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異世界転生ー私は騎士になりますー

5 ヘリオス

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 我が邸宅は王都の中でも一等地にある、侯爵家としての規模は普通位。
 領地を得たばかりの新興貴族ながら、元々騎士として代々身を立ててきた裕福な家柄だったので、社交界でもそれなりの地位がある。
 侯爵家とは名ばかりで火の車な家もあるらしいが、我が家はそんな危うさは全くない。他と違うことといえばここで暮らしているのが私一人だということだけだ。
 これ、現代感覚にするとどこが一人と首を傾げたくなる。ヴィラント家の人間が私だけという話で、管理している使用人が50人もいるのだ。
 そのうち10人程は私専属の使用人達だ。
 今、私に寝ざめの紅茶を入れてくれているカーラはその筆頭侍女である。
 薄茶色の瞳に緑の瞳というこの世界では割と一般的な色調を持っていながら、切れ長の瞳が意思の強さを思わせる、濃紺のロングドレスがとても良く似合う美女だ。

「ねぇ、そろそろ足も大丈夫だし。訓練に参加したいんだけど」
「ダメです。お医者様は最低三日は安静にしなさいとおっしゃいました。が、三日たったら激しい運動をしても良いとはおっしゃってません。せめて明日まではお休み下さい」
「えぇー」

 我が侯爵家は戦争で手柄を挙げたことで爵位を賜った武家なので、戦闘訓練がある。
 クロウツィアは意欲的ではなかったのであまり強くなかったけれど、それでも淑女の嗜みの護身術の範囲を超えた戦闘力はあったのだ。それが前世の記憶が戻ったことで相乗効果がどれくらいのものになるのかが知りたい。

「……お嬢様、少し変わられましたね」

 ギクリとする。
 確かにクロウツィアは使用人に対してこんなフランクに話すタイプでは無かった。私は使用人とか貴族なんていう線引き間隔が分からないので、カーラからすると怪訝に思うのも無理はない。
 が、前世の記憶だなんだと言った所で信じるわけがない。

「ウィルと婚約したことだし、守られるだけのお嬢様ではいたくないからね」

 先日から私の態度の変化に対する疑問を投げかけられる度にこの言い訳を使っている。
 正直きっかけとして納得してもらいやすくて便利なので繰り返し使っているが、あまり婚約を他人に広めるのはウィルが婚約を破棄したいと言った時に周囲に納得されにくいのではという懸念がある。
 あまり言わない方が良いのだろうか。

「……とにかく、訓練への参加は許可できません。ですが、見て頂きたいものがありますので訓練場へお越しください」
「見せたいもの?」

 我が家の邸宅は王都の中では端の方にあり、城のある南に玄関を持つ横長の邸宅だ。そして背面には運動場のようにだだっ広い砂地と、その向こうに山がある。
 訓練場とはその背面にある運動場のことだ。

 私の部屋から、徒歩数分で訓練場につく。だだっ広い家なのでそれだけでも軽い運動になった。

「それで、見せたいものって?」

 見た所何もないだだっ広い運動場だ、使用人達が訓練を開始するのは屋敷の管理関係の仕事が終わってからなのでもう少し後になるから、今は誰も居ない。
 運動場の向こう側には山があるが、そこにも何の変哲も無さそうだ。

 こちらに転生してからの勉強で分かったことだが、この山も我が家の管理物で、この山を挟んだ向こう側が父達の暮らす領地ヴィンターベルトとなっている。
 一般的な侯爵家よりもかなり広い土地を持っているが、その原因はこの山にある。遭難者も出たりするような険しい山なので簡単には行き来出来ないので領地として含まれていない計算になるのだ。
 だが、この山も大事な財産として加算しているのが我がヴィラント家だ。
 資源としてではなく、防波堤として。
 
 実は戦争は終わっておらず。隣国とは停戦状態にあるだけだ。
 そして、隣国はヴィンターベルトの向こう側にある。攻め入られたときに水際で防ぐのが我が領地と、そして我が家の役目というわけだ。
 だから、領地でも我が家でも戦闘訓練は毎日行われている。その厳しさは、懲罰として騎士団員が時々送り込まれては泣いて帰るという噂がある程だ。
 ちなみにクロウツィアは令嬢として割と甘やかされているので、そこまで厳しい訓練は受けていない。

「こちらです」

 そう言ってカーラが指示したのは訓練場の端にある大きな家畜小屋だった。
 扉を開けて中をのぞくと、目立つところに真っ白な馬が立って居た。赤を基調とした馬装が映えて綺麗だ。

「綺麗な馬……」
「先日お嬢様のお父上から婚約の祝いにと贈られてきました。お嬢様の馬です」
「私の!?」

 私は当然というか馬に乗れない。前世では動物園でしか見た事無かったし、クロウツィアも移動は馬車のみだった。
 鑑賞するには綺麗だが、乗り物とするには大きいくて筋肉質でごつい。怖い。

「今までお嬢様は嫌がって乗ろうとされませんでしたが、ウィンスター様は乗馬がお好きでいらっしゃるので、成人された今社交乗馬には必ず参加されるでしょう。その際婚約者として同行するのは義務と言ってもよろしいでしょうね」
「そ、そうだね」

 正直婚約者云々はどうでも良いけれど、騎士に乗馬は必須項目だ。それに、馬車でしか移動できないとかかっこ悪いじゃないか。
 盲点だった。

「よく訓練された良い馬ですが、いきなり乗るのは無理ですので、今日は名前を付けてお手入れの練習からですね。馬は命を預ける大事なパートナーです。基本的な世話は馬丁が行いますが、一日一度は愛でる時間を作り信頼関係を築いて下さい」
「……分かった」

 まずは名前、ね。
 白馬に向き合うと、やはり大きくてごつい。
 あ、でも、とても優しく穏やかな黒い瞳をしている。
 そっと鼻先に手を伸ばすと、おとなしくなでさせてくれた。
 結構大人しい子のようだ。これなら仲良く出来るかもしれない。
 ふと視線をそちらにやる。男の子だった。女の子だとたくさん候補があったけど男の子ならこれしかないと思う。
 私は彼の頬をそっと撫でながら瞳を見つめて呼びかけるように名付ける。

「ヘリオス……ヘリオスって名前はどうかな?」

 確か外国語で太陽という意味の言葉だったと思う。
 ヘリオスは了承するかのように瞬きで返事をしてくれた。ビビッてひっくり返ってしまった。恥ずかしい。





 



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