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5・お兄様は何を考えているのでしょう?

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 爽やかな朝の陽射しが部屋に射し込む。目を掠める眩しさに思わず背を向けようとすれば、部屋の扉を叩く音がした。

「おはよう御座います。お嬢様、お目覚めになられてますか?本日は領地にお戻りになる日ですよ。」

    二度寝に落ちそうになっていた意識が、エルザの声で覚醒する。私は慌てて扉に駆け寄り、扉を開いた。

「おはよう、エルザ。丁度目を覚ましたところよ。早く支度しましょう。置いていかれてしまうわ。」
「お嬢様、落ち着いてくださいまし。旦那様もシリウス坊ちゃまも、お嬢様を置いて帰るなんて出来やしませんから大丈夫です。」

    エルザと冗談を言い合いながら身支度を整えていった。
    朝食は軽く部屋で済ませ、屋敷の皆に挨拶をしながら玄関へ向かうと、お兄様は既に馬車に乗って待っていた。
    私は、お父様に駆け寄ると、そのまま抱き上げられて馬車に乗せられた。
    やっと帰れるわね。心の中でそっと呟く。
    まだひと気の少ない王都の街並みを、馬車はゆっくりと進んで行き、やがて城壁を抜けた。静かな景色を眺めながら、私はお父様に話し掛けた。

「ねえ、お父様。レオは今頃どうしているかしら?」
「うーん。どうしてるかな?」

    お父様は腕組みをして、顎に指を当て、考える仕草をする。

「レオは、お父様に会えなくて寂しがって、お母様を困らせてないかしら?」
「う、うーん…」

    私が追い打ちをかけると、お父様の眉間に皺が寄り始めた。
私は、次にお兄様に話し掛けた。

「ねえ、お兄様?お兄様は、領地を離れる前日、ドイル達と何をなさってたの?」
「…ッ!!」

    お兄様は、目を見開いて私を見た。私は続けて追い込む。

「私は、物心付いた頃よりお兄様に憧れ、ひたすらお兄様を追い掛け続けておりますの。なのに狡いですわ。私だけ目立たせて、素知らぬ振りを極め込むお積もりですの?あの時お兄様も気付いてらしたのに、何故私を追い越さなかったのです?」

    そう、お茶会の事件でお兄様は、私と同時に殺気に気付いていた。直ぐに全速力で走れば私より先に着いていたはず。
    お兄様は、一度息を吐き出し溜息をつくと、

「わかった。ジークも馬も大変だろうから少し手伝ってくるよ。しっかり捕まって、歯を食いしばってて。」
「流石お兄様ですわ。」
「後でルナも変わってくれよ。」
「あら、ご存知でしたの?」
「ひたすら追い掛け続けてるんだろう?」
「お兄様には、敵いませんわ。」

    お兄様は、愉しそうに笑いながら、御者席に向かった。
(誤魔化されてしまいましたわね。)
    領地を離れる前日、お兄様は遊びに来ていた従者の息子であるドイルと、魔法を使って回転木馬のように浮いた馬車に乗り、遊んでいたのである。
    馬車をお兄様の魔法で走らせることには成功したけど、結局お茶会での行動については全く答えて貰えなかった。(いつか絶対に吐かせて見せますわ。)私は、両の手の平を胸の前に持ってきてぐっと握った。

    さて、

「さあ、お父様。高速移動しますわよ。」

 御者席のお兄様が合図を送ってくれた。
    馬車は微かに浮いた後、いつもの倍のスピードで進み始めた。
    風が音を鳴らして耳元を過ぎてゆき、田畑も林も周りの景色のすべてが、飛ぶように変わってゆく。馬は脚を動かす事が出来ないのか、ただ大人しく前を向いている。
(まるで車にでも乗ってるみたい。屋敷まで何日で着くかしら?)
    隣に座っているお父様の様子を横目で窺うが、その表情からは何も読み取れない。
(緊張しているのかしら?お父様に限ってあり得ないわね。)
   目の前のエルザは終始笑顔で、外の景色を楽しそうに眺めている。時々思うんだけど、エルザって意外と肝がすわってるのよ。
   たまに休憩を挟み、お兄様と交替したり、街中や 細い道は馬とジークにお任せしながら、旅程を大幅に縮めて屋敷に帰ることが出来た。

    領地の屋敷では、お母様と弟のレオが使用人と共に玄関で出迎えてくれた。
    お父様が馬車から降りると、レオはお父様に駆け寄り、体当たりするように飛びついていた。
    使用人はいてもお母様と二人きりは、寂しかったのだろう。暫く離れそうにないわね。
    晩餐の後、お母様への王都での話は、お父様からしてくださるというので、今日もさっさと寝支度を整え寝てしまった。子供の体は本当に疲れるわ。
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