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宝石の庭と異端の悪魔
追憶:消えた天使たちの行方
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「ルーシー! 書庫はそっち道じゃないぞ!」
ウェーブのかかったブロンドの前髪をセンターで分けたキリッとした顔立ちの青年がルーシーと呼ばれた青年に向かって大きな声を出す。
ルーシーはシルバーブロンドの少し長い髪をゆるく一つにまとめていて、彫刻のようにきめ細かく白い肌で整った顔をしていた。
どちらの青年も同じ金色の瞳をしており、同じ白い布をまとった服装をしている。
唯一の違いは肩から掛けている布の色で、キリっとした顔立ちの青年は金の刺繍をあしらった赤い布を、もう一人の青年はすべてが黄金色の布をかけているところぐらいだ。
「サタン、この僕が通い慣れた書庫への道を間違える訳ないだろう。わざと、だよ。わ、ざ、と」
ルーシーは無駄にキラキラしながら後ろ手に手をひらひらとさせる。
「いつも迷子になっているだろうが! 真っ直ぐ行って左だ! 最近は神々への不満を持つものが多くて上申しないといけない事項が山積みなんだ。俺一人じゃ捌ききれないから迷子になるなよ。……本当に面倒な仕事だ」
サタンはぶつぶつ言いながらもルーシーが無事に本来の書庫へたどり着く道へ行った事を見届け、自分は大量の書類を抱えたまま反対の方向へ向かう。
書斎へ向かって飛んでいると、ウェーブがかった琥珀色の髪をした青年が膝を抱えてどこまでも続く七色に輝く雲と水色の空をぼんやりと眺めていた。
その瞳は鮮やかな黄色いラナンキュラスの花のように輝いている。
「ネシウム、来てくれていたのか、海域の管理も忙しいのに悪いな」
「いいえ、私の仕事はそんなに忙しくはないので。神々より役職名を与えられているサタン様のお手伝いができて光栄です」
ネシウムというまだ幼くも見える青年はおだやかに微笑む。
「何を見ていたのだ?」
「この辺一帯を覆っている虹雲の向こう側を見ることができないかと思ったのですが、風の力で雲をどかしてみても全く見えませんでした」
「雲の向こう側では創作作業が絶えまなく続いているというが……俺に訴える者の役割を与えておきながら上申した訴えの対応もせずに神々は何をされているのか。せめて教えてくれたら天使たちの不満も少しは無くなるだろうな」
「不満を伝えにきた天使たちのことなのですが、次々に姿を消しているとか」
「そうだ。今日呼んだのは天使たちが姿を消してしまったせいで開いてしまった持ち場の配置について相談したかったからだ。お前の特性が見える眼で天使たちに合った配置にできているのかを観てもらいたい」
「承知しました」
二人は話をしながら白を基調とした二人の身長より五倍くらいの高さがある荘厳な扉をゆっくりと開く。
扉の向こうは壁一面、本や巻物でぎっしりと埋まっており、真ん中には突き抜けた天井から大きな天秤が黄金の鎖で吊るされ輝いている。
円柱の形をした部屋の中はデスクが天秤を囲むように置かれ、小さな天使たちが忙しそうに書類を持ちながら行ったり来たり羽ばたいている。
サタンが腕を伸ばすと上から巻物がぽとりと落とされる。広げるとそこには組織図のようなものが書いてあり名前が勝手に消えたり増えたりしていた。
「ここにいたクシルバはどうしました? 配置は完璧に適合していたはずですが……彼も不満を?」
組織図を覗き込んでいたネシウムが空白になってしまっている部分を指差しながら驚いたようにサタンに問いかける。
「いや、実は不満を言った天使ばかりでなく、こうして突然名前が消える天使もいるのだ」
ネシウムは顎に手を当てる。
(この天界から消えるなんて……雲から出ることは不可能だ。虹雲の中の構造はすべて頭に入っている。それならば消えた天使たちはいったいどこへ?)
