Complex

亨珈

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Sixth Contact SAY YES

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 その後翔子の要望でゲームセンターに行き、ツーショットのプリントクラブを撮らされた。勿論浩司が笑顔など浮かべるはずもなく、取り敢えず一緒にフレーム内には収まっておいただけだが、まあそれでも満足だったらしい。鋏で半分こし、浩司はそれを渋々札入れに仕舞った。当然それを何処かに貼る予定はない。翔子の方は、早速一枚携帯電話に貼りご満悦の様子だ。

 それからボウリングに行き三ゲーム終わる頃には、陽はもう西に沈みかけていた。晩秋の夕暮れは駆け足でやってくる。

「浩司くん……今日はまだ大丈夫?」

 銀杏並木を歩きながら、翔子がじいっと見上げた。今日はバイトやらの用事はないのか、という意味らしい。

「ああ……その事なんだけど」

 言いながら浩司は歩道の内側にある木製のベンチへと足を向けた。直ぐ傍にある自動販売機でスポーツ飲料を二本買い、一本を翔子に差し出した。

「ありがとっ」

 両手で受け取り、顔一杯の笑顔で答える翔子を見て、浩司の表情が和やかになる。そしてベンチに腰を下ろしたので翔子もそれに習い、二人並んで缶を開けた。

「例のバイト、しばらく辞める事にした。んで、他の二つで何とかする」

 車道の方を向いたまま語る浩司。
 元々好きな相手が出来たらそれまでとの約束で始めたことだった。それを翔子は知らないにしても、そして浩司自身が翔子には恋愛感情を抱いていない現時点でも、それが彼なりのけじめのつけ方だった。一番割の良いバイトだったが、いつまでも続けられるものではない。

 翔子は「バイト?」と首を傾げた。

 緩やかに車は流れているが、歩道の幅が広いので排気ガスは二人まで届かない。大きく枝を広げた金色の木の下で、時折舞い落ちてくる葉が二人の足元でかさこそと音を立てている。

「って、もしかして───アレの事?」

 ジゴロ紛いの事だと気付いた翔子は、その意味を考えて真っ赤になって涙を滲ませた。

「も、もしかしてもしかしなくっても……それって私の為に? だよね。ありがとうっ」

 泣き笑いしながら、涙を誤魔化すようにコクコクとジュースを飲んだ。

「別にもう辞めるって言ってんじゃねえんだぞ? 気が変わってまたすぐ始めるかもしんねえし」

 そこまで喜ばれるとは思っていなかった浩司は慌てて付け足したが、

「いいのっ。辞めようって思ってくれた事が嬉しいんだもん。例え口だけでも嬉しい」

 と気持ちは変わらないらしい。

「馬鹿、俺は嘘つかねえって言ってんのに」

「あっ、ご、ごめん! 解ってるよ浩司くんが口先だけで誤魔化すような人じゃないってことくらい」

 今度は翔子の方が慌ててフォローする。傍から見れば案外お似合いの二人である。
 飲み終えた空き缶を近くの屑篭に入れ、浩司は腕時計を見た。もう十八時が来ようとしている。

「そろそろ……かな」

 呟いてちらりと翔子に視線を投げかけ、ゆっくりと歩き出した。行くぞ、という意味らしい。

「待ってよぉっ。まさかもう帰るの?」

 翔子も慌てて缶を捨てると、浩司の隣に並んだ。

「いや、電話掛ける。皆で飲もうぜ」

「やったぁー! またウォルターんち?」

 まだしばらく一緒にいられると分かり満面の笑顔でバンザイする翔子に、何処がいいかと尋ねる。しばらく考えた後、

「そだ、浩司くんの行きつけの店ってないの? そーゆートコ行ってみたいっ」

 と答えた。

「あるにはあるけど……スナックとかじゃなくてバーみたいな感じだぜ? 行くんなら席予約しとかねえと、土曜に六人は難しいかも」

「でもそこがいい!」

 小首を傾げてねだられ、仕方無しに浩司は公衆電話からウォルターと満と【Homeless】に電話を掛けた。







 小さなステージで熱唱する唯と夏美を放ったらかしにして歌本を捲っていた新菜だったが、長方形のテーブルの上でポケットベルが振動しているのに気付いた。メインスイッチを押すと、[ジカンアル?]と表示。

(誰だろ? 皆ここに揃ってるし、翔子なら円華の携帯にかけてくるだろうし。またイタベルかなぁ)

 首を傾げていると、向かいに座っていた円華が覗き込んで来た。

 「何?」と声を掛けられると同時に、またベルが振動した。見覚えのある電話番号がバックライトにくっきりと浮かび上がる。

「満くん……」

 呟いたのを耳聡く円華が聞き付け、サッと携帯電話を取り出した。メモリーで呼び出すとちゃっかり通話ボタンを押してから新菜に押し付ける。文句を言う暇もない。

(これじゃあたし、ずーっとベル待ってたみてーじゃんかよ)

 新菜は心の中でぶちぶち言いながらも、仕方なく端末を受け取った。
 恐らく一回しかコールしていないだろうに「もしもし」と声が聞こえて来て、新菜は慌てて耳元に持って行き、

「あのぉ……ベルが鳴ったんだけど」

 と言った。相手が誰かは判りきっているのだが。

『オレ……満です。御免な、こないだは。あんまりいられなくって』

「ううん、翔子が無理矢理誘ったんだし、しゃあないって」

『早かったね、かけてくんの。今どこにいるの?』

「あー、今円華たちと一緒にカラオケ来てんの。だから」

 歌い終えた夏美と唯は、円華同様ニマッと笑って新菜に注目している。

『あのさ、今晩皆で飲もうって軸谷が。そんで来れるかなーって』

 一瞬バイトの事が頭を過ぎったが、どうせ定員オーバーのところに入っているだけで頭数には入っていないので、そう気にする事はない。

「ん、あたしはOKだけど。円華も?」

『うん。でも多分ウォルターから連絡入ると思うんだけど』

「解った。んでどこ行きゃいいの?」

『【Homeless】って、襟川町の商店街の一角にあるんだけど。分かる?』

「いや、聞いた事ないなあ……」

 ちらりと円華を見て「ホームレス」と言うと、「多分わかる」と頷いた。

「あ、待って、円華が分かるって」

『じゃ、準備出来次第いつでもって。一応八時から席キープしてるから』

「ん、なるべく早く行く」

 電話を切ると、時刻はもう直ぐ十九時。カラオケも丁度タイムリミットである。

「即行帰って着替えなきゃ」

 と言って、円華にかいつまんで説明する。

「いーなーいーなー、どぉせわたしら二人女同士寂しい土曜日ですよねぇ~」

 唯と夏美が恨めしそうに二人を見つめる。

「悪ィ、また来ような」

 新菜は片手を上げるとウインクした。
 理由は解らないが、胸がドキドキしている。
 リモコンを持って部屋を出た時、円華の携帯電話が鳴り始めた。
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