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初デートってことでいいんですかね!?
予約、されちゃいました
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ようやく自分を取り戻した私、満面の笑みを浮かべているはず。
ところが、絶対嫌がるだろうなあと思っていたのに、瑛介さんはパクンと口に収めちゃったよ……。
「ん、美味い」
んでもって、口の端に付いた生クリームを舌先で舐めとるのってなんか艶めかしいというかエロいです。やばいです。
「ふわぁ……」
絶句している私からストロースプーンを掠めとり、今度は瑛介さんが私に差し出した。
「ほれ。お前も早く食え」
んっ、と下唇に載せるようにされて、開いた口にそうっと差し込まれる。
自発的に食いついた感じの瑛介さんとは違って、されてる感凄すぎません?
そんなに小さい口でもないのに、ちゃんと開けてなかったみたいで唇にめっちゃクリーム付いてる感じするんだけど。
さっきの瑛介さんみたいに上手に舐めれる気がしない。慌てて鞄からティッシュを取り出そうとすると、
「じっとして」
と、ストロースプーンをカップに戻した瑛介さんの指が近づいて来て。
「ん」
と、瑛介さんが頷くまで、頭真っ白でフリーズしちゃったよ。
「え……何……?」
ついつい口に持っていった手には何も付かなくて、目の前では瑛介さんが自分の指先を舐めている。
(な、舐め、舐め……て)
「ふわわわわわ」
ボンッて顔が爆発しないのが不思議なくらい顔が熱い。
でもそんな自分のことなんかどうでも良くなるくらい瑛介さんが様になってるっていうか、格好良くてですね。
「あっ、ありがとう、ございます」
(色んな意味で)
軽く頭を下げると、
「こちらこそ?」
って、にやりと笑われて。
取り敢えず胸を押さえて深呼吸しちゃったよね! 殺されそうだよ、今日の瑛介さんおかしいって。
(いやまあプライベートで会うのは初めてなんだから、元々こうなのかも)
そう考えると、『なんだただのタラシか』と落ち着くことができた。
はー、びっくりした。
(私に恋愛スキルないからって驚かせすぎだよ)
驚きで味が分からなかった一口目と違って、その後は美味しくいただくことができた。
さっきはマンゴーだったけど、白桃も入ってる。それでお値段高いんだね。
満足満足。
飲み(食べ)終えて済むのを見計らったように、瑛介さんが自分のカップを滑らせてきた。
「味見する?」
「するっ」
勢い込んで頷いて、「やる」と言われた残りを飲み干してしまう。
蜂蜜入りのレモネードだった。
「これも美味しいですね!」
にぱーっと笑った私に頷いて、
「そろそろ行くか」と立ち上がる素振り。
「はいっ」
と、立ち上がって服をささっと整えている僅かな間に、瑛介さんはカップ類を片付けてしまっていた。
友だちとだと各自で片付けるのが当たり前だったから、さりげない気遣いにどぎまぎしてしまう。
また自然に左手を取られて、お礼には笑みだけで返されて。
(うわ~。これがデートってやつ?)
想像してたよりこそばゆいね。
「あの、ジュース代」
片手じゃ財布も出せなくて、座っている間に済ませれば良かったと後悔。
「気にすんな」
「でも、高いものだし」
「確かに教員は薄給だけどな、ドリンクくらい奢らせろ。理由が欲しいなら就職祝いだ」
「な、なるほど、就職祝いですねっ。じゃあ遠慮なく」
コクコク頷く私の隣で、瑛介さんは笑みをこぼす。
「ほんっと、お前って面白いっていうか」
「笑いを提供できて何よりです」
「可笑しい方の面白いじゃあないんだけどな……ま、いっか」
何故声がフェードアウトするんです?
