病気かもしれない

亀吉

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少年の過去 憧れ2

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 「あんたがヒツマナやな?俺はお前の世話係を頼まれたバルト・ナルアーサや。どうぞよろしゅう。」
 どうやら、この屋敷に居るのは俺だけじゃなかったらしい。
 バルト・ナルアーサ。独特な話口調だが、親しみやすい感じがする。健康的な褐色の肌、綺麗なエメラルドグリーンの瞳、少し癖のある金髪の癖っ毛、背丈は170センチくらいで、左耳には赤と青の2つの石をワイヤーみたいな紐状の物で連結されているピヤスを揺らしている。いかにもな好青年だ。
 「そーいや、ヒツマナ。もう、動けるんか?」
 バルトは、何故か感心したように問いかけてきた。
 自分では気づかなかったが立ち上がれるまで回復していた。確かに、さっき何者かに切られた感覚があった。けど、今は痛くないし、あの恐怖やら煩わしい感情がいつの間にか収まっている。
 俺は心配になって切られた背中に恐る恐る触れてみる。
 しかし、予想していた感触はなかった。背中には傷痕……いや、着ている服すらも破かれてはいなかった。
 本当に無傷だった。
 いやいや、無傷なことに関しては全く良い。むしろ助かった。けど、確かに何者かによる斬撃を喰らったはずだ。
 人体にめり込んでくるあの薄く鋭い鉄製のもの。あの痛みはきっともう忘れられない。
 それにしても、バルトの態度になんか引っ掛かるものを感じる。
 起き上がる前に言った言葉、さっき言った言葉。まるで俺がこうなることをあらかじめ知っていたかのようだ。
 俺は、バルトに対してド直球で尋ねた。
 「なぁ、バルト。お前俺がこうなることを知っていたな?」
 その問いに対して、バルトは黙ってじっと真剣な顔で俺を見つめた。すると、バルトの周りの空気がバチバチと音をたてるくらいにバルトの魔力は増幅してきた。
 確か、魔力が増幅するときは魔力の持ち主の感情等で左右されるはずだった。つまり今、なぜだかは知らないが、バルトは気持ちが高ぶっていた。
 しかし、バルトは直ぐに目を逸らし立ち上がった。そして、増幅した魔力は通常の状態にまで戻った。
 俺はこの時かなりホッとした。実は、この魔力が増幅したバルトはまるで鬼のように怖かったから。
 バルトはそんな俺を知ってか知らずか、俺の頭に手を置いてグシャグシャと乱暴に撫でた。
 「なっ……!や、やめろよっ!」
 俺は少し恥ずかしくてそれを拒んだが、バルトはそんなの気にせず続行した。
 そして、口角を上げて優しい微笑みを作って俺に提案した。
 「腹へったから、何か食うか。」


 キッチンの壁にかけられた古い時計の針はすでに9時をこしていた。
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