5 / 29
5・お兄様は何を考えているのでしょう?
しおりを挟む
爽やかな朝の陽射しが部屋に射し込む。目を掠める眩しさに思わず背を向けようとすれば、部屋の扉を叩く音がした。
「おはよう御座います。お嬢様、お目覚めになられてますか?本日は領地にお戻りになる日ですよ。」
二度寝に落ちそうになっていた意識が、エルザの声で覚醒する。私は慌てて扉に駆け寄り、扉を開いた。
「おはよう、エルザ。丁度目を覚ましたところよ。早く支度しましょう。置いていかれてしまうわ。」
「お嬢様、落ち着いてくださいまし。旦那様もシリウス坊ちゃまも、お嬢様を置いて帰るなんて出来やしませんから大丈夫です。」
エルザと冗談を言い合いながら身支度を整えていった。
朝食は軽く部屋で済ませ、屋敷の皆に挨拶をしながら玄関へ向かうと、お兄様は既に馬車に乗って待っていた。
私は、お父様に駆け寄ると、そのまま抱き上げられて馬車に乗せられた。
やっと帰れるわね。心の中でそっと呟く。
まだひと気の少ない王都の街並みを、馬車はゆっくりと進んで行き、やがて城壁を抜けた。静かな景色を眺めながら、私はお父様に話し掛けた。
「ねえ、お父様。レオは今頃どうしているかしら?」
「うーん。どうしてるかな?」
お父様は腕組みをして、顎に指を当て、考える仕草をする。
「レオは、お父様に会えなくて寂しがって、お母様を困らせてないかしら?」
「う、うーん…」
私が追い打ちをかけると、お父様の眉間に皺が寄り始めた。
私は、次にお兄様に話し掛けた。
「ねえ、お兄様?お兄様は、領地を離れる前日、ドイル達と何をなさってたの?」
「…ッ!!」
お兄様は、目を見開いて私を見た。私は続けて追い込む。
「私は、物心付いた頃よりお兄様に憧れ、ひたすらお兄様を追い掛け続けておりますの。なのに狡いですわ。私だけ目立たせて、素知らぬ振りを極め込むお積もりですの?あの時お兄様も気付いてらしたのに、何故私を追い越さなかったのです?」
そう、お茶会の事件でお兄様は、私と同時に殺気に気付いていた。直ぐに全速力で走れば私より先に着いていたはず。
お兄様は、一度息を吐き出し溜息をつくと、
「わかった。ジークも馬も大変だろうから少し手伝ってくるよ。しっかり捕まって、歯を食いしばってて。」
「流石お兄様ですわ。」
「後でルナも変わってくれよ。」
「あら、ご存知でしたの?」
「ひたすら追い掛け続けてるんだろう?」
「お兄様には、敵いませんわ。」
お兄様は、愉しそうに笑いながら、御者席に向かった。
(誤魔化されてしまいましたわね。)
領地を離れる前日、お兄様は遊びに来ていた従者の息子であるドイルと、魔法を使って回転木馬のように浮いた馬車に乗り、遊んでいたのである。
馬車をお兄様の魔法で走らせることには成功したけど、結局お茶会での行動については全く答えて貰えなかった。(いつか絶対に吐かせて見せますわ。)私は、両の手の平を胸の前に持ってきてぐっと握った。
さて、
「さあ、お父様。高速移動しますわよ。」
御者席のお兄様が合図を送ってくれた。
馬車は微かに浮いた後、いつもの倍のスピードで進み始めた。
風が音を鳴らして耳元を過ぎてゆき、田畑も林も周りの景色のすべてが、飛ぶように変わってゆく。馬は脚を動かす事が出来ないのか、ただ大人しく前を向いている。
(まるで車にでも乗ってるみたい。屋敷まで何日で着くかしら?)
