逃がさないよ?

亨珈

文字の大きさ
上 下
13 / 22
初デートってことでいいんですかね!?

予約、されちゃいました

しおりを挟む
 ようやく自分を取り戻した私、満面の笑みを浮かべているはず。
 ところが、絶対嫌がるだろうなあと思っていたのに、瑛介さんはパクンと口に収めちゃったよ……。

「ん、美味い」

 んでもって、口の端に付いた生クリームを舌先で舐めとるのってなんか艶めかしいというかエロいです。やばいです。

「ふわぁ……」

 絶句している私からストロースプーンを掠めとり、今度は瑛介さんが私に差し出した。

「ほれ。お前も早く食え」

 んっ、と下唇に載せるようにされて、開いた口にそうっと差し込まれる。
 自発的に食いついた感じの瑛介さんとは違って、されてる感凄すぎません?

 そんなに小さい口でもないのに、ちゃんと開けてなかったみたいで唇にめっちゃクリーム付いてる感じするんだけど。
 さっきの瑛介さんみたいに上手に舐めれる気がしない。慌てて鞄からティッシュを取り出そうとすると、

「じっとして」

と、ストロースプーンをカップに戻した瑛介さんの指が近づいて来て。

「ん」

と、瑛介さんが頷くまで、頭真っ白でフリーズしちゃったよ。

「え……何……?」

 ついつい口に持っていった手には何も付かなくて、目の前では瑛介さんが自分の指先を舐めている。

(な、舐め、舐め……て)

「ふわわわわわ」

 ボンッて顔が爆発しないのが不思議なくらい顔が熱い。
 でもそんな自分のことなんかどうでも良くなるくらい瑛介さんが様になってるっていうか、格好良くてですね。

「あっ、ありがとう、ございます」

(色んな意味で)

 軽く頭を下げると、

「こちらこそ?」

って、にやりと笑われて。
 取り敢えず胸を押さえて深呼吸しちゃったよね! 殺されそうだよ、今日の瑛介さんおかしいって。

(いやまあプライベートで会うのは初めてなんだから、元々こうなのかも)

 そう考えると、『なんだただのタラシか』と落ち着くことができた。
 はー、びっくりした。

(私に恋愛スキルないからって驚かせすぎだよ)

 驚きで味が分からなかった一口目と違って、その後は美味しくいただくことができた。
 さっきはマンゴーだったけど、白桃も入ってる。それでお値段高いんだね。
 満足満足。

 飲み(食べ)終えて済むのを見計らったように、瑛介さんが自分のカップを滑らせてきた。

「味見する?」
「するっ」

 勢い込んで頷いて、「やる」と言われた残りを飲み干してしまう。
 蜂蜜入りのレモネードだった。

「これも美味しいですね!」

 にぱーっと笑った私に頷いて、
「そろそろ行くか」と立ち上がる素振り。

「はいっ」
と、立ち上がって服をささっと整えている僅かな間に、瑛介さんはカップ類を片付けてしまっていた。
 友だちとだと各自で片付けるのが当たり前だったから、さりげない気遣いにどぎまぎしてしまう。
 また自然に左手を取られて、お礼には笑みだけで返されて。

(うわ~。これがデートってやつ?)

 想像してたよりこそばゆいね。

「あの、ジュース代」

 片手じゃ財布も出せなくて、座っている間に済ませれば良かったと後悔。

「気にすんな」
「でも、高いものだし」

「確かに教員は薄給だけどな、ドリンクくらい奢らせろ。理由が欲しいなら就職祝いだ」
「な、なるほど、就職祝いですねっ。じゃあ遠慮なく」

 コクコク頷く私の隣で、瑛介さんは笑みをこぼす。

「ほんっと、お前って面白いっていうか」
「笑いを提供できて何よりです」

「可笑しい方の面白いじゃあないんだけどな……ま、いっか」

 何故声がフェードアウトするんです?

 街路樹で拙く鳴き始めたニイニイゼミの声を聞きながら、足は駅の方へと向かっている。

(もう、終わっちゃうのかな。まだ夕方にもなってないけどな)

 できるだけこの時間を引き延ばしたくて、ちょっぴり歩調を緩めてしまう。

「靴擦れか?」

 敏い瑛介さんが気を利かせて歩道のベンチに誘導してくれた。

(なんて言ったらいいのかな……)

 分かんなくて、サンダルを脱いで踵と小指の横をさすってみる。皮が剥けるほどじゃないけど、赤くなっていた。

「なあ」

 隣に腰を下ろした瑛介さんが、くしゃりと私の髪を頭ごと握るようにした。

「背伸びしてお洒落してきてくれて、ありがとうな」
「え」

 思わず顔を上げて、二人の視線がぶつかる。学校ではみたことなかった、ほぐれた感じの笑みを浮かべている瑛介さんは、おべっかとかで言ってるんじゃないと分かった。
 ていうか、背伸びしてってとこがやっぱり子供扱いされている気がしないでもないんだけど、取り敢えず置いておこう。

「ゆっくり、な」
「それって、歩く速さのことじゃなくて?」

「さあ?」
「でも私、隣に並びたい」

「うん。俺が合わせる」
「でもそれって」

「いいから。でも頑張ってる姿はめっちゃ可愛いと思ってるし、嬉しいのもホント」

 確かに、こいつ可愛いなぁって表情してるんだけど、それは嬉しいんだけどなんかちょっと違うっていうか!
 うまく伝えられる気がしなくてもどかしさをどうにも出来ずに眉を寄せていると、瑛介さんの顔が下りてきて、耳に声が落とし込まれる。

「あかり」

 少し掠れた、低い囁き声が。頭の中にぶわっと広がって、それから体中に染み渡っていって。
 それから更に屈みこんだ瑛介さんが、チュッと音を立てて唇の端っこをついばんでから顔を上げてからかなりの時間。私は彫像みたいに固まってしまっていた。

「い、今のって……?」
「お前の初めて、全部もらおうと思って。だから、予約」

「予約? 初めて?」
「ん? もしかして初めてじゃなかったか」

(キスのことなら勿論初めてですしなんならダンス以外で手を繋ぐのも間接キスもあーんも唇に触れるのも全部ぜんぶ未経験でしたけど!?)

 ぶんぶんと首を振る私を見て、瑛介さんは満足そうにしている。悔しい。

「お前の誕生日がきたら、もらうな」
「ふえっ?」

「その次の誕生日には、また別のモンもらうから」
「ぇ」

 怒涛の如く攻め込まれて、心臓は保ちそうにないし脳内処理も追いつかないしで呆然と見上げていると、得意気っていっても過言ではないくらいに素敵な笑顔で、でも真剣な眼差しを向けられていた。

「それまで取っといて」

 Are you ok? との囁き声は、また耳の中に。
 今度は力が抜けて倒れそうになったところを長い腕で支えられながら、私は胸の中だけで叫んでいた。

(だからなんで英語なんですかー!?)



     了

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

処理中です...