逃がさないよ?

亨珈

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見つけちゃった!

おやおや

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 数回降下して、一度だけトップテン入り出来た。ほかの回では一度目のエリア収縮しかクリアできていないので、時間的には大してかかっていないのが悲しいところ。
 でも気分良く終われるかなぁとチェアの上で伸びをしていると、メッセージアプリの通知音がした。
 キーボードの左に置いている携帯端末を手に取ると、センセイからだった。

『一緒にやるか?』
って、一言だけ。
 愛想もなんもないなぁ。

『やります!』
 こちらからも簡単に返信。
 スリープした画面には、口角の上がった締りのない自分の顔が映っていた。

「インしてるの分かってるのに、なんでこっちから招待しないんです?」

 パーティーを組んでデュオで出撃しながら軽口を叩く。
 私とセンセイはフレンドになっているから、誰が今ゲームにインしているか、待機中なのか試合中なのかも判るんだよね。
 まあ、配信中だったらフレンドIDが画面に映らないようにはしてるだろうから、終えたとこなんだろうけど。

「なんとなく」
「ふぅん」

 センセイの口癖なのかな、なんとなく。

 降下先に病院をポイントしてくるセンセイ。

「ひどい」
「ビシバシいくぞ」
「スパルタはんたーい!」
「へえへえ」

 どうして過疎ったとこのファーミングから始めてくれないのか。腕に自信のあるガチ勢が大好きな地域を指定してくるサドである。

 索敵するまでもなく、周囲は敵だらけ。パラシュートを広げてから、確実に武器があるところを目がけつつも警戒。
 うん、同じ屋上目指してる人がいるー! 早く弾込めしたもん勝ち。
 着地点、目測ぴったりに降りて即アサルトライフルと弾を拾い、マガジンをセットしながら敵に向かう。
 あっちは短機関銃か。これはヤバい。
 だけどコンマ差、ひと呼吸よりも短い時間差で私の方が弾込めが速かった。
 フルオートで相手の胴体に撃ち込む。向こうからもやり返されたけど、削り切るのはこっちの方が先だった。一発の威力が違う。

「Nice」
 ふうーっと肩の力を抜いたとき、センセイの声。
 周囲はあちこちで銃撃戦が行われている。あっ、手榴弾の音、この棟の下だわ。
 キルログ、センセイもう二キルしてるし……。
 警戒しながら、物資を集めていく。降りていく間にあちこちに死体が転がっていたけど、私が出会ったのは一階で一人だけだった。
 物資漁るときにドアに背中向けちゃ駄目ですよ。

 混戦を極めた病院を制したのはセンセイ(とおまけの私)で、無事に車をゲットしたときには、センセイのキル数が二桁にのっていたっていうね……なんか凄いことになってたんですけどね。
 足手まといにはなってなくて良かったよ、私。

 収縮するエリアに追われながらの車中。

「センセー、私いいもん拾った!」

 ジャジャーン!と言いながら、助手席でミニガンを構える。どや! レア武器だよ!

「お前なぁ……それで何やらかす気だ。あと、もうお前の先生じゃないんだからセンセーって呼ぶな」
 呆れたような声。

「何って、ぶちまけながらの近接」
「取り回しが難しいだろ。遠距離は?」
「センセにお任せします」
「だからー」

 はぁって溜息吐かれてもですね。

「師匠!」
「却下だ」
「だってInspireって呼びにくい」
「mamemameだって呼びにくい」

 呼ぶときにはマメって略すかお前呼びのくせに!

「そういや、なんでマメはmamemameなんだ? そんなに小さくねぇだろ、背」

 小さいって意味のマメじゃないんだよねー。

「まめまめしい、のマメですー!」
「豆が好きなわけでもなかったのか」

 予想外だったらしく、ヘッドホン通してセンセーのくつくつと笑う声が聴こえてくる。
 ――あー! もう! イケボだからって許されると思うなよ! 許すけどっ!


「InspireはなんでInspireなんです?」
 ふと、さっきの配信で耳にしたばかりのことを尋ねてしまった。
 なんかこう、つい、ポロっとね。口から溢れちゃったんだ。
 答えなら、知ってるのにね。

「あー」
 センセーは一軒家の壁にピタリと車を付けて、ドアが開いたままの建物へと駆け込んで行く。
 車を走らせながら無人と踏んでいたのか、クリアリングしながらも迷い無く屋上へと向かっている。

 センセーはボルトアクションのスコープで索敵しながら、また口を開いた。アバターの足は止まることなく、うろうろと屋上を彷徨っている。
 私は縁に沿って腹這いになったまま、そんなセンセーを見つめていた。

「たぶんマメは知らねぇだろうけど、昔スポーツタイプの車でInspireってのがあってな」
 おや?
「そのCMがまためちゃくちゃカッコ良かったんだよ。今は売ってないけどな」
 おやおやー?

「で? Inspireにした、と」
「そう」

 こころなしか、センセーの声が恥ずかしそうに聞こえる。
 え? これもしかして、赤面してたりしない?
 うわー、面と向かってないのがこんなにもどかしいの初めてなんですけど!
 口元が緩む。緩むっていうかもう、にちゃあって感じに変になってる。
 やっぱり面と向かってなくて良かった。

「マメ? お前笑ってんだろ」
「いえいえ、そんなまさかまさかそんな」
「絶対笑ってる」

 ちょっ、銃口で頭突付くのやめてくださーい。

「Inspireは長いので、イアにしますね」

 笑いを堪えての返答は、声が震えていて。
 うーっと唸ったあとに、ようやくセンセーは「それでいいか」と吐息混じりに囁いた。



     了

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