隣に座っているお父様の様子を横目で窺うが、その表情からは何も読み取れない。
(緊張しているのかしら?お父様に限ってあり得ないわね。)
目の前のエルザは終始笑顔で、外の景色を楽しそうに眺めている。時々思うんだけど、エルザって意外と肝がすわってるのよ。
たまに休憩を挟み、お兄様と交替したり、街中や 細い道は馬とジークにお任せしながら、旅程を大幅に縮めて屋敷に帰ることが出来た。
領地の屋敷では、お母様と弟のレオが使用人と共に玄関で出迎えてくれた。
お父様が馬車から降りると、レオはお父様に駆け寄り、体当たりするように飛びついていた。
使用人はいてもお母様と二人きりは、寂しかったのだろう。暫く離れそうにないわね。
晩餐の後、お母様への王都での話は、お父様からしてくださるというので、今日もさっさと寝支度を整え寝てしまった。子供の体は本当に疲れるわ。
「おはよう御座います。お嬢様、お目覚めになられてますか?本日は領地にお戻りになる日ですよ。」
二度寝に落ちそうになっていた意識が、エルザの声で覚醒する。私は慌てて扉に駆け寄り、扉を開いた。
「おはよう、エルザ。丁度目を覚ましたところよ。早く支度しましょう。置いていかれてしまうわ。」
「お嬢様、落ち着いてくださいまし。旦那様もシリウス坊ちゃまも、お嬢様を置いて帰るなんて出来やしませんから大丈夫です。」
エルザと冗談を言い合いながら身支度を整えていった。
朝食は軽く部屋で済ませ、屋敷の皆に挨拶をしながら玄関へ向かうと、お兄様は既に馬車に乗って待っていた。
私は、お父様に駆け寄ると、そのまま抱き上げられて馬車に乗せられた。
やっと帰れるわね。心の中でそっと呟く。
まだひと気の少ない王都の街並みを、馬車はゆっくりと進んで行き、やがて城壁を抜けた。静かな景色を眺めながら、私はお父様に話し掛けた。
「ねえ、お父様。レオは今頃どうしているかしら?」
「うーん。どうしてるかな?」
お父様は腕組みをして、顎に指を当て、考える仕草をする。
「レオは、お父様に会えなくて寂しがって、お母様を困らせてないかしら?」
「う、うーん…」
私が追い打ちをかけると、お父様の眉間に皺が寄り始めた。
私は、次にお兄様に話し掛けた。
「ねえ、お兄様?お兄様は、領地を離れる前日、ドイル達と何をなさってたの?」
「…ッ!!」
お兄様は、目を見開いて私を見た。私は続けて追い込む。
「私は、物心付いた頃よりお兄様に憧れ、ひたすらお兄様を追い掛け続けておりますの。なのに狡いですわ。私だけ目立たせて、素知らぬ振りを極め込むお積もりですの?あの時お兄様も気付いてらしたのに、何故私を追い越さなかったのです?」
そう、お茶会の事件でお兄様は、私と同時に殺気に気付いていた。直ぐに全速力で走れば私より先に着いていたはず。
お兄様は、一度息を吐き出し溜息をつくと、
「わかった。ジークも馬も大変だろうから少し手伝ってくるよ。しっかり捕まって、歯を食いしばってて。」
「流石お兄様ですわ。」
「後でルナも変わってくれよ。」
「あら、ご存知でしたの?」
「ひたすら追い掛け続けてるんだろう?」
「お兄様には、敵いませんわ。」
お兄様は、愉しそうに笑いながら、御者席に向かった。
(誤魔化されてしまいましたわね。)
領地を離れる前日、お兄様は遊びに来ていた従者の息子であるドイルと、魔法を使って回転木馬のように浮いた馬車に乗り、遊んでいたのである。
馬車をお兄様の魔法で走らせることには成功したけど、結局お茶会での行動については全く答えて貰えなかった。(いつか絶対に吐かせて見せますわ。)私は、両の手の平を胸の前に持ってきてぐっと握った。
さて、
「さあ、お父様。高速移動しますわよ。」
御者席のお兄様が合図を送ってくれた。
馬車は微かに浮いた後、いつもの倍のスピードで進み始めた。
風が音を鳴らして耳元を過ぎてゆき、田畑も林も周りの景色のすべてが、飛ぶように変わってゆく。馬は脚を動かす事が出来ないのか、ただ大人しく前を向いている。
(まるで車にでも乗ってるみたい。屋敷まで何日で着くかしら?)
隣に座っているお父様の様子を横目で窺うが、その表情からは何も読み取れない。
(緊張しているのかしら?お父様に限ってあり得ないわね。)
目の前のエルザは終始笑顔で、外の景色を楽しそうに眺めている。時々思うんだけど、エルザって意外と肝がすわってるのよ。
たまに休憩を挟み、お兄様と交替したり、街中や 細い道は馬とジークにお任せしながら、旅程を大幅に縮めて屋敷に帰ることが出来た。
領地の屋敷では、お母様と弟のレオが使用人と共に玄関で出迎えてくれた。
お父様が馬車から降りると、レオはお父様に駆け寄り、体当たりするように飛びついていた。
使用人はいてもお母様と二人きりは、寂しかったのだろう。暫く離れそうにないわね。
晩餐の後、お母様への王都での話は、お父様からしてくださるというので、今日もさっさと寝支度を整え寝てしまった。子供の体は本当に疲れるわ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる