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プロローグ
プロローグ 1
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冒険者になって何年も経ったが、富や名声はおろか、まともな冒険者としての実績もない。日銭稼ぎのために簡単な依頼(クエスト)をこなすだけのつまらない日々を過ごしていた。
今日もそうだった。
街郊外の近くの森でレッドウルフという危険な魔物が出没したというので、索敵と討伐の依頼を受けた。
無理に討伐しなくても、どこに出没するかを見つけて報告するだけでも報酬が得られるので、技量がない冒険者にとっては美味しい仕事だ。
本当は発見したら討伐したほうがいいのだろうが、凶悪凶暴で手強い魔物を倒せるほどの技量も度胸も持ち合わせていなかった。
もう少し若い頃なら、向こう見ずに勇敢に立ち向かっていただろうが、今の自分の強さと弱さを知ってしまっている。無理な挑戦をしないのが長生きの秘訣だ。
冒険者として身体が動けるうちは冒険者ギルドの世話になれば仕事と食うには困らない。
だけど、老いて無理ができなくなった先は……いや、考えないでおこう。先のことを考えれば今が虚しく嫌になるだけだ。
今はその日の銭を稼げればいい。
数時間ほど周囲を見回ったがレッドウルフの姿も痕跡も発見できなかった。
森から離れていったのだろうか。
立ち去っていたら、それはそれで良いことなんだろうが、当然報酬なしになってしまう。ただの無駄足だ。
一定期間魔物の情報がなければ依頼は取り下げられてしまう。
もう少し西のほうに行ってみるかと足を向けた時だった。
木々の間の草むらから音がし、すぐに木陰に身を隠してから、その方向を覗う。
(子供? いや、違う……)
子供のような姿をしたものが現れたが、人間(ヒューマ)の子供ではないと一目でわかった。
肌は泥に塗れているかのように黒みがかかった緑色。目は鋭く光、耳も目と同じように尖っていた。
ゴブリンだ。
ゴブリンも立派な魔物であり、人間に襲いかかってくる危険な魔物だが、ゴブリン程度なら武器を持った大人(農夫など)でも一対一ならば撃退できる。
たった一匹のゴブリンに臆して倒せないようでは、冒険者として引退どころか失格だろう。
しかし、手慣れた冒険者でも武器を手にした子供相手に深手を負う可能性もある。油断は禁物だ。
腰に差していた短剣を抜き、戦闘態勢に入る。
まだゴブリンからは気づかれていないようだ。
ゴブリンが背を向けた瞬間、今が好機とばかりに飛び出して、ショートソードの切っ先をゴブリンの心臓を狙って突き刺した。
致命的な一撃!!。
ゴブリンはひどく苦しそうな悲鳴を上げながら、こちらを振り向いた――そして、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
すると、ゴブリンの体から黒い霧が吹き出し、その霧がこちらの体にまとわりついてきた。
「うわっ! 何だこれは!?」
霧を振り払おうとしたが、霧は離れることはなく、徐々に体に吸い込まれていく。
突然わけもわからない気持ち悪さに襲われ、吐き気を催しながら、体中に痒みと激しい痛みが走る。
やがて意識が遠のいてしまった。
・
・
・
・
・
(んっ……)
どれくらい意識を失っていたのだろうか。
目覚めると、体が重く成長痛のような痛みが残り、喉が激しく渇いていた。
(水……水が欲しい……)
なんとか立ち上がり、微かに聞こえてくる川のせせらぎ音を目指してフラフラと歩いていく。
しばらくして川辺にたどり着き、川の水を飲み干す勢いで喉を潤す。
(ああ……少し楽になった……)
一息つき、落ち着いたところで水面に映った自分の姿に驚愕する。
「‥‥っ!?」
先ほど自分が殺したはずのゴブリンの顔が映っていた。
バッと振り返るもゴブリンどころか誰もいない。改めて水面を見ると、やはりゴブリンが映っている。
