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【幕間】某ストリーマーさんたちの日常【クロスオーバーver.】
黒歴史になるかもしれないとあるマッチ〈後編〉
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「犬かよ……」
「可愛いねぇ」
嘆息する浩司と、微笑ましげにクスクス笑うウォルターは、ログアウトしてから席を立つ。
使っていたヘッドセットを手に精算カウンターに向かうと、店員が笑顔で出迎えた。
「お疲れ様です。流石ですね。使い心地はいかがでしたか?」
二人はそれぞれの手からヘッドセットを返却し、浩司は緩く首を振り、ウォルターは首を少し傾げた。
「前のとあんま変わんねーかな。買い換える程のメリットがない」
「俺も今ので十分かな」
「そうなんですね、承知しました」
二人が学生の頃にはごく普通のスポーツセンターだったこの建物は、増築してeスポーツ棟ができた。様々なメーカーのゲーミングパソコンや関連商品が取り揃えられており、その場で使ってから購入することが可能となっている。
また、自宅で設備を整えることができない者にとっては、時間単位で最新スペックの環境で遊ぶことができるゲームセンターの役割も果たしている。
今日試したヘッドセットは、二人にとって少々物足りないものだった。可もなく不可もなくといった方が正しいか。
利用料金を精算したカードを受け取り、二人は出口へと向かった。
その晩の配信が始まってしばらくすると、とあるコメントをきっかけにチャット欄は大賑わいとなった。
〈昼間にやってたカスタムマッチにクロさまと王子出てたの見ましたー!〉
〈なにそれkwsk〉
〈えっ、嘘、チャンネルどこ〉
〈ショップのやつだけど、チェーン店じゃないからライブオンリーらしく〉
〈マジかー! 観たかった〉
〈勝ち確と思って途中からクリップした! どや!〉
〈神よ、お恵みを〉
わいわいと盛り上がるリスナーを横目に、浩司はあの微妙な戦いを思い出し苦笑いを浮かべながら敵を屠る。今回は学校に降りたので、そこそこ激戦区なのだ。チャットは放置である。
浩司が無言でキルを重ねている間に、クリップを別画面で見たらしきリスナーたちが次々とチャット欄に草を生やしていく。
〈別ゲーかと思ったwww〉
〈それなwwwww〉
〈どんな苦境でも勝つ。さすがクロさま〉
リアルタイムではゲーム序盤にも関わらず、チャリンチャリンと御祝儀が振り込まれていく。
装備が整ってから、微妙な気分で浩司はそれに対する謝辞を述べた。
〈最後の敵は知らない人だけど、その前に王子抜いたのってイアさんだったね〉
これはクリップしたのとはまた別のリスナーのコメントだった。
〈イアさんってInspireか〉
〈なるほどなっとく〉
〈だれ〉
〈ライブだけで配信してるけどSR強い〉
〈いま配信してるわ〉
〈ちょっと見てこよっかな〉
〈あ! 裏切り者ー!〉
〈ギルティ〉
「行ってらっしゃい。俺が勝つって信じてるから余所見すんだろ? いいぜ?」
車を入手して次のエリア収縮に備えながら索敵しつつ浩司が言うと、一瞬コメント欄の流れが止まった。
〈ギャー! クロさまがリスナーころしにかかってる〉
〈ウソですいくわけないじゃないですかいかないからもっと声くださ(ここで文章はとぎれている)〉
〈お、おれちょっとだけいってこよっかな、ちょっとだけ(チラッチラッ)〉
「ほら、いけよ」
〈あーーーーーっ(昇天)〉
〈うごかない。屍のようだ〉
〈わたしも〉
〈オレもしんだ〉
〈イッた〉
〈いきころされた〉
〈クロさま好き〉
くつくつと喉の奥で笑う浩司の声により、この後も屍が増え続けて夜は更けていったのだった――
了
***--***--***--***--***--***--***--***
『Complex』(現在連載中)が、浩司とウォルターの高校一年生のときの話になります。
