曖昧サディスティック

亨珈

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【幕間】加害者の言い分

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 どうして今更そんなことを言うのか解らなかった。



「すき、だった。ずっと……お前だけ」

 そんなの知ってたよ。体全体で、俺のこと好きで仕方ないって言ってたじゃないか。

 なのにどうして「さいご」なんて口にする……?



 お前の傍に居るのが楽だった。

 戸惑いながらも最初から受け入れてくれた。

 あんなに深く繋がって乱れて、体中あますところなく俺のものだったのに、今更どうして離れようとする?

 彼女のことは、もうとっくに諦めていたんだろう?

 確かに、言い寄られて嫌な気持ちはしなかったから、ちょっとつまみ食いしたさ。だからってあてつけるみたいにあの女より格上二人も侍らせて、あんな目立つところでしなくてもいいだろう。



 気が付いたら、俺の下で血まみれになっていた。

 どうしてなんて自分でも解らない。



 ニュースで轢き逃げの犯人が「怖くなって逃げてしまった」「まさかひとだなんて思わなかった」って言い訳をしているのを見て、そんなわけないだろうっていつも鼻で哂っていた。

 でも、その気持ちが解ってしまった。



 怖い。



 悲鳴すら零さなかったお前が、

「愛してたんだよ……」

 と、最後に一筋だけ涙を流した。



 過去形なのか? もうさいごってそういう意味なのか。



 どれだけの時間、そのまま動かなくなったお前を眺めていただろう。

 ああ、下半身がびしょびしょだ。これは拭っておかないと。

 何のために? 証拠が残るから? 何の証拠?

 下穿きだけ身につけさせて、行為中から付けっぱなしだったエアコンの温度を更に下げて隙間なく襖を閉めてからシャワーを浴びた。

 なんであんなに温度を下げたんだろう。

 ああ、そうか、傷んだらいけないからか。

 動かないものは、傷む。だから冷やさないと。



 動かないお前なんか要らない。

 だから見えないようにしてしまおう。そうだ、見えなければ何も考えなくて済む。



 ああ、俺は一体なんでこんなことを考えているんだ?



 ひと寝入りして、食べるものを買いに外に出た。

 タイミングが良かったのか、ツナと玉子のサンドイッチがあった。

 そうだ、これを食べたらまた動くかもしれない。

 でも動かないあいつは見たくないから、取り敢えず冷蔵庫に仕舞っておこう。



 今日はまた、朝から約束していたんだっけ。支度して出掛けないと。

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