自分の意思で手を顔に当てると、水面に映るゴブリンも同じ動作をした。
そう、自分はゴブリンになってしまっていたのだ。
今日もそうだった。
街郊外の近くの森でレッドウルフという危険な魔物が出没したというので、索敵と討伐の依頼を受けた。
無理に討伐しなくても、どこに出没するかを見つけて報告するだけでも報酬が得られるので、技量がない冒険者にとっては美味しい仕事だ。
本当は発見したら討伐したほうがいいのだろうが、凶悪凶暴で手強い魔物を倒せるほどの技量も度胸も持ち合わせていなかった。
もう少し若い頃なら、向こう見ずに勇敢に立ち向かっていただろうが、今の自分の強さと弱さを知ってしまっている。無理な挑戦をしないのが長生きの秘訣だ。
冒険者として身体が動けるうちは冒険者ギルドの世話になれば仕事と食うには困らない。
だけど、老いて無理ができなくなった先は……いや、考えないでおこう。先のことを考えれば今が虚しく嫌になるだけだ。
今はその日の銭を稼げればいい。
数時間ほど周囲を見回ったがレッドウルフの姿も痕跡も発見できなかった。
森から離れていったのだろうか。
立ち去っていたら、それはそれで良いことなんだろうが、当然報酬なしになってしまう。ただの無駄足だ。
一定期間魔物の情報がなければ依頼は取り下げられてしまう。
もう少し西のほうに行ってみるかと足を向けた時だった。
木々の間の草むらから音がし、すぐに木陰に身を隠してから、その方向を覗う。
(子供? いや、違う……)
子供のような姿をしたものが現れたが、人間(ヒューマ)の子供ではないと一目でわかった。
肌は泥に塗れているかのように黒みがかかった緑色。目は鋭く光、耳も目と同じように尖っていた。
ゴブリンだ。
ゴブリンも立派な魔物であり、人間に襲いかかってくる危険な魔物だが、ゴブリン程度なら武器を持った大人(農夫など)でも一対一ならば撃退できる。
たった一匹のゴブリンに臆して倒せないようでは、冒険者として引退どころか失格だろう。
しかし、手慣れた冒険者でも武器を手にした子供相手に深手を負う可能性もある。油断は禁物だ。
腰に差していた短剣を抜き、戦闘態勢に入る。
まだゴブリンからは気づかれていないようだ。
ゴブリンが背を向けた瞬間、今が好機とばかりに飛び出して、ショートソードの切っ先をゴブリンの心臓を狙って突き刺した。
致命的な一撃!!。
ゴブリンはひどく苦しそうな悲鳴を上げながら、こちらを振り向いた――そして、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
すると、ゴブリンの体から黒い霧が吹き出し、その霧がこちらの体にまとわりついてきた。
「うわっ! 何だこれは!?」
霧を振り払おうとしたが、霧は離れることはなく、徐々に体に吸い込まれていく。
突然わけもわからない気持ち悪さに襲われ、吐き気を催しながら、体中に痒みと激しい痛みが走る。
やがて意識が遠のいてしまった。
・
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(んっ……)
どれくらい意識を失っていたのだろうか。
目覚めると、体が重く成長痛のような痛みが残り、喉が激しく渇いていた。
(水……水が欲しい……)
なんとか立ち上がり、微かに聞こえてくる川のせせらぎ音を目指してフラフラと歩いていく。
しばらくして川辺にたどり着き、川の水を飲み干す勢いで喉を潤す。
(ああ……少し楽になった……)
一息つき、落ち着いたところで水面に映った自分の姿に驚愕する。
「‥‥っ!?」
先ほど自分が殺したはずのゴブリンの顔が映っていた。
バッと振り返るもゴブリンどころか誰もいない。改めて水面を見ると、やはりゴブリンが映っている。
自分の意思で手を顔に当てると、水面に映るゴブリンも同じ動作をした。
そう、自分はゴブリンになってしまっていたのだ。
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