鍵を胸に抱いたまま

亨珈

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切れない関係

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 盆栽だ、苔玉だと通っている教室では、池坊の師範が生け花も教えてくれていた。
 残念ながら二人にはその筋の才能はあまりなかったらしく、齧る程度に続けた後は手を引いてしまったのだけれど、その教室で親しくなった人のために皆でテラリウムを仕上げて贈った事があった。
 その時、新汰が吹きガラス関連の趣味を持っていることを知ったのだった。
 知り合いの工房を借りて制作をしているという新汰に教えてもらい、トンボ玉から始めてすぐに実はその世界にのめりこんで行った。
 吹きガラス用の炉は、一度火を入れてしまうと落とせない。傷むため炊き続けた方が長持ちするからである。常に付いていなければならないような備前焼などの窯とはまた異なるものの、安全上やはり誰かが居た方が良いからと、使っていない時間に貸し出してくれているのだった。効率及び金銭面からいっても望ましい形だろう。
 そこに通っている内に拙いながらも実も様々な技法を学び、いつしか二人共同で作品を仕上げて、僅かながら作品も売れるようになってきた。コンビというのは、その作家としてのコンビのことを示しているのだ。
「俺が吹いて、みのちゃんがその間にパーツ拵えて、タイミングを合わせて加工しながらくっ付ける。みのちゃんのデザインを俺がエッチングする。それでようやく仕上がるちろりみたいな作品もあるしさ。
 今更、辞められるわけがないじゃん」
 長い石段を登りながら、新汰は低く呟いた。
 そう、二人には固定客もファンも付いている。小さいながらも個展を開ける伝手もあるし、本業は別に持っているから、それ以外の時間を費やして趣味の延長で続けている。
 正直、儲けなど殆どない。
 地元では度々アート関連の青空市などがあり、参加してと頼まれれば、安くない場所代を支払って出店し、見るだけで買う人は少ないから赤字だと言えない事もない。
 ただ、稼ぎの中から回せるだけを材料費などに回し、売れればその分でまた材料を買いの繰り返しで続けて来ている。芸術系の作家など、殆どがそうやって自分が好きだから続けていられるのだ。それだけで生業にしていける者など、国内でほんの一握りではないかと思われる。
「続けたいよ、おれだって、辞めるつもりは無いし」
「んじゃ、ホント何がしたいの。どうしたいの」
「取り敢えず、恋人じゃなくてもコンビは続けられるんだから、それでいいでしょ。もうホテルには行かない」
「俺を嫌いになったわけじゃないけど、好きなやつが出来た、とか」
 すぐに答えられなかったのは、つい先刻思い出してしまった昔の想い人のせいだろうか。
「そんなんじゃないけど」
 一拍置いてからの答えに、新汰はふうんと鼻を鳴らした。
 吹き降ろす木枯らしに立ち向かうように、実はまた口を閉ざして足を動かし続けたのだった。
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