2 / 3
冬夢 ~Fuyuyume~
しおりを挟む
【不幸な少女の前に謎の王子さまが現れた】
その青い瞳の女の子は、毎日、お花を売っていました。
彼女が暮らしているおうちは、戦争未亡人のおばさんが営むお花屋さんだったからです。
女の子にはお父さんもお母さんもいなかったので、住まわせてもらっている代わりに、いっしょうけんめいにお花を売る仕事をしました。
お花が売れないと、ごはんを食べさせてもらえないのです。
お店での仕事が終わると、売れ残ったお花を持って、売り子に出かけました。
馬車が行き交う石畳の大通り、ランタンの街灯ので、寒さに震えながら。
「お花は? お花はいかがですか?」
けれども、人々は足を止めることもなく通りすぎていきました。
まるで女の子なんて存在しない、道端の石ころを見るかのように。
かじかむ手に白い息を吐きかけながらたたずんでいると、一陣の突風が女の子を襲いました。
かごの中の花々があおられて、路上に投げ出されました。
急いで拾おうとした時、ふっと手が差し出され、手伝ってくれる男性が現れました。
「どうもありがとうございます」
ところが、相手の男性は花を返す代わりに、硬貨を女の子の手の中に収めてきました。
たった四本の花の代金にしては多すぎます。
女の子はおどろいて、相手の顔を見返しました。
しかし、男性はすでに背を向けて歩き始めていました。
黒いコート、黒いハット、黒いステッキをたずさえて。
女の子はお金を返そうと追いかけましたが、男性は人混みの中にまぎれて、見失ってしまいました。
おうちに帰ると、代金はおばさんに全部、取り上げられました。
でも、今日は晩ごはんを食べさせてもらえます。
おばさんやいとこたちの残りものでしたけれど。
そうそう、三人のいとこはしょっちゅう、女の子にいじわるをする悪い子たちでした。
今日も嫌がらせをしてきましたが、女の子はがまんし、残りものを持って、屋根裏の自分の部屋に行きました。
屋根裏部屋はすきま風のせいで、しんしんと体が冷えます。
残りもののごはんも冷たいです。
明かりは窓から差し込むお月さまの光だけです。
そして、割れた器などに挿された枯れかけの花々が、ところ狭しと飾ってあるのでした。
だけど、今夜の女の子は心がぽかぽか。
先ほどの黒い服の紳士のことで、頭の中がいっぱいだったのです。
あれからあの紳士は何日も現れては、そのたびに花を買っていってくれました。
彼は無言。
やはり顔は暗い影におおわれて、はっきりとは分かりません。
女の子はお礼を言うだけ。
でも、それだけで十分でした。
今夜も凍える屋根裏部屋で、アルコールランプを見つめながら、女の子は願いをこめるようにつぶやきました。
「わたしをここから救って!」
その時、窓が突風のせいで、勢いよく開きました。
見返すと、窓辺にあの紳士が腰掛けているではありませんか。
透きとおるような白い肌の整った顔だち。
こんなに美しい男性を、女の子は今まで見たことがありませんでした。
まるで、おとぎ話に出てくる王子さまのようです。
部屋の中がまぶしい光に包まれ、しおれた花がみずみずしく息を吹き返し、次々と花びらを大きく開いていくのでした。
「さあ、行こう」
王子さまに手を差し伸べられて、女の子は笑顔でにぎり返しました。
気がつくと、女の子は咲きほこるお花畑の中を、王子さまと二人で馬にまたがり、駆けめぐっていました。
たづなを握る王子さまの両腕の中で抱きしめられるようにして。
女の子は楽しくて楽しくて笑い続けました。
「見てごらん」
馬は丘の上で止まり、遠くにお城が見えます。
「あれが、わたしの暮らすお城?」
「そう、ぼくのお妃さまとしてね」
そう言って、王子さまは女の子に顔を近づけてきました。
女の子は目を閉じ、くちびるが触れ合うのをしっかりと感じとりました。
今、女の子は屋根裏部屋の片すみで座ったまま眠っていました。
周りに飾られていた花は次々と花びらを落とし、枯れていきます。
それでも女の子は目覚めることはなく、その寝顔はかすかにほほ笑んでいるようにも見えました。
「さあ、行こう。わたしたちの暮らすお城へ!」
(了)
【企画:Supercell 原案:takeru 作:タカハシU太】
その青い瞳の女の子は、毎日、お花を売っていました。
彼女が暮らしているおうちは、戦争未亡人のおばさんが営むお花屋さんだったからです。
