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気づいたら神社ごと異世界に飛ばされていた件
2話目
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「ん……あれは夢? じゃないな……」
目を覚ますと目の前にイノシシウシがデーンと横たわっていた。
周囲を見回しても、相変わらず境内しかなくて、鬱蒼と茂った森もそのままだ。
何故助かったのか。考えても答えは出ない。
普通ならあれだけの猛スピードで走ってきた怪物が境内に傾れ込めば、手入れが行き届いているとはいえ築うん百年の本殿はひとたまりもない筈だ。
それなのに、境内は全くの無傷で、怪物は一歩も足を踏み入れるうことなく倒れている。
答えが出るはずもない疑問よりも、腹で猛獣の暴れる鳴き声がすることの方が重要だと思いなおして、とりあえず腹ごしらえを試みる。
もちろんターゲットはこのイノシシウシだ。
「まずは火だな」
とりあえず、アウトドアの定番で枯れ枝を軽く積み上げたところに、拾った石同士をカンカン打ち付けてみるが、もちろん簡単に火がっついたりしない。
次に木切れに枯れ枝を当て、枯れ枝を両手でぐるぐる回してみる。しばらくがんばっているとちょっと焦げてきた感じがするが、火が付く気配はない。
「無理か……」
やはり、素人に火起こしは無謀だったようだ。
クラスメイトがサバゲーに行った話をしていたのを小耳にはさんだことがあるが、彼らはこんな芸当もさらりとこなすのだろうか? 新しく入手したモデルガンの話を嬉々として語っていたこと以外記憶に残っていないので、食事をどうしたかは聞いていなかったのが悔やまれる。
さすがにこのイノシシと牛のあいのこのような生物を生で食べる気にはなれない。
諦めて木の実を探すしかないのかと思い直したところで、目の前の巨大な塊がぶるりと震えた。
「やべ、目を覚ました!?」
どうやら死んでいたわけではなく、気絶していただけだったらしい。
こんな巨体が至近距離で暴れたら今度こそ殺されてしまう。
じりじりと後ずさりしながら、どう対応するべきか考えていると、腰に繋がった物が何かに引っかかった感触がした。
すっかり忘れていたが、腰に御陵丸を差したままだったのを思い出した。これでとどめを刺すしかない。
とはいえ、生まれてこのかた生物を殺したことなどない。
抜刀して構えたものの、決心が固まっていないので剣先がぶれてしまう。
これではいくら手入れの行き届いた日本刀とはいえ、その性能を活かすことは出来ない。
ためらっている間にもイノシシウシは徐々に意識を取り戻し始めたのか動き始める、自分の頭程もある巨大な目玉がギョロリとこちらを見据えた。
「ひっ」
思わず声が漏れたが、逆に生存本能を刺激されたのか、身体の震えが止まって刀を持つ手に力が入った。
呼吸を整え、足を踏ん張り、丹田に力を込め、体中の血液が全身をめぐり手を通じて刃先へと流れていくような意識で集中する。
吸って、吐いて、吸って……つま先に力をこめ、「メーーーーーーン!!」という掛け声と共に振り上げた刀をまっすぐに振り下ろす。
次の瞬間突然突風が吹いて、身体が後方に吹き飛ばされる。同時にイノシシウシの悲鳴らしき轟音が響いたが、自分も後方の木に背中を強く打ち付けて「ぐふっ」と間抜けな声が漏れた。
また気絶しそうな程の衝撃でクラクラしているが、何とか立ち上がって前方を確認すると、なんとイノシシウシの頭部に大きな亀裂が入っていた。亀裂の隙間からはおびただしい量の血が流れ出ていて、完全に事切れているのが一目で分かる状態になっている。ちなみに血はちゃんと赤い。
「うわぁ、グロ……」
何が起こったのかは全く分からないが、それよりも問題はこの死体の処理だ。血の匂いが凄すぎて食欲なんか吹っ飛んだし、比較的涼しい時期とはいえ数日もすれば腐り始める。
いきなり神社ごと変な森に迷い込んだ時より途方に暮れた。
「あんた凄いね、カヴァラを一撃で倒すなんて」
突然、イノシシウシと自分しか居なかった筈の空間に、少女の声が割って入った。
バッと振り返ると、自分と同じか少し年下くらいの少女が立っていた。
腰より下まで流れる燃えるような赤い髪。髪と同じ色で宝石のようにきらめく少し吊り上がった瞳。一枚の生成りの布を首のところに穴をあけて首を通してから左右を縫い合わせ、腰のところを紐で縛っただけのような簡素な服を着ているが、そのせいで胸や腰回りの女性らしい曲線がくっきりと浮かび上がって目に毒なくらいの艶めかしさがある。
肩には弓道で使うような木造の弓を担いでいて、腰には矢が数本入った筒を下げている。
正直いって、今までテレビでも見たことが無いくらいの美少女だった。五年も経てば物凄い美人に育つだろう。
「誰……ですか? カヴァラってこの化け物のこと?」
「カヴァラを知らないの!? あんた何者? 変わった格好してるし、凄い強いし」
でも、カヴァラを知らないってことは外国人とか? でも……などとブツブツつぶやいているが、こちらとしても聞きたいことが山ほどある。
