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7・もう一人の天才少女

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 外は霞がかかり、まだ朝と言うには僅かに早い時間。静かに身支度を済ませた私達は、玄関に向かった。
 そこで見た光景に、私は頭を抱えた。

「何でレオがいるの?」

 私がお兄様とお父様を見ると、二人は思いっきり首を横に振った。レオは駆け寄ってきて、私にがっしりと掴まった。

「姉様…ヒック…ずるいです。ヒック…レオだけ…内緒…ヒック…しましたね。でもレオは…ヒック…行きません。お母様一人は…ヒック…可哀想です。」
「そっか…。レオごめんね。」
「仕方…ないです。お母様は…ヒック…僕がお守り…するのです。」
「うん。レオお願いね。」
「はい。」

 レオは息を大きく吸って呼吸を整えて言った。

「お姉様、今度のお買物は、絶対僕も連れて行ってくださいね。」
「えっ?」
「普段お買物なんて絶対しないお姉様が、ギルドでなくお買物でお出掛けなんて。絶対なんかあると思いました。」

 お父様は頷き、お兄様は苦笑している。私か…。私が原因でバレたのか。確かに遊びには行っても、買い物には行かないわね。お母様は、呆れた顔をしています。

「わかった。私達がいない間、レオがちゃんとお母様をお守り出来たら、一緒にお買物に行こうね。」
「はい。」

 私達は、レオとお母様と屋敷の皆に見送られて馬車に乗った。帰るまで皆が無事に過ごせますように。私は、祈る思いで屋敷を見ていた。

◇◇◇◇◇

 街道の街は冒険者や商人達で賑わっていた。
 予想通りあまり滞在時間はなく, ゆっくり買い物は出来なかった。これから数時間でランドリーク家に着く。お天気が良くて、馬も走りやすそうで良かった。
 お土産は用意したけど、ランドリーク家の女の子と仲良くなれるかしら?前世を通しても貴族のお友達なんていないから不安だわ。
 ランドリーク領に入って暫くは、右手側に魔の森を眺めるように進む。魔の森とは言うけれど、一見どこでも見るような普通の森だ。奥に入れば入る程危険に満ちていく。しかし、国によっては国土を増やすために、開発を進めている隣のような国もある。周辺国から避難を浴びても聞き入れない。生態系を崩したり、スタンピードが起こる可能性が増えるので、止めてほしいのだが。
 そんなこんな考えているうちにいつの間にか森が無くなり町に入っていた。間もなく到着らしい。
 窓の外をキョロキョロと眺めていると、お父様が左手前方にある屋敷を指差した。大きさはうちとあまり変わらない。
 馬車は、緩やかな坂を登り門の前でゆっくりと止まった。やがて門の扉が開き、石畳の上を再び馬車が走り出す。
 いよいよだわ。緊張で胸がどきどきしてきた。
 正面の扉の両脇に石の動物の彫刻が見えたところが玄関らしい。数人の人が見える。とうとう馬車が停まった。
 お父様が最初に馬車を降りる。次にお兄様。そして、お兄様にエスコートされて、私が馬車を降りた。
 お父様がランドリーク伯に挨拶をしていると、徐々にその向こう側が騒がしくなってきた。
 お嬢様が倒れたとか呼吸してないとか、聞こえる気がするけど大丈夫かしら?
 私は、お兄様とお父様の横に並びカーテシーをしてご挨拶をした。

「本日はお招き頂きましてありがとうございます。お初にお目にかかります。エディントン辺境伯が長女ルナマリア・エディントンと申します。宜しくお願いいたします。」
「ようこそお越しくださいました。王宮では娘達をお守りくださりありがとうございました。娘も貴女に大層会いたがって…」
「おねーさーまー」

 ランドリーク伯の話の途中で、話を遮るような声が奥の方から聞こえたかと思ったら、横から急に何かに体をがっしりと掴まれた。

「お姉様。お会いしとうございましたわ。」
「こら、ソフィア。ちゃんとご挨拶なさい。」
「あっ、失礼いたしました。ようこそお越しくださいました。ランドリーク辺境伯が長女ソフィア・ランドリークですわ。」

 お父上に怒られ、私から離れて、慌ててカーテシーをしている少女は、ピンクブロンドのふわふわの髪にエメラルドの瞳。小さな顔に白い肌でまるでお人形のようである。この子がヒロインと言われても素直に納得してしまうだろう。
 
「申し訳ないのだが、時間があったらソフィアの話し相手になってやってくれないだろうか。ソフィアが頑張らなければ転移陣は、未だに完成の目処もたっていなかった。君に会いたいがために頑張ってくれたんだ。」
「お安いご用ですわ。私もお友達になりたいですし。」

 ランドリーク伯に頼まれて、私はにこやかに答えた。
 丁度お土産も渡せるし、色々発明しているという魔道具の話も聞きたいわ。
 部屋に案内されて荷物を置き、荷解きをエルザにお願いして、私はソフィアと庭に向かい、程よく陽のあたる東屋に案内された。そこには先程いなかった弟君がいて、挨拶してくれた。カイル君と言うらしい。さっきはお昼寝をしていて起きられなかったそう。優しそうな良い子ですわ。お土産を渡すと、転移陣が設置されたら、エディントン家に遊びに来てくれると約束してくれた。レオとお友達になってくれるかしら?
 カイル君が部屋に戻り、ソフィアが話し始める。

「今から丁度一年前、病で母が亡くなって、私それ以来ずっと塞ぎ込んでしまったのですわ。笑うことを忘れ、気力も失って、そのうち泣くことも忘れてしまって、只々毎日母の部屋でぼーっと過ごしておりました。」

 この子に会った時の印象と全く正反対の話の印象に驚く。とても素敵なお母様だったのでしょう。

「半年前のお茶会は、王妃様主催でしたので断る事も出来ず、仕方ないので挨拶だけして隅にいようと思っていましたの。あれは、丁度挨拶をして、移動しようと思った時でしたわ。数個の光がこちらに向かって飛んで来るのが見えました。それが段々大きくなって氷の矢だと知った時、私は動けずに、もう死んでしまうのだと覚悟しました。」

 あの時すぐ後ろには、この子が居たんだ。救えて良かった。

「でも次の瞬間、目の前に現れた大きなシールドに目を瞠りました。そしてそれが私と同じくらいの歳の、しかも女の子の魔法。危険を承知で誰よりも前に飛び込んで来るなんて、衝撃的でした。気がついたら涙を流しておりました。それは、恐怖では無く、安堵でもなく、心打たれたと申しましょうか、感動した、と申しましょうか。上手く申し上げられないのですが、何かこう目が覚めたような…」

 まあ、私としてはあまり深く考えてなかったんだけどね。咄嗟だったし。何にせよ、救われた幸せがあるのなら良かった。

「その時、私決めましたの。転移陣を完成させて胸を張ってお姉様にお会いして、お友達になってもらうのだと。お父様にも半年以内に完成させると断言しましたわ。」

 両手を握りしめソフィアは力説した。眩しいわ。目の輝きが、眩しすぎる。思わずたじろいだ私にソフィアは言う。

「お姉様、これからは、ソフィアとお呼びくださいまし。何時でもお姉様のお役に立って見せますわ。」

 ヒロインチックな子分が一人出来た瞬間であった。
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