女の子にはお父さんもお母さんもいなかったので、住まわせてもらっている代わりに、いっしょうけんめいにお花を売る仕事をしました。
お花が売れないと、ごはんを食べさせてもらえないのです。
お店での仕事が終わると、売れ残ったお花を持って、売り子に出かけました。
馬車が行き交う石畳の大通り、ランタンの街灯ので、寒さに震えながら。
「お花は? お花はいかがですか?」
けれども、人々は足を止めることもなく通りすぎていきました。
まるで女の子なんて存在しない、道端の石ころを見るかのように。
かじかむ手に白い息を吐きかけながらたたずんでいると、一陣の突風が女の子を襲いました。
かごの中の花々があおられて、路上に投げ出されました。
急いで拾おうとした時、ふっと手が差し出され、手伝ってくれる男性が現れました。
「どうもありがとうございます」
ところが、相手の男性は花を返す代わりに、硬貨を女の子の手の中に収めてきました。
たった四本の花の代金にしては多すぎます。
女の子はおどろいて、相手の顔を見返しました。
しかし、男性はすでに背を向けて歩き始めていました。
黒いコート、黒いハット、黒いステッキをたずさえて。
女の子はお金を返そうと追いかけましたが、男性は人混みの中にまぎれて、見失ってしまいました。
おうちに帰ると、代金はおばさんに全部、取り上げられました。
でも、今日は晩ごはんを食べさせてもらえます。
おばさんやいとこたちの残りものでしたけれど。
そうそう、三人のいとこはしょっちゅう、女の子にいじわるをする悪い子たちでした。
今日も嫌がらせをしてきましたが、女の子はがまんし、残りものを持って、屋根裏の自分の部屋に行きました。
屋根裏部屋はすきま風のせいで、しんしんと体が冷えます。
残りもののごはんも冷たいです。
明かりは窓から差し込むお月さまの光だけです。
そして、割れた器などに挿された枯れかけの花々が、ところ狭しと飾ってあるのでした。
だけど、今夜の女の子は心がぽかぽか。
先ほどの黒い服の紳士のことで、頭の中がいっぱいだったのです。
あれからあの紳士は何日も現れては、そのたびに花を買っていってくれました。
彼は無言。
やはり顔は暗い影におおわれて、はっきりとは分かりません。
女の子はお礼を言うだけ。
でも、それだけで十分でした。
今夜も凍える屋根裏部屋で、アルコールランプを見つめながら、女の子は願いをこめるようにつぶやきました。
「わたしをここから救って!」
その時、窓が突風のせいで、勢いよく開きました。
見返すと、窓辺にあの紳士が腰掛けているではありませんか。
透きとおるような白い肌の整った顔だち。
こんなに美しい男性を、女の子は今まで見たことがありませんでした。
まるで、おとぎ話に出てくる王子さまのようです。
部屋の中がまぶしい光に包まれ、しおれた花がみずみずしく息を吹き返し、次々と花びらを大きく開いていくのでした。
「さあ、行こう」
王子さまに手を差し伸べられて、女の子は笑顔でにぎり返しました。
気がつくと、女の子は咲きほこるお花畑の中を、王子さまと二人で馬にまたがり、駆けめぐっていました。
たづなを握る王子さまの両腕の中で抱きしめられるようにして。
女の子は楽しくて楽しくて笑い続けました。
「見てごらん」
馬は丘の上で止まり、遠くにお城が見えます。
「あれが、わたしの暮らすお城?」
「そう、ぼくのお妃さまとしてね」
そう言って、王子さまは女の子に顔を近づけてきました。
女の子は目を閉じ、くちびるが触れ合うのをしっかりと感じとりました。
今、女の子は屋根裏部屋の片すみで座ったまま眠っていました。
周りに飾られていた花は次々と花びらを落とし、枯れていきます。
それでも女の子は目覚めることはなく、その寝顔はかすかにほほ笑んでいるようにも見えました。
「さあ、行こう。わたしたちの暮らすお城へ!」
(了)
【企画:Supercell 原案:takeru 作:タカハシU太】
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
一人用声劇台本
ふゎ
恋愛
一人用声劇台本です。
男性向け女性用シチュエーションです。
私自身声の仕事をしており、
自分の好きな台本を書いてみようという気持ちで書いたものなので自己満のものになります。
ご使用したい方がいましたらお気軽にどうぞ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる