっけ?
 そんな状況で、なかなか支度が出来なかった私は、殆ど寝ていられなかった。フラフラでは足手まといになってしまう。仕方無く、魔の森に入ると直ぐにアハダの背に乗せてもらい、一眠りさせてもらった。ふわふわな毛と適度な揺れが心地良い眠りを誘う。
 目を瞑ると直ぐに寝てしまった。
 次に目を覚ますと、景色の良い岩場にいた。休憩予定の場所だ。
 私は大きく伸びをすると、アハダの背から降りる。

「ありがとう。もう大丈夫よ。この先は歩くわ」

 岩場は、少し上がると程よい木陰もあり、辺り一面の景色が見渡せた。さすが、フェンリル達オススメの場所なだけはある。
 岩の上からふと下を見ると、お母様とエルザが何かを手にして話している。私は二人が気になり、岩場を下りて二人に近づいて行った。

「お母様、何をなさっているのですか?」
「ふふふ、エルザに薬草について教えてたのよ。いつ、何が必要になるか分からないから。知識は多い方が良いでしょ」

 お母様が、エルザを見て微笑む。エルザも嬉しそうに返事をした。
 両親がいないエルザは、私が階段から落ちた時に、一度クビになりかけた。私と八歳しか離れていないけれど、私の身の回りのことをしっかりとやってくれる。時々私が頼む前に、必要な物が用意されている時は驚く。
 もしかしたら、学校に行ける環境ならクラス委員をしていたかも知れない。エルザにも勉強させてあげたら良いのかな。
 そんな風に考えていたら、無意識に口走っていたらしい。お母様が私を見て微笑んだ。

「やっぱりルナもそう思う?じゃあ、そうしましょう」
「えっ、奥様突然何を」
「エディントン家の新しい方針。全ての使用人が文字の読み書きが出来るように」

 お母様が、エルザに向かって微笑んだのを見て、私は、お母様に問い掛ける。
 
「良いお話ですね。お母様、でももう少し範囲を広げませんか?」
「範囲を?」
「はい。『孤児を含む全ての領民』に」
「それは広過ぎじゃないかしら?」
「そうでしょうか?私、来年の今頃は学園に通っております。お母様の生き甲斐が、一つ減ってしまわれないか心配なのですが」
「僕も姉様の考えに賛成かな」
「レオまで…淋しいわね」
「淋しいでしょ?だからだよ」

 お母様は少しの間目を伏せ、顔を上げると私達に笑顔を向ける。

「お父様に相談してみるわ。ありがとう」

 お母様は、そう言って私とレオを抱き寄せた。 
 
「おーい、そろそろ先に進むぞ」
「はーい」

 アハダが、私達を呼びに来た。今度は私が歩いて行く。
 日差しは適度に高木が遮り、風が自然の香りを運んで来る。
 今夜は、目的地の泉で野宿の予定だ。
 道中、お母様から薬草についての話を聞きながら進み、日が完全に沈む前に、何とか目的地に到着することが出来た。
 私は、空間魔法の施されたリュックから荷物を取り出し、急いでテントを張って、火起こしの準備をする。とは言っても、魔法で火は簡単につけることが出来るので、小枝を風の魔法で集めるだけだ。
 夕食は、リュックからサンドイッチを取り出し、皆で分けた。
 食事を終える頃には、空には星が輝いていた。
 食事の後、歓談をしているとレオがウトウトし始めた。

「レオも頑張ってたものね」
「私がテントに連れていきます」

 お母様に寄り掛かっているレオを、エルザがゆっくりと抱き上げ、テントの中に連れて行った。

「ルナ、誘ってくれてありがとう。楽しい思い出が作れたわ」
「いいえ、私もお母様の楽しそうな姿が見られて嬉しいです」

 私達は顔を見合わせて微笑んでから、ゆっくりと星空を見上げた。
 
 
 

    
 
  
 
 

 
 

 
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