この小話では三十路手前くらいの設定です。
「可愛いねぇ」
嘆息する浩司と、微笑ましげにクスクス笑うウォルターは、ログアウトしてから席を立つ。
使っていたヘッドセットを手に精算カウンターに向かうと、店員が笑顔で出迎えた。
「お疲れ様です。流石ですね。使い心地はいかがでしたか?」
二人はそれぞれの手からヘッドセットを返却し、浩司は緩く首を振り、ウォルターは首を少し傾げた。
「前のとあんま変わんねーかな。買い換える程のメリットがない」
「俺も今ので十分かな」
「そうなんですね、承知しました」
二人が学生の頃にはごく普通のスポーツセンターだったこの建物は、増築してeスポーツ棟ができた。様々なメーカーのゲーミングパソコンや関連商品が取り揃えられており、その場で使ってから購入することが可能となっている。
また、自宅で設備を整えることができない者にとっては、時間単位で最新スペックの環境で遊ぶことができるゲームセンターの役割も果たしている。
今日試したヘッドセットは、二人にとって少々物足りないものだった。可もなく不可もなくといった方が正しいか。
利用料金を精算したカードを受け取り、二人は出口へと向かった。
その晩の配信が始まってしばらくすると、とあるコメントをきっかけにチャット欄は大賑わいとなった。
〈昼間にやってたカスタムマッチにクロさまと王子出てたの見ましたー!〉
〈なにそれkwsk〉
〈えっ、嘘、チャンネルどこ〉
〈ショップのやつだけど、チェーン店じゃないからライブオンリーらしく〉
〈マジかー! 観たかった〉
〈勝ち確と思って途中からクリップした! どや!〉
〈神よ、お恵みを〉
わいわいと盛り上がるリスナーを横目に、浩司はあの微妙な戦いを思い出し苦笑いを浮かべながら敵を屠る。今回は学校に降りたので、そこそこ激戦区なのだ。チャットは放置である。
浩司が無言でキルを重ねている間に、クリップを別画面で見たらしきリスナーたちが次々とチャット欄に草を生やしていく。
〈別ゲーかと思ったwww〉
〈それなwwwww〉
〈どんな苦境でも勝つ。さすがクロさま〉
リアルタイムではゲーム序盤にも関わらず、チャリンチャリンと御祝儀が振り込まれていく。
装備が整ってから、微妙な気分で浩司はそれに対する謝辞を述べた。
〈最後の敵は知らない人だけど、その前に王子抜いたのってイアさんだったね〉
これはクリップしたのとはまた別のリスナーのコメントだった。
〈イアさんってInspireか〉
〈なるほどなっとく〉
〈だれ〉
〈ライブだけで配信してるけどSR強い〉
〈いま配信してるわ〉
〈ちょっと見てこよっかな〉
〈あ! 裏切り者ー!〉
〈ギルティ〉
「行ってらっしゃい。俺が勝つって信じてるから余所見すんだろ? いいぜ?」
車を入手して次のエリア収縮に備えながら索敵しつつ浩司が言うと、一瞬コメント欄の流れが止まった。
〈ギャー! クロさまがリスナーころしにかかってる〉
〈ウソですいくわけないじゃないですかいかないからもっと声くださ(ここで文章はとぎれている)〉
〈お、おれちょっとだけいってこよっかな、ちょっとだけ(チラッチラッ)〉
「ほら、いけよ」
〈あーーーーーっ(昇天)〉
〈うごかない。屍のようだ〉
〈わたしも〉
〈オレもしんだ〉
〈イッた〉
〈いきころされた〉
〈クロさま好き〉
くつくつと喉の奥で笑う浩司の声により、この後も屍が増え続けて夜は更けていったのだった――
了
***--***--***--***--***--***--***--***
『Complex』(現在連載中)が、浩司とウォルターの高校一年生のときの話になります。
この小話では三十路手前くらいの設定です。
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