サタンも同じことを考えているようで目を伏せながら答える。
「俺たち天使は休むことなく神に与えられた役割のまま常に動いているが、自我が生まれた天使たちは独自の考えを持つようになり、考え方の違いから天使同士で対立も起きている。天使が天使を消滅させるなんてことは考えたくはないのだが……それか天界には急に今までなにもなかった場所に新しい空間が造られることがある。だから自我をもった天使だけが知ることができる場所があるかもしれないということは考えている」
「自我をもった天使たちが他の天使たちも連れ去っている恐れがあるとお考えですか?」
「それもありえると考えてはいる。俺は訴える者として話を聞いて神に報告することしか出来ない。そしてその不満はここ何億光年か解消されたことはない。天使たちが集まって反乱なんてこともありえる。俺の力が及ぶ範囲は広くない……」
サタンは深いため息をついて肩を落とす。
「どこに行ったか分からないといえばルーシー様はどちらに?」
「小さな揉め事があってな、過去に神が下した判決を確認しに書庫に行っている」
「一人で、ですか?」
「道は教えた。俺がついていこうと思ったのだが書類を抱えすぎていたし、一旦こっちの資料も欲しかったからな、さすがに大丈夫だろ・・・・・・」
ネシウムとサタンは顔を見合わせる。
「……ちょっと連絡してみるか」
サタンは頭のなかにルーシーを思い浮かべ、通信の承諾を待つ。
その間ネシウムはサタンの事務室を白く美しい羽を広げ飛び回り、消えた天使たちの居場所についてなにか手掛かりになる資料がないか探してみる。
《おい、ルーシー。まだ書庫か?》
どうやら通信が繋がったようだ。サタンは「来い、来い」と飛んでいるネシウムにも合図を出し通信に入ってくるよう促す。
《ルーシー様、今どちらにいらっしゃいますか?》
《あ、ネシウム! サタンが教えてくれた道がまちがっていたようでね、書庫を出てまっすぐ行って左に曲がったはずが、どこか庭のような場所へ出てしまったよ》
《俺が教えたのは書庫に行く道だろ! 帰りはその逆に決まっているだろが!》
《え、そうだっけ? そう怒らないでくれよ、サタン。僕の天才的な方向感覚のおかげでおもしろいものを見つけた》
ネシウムとサタンは眉を派の字に下げて顔を見合わせる。
《すごいですね。私も見てみたいのでそこから動かないで待っていていただけますか》
《動くもなにも出口はどこだったかな……うん。左だ。左行って下かな?》
《……とにかく動くなよ!》
ネシウムとサタンは翼を広げると急いでルーシーの所へ向かう、しかし途中に彼の言った庭園のような部屋は見当たらずルーシーも見つけられなかった。
ウェーブのかかったブロンドの前髪をセンターで分けたキリッとした顔立ちの青年がルーシーと呼ばれた青年に向かって大きな声を出す。
ルーシーはシルバーブロンドの少し長い髪をゆるく一つにまとめていて、彫刻のようにきめ細かく白い肌で整った顔をしていた。
どちらの青年も同じ金色の瞳をしており、同じ白い布をまとった服装をしている。
唯一の違いは肩から掛けている布の色で、キリっとした顔立ちの青年は金の刺繍をあしらった赤い布を、もう一人の青年はすべてが黄金色の布をかけているところぐらいだ。
「サタン、この僕が通い慣れた書庫への道を間違える訳ないだろう。わざと、だよ。わ、ざ、と」
ルーシーは無駄にキラキラしながら後ろ手に手をひらひらとさせる。
「いつも迷子になっているだろうが! 真っ直ぐ行って左だ! 最近は神々への不満を持つものが多くて上申しないといけない事項が山積みなんだ。俺一人じゃ捌ききれないから迷子になるなよ。……本当に面倒な仕事だ」
サタンはぶつぶつ言いながらもルーシーが無事に本来の書庫へたどり着く道へ行った事を見届け、自分は大量の書類を抱えたまま反対の方向へ向かう。
書斎へ向かって飛んでいると、ウェーブがかった琥珀色の髪をした青年が膝を抱えてどこまでも続く七色に輝く雲と水色の空をぼんやりと眺めていた。
その瞳は鮮やかな黄色いラナンキュラスの花のように輝いている。
「ネシウム、来てくれていたのか、海域の管理も忙しいのに悪いな」
「いいえ、私の仕事はそんなに忙しくはないので。神々より役職名を与えられているサタン様のお手伝いができて光栄です」
ネシウムというまだ幼くも見える青年はおだやかに微笑む。
「何を見ていたのだ?」
「この辺一帯を覆っている虹雲の向こう側を見ることができないかと思ったのですが、風の力で雲をどかしてみても全く見えませんでした」
