鍵を胸に抱いたまま

亨珈

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欲しくてたまらない

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 実よりも数センチ長い指先が、つぷりとそこから侵入し、しばらく放置されて硬くなっている筋肉を解しながら奥へ奥へと進む。
「あ、すご……内臓って感じ」
 哲朗は感慨深そうに中を探り、実の呼吸に合わせて指が追加された。
 事前に実自身自宅で処置はしてきているが、もしも汚れていたらと、いつだってこの行為にはいろんな方面での不安や恐れが付きまとう。
 そして、やはりというか、先走りだけでは潤滑液としては足らず、顔を寄せようとする哲朗を実は押しとどめた。
「ポケットに、ジェルが」
 しゅううと湯気が出そうなほどに顔を真っ赤にして囁くと、一旦体を離した哲朗が、スラックスから避妊具と同じくらいのサイズに分包されたジェルを取ってきた。
 ああなるほどと、慎重にそれを破いて指にまとわせてからまた解し始める。
 ついでに明かりも抑えてと頼めば良かったと悔やみながら、ついに三本に増やされた指に脳は蕩けて、次第にそんな瑣末事は意識から押し退けられていった。
 プロセスに慣れてきたのか、哲朗は実の腰の下に膝を入れて支えると、指を入れたまま実のものにも指を絡め、太股の内側に唇と舌を這わせた。
 ちゅっ、ちゅっと軽やかで湿り気のある音がして、くすぐったさにも似た快感が股間で愛撫されているものを揺らし、しとどに先端から濡れていく。
 実の声は止まることなく胸の中から湧きだし、切なく熱く哲朗の眼を潤ませ、昂ぶりは最高潮に達していた。
「わった、ん……もぅ、頂戴。大丈夫、だから」
 途切れ途切れに強請る声。そして誘うようにカーブして宙に持ち上がる腕。
 入り口のきつさは指でも十分に感じていたから、それでも哲朗は躊躇しながら己のものにスキンを装着した。
 サイズが、唯一の経験相手である新汰より大きなことは、実も承知している。
 かなり無謀な欲望だと分かっている。それでも求めていた。
 ひとつになりたい。体の最奥で、熱を共有したい。
 何度も何度も欲しいと囁いた。掠れる声に導かれ、滾る熱の固まりが小さなすぼまりにあてがわれる。長い吐息に合わせ、哲朗はゆっくりと腰を進めた。
 ぎちぎちと音が聞こえそうなほどにぴったりと密着し、ひだがぴんと伸びきって、懸命に迎え入れようとしていた。
 気持ちの方が萎えそうになる哲朗に、実は目尻に涙を滲ませたまま微笑み、絶対に止めないでと懇願する。
「ん……ぁ」
 強ばりそうになる体を説き伏せ力を抜いて受け入れていく腕の中の体がいとおしく、途中で暴走しそうになりながらも、どうにか根本まで収まった。
 ここまででもう、二人とも汗だくである。
 もう一度深呼吸しながら、哲朗は体を倒して胸を合わせた。
「ちょっと、このままで……」
 実から腕を回し、密着したまま汗が冷えていくのを感じていた。
 自分の中いっぱいに、哲朗が詰まっている。圧迫された胃が口から飛び出すのではないかと思うほどに質量を感じて、まさに満たされている実感があった。
 哲朗の脈動が、触れ合う胸からも体の中からも伝わってくる一体感。息を整えてから後頭部に手を掛け引き寄せ、うっとりと口付けた。
 どくんと、体内で脈打つと共に、圧迫感が増す。
 はあっ、と大きく息を吐いて哲朗が眉根を寄せた。思わず締め付けた実に、絞られそうになったのだ。
 う、と唸って耐えているのに気付き、実も覚悟を決めた。
「動いていいよ」
 腕を解き、体重を掛けすぎないようにと踏ん張っていた哲朗を解放し、呼吸を整える。
 ゆるりと腰を回し、具合を確かめながら、浅い位置で動かす。たっぷり使ったジェルと、僅かに中からも漏れる体液で滑り、痛みはないかと確認しながら、哲朗は一度ぎりぎりまで引いた。
「はあぁぁ、っん」
 腰に来る高く甘やかな声が、入り口の締め付けと襞の動きで引き留める。
 零れる涙は痛みからではないのが判り、今度はまたゆっくりと押し込めると、如実に好い箇所で反応する。そこで止めて上下に揺すぶると、大きく口を開けて喘ぐから、もう自分ももちそうにない。
「いい……いきそ。ね……一緒にっ」
 律動に合わせて跳ねる体で、既に半分意識が飛んでいるような表情で、実が零すと、腰と共に添えた手の動きに、二人殆ど同時に熱を吐き出した。
 なんという充足感か。
 押し込められ閉じ籠められた期間の長さに、圧縮された想いが弾けたかのように二人とも快感と悦楽の余韻に浸り、唇を合わせながら呼吸すら重なっていく。
「あいつの言ってたのと、全然違ってた」
 肘を実の顔の脇に突いてついばみながら、ふっと哲朗が笑った。
「そんな複雑とかじゃないよ。すっげー気持ちよさそうだったから、俺も安心した」
「え。あぁ……そ、そうなんだ」
 熱が冷めて意識が戻ってきて、実はかあっと首まで紅潮する。
 へへ、と照れ笑いしながら、哲朗は汗に濡れた実の前髪を払い、額にも口付けた。
「これって、俺にはちゃんと満足してくれてるって感じ。幸せだな」
 あう、と喉に詰まったような声を出してから、実の口元も綻んだ。
「わったんが幸せなら、おれも幸せ」
 えへ、と目を細めると、どくんと体内で哲朗が存在を主張した。
 二人視線を絡めて赤面し、いいかと囁く哲朗に、実は首を伸ばしたキスで応えたのだった。
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