街路樹で拙く鳴き始めたニイニイゼミの声を聞きながら、足は駅の方へと向かっている。
(もう、終わっちゃうのかな。まだ夕方にもなってないけどな)
できるだけこの時間を引き延ばしたくて、ちょっぴり歩調を緩めてしまう。
「靴擦れか?」
敏い瑛介さんが気を利かせて歩道のベンチに誘導してくれた。
(なんて言ったらいいのかな……)
分かんなくて、サンダルを脱いで踵と小指の横をさすってみる。皮が剥けるほどじゃないけど、赤くなっていた。
「なあ」
隣に腰を下ろした瑛介さんが、くしゃりと私の髪を頭ごと握るようにした。
「背伸びしてお洒落してきてくれて、ありがとうな」
「え」
思わず顔を上げて、二人の視線がぶつかる。学校ではみたことなかった、ほぐれた感じの笑みを浮かべている瑛介さんは、おべっかとかで言ってるんじゃないと分かった。
ていうか、背伸びしてってとこがやっぱり子供扱いされている気がしないでもないんだけど、取り敢えず置いておこう。
「ゆっくり、な」
「それって、歩く速さのことじゃなくて?」
「さあ?」
「でも私、隣に並びたい」
「うん。俺が合わせる」
「でもそれって」
「いいから。でも頑張ってる姿はめっちゃ可愛いと思ってるし、嬉しいのもホント」
確かに、こいつ可愛いなぁって表情してるんだけど、それは嬉しいんだけどなんかちょっと違うっていうか!
うまく伝えられる気がしなくてもどかしさをどうにも出来ずに眉を寄せていると、瑛介さんの顔が下りてきて、耳に声が落とし込まれる。
「あかり」
少し掠れた、低い囁き声が。頭の中にぶわっと広がって、それから体中に染み渡っていって。
それから更に屈みこんだ瑛介さんが、チュッと音を立てて唇の端っこをついばんでから顔を上げてからかなりの時間。私は彫像みたいに固まってしまっていた。
「い、今のって……?」
「お前の初めて、全部もらおうと思って。だから、予約」
「予約? 初めて?」
「ん? もしかして初めてじゃなかったか」
(キスのことなら勿論初めてですしなんならダンス以外で手を繋ぐのも間接キスもあーんも唇に触れるのも全部ぜんぶ未経験でしたけど!?)
ぶんぶんと首を振る私を見て、瑛介さんは満足そうにしている。悔しい。
「お前の誕生日がきたら、もらうな」
「ふえっ?」
「その次の誕生日には、また別のモンもらうから」
「ぇ」
怒涛の如く攻め込まれて、心臓は保ちそうにないし脳内処理も追いつかないしで呆然と見上げていると、得意気っていっても過言ではないくらいに素敵な笑顔で、でも真剣な眼差しを向けられていた。
「それまで取っといて」
Are you ok? との囁き声は、また耳の中に。
今度は力が抜けて倒れそうになったところを長い腕で支えられながら、私は胸の中だけで叫んでいた。
(だからなんで英語なんですかー!?)
了
ところが、絶対嫌がるだろうなあと思っていたのに、瑛介さんはパクンと口に収めちゃったよ……。
「ん、美味い」
んでもって、口の端に付いた生クリームを舌先で舐めとるのってなんか艶めかしいというかエロいです。やばいです。
「ふわぁ……」
絶句している私からストロースプーンを掠めとり、今度は瑛介さんが私に差し出した。
「ほれ。お前も早く食え」
んっ、と下唇に載せるようにされて、開いた口にそうっと差し込まれる。
自発的に食いついた感じの瑛介さんとは違って、されてる感凄すぎません?
そんなに小さい口でもないのに、ちゃんと開けてなかったみたいで唇にめっちゃクリーム付いてる感じするんだけど。
さっきの瑛介さんみたいに上手に舐めれる気がしない。慌てて鞄からティッシュを取り出そうとすると、
「じっとして」
と、ストロースプーンをカップに戻した瑛介さんの指が近づいて来て。
「ん」
と、瑛介さんが頷くまで、頭真っ白でフリーズしちゃったよ。
「え……何……?」
ついつい口に持っていった手には何も付かなくて、目の前では瑛介さんが自分の指先を舐めている。
(な、舐め、舐め……て)
「ふわわわわわ」
ボンッて顔が爆発しないのが不思議なくらい顔が熱い。
でもそんな自分のことなんかどうでも良くなるくらい瑛介さんが様になってるっていうか、格好良くてですね。
「あっ、ありがとう、ございます」
(色んな意味で)
軽く頭を下げると、
「こちらこそ?」
って、にやりと笑われて。
取り敢えず胸を押さえて深呼吸しちゃったよね! 殺されそうだよ、今日の瑛介さんおかしいって。
(いやまあプライベートで会うのは初めてなんだから、元々こうなのかも)
そう考えると、『なんだただのタラシか』と落ち着くことができた。
はー、びっくりした。
(私に恋愛スキルないからって驚かせすぎだよ)
驚きで味が分からなかった一口目と違って、その後は美味しくいただくことができた。
さっきはマンゴーだったけど、白桃も入ってる。それでお値段高いんだね。
満足満足。
飲み(食べ)終えて済むのを見計らったように、瑛介さんが自分のカップを滑らせてきた。
「味見する?」
「するっ」
勢い込んで頷いて、「やる」と言われた残りを飲み干してしまう。
蜂蜜入りのレモネードだった。
「これも美味しいですね!」
にぱーっと笑った私に頷いて、
「そろそろ行くか」と立ち上がる素振り。
「はいっ」
と、立ち上がって服をささっと整えている僅かな間に、瑛介さんはカップ類を片付けてしまっていた。
友だちとだと各自で片付けるのが当たり前だったから、さりげない気遣いにどぎまぎしてしまう。
また自然に左手を取られて、お礼には笑みだけで返されて。
(うわ~。これがデートってやつ?)