「雲の向こう側では創作作業が絶えまなく続いているというが……俺に訴える者の役割を与えておきながら上申した訴えの対応もせずに神々は何をされているのか。せめて教えてくれたら天使たちの不満も少しは無くなるだろうな」
「不満を伝えにきた天使たちのことなのですが、次々に姿を消しているとか」
「そうだ。今日呼んだのは天使たちが姿を消してしまったせいで開いてしまった持ち場の配置について相談したかったからだ。お前の特性が見える眼で天使たちに合った配置にできているのかを観てもらいたい」
「承知しました」
二人は話をしながら白を基調とした二人の身長より五倍くらいの高さがある荘厳な扉をゆっくりと開く。
扉の向こうは壁一面、本や巻物でぎっしりと埋まっており、真ん中には突き抜けた天井から大きな天秤が黄金の鎖で吊るされ輝いている。
円柱の形をした部屋の中はデスクが天秤を囲むように置かれ、小さな天使たちが忙しそうに書類を持ちながら行ったり来たり羽ばたいている。
サタンが腕を伸ばすと上から巻物がぽとりと落とされる。広げるとそこには組織図のようなものが書いてあり名前が勝手に消えたり増えたりしていた。
「ここにいたクシルバはどうしました? 配置は完璧に適合していたはずですが……彼も不満を?」
組織図を覗き込んでいたネシウムが空白になってしまっている部分を指差しながら驚いたようにサタンに問いかける。
「いや、実は不満を言った天使ばかりでなく、こうして突然名前が消える天使もいるのだ」
ネシウムは顎に手を当てる。
(この天界から消えるなんて……雲から出ることは不可能だ。虹雲の中の構造はすべて頭に入っている。それならば消えた天使たちはいったいどこへ?)
サタンも同じことを考えているようで目を伏せながら答える。
「俺たち天使は休むことなく神に与えられた役割のまま常に動いているが、自我が生まれた天使たちは独自の考えを持つようになり、考え方の違いから天使同士で対立も起きている。天使が天使を消滅させるなんてことは考えたくはないのだが……それか天界には急に今までなにもなかった場所に新しい空間が造られることがある。だから自我をもった天使だけが知ることができる場所があるかもしれないということは考えている」
「自我をもった天使たちが他の天使たちも連れ去っている恐れがあるとお考えですか?」
「それもありえると考えてはいる。俺は訴える者として話を聞いて神に報告することしか出来ない。そしてその不満はここ何億光年か解消されたことはない。天使たちが集まって反乱なんてこともありえる。俺の力が及ぶ範囲は広くない……」
サタンは深いため息をついて肩を落とす。
「どこに行ったか分からないといえばルーシー様はどちらに?」
「小さな揉め事があってな、過去に神が下した判決を確認しに書庫に行っている」
「一人で、ですか?」
「道は教えた。俺がついていこうと思ったのだが書類を抱えすぎていたし、一旦こっちの資料も欲しかったからな、さすがに大丈夫だろ・・・・・・」
ネシウムとサタンは顔を見合わせる。
「……ちょっと連絡してみるか」
サタンは頭のなかにルーシーを思い浮かべ、通信の承諾を待つ。
その間ネシウムはサタンの事務室を白く美しい羽を広げ飛び回り、消えた天使たちの居場所についてなにか手掛かりになる資料がないか探してみる。
《おい、ルーシー。まだ書庫か?》
どうやら通信が繋がったようだ。サタンは「来い、来い」と飛んでいるネシウムにも合図を出し通信に入ってくるよう促す。
《ルーシー様、今どちらにいらっしゃいますか?》
《あ、ネシウム! サタンが教えてくれた道がまちがっていたようでね、書庫を出てまっすぐ行って左に曲がったはずが、どこか庭のような場所へ出てしまったよ》
《俺が教えたのは書庫に行く道だろ! 帰りはその逆に決まっているだろが!》
《え、そうだっけ? そう怒らないでくれよ、サタン。僕の天才的な方向感覚のおかげでおもしろいものを見つけた》
ネシウムとサタンは眉を派の字に下げて顔を見合わせる。
《すごいですね。私も見てみたいのでそこから動かないで待っていていただけますか》
《動くもなにも出口はどこだったかな……うん。左だ。左行って下かな?》
《……とにかく動くなよ!》
ネシウムとサタンは翼を広げると急いでルーシーの所へ向かう、しかし途中に彼の言った庭園のような部屋は見当たらずルーシーも見つけられなかった。
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