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第2章
4-----(3)ここはどこだ。
しおりを挟む木々が鬱蒼と揺れている。
日が視界の向こう側に落ちて、空の群青色がさらに強くなると、森は不気味さを増してきた。アルシュは小人たちの視線から裸を隠そうとするように、背を向けて、身を丸めていた。
空腹でたまらなかった。
だが、それ以上に体が熱かった。
かれは下腹をじりじり焦がす衝動と心にこびりつく恐怖を紛らわそうとするように、思考を働かせ続けていた。
(あの地鳴り。何だったんだろう)
山の地鳴りに遭遇したのは二度目、いや三度目だった。
前の地鳴りの時は馬を失っただけで済んだが、今回は地面そのものが崩落し、アルシュはそれに巻き込まれた。
(テオスはあの地鳴りは自然現象じゃなくて、ポポが関係してるかもしれないと言った。確かにその通りだ。あんなの、普通ならあり得ない。いくらポポの山に不思議が多いと言ったって……)
(ドラゴンの怒り。人間の力はけしてドラゴンに叶わない)
獣人族の里へ出発する前、テオスがそんなことを言っていたのを思い出した。
(鎮守神ドラゴンか)
エラルドの守り神であるはずのドラゴンが、街に災害をもたらすようになったのはいつからだろう。アルシュがもっと幼かった頃は今のように毎年、襲ってくるようなことはなかったように思う。
ドラゴンはコウモリのような翼を震わせ、恐ろしい唸り声をあげ、暴風や大雨、吹雪や地震を引き起こす。
竜族としては小柄なほうで、全長は三メートルくらいのものだ。だが、非常に鋭い爪と牙を持っている。ドラゴンの災害を呼び寄せる力も強大だったが、物理的な攻撃も侮れなかった。
(地鳴りはポポが起こしたものだった? エラルドを襲う時みたいに災害を引き起こした? わからない)
かれは途方にくれて、首を横に振った。腹がグウッと鳴る。
とにかく空腹だった。
水はかろうじて飲むことができた。だがどんなに空腹でも、異臭を放つ食物には手をつけられなかった。さらに深刻なのが、体の疼きだ。
(本当に――これは……)
息が荒くなる。
不調の原因はなんとなく察していた。
少なくとも昨日と今日、かれは獣人族の里で叔母ニーナから渡された薬を飲んでない。薬は小人たちにとりあげられた荷物の中に入っている。
薬の効果が切れて、抑えていた例の疼きがあらわれてきたのだろう。
実は今朝からそれは感じていた。アルシュは懸命にそれを我慢して、気にしないようにしてきた。けれども耐えられなくなり、昼過ぎについに少しだけそこを自分の手で触ってしまった。
途端に欲望が吹きだした。
下腹の刻印がカッと熱くなったかと思うと、強烈なエクスタシーが突き抜け、あっという間に射精してしまった。その時、アルシュはまだ服を着た状態だったが、小人たちの目の色が変わった。小人たちは醜悪な顔を見合わせ、何か悪だくみを思いついたようににやにやしはじめた。
彼らはよってたかってアルシュを押さえつけ、器用に動く手でアルシュの衣服を剥ぎ取っていった。慎重に、ゆで卵の殻を剥くように服を脱がせ、アルシュの股間にある若いオスを見て、匂いを嗅ぐように顔を近づけた。
「や……やめ――っ」
アルシュは身をくねらせて、抵抗しようとした。
だがそれは小人たちを挑発する行為にしかならなかったようだった。一匹の小人が紫色の長い舌をアルシュのペニスにあてた。下から上に舐めあげる。
「ひゃんっ!」
アルシュは叫んだ。
ペニスが屹立し、先端から透明な汁が滲みでた。小人たちは色めきたった。彼らは争うようにアルシュのそれを舐めまわし、アルシュがたまらず出してしまった二度目のものを飲み干した。
幸い、それ以上、小人たちがアルシュに触れてくることはなかった。
とは言え、アルシュはハッキリ感じていた。
小人たちはいずれかれを犯そうとするだろう。
彼らがなぜアルシュを裸で繋ぎ、腐った食料を並べた祭壇に放置しているのかはわからない。だが、彼らはアルシュを欲望の対象として認識している。そのことは小人たちの目線でわかった。
完全な夜になった。
小人たちはアルシュが快楽が欲しくてたまらない状態であることを知っている。彼らはアルシュが体を開くのを待っている。ウーディが犯したあの場所を開いて、アルシュが懇願すれば、言葉は通じなくても小人たちは理解するだろう。
(どうしよう)
体が熱い。
(俺は今――色々と本当にピンチだ)
アルシュは真っ白になりかけた頭で思った。
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