「それよりも、聞きたいことが……」
疑問を口にしかけたところで、再び暴れだした腹の虫が鳴り響いた。二人分。
目を覚ますと目の前にイノシシウシがデーンと横たわっていた。
周囲を見回しても、相変わらず境内しかなくて、鬱蒼と茂った森もそのままだ。
何故助かったのか。考えても答えは出ない。
普通ならあれだけの猛スピードで走ってきた怪物が境内に傾れ込めば、手入れが行き届いているとはいえ築うん百年の本殿はひとたまりもない筈だ。
それなのに、境内は全くの無傷で、怪物は一歩も足を踏み入れるうことなく倒れている。
答えが出るはずもない疑問よりも、腹で猛獣の暴れる鳴き声がすることの方が重要だと思いなおして、とりあえず腹ごしらえを試みる。
もちろんターゲットはこのイノシシウシだ。
「まずは火だな」
とりあえず、アウトドアの定番で枯れ枝を軽く積み上げたところに、拾った石同士をカンカン打ち付けてみるが、もちろん簡単に火がっついたりしない。
次に木切れに枯れ枝を当て、枯れ枝を両手でぐるぐる回してみる。しばらくがんばっているとちょっと焦げてきた感じがするが、火が付く気配はない。
「無理か……」
やはり、素人に火起こしは無謀だったようだ。
クラスメイトがサバゲーに行った話をしていたのを小耳にはさんだことがあるが、彼らはこんな芸当もさらりとこなすのだろうか? 新しく入手したモデルガンの話を嬉々として語っていたこと以外記憶に残っていないので、食事をどうしたかは聞いていなかったのが悔やまれる。
さすがにこのイノシシと牛のあいのこのような生物を生で食べる気にはなれない。
諦めて木の実を探すしかないのかと思い直したところで、目の前の巨大な塊がぶるりと震えた。
「やべ、目を覚ました!?」
どうやら死んでいたわけではなく、気絶していただけだったらしい。
こんな巨体が至近距離で暴れたら今度こそ殺されてしまう。
じりじりと後ずさりしながら、どう対応するべきか考えていると、腰に繋がった物が何かに引っかかった感触がした。
すっかり忘れていたが、腰に御陵丸を差したままだったのを思い出した。これでとどめを刺すしかない。
とはいえ、生まれてこのかた生物を殺したことなどない。
抜刀して構えたものの、決心が固まっていないので剣先がぶれてしまう。
これではいくら手入れの行き届いた日本刀とはいえ、その性能を活かすことは出来ない。
ためらっている間にもイノシシウシは徐々に意識を取り戻し始めたのか動き始める、自分の頭程もある巨大な目玉がギョロリとこちらを見据えた。
「ひっ」
思わず声が漏れたが、逆に生存本能を刺激されたのか、身体の震えが止まって刀を持つ手に力が入った。
呼吸を整え、足を踏ん張り、丹田に力を込め、体中の血液が全身をめぐり手を通じて刃先へと流れていくような意識で集中する。
吸って、吐いて、吸って……つま先に力をこめ、「メーーーーーーン!!」という掛け声と共に振り上げた刀をまっすぐに振り下ろす。
次の瞬間突然突風が吹いて、身体が後方に吹き飛ばされる。同時にイノシシウシの悲鳴らしき轟音が響いたが、自分も後方の木に背中を強く打ち付けて「ぐふっ」と間抜けな声が漏れた。
また気絶しそうな程の衝撃でクラクラしているが、何とか立ち上がって前方を確認すると、なんとイノシシウシの頭部に大きな亀裂が入っていた。亀裂の隙間からはおびただしい量の血が流れ出ていて、完全に事切れているのが一目で分かる状態になっている。ちなみに血はちゃんと赤い。
「うわぁ、グロ……」
何が起こったのかは全く分からないが、それよりも問題はこの死体の処理だ。血の匂いが凄すぎて食欲なんか吹っ飛んだし、比較的涼しい時期とはいえ数日もすれば腐り始める。
いきなり神社ごと変な森に迷い込んだ時より途方に暮れた。
「あんた凄いね、カヴァラを一撃で倒すなんて」
突然、イノシシウシと自分しか居なかった筈の空間に、少女の声が割って入った。
バッと振り返ると、自分と同じか少し年下くらいの少女が立っていた。
腰より下まで流れる燃えるような赤い髪。髪と同じ色で宝石のようにきらめく少し吊り上がった瞳。一枚の生成りの布を首のところに穴をあけて首を通してから左右を縫い合わせ、腰のところを紐で縛っただけのような簡素な服を着ているが、そのせいで胸や腰回りの女性らしい曲線がくっきりと浮かび上がって目に毒なくらいの艶めかしさがある。
肩には弓道で使うような木造の弓を担いでいて、腰には矢が数本入った筒を下げている。
正直いって、今までテレビでも見たことが無いくらいの美少女だった。五年も経てば物凄い美人に育つだろう。
「誰……ですか? カヴァラってこの化け物のこと?」
「カヴァラを知らないの!? あんた何者? 変わった格好してるし、凄い強いし」
でも、カヴァラを知らないってことは外国人とか? でも……などとブツブツつぶやいているが、こちらとしても聞きたいことが山ほどある。
「それよりも、聞きたいことが……」
疑問を口にしかけたところで、再び暴れだした腹の虫が鳴り響いた。二人分。
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