逃がさないよ?

亨珈

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Happy Marry Xmas

リア充満喫しちゃいます

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 駅からショッピングモールへと繋がるデッキ状の通路で、手摺りにもたれてぼうっと時計塔を眺めていた。三車線くらい幅があるデッキには、あちこちに街路樹とベンチがある。ベンチが空いてないこともないんだけど、いちゃつくカップルの隣に座るよりかは立っている方がいい。
 それに、瑛介さんから見えにくくなるしね!
 イルミネーションで飾り付けられた街路樹はそれぞれがクリスマス・ツリーみたいで、キラキラと眩しい。それに背を向けていたんだけど、これだと駅から来たら顔が見えないとようやく気付いて向き直る。
 ステンレスの手摺りに体温を吸い取られた感じがして、赤いウールの手袋を擦り合わせた。月桂樹の縫い取りと手首のマフがサンタっぽい印象で可愛いんだ。でも薄手だから、雪遊びには向かないんだけどね。指が細いお洒落タイプだから、実用性はあんまりない。でもいいの! デートですから!
 オフホワイトのロングブーツはニーハイで、スカートとの間にすこーし膝頭が見える程度。インに黒いタイツを履いてるスカートは太めのプリーツでロイヤルスチュアート柄。これでもかとクリスマスを意識してみた。
 コートもオフホワイトで、ブーツと若干色味が違うくらい。スカートが隠れない太腿の付け根までの長さにした。襟と裾と手首には同系色のフェイクファーが付いてて可愛いんだ~(自画自賛)
 髪は巻いてからルーズにサイドでまとめてみました。可愛さと大人っぽさの間を目指してみたんどけど、どうだろう……。

(瑛介さん、そろそろかな)

 学校を出るときにメッセージがきて、それが予定より少し早く行けそうって内容だったから、慌ててロッカールーム飛び出したんだよね。
 一応レストルームで服装チェックし直したから、大丈夫なはず!

(待ち合わせって、まだ慣れないなあ……)

 そわそわと周囲を見回してると、駅ナカに通じる通路から見慣れた長身が。
 アバターが着てるやつとは違う材質の黒いロングコート姿の瑛介さんが、手を振る私を見つけて歩み寄って来る。
 学生時代みたいに女子が群れたりしてなくて、皆自分の大切な人や友だちとのお喋りに夢中なのがいい。
 真っ直ぐにこっちに来る瑛介さんがあともう少しってところで、私は跳ねるように傍に行って体当たり気味に抱きついた。

「お疲れさまでーす」
「お、早速実行したか」

 お疲れ、と言いながら、瑛介さんも私の背中に腕を回してくれる。

「ちぇー。驚いてくれない」
「やるだろうと思ってたからな」
「理解がありすぎるー」

 悔しいけど嬉しくて、そのまま顔だけ上げてにへっと笑った。
 瑛介さんは、ひとしきり「よしよし」と背中をさすったあと、ポンと頭に触れて「腹減らないか?」と訊いてきた。
 こういうときの定番、憧れのディナーか!って、期待してなかったと言えば嘘になる。

「あー……わりい。そんなキラキラした瞳で見つめられても、予約してないからな。今回は無理」

 随分前から予約してないと無理なんだって。

(ていうか)

 不意に、胸のもやもやを感じ取る。

(それを知ってるってことは、前にも経験あるんだよね。そりゃそうだよ、今まで彼女なしってこともないだろうし)

「んー。じゃあ、チキンロール」

 クレープ生地で野菜と鶏肉をくるんだ軽食なら、歩きながらでも大丈夫だし。モールにある店舗の商品を提案してみると、瑛介さんは快く乗ってくれた。


 クラムチャウダーと一緒に、モールから隣の公園を望むテラス席で夕食です! 上から眺めるイルミネーションもなかなかですよ~。テーブルとチェアが金属製なんで寒いんですけどね。一人ずつのチェアなんで寂しいんですけどね、仕方ないんです……こぼして服を汚さないようにっていう瑛介さんの気遣いなんですよ……。
 ちなみに今回ちゃんと割り勘にしたのです! ランチの時は、食べる量が違うからって端しか出させてくれなかったから、同じメニューの今回は半分こなの。これ大事。
 いつも奢られてると、段々と不満に思われちゃうってカレカノあるあるですからね。心得てますですよ。
 イルミネーション、飾り付けているグループ(企業とか学校とか)ごとにテーマがあったりして、面白い。この公園は細い川を跨いでいて、川面にも飾り付けがあるんだけど、それは天の川なんだって。瑛介さんが食べながら説明してくれた。
 ふたり、斜めから対面する感じで、視界にいつもお互いの顔が見える。少し視線をずらせば、芝生の上や煉瓦の小道を散策する人たちとイルミネーション。クラムチャウダーの湯気と自分の呼気でちょっぴり霞んだ感じに見えて、ゆらゆらと夢心地。
 食後に、程よく冷めた紅茶を飲んでから席を立つ。
 またさり気なくカップとか重ねてコンパクトにまとめられちゃってた。そんなに呆けてたんだろか、私。
 ダストボックス脇で待ってくれている瑛介さんの差し出す手を握りながら、私は思い切ってその腕を抱き込んでみた。

「右腕封じ!」

 ギュッて抱き締めて、手のひらを合わせてレザーの手袋ごと指と指を絡めて。すり、と腕に頬を寄せて。

「そうきたか」

 頭上から降ってくるのは、いつもの呆れ混じりじゃない嬉しさを含ませた吐息で。私はまた見上げてふにゃけた顔になっちゃう。
 くっ、て何かを堪えたような表情の瑛介さんだったけど、まさか笑いを堪えたんじゃないよね……!?
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