想像してたよりこそばゆいね。
「あの、ジュース代」
片手じゃ財布も出せなくて、座っている間に済ませれば良かったと後悔。
「気にすんな」
「でも、高いものだし」
「確かに教員は薄給だけどな、ドリンクくらい奢らせろ。理由が欲しいなら就職祝いだ」
「な、なるほど、就職祝いですねっ。じゃあ遠慮なく」
コクコク頷く私の隣で、瑛介さんは笑みをこぼす。
「ほんっと、お前って面白いっていうか」
「笑いを提供できて何よりです」
「可笑しい方の面白いじゃあないんだけどな……ま、いっか」
何故声がフェードアウトするんです?
街路樹で拙く鳴き始めたニイニイゼミの声を聞きながら、足は駅の方へと向かっている。
(もう、終わっちゃうのかな。まだ夕方にもなってないけどな)
できるだけこの時間を引き延ばしたくて、ちょっぴり歩調を緩めてしまう。
「靴擦れか?」
敏い瑛介さんが気を利かせて歩道のベンチに誘導してくれた。
(なんて言ったらいいのかな……)
分かんなくて、サンダルを脱いで踵と小指の横をさすってみる。皮が剥けるほどじゃないけど、赤くなっていた。
「なあ」
隣に腰を下ろした瑛介さんが、くしゃりと私の髪を頭ごと握るようにした。
「背伸びしてお洒落してきてくれて、ありがとうな」
「え」
思わず顔を上げて、二人の視線がぶつかる。学校ではみたことなかった、ほぐれた感じの笑みを浮かべている瑛介さんは、おべっかとかで言ってるんじゃないと分かった。
ていうか、背伸びしてってとこがやっぱり子供扱いされている気がしないでもないんだけど、取り敢えず置いておこう。
「ゆっくり、な」
「それって、歩く速さのことじゃなくて?」
「さあ?」
「でも私、隣に並びたい」
「うん。俺が合わせる」
「でもそれって」
「いいから。でも頑張ってる姿はめっちゃ可愛いと思ってるし、嬉しいのもホント」
確かに、こいつ可愛いなぁって表情してるんだけど、それは嬉しいんだけどなんかちょっと違うっていうか!
うまく伝えられる気がしなくてもどかしさをどうにも出来ずに眉を寄せていると、瑛介さんの顔が下りてきて、耳に声が落とし込まれる。
「あかり」
少し掠れた、低い囁き声が。頭の中にぶわっと広がって、それから体中に染み渡っていって。
それから更に屈みこんだ瑛介さんが、チュッと音を立てて唇の端っこをついばんでから顔を上げてからかなりの時間。私は彫像みたいに固まってしまっていた。
「い、今のって……?」
「お前の初めて、全部もらおうと思って。だから、予約」
「予約? 初めて?」
「ん? もしかして初めてじゃなかったか」
(キスのことなら勿論初めてですしなんならダンス以外で手を繋ぐのも間接キスもあーんも唇に触れるのも全部ぜんぶ未経験でしたけど!?)
ぶんぶんと首を振る私を見て、瑛介さんは満足そうにしている。悔しい。
「お前の誕生日がきたら、もらうな」
「ふえっ?」
「その次の誕生日には、また別のモンもらうから」
「ぇ」
怒涛の如く攻め込まれて、心臓は保ちそうにないし脳内処理も追いつかないしで呆然と見上げていると、得意気っていっても過言ではないくらいに素敵な笑顔で、でも真剣な眼差しを向けられていた。
「それまで取っといて」
Are you ok? との囁き声は、また耳の中に。
今度は力が抜けて倒れそうになったところを長い腕で支えられながら、私は胸の中だけで叫んでいた。
(だからなんで英語なんですかー!?)
了
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