上 下
7 / 9

愛と哀しみの焼き鳥

しおりを挟む
【飼っていた文鳥をお父さんが……(泣)】



ケンタくんは文鳥を飼っていました。
ブンちゃんという名前です。
可愛くて可愛くて、学校から帰ると、いつも一緒にいました。

ケンタくんのお父さんとお母さんは、しょっちゅうケンカをしていました。
そのうち、お母さんは家を出ていってしまいました。
でも、ケンタくんにはブンちゃんがいたので、さびしくありませんでした。

お父さんは家でお酒を飲んでばかりいました。
もともと、居酒屋で板前として働いていたけれど、お店がつぶれてしまって。
新しい仕事も見つからなくて、ずっとイライラしているのです。

やがて、ケンタくんはおこづかいをもらえなくなりました。
ごはんがない時もありました。
一日一回、食べられれば、いいほうです。
給食費を持っていけなくて、恥ずかしい思いもしました。
お腹がすいてすいてつらかったけれど、ブンちゃんの餌はまだたっぷりあったので、ケンタくんはちっとも不安になりませんでした。

そんなある日、ケンタくんの誕生日のことでした。
今までなら毎年、お母さんのごちそうが待っていたのですが、今年は初めから期待していませんでした。
けれども、学校から帰ってくると、お父さんがめずらしくごはんを作ってくれていました。
それはすごくおいしい焼き鳥でした。

お腹いっぱいには物足りなかったけれど、ひさしぶりのごちそうに満足して、ケンタくんはブンちゃんと遊ぼうとしました。
だけど、かごの中に姿が見当たりません。
逃げてしまったのかな?
すると、お父さんは言いました。
今、ケンタがうれしそうに食べていたじゃないか。

ケンタくんは泣きだしてしまいました。
ブンちゃんがかわいそう。
お父さんなんて大嫌いだ。
ケンタくんはおもいっきり殴られました。
それでも泣きやみません。
お父さんは怒って、出かけてしまいました。

そのうち、ケンタくんは苦しくなってもがき始めました。
体が熱くなり、まるで火に焼かれているようでした。
ああ、ブンちゃんはこんな目にあっていたんだねと、ケンタくんはぼんやり思いました。

酔っぱらって帰ってきたお父さんは、部屋の中を見て驚きました。
背丈が子どもくらいの鳥のバケモノがいるのです。
全身、羽根でおおわれていますが、ところどころ、むしり取られて、真っ赤な肌が露出しています。
ケンタ?
お父さんは呼びかけましたが、鳥のバケモノはくちばしをパクパクさせながら奇声を発するだけで、言葉になりません。
そして、まるで羽ばたくようにふわっとお父さんに突進してきました。
倒されたお父さんは、くちばしで体のあちこちをつつかれました。
助けてくれと悲鳴を上げましたが、鳥のバケモノは容赦しません。
ついには、お父さんの目ん玉を二つともくり抜いて食べてしまいました。

それで満足したのか、鳥のバケモノは窓をぶち破ると、大きく羽ばたいて飛び立っていきました。
炎に包まれた何かが空のかなたへ消えてゆくのを、何人もの人が目にするのでした。

              (了)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

リトルストーリーズ~小さな物語集~

タカハシU太
ライト文芸
小品のショートショート集を掲載していきます 現代からSFファンタジーまで

ぽんくら短編集

タカハシU太
ライト文芸
ポンコツ&ボンクラなショートショートの寄せ集め

【短編アンソロジー】去りゆく影たち

タカハシU太
ライト文芸
出会いがあれば別れもある……そして時には再会も。 *** 各話完全独立した完結作品を掲載。 著者自選の短編集一覧です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【短編】怖い話のけいじばん【体験談】

松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。 スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。

ちょこっと怖い話・短編集(毎話1000文字前後)──オリジナル

山本みんみ
ホラー
少しゾワっとする話、1話1000文字前後